No.216459

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(30)

うおぉ・・・一か月近く書けなかった。
でも、Sirius様の書いてくれた華蘭の御蔭で書けました!
しかしクオリティは・・・すいません。

2011-05-13 01:56:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:9717   閲覧ユーザー数:7208

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

苛立っていた。

その金の縦ロール、袁紹:麗羽は異常な程苛立っていた。

孫堅軍と劉備軍が共闘していたのは別に構わない。

だが一つ、たった一つ。

気に食わない事があった。

それは、汜水関が陥落した事。

――ではなく。

 

 

「取り逃がしたとは、どう言う事ですの!?」

 

「はぁ、言葉通りでありますが。

恐らくは、虎牢関まで退いたものと思われ」

 

 

汜水関に居た怨敵―麗羽のみの―北郷一刀を取り逃がしたという事実。

これが、自分が攻めた際にみっともなく逃げ出したとでも言うのならば、話は別だ。

今回の様に、簡単に悠々と逃げられたのならば、全く訳が違う。

 

 

「全く、頼りになりませんわね!」

 

 

その言葉に、孫堅軍と劉備軍の両軍を代表してこの場に来ていた軍師:湊は心中でこう述べていた。

 

「貴様が言うな」

 

と。

 

 

「すぐに追いかけなさいな!」

 

「それは無理です、此方も汜水関を取るのにかなりの被害を被ったもので。

暫し将兵を休ませねば、今度こそ完全敗北を喫する事となりましょう。

その時、世間から批判されるのは、軍の定石を弁えなかった本初殿だろうと思いますが?」

 

「ぐぬっ」

 

 

論破され、塞ぎ込む。

確かに、確かにそうだ。

だが、それでも自身の心中に煮え滾っている激昂の意は収まる訳も無く。

だからこそ。

 

 

「我等は休まねばならないが故。

お次の虎牢関攻めは、本初殿がしては如何か?」

 

「無論ですわ!」

 

 

湊が撒いた餌に簡単に釣られた。

自分の我儘に躍起になっている麗羽を動かすのは、非常に簡単だった。

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十九話「奔走」

 

 

 

「只今戻りました」

 

「おう、お帰り。

で、どうだった?」

 

「言う必要、御座いますか?」

 

「いや、いい。

しかしちょろいな」

 

「全くもって」

 

 

孫呉の陣に戻り、大蓮との会話も程々に切り上げる。

今は、将兵を休ませるのが最優先だ。

それは、大蓮でさえ例外ではない。

 

視線を巡らせ、湊は視線を酒の入った瓢箪を傾ける瑠香に向けた。

向けられた親友からの視線に気付き、瑠香は一度だけ頷いた。

これでいい。

 

 

「では、堅殿。

しかと休んで下さい」

 

「応さ、今回ばかりは身体も冷えちまったし、しっかりと休むよ」

 

 

そう言い、天幕の中へと引っ込む大蓮。

湊は満足気に一度だけ首肯し、自分の天幕に入り、自身もそのまま寝た。

 

それから約10分後。

袁紹の陣から、絹を裂く様な悲鳴が連続して上がった。

 

が、誰も気にしなかった。

寧ろいい気味だ、とさえ思っていた。

 

 

「うぅ・・・一体、何なんですのぉ・・・・・・」

 

 

そう、連合の総大将が腰を抑えながらぼやいていたとか言う噂も上がったが、所詮噂であろうと、誰もどうとも思わなかった。

 

 

 

 

 

―――劉備陣

 

 

「う~ん、虎牢関では、呂布達に加えて西涼勢が出て来るんじゃないかと思うんだが、どう思う? 朱里、雛里」

 

「その可能性は、非常に高いです」

 

「虎牢関は汜水関と比べ、関の前が開けていますから」

 

 

白蓮の疑問に、二人の軍師が即座に応える。

この場には、劉備軍と公孫瓉軍の首脳陣が集まっていた。

 

 

「西涼騎馬に呂布軍か、白馬陣も負けてはおらんと思うが・・・」

 

「多分負けちゃいます」

 

「ほぅ? それは何故?」

 

「私達と、西涼では騎馬の質が違いますから。

白馬陣は統制の取れた軍を相手にするのに長けますが、西涼は多勢を力で押し開くのが得意なんです」

 

「今一良く分からないのだ」

 

「え~っと、もっと分かり易く言いますと。

白馬陣は押し引きが効くんですけど、西涼は基本的に押しの一手を極限まで高めている、と言った感じです」

 

「ほー、つまりは力押しが得意なのか。

鈴々と同じなのだ」

 

「自分で言うのもどうかと思うぞ、それは」

 

「あはは・・・」

 

 

星と鈴々を相手する黒蓮は、乾いた様な疲れた様な笑い声を上げた。

それなりに理知的な部分のある星だけならばともかく、単細胞な鈴々に道理を滔々と説くのは中々難しい物があった。

苦笑しながらも黒蓮は、最愛の姉の方をチラリと見た。

 

 

「しかし、次の一戦は麗羽が前線に出る気みたいだぞ?

・・・間違っても勝てやしないだろうけど」

 

「そうですね。

極論になりますが、袁紹さんさえ討たれなければいいので」

 

「桃香様だったら、間違いなく袁紹さんを助けようとしますけどね」

 

「ああ、間違いないな。

だとすると、向こうの攻撃を必ず一度以上は受ける事に・・・兵達が逃げてしまわないか心配だ」

 

 

はぁ、と白蓮達三人の溜息が被る。

頭を抱えているのが見て取れた。

麗羽の我儘は、愚かさの極致と言い換えても全く否では無い。

このままでは何一つとして得られず、下手を打てば此方の将が幾人か持って逝かれる可能性さえある。

次の虎牢関に籠る『飛将』呂奉先とはそういう相手なのだ。

また、三人から溜息が零れた。

 

 

「ままならないなぁ・・・」

 

「虎牢関に籠っているのが、呂布さん以外に誰がいるのか分かればいいんですけど」

 

「戻って来ないもんね」

 

 

そう。

既に各軍は次に戦いが起こるであろう、虎牢関に向けて何人もの密偵を放っている。

なのに、一人として帰って来ないのだ。

全員捕まって始末されたか、囚われているのか。

そのどちらかは分からないが。

 

 

「グダグダ愚痴り合ってても進展は望めないな。

私達は、自軍に戻って一応何時でも出撃できる様に用意しておくよ」

 

「分かりました、お願いします」

 

「それじゃあ。

黒蓮! 帰るぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

白蓮の呼び掛けに、喜色満面の笑みを浮かべながら立ち上がる。

その頭の位置は白蓮よりも高い。

うっ、と一瞬尻込みするが、すぐに何事も無かったかのように視線を外に向け、天幕を後にした。

 

残されたのは、二人の軍師と二人の将。

軍師達は、記憶に仕舞っておいた情報を元に書き起こした、この辺りの地図を真剣な表情で見詰め、策を練る。

相手は、今まで学んで来た策を容易く上回る自由な発想で此方の裏をかいて来る。

それは正に、彼女達の弱点である「勉強の末に軍師になった」という事実を突いて来る策であった。

机上の勉学は、実地の軍策には及ばない。

二人とも、その点は今までで痛い程理解していた。

盤上と戦場はイコールで結べないのだ。

 

その点相手は凄い。

これは、二人の共通認識である。

自分達は、最初に決めた策に敵を嵌める事をまずは考える。

それに対し、相手は決められた策ではなく、その場に合わせて即座に幾つもの策を講じ、適応させて来る。

そこからして相手は違うのだ。

しかも、即興の策でさえ微塵の動揺を見せずに見事にやり遂げてみせる。

それだけの信頼を、互いに持っているという事だ。

此処まで来ると、最早感動さえ覚える。

相手の策を読もうとすれば読もうとする程、墓穴を掘っている気さえしてくる始末。

あの男:北郷一刀を知る軍師二人だからこそ陥ってしまった。

 

だから二人は気付かない。

そうして考える事こそ、墓穴だという事に。

 

 

 

 

 

―――曹操軍

 

パチン、と扇子が打ち鳴らされて閉じられた。

その発生音の大元は、この軍の長である華琳の手元。

その背後には、二人の女性が共に立っていた。

 

 

「それで、やはり?」

 

「はっ! 袁紹勢が出る準備をしているとの報告を得ました」

 

 

ビッと美しい敬礼をして報告するのは、先日この軍に後詰めを連れて来た曹洪―華織。

しかし、少し顔を顰めた。

 

 

「しかし、本気ですか?」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

 

華織の少し戸惑った様な言葉に、華琳は至って平坦で抑揚の無い言葉を返した。

華琳の背後に立つもう一人、華蘭は言い様の無い悪寒を感じていた。

 

 

「華織、貴女はすぐにでも皆を動かせるように用意させておきなさい」

 

「了解」

 

 

短く返し、華織はその場を離れた。

残された華蘭は、不安に思い華琳に話しかける。

 

 

「華琳、覇道は、どうした?」

 

「捨ててはいないわ、踏み外したけどね」

 

 

決定的だった。

華蘭の表情がくしゃりと歪む。

今にも泣き出してしまいそうな、悲痛な表情だ。

すぐにでも殴ってやりたかった、そんな覇道を歩む事を【華蘭様】は望んでいないと、怒鳴り付けてやりたかった。

しかし。

 

 

「そう、か」

 

「・・・・・・怒らないの? てっきり殴られる程度は覚悟していたのだけれど」

 

 

変わらず正面へと視線を向けながら、華琳はそう呟いた。

その声が微弱に震えているのが、華蘭には聞き取れた。

 

 

「お前が、血を吐く様な思いをしてまで選んだ【お前の道】だ。

それが外道でも、私は私の誓いに誓ってお前を護る」

 

「ありがとう」

 

「気にするな・・・」

 

 

会話が途切れる。

華蘭は知っている。

華琳が実は、寂しがり屋である事を。

母の死に絶望し、殉死さえ考えた事がある事を。

唯一人、当時信じられる、信じていたかった人を喪った際に見せた弱さを。

 

今の覇王としての顔からは想像もつかない、弱々しい《女の子》としての顔。

泣きじゃくり、泣き腫らした瞳で立ち上がった小さな覇王の『初まりの夜』を忘れた事等無い。

忘れられる訳が無い。

あの日、華蘭も『初まった』のだから。

 

 

「行くわよ、私達もそろそろ舞台に立つ時が来たわ」

 

「了解した、我が主」

 

 

覇王としての顔を取り戻し、振り向いた華琳に深々と頭を下げる。

その間には、夏候姉妹や軍師等入る余地も無い、絶対の絆があった。

 

 

「華蘭、私はこの外道を歩む。

奸雄と言われ様が、どの様に誹られ様が」

 

「そうか、だが」

 

「ええ、必ず世に平定を齎してみせる。

その道の途中、私が真に外道と成り果てたならば、即座に私の頸を落としなさい」

 

「ああ、任せろ」

 

「ありがとう」

 

「だから、弱みは見せても構わない。

お前だって、強さだけじゃ生きられないだろう?」

 

「そう、ね。

じゃあ少し背中を貸しなさい」

 

「どうぞ、華琳」

 

 

くるりと後ろを向いた華蘭の背中に、埋もれる様に華琳が顔をくっ付けた。

すぐに啜り泣く様な声が聞こえ始める。

泣いているのだ。

他の誰も与り知らぬ、この場で。

覇王としての己を課し、それを貫き通すと決めた。

それ即ち、弱い自分を殺し切らねばならないという事。

 

涙に濡れているであろう自身の服を思いながら、華蘭は空を見上げた。

この一時が終われば、華琳はまた奸雄としての自分を取り戻しているだろう。

だが、何と残酷な事か。

華蘭の溜息は、虚空に消えた。

 

 

 

 

 

―――虎牢関

 

 

「で、張遼と華雄は?」

 

「はっ、到着しておりません」

 

「一兵も?」

 

「はい」

 

「そうか、御苦労さん。

休んでいいよ」

 

「ははっ!!」

 

 

連絡の兵を下がらせ、美里は大きく息を吐いた。

事前に言われていた策通りだとは言え、流石に敗走した将からの沙汰が無いのは、胸中が恐怖で震えるものだ。

先日虎牢関入りした西涼の騎馬勢と、天水の騎馬勢は既に準備万端。

後は、敵が確認出来れば突撃するのみ。

 

 

「肝心の敵の姿はまだ、だけどね」

 

「美里様」

 

「おや円、調子はどうだい?」

 

「仔細ありません」

 

「もうちょい柔らかくしてもいいんだよ?」

 

「いえ、美里様に無礼な口調を働く訳には」

 

 

少し苦笑いしてしまう。

円の方は何故笑われたのか分からず、首を傾げたが。

 

 

「何でも無いよ、気にしないでおくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 

何とも素直なことだ。

昔、スカウトしに行った頃とは雲泥の差。

本当に、自分には過ぎた程出来た副官と思えてしまう。

 

 

「言い損ねていましたが、北郷様より通達です」

 

「何だい?」

 

「兵達に精の付く物を食べさせたい、との事です」

 

「ほほぅ? そいつは何か?

元肉屋への挑戦かい?」

 

 

挑戦的な視線でニヤリと笑う美里に対し、円は苦笑し続ける。

 

 

「どう取られるのかは美里様の自由、とも仰せつかまつっています」

 

「あらら、やっぱりあたし程度の考えは軽く読まれちゃうか。

・・・・・・そんじゃ、とびきり美味いモン作っちゃろうかね」

 

 

ケラケラと笑い、腰掛けていた城壁から腰を上げる。

その目は、何処ぞの食堂のおばちゃん染みた光を湛えていた。

 

 

「円、手伝いな」

 

「御意」

 

 

フッと綺麗な笑みを零し、円は厨房へと向かう美里の後を追う。

で、到着してみたのだが。

 

 

「・・・おー、こりゃとんでもないね」

 

「うわ、その、これはっ!?」

 

「これは、随分と手の込んだ物を作りましたね、令明?」

 

「うぅ・・・」

 

 

先客にエプロン姿の葵がいたのだ。

しかも、物凄い物を作っていた。

一言で言うなら、鳳凰の像。

しかしこれは・・・

 

 

「こりゃ、もやしかい?」

 

「は、はい・・・」

 

「何と言う造形美、これだけでも十分彫刻として飾れますよ?」

 

 

全部もやしで出来ているのである。

凄まじい出来であった。

 

 

「その、これは」

 

「一刀に食べて貰うんだろ?

さっさと持って行ってあげな」

 

「北郷様は、自室ですよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

勢い良く二人に頭を下げ、もやしの鳳凰が乗った皿を持って、とたたーっと駆けて行く葵。

速いのに、皿の上の鳳凰は小揺るぎもしない。

恐るべきバランス感覚である。

やれやれ、と二人して苦笑し、自分達が使う為に調理器具を手に取ったのだが。

 

 

「ありゃ、何で空の鍋が出してあるんだ?」

 

「使っていないのに、火にかける場所に置いてありますね、何故でしょう?」

 

「さぁ?」

 

 

謎が残ったが、まぁいいかと二人は早速料理にかかるのであった。

 

 

 

 

 

連合軍は、順調に虎牢関への道を進軍していた。

時折、小勢が襲い掛かって来ていたが、軽く撃退出来ている。

それ故。

 

 

「おーっほっほっほ!!! 所詮は下郎、この私の華麗な進軍には為す術もありません事ね!」

 

 

とまぁ、明らかに様子見兼小手削りに来ている小勢を蹴散らしては、鼻高々になっている次第である。

それを見て呆れるのは、諸侯の殆ど。

自身に都合の良い結果しか見ようとしない視野狭窄ぶりは、最早呆れを通り越し殺意さえ抱く程だ。

そんな麗羽を背後の馬車の中から見ながら、重い溜息を吐くのは美羽。

反面教師、見習いたくない相手としてこれ以上の逸材はいないだろう。

但し、同じ男を父に持つ者同士。

踏ん反り返る麗羽の立ち位置に自分を当て嵌めても、自身が違和感を感じなかった事に、少し苛立った。

 

 

「咲」

 

「はっ、何でしょう美羽様?」

 

「孫堅に一つ言伝を頼みたいのじゃ」

 

「何なりと」

 

 

傍へと来させた咲の耳元で、周りに聞こえない様にボソボソと言葉を告げる。

一瞬だけ眉を顰めたがすぐに直し、一礼をしてその場を去った。

 

 

「は~い美羽様? 日々のお勉強の時間ですよ~?」

 

「なぬ!? もうその様な時分であったか!?」

 

「はい」

 

 

咲と入れ替わる様に、片脇に本や筆入れを持った七乃が現れる。

にっこりと笑ってはいるが、美羽には悪魔の笑みに見えた。

我儘の頻度が減った分、七乃は教育に力を入れている。

実は、少し位昔の様な我儘を言ってくれないかな、と言う下心が混じっているのだが、美羽は文句を言いながらもちゃんと勉強してくれるので、どちらにしても七乃には喜ばしい状況になっている。

 

 

「今日は孫子と墨子を学びましょう」

 

「むむぅ・・・七乃に勉学の内容は任しておるが、妾はちゃんと成長出来ておるかの?」

 

「はい、勿論ですとも!」

 

 

首を傾げながら疑問を口にした美羽の言葉に即答する。

目覚ましい成長を続けているのは間違い無いのだ。

実際、彼女の統治は急激に支持率を伸ばしている。

 

 

「そうか、ならば良い。

さて始めようかの」

 

「はいはーい、それじゃ机に座って下さいね」

 

「うむ」

 

 

どっかと机を前にする美羽の脇に立ち、書を開く。

その間に美羽は墨を擦っていた。

七乃の瞳がスッと細められる。

この小さな愛しき主を護り抜かねばならない。

恐らく一番の敵は・・・そう考えると、自然と苦い表情になってしまう。

それでも、護らなければ。

それこそが、親友の咲と共に誓った忠義なのだ。

 

 

 

一方此方は、咲がやって来た孫堅軍である。

 

 

「は、今何と言った?」

 

「私にも信じられない言葉が聞こえた様な気がするのですが?

『袁紹が危地に陥ったら、助けに向かって貰いたい』と言った様に聞こえた気がするのですが、気の所為ですよね?」

 

「いいや、気の所為等では無い」

 

 

咲の言葉に、対面に居た大蓮から殺気が漏れ出る。

それでも、咲は退かない。

 

 

「冗談きついね、あの袁紹が勝手に自らの勢力を削ってくれる絶好の機会なんだぞ?

それをどうして助けなきゃいけないのさ?」

 

「袁紹様は、この連合の盟主です」

 

「そりゃ、あたし等だって本当に袁紹が死ぬかもしれないって時は、助けに行くさ。

けど、それ以前にあいつを助けなきゃいけない理由が無いだろう、何を考えてる?」

 

「さぁ? 私は美羽様の御言葉を一言一句違わず届けただけですので」

 

 

きらりと眼鏡を光らせる。

駄目だこりゃ、と大蓮は肩を竦めて溜息一つ。

 

 

「あの子の言う事ならしょうがないか、こちとら兵を借りてる身だしね。

分かったよ、仰る通りにするさ」

 

「ありがとうございます、これで私も胸の閊えが降りました、では」

 

 

ニコリと笑い、咲は去る。

昔、胃に異常を抱えて苦しんでいた頃とは全くの別人だな、と思いつつ、大蓮は酒の入った大杯を傾けた。

何時もは極上の味わいを感じられる筈の酒の味が、少し濁っている事に、軽く苦笑せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

―――虎牢関

 

翠は一人、愛馬の一匹である麒麟の体躯を手入れしてやっていた。

つい先日一刀と共に、『オトナの階段』を駆け上がった身であり、今でも思い出すだけで顔がニヤけてしまう。

その度に、周りの兵達からは「またやってるよ」と言う呆れの視線や、何処か微笑ましい物を見るかのような生暖かい視線が注がれた。

 

 

「姉貴、いい加減にしとけって、もう三日は経ってるぜ?」

 

「はっ!?」

 

「自覚が無いと言うのが、これ程困った事になるとは。

これでは、また後方でゆっくりと休んで貰った方が良いやもしれんな」

 

「鉄、休、何時の間に!?」

 

「「いや、さっきからずっと居たんだが」」

 

「えっ、本当に?」

 

 

二人が徐に頷く。

翠の顔が見る見る紅くなる。

スチーム蒸気が耳から見えそうだ。

しかし。

 

 

「そう言えば、葵姉ちゃんが兄貴の部屋に向かってたよな?」

 

「うむ、何やら料理だか彫刻だかよく分からん物が乗った皿を持ってな」

 

「!? 麒麟を任せたっ!!」

 

 

二人のその部分の会話だけで、一瞬で我を取り戻し、二人に麒麟の幉を押し付けて自らは内部に設置された階段を駆け上がっていく。

その速さ、正に疾風の如し。

残された二人は、鉄はポカンとした表情を浮かべ、休はクツクツと暗い笑いを零していた。

 

 

「ホントに物凄い反応だったな・・・」

 

「姉者らしいだろう?

姉者は思い込んだら本気で一途だからな。

故に、策は今の内に仕込んでおかねば、成就は遠い」

 

「うへぇ、兄貴のケツの穴が危険だぜ」

 

「一殿は、今時稀な良い男だ、これを逃しては俺では無い」

 

 

キリッとした目付きで決める休。

絵面だけで見れば、とても絵になる光景なのだが、言っている事は致命的に『アレ』であった。

 

 

「一刀、何処?」

 

「のわっ!?」

 

「おや、呂布殿」

 

 

急に気配毎姿を現した恋がいた。

どんよりとした悲しみの気配を纏っており、とてもではないが飛将軍と言われている人物と同一とは思えない。

少し瞳が潤んでさえいる。

 

 

「・・・・・・何処にもいなかった」

 

「あー・・・」

 

「随分と間が悪いのだな・・・」

 

 

恐らく一刀を捜している間、上へ下へと走り回り、時に気配を、時に匂いを追っていたのだが、さっきまで厨房に捕まってしまい、漸く思い出して再追跡を開始したのだが、どうにも捕まらない。

此処が今だ。

 

 

「兄貴なら、自室に戻ってるぜ?」

 

「・・・♪ ありがと」

 

 

鉄の言葉に一言だけ礼を言って、嬉しそうに恋は駆け出す。

行き先は当然一刀の部屋だ。

 

 

「鉄、良い仕事だ」

 

「へっ? あ、うん、どういたしまして?」

 

 

何に対して良い仕事なのかまるで分からない鉄であったが、取り敢えずは応えておいた。

 

 

「さぁ、準備を整えろ。

連合の烏合共は夜には到着する様な位置に居るんだ」

 

「あいよ、馬達も早く休ませてやるか」

 

「うぅ~、恋殿~」

 

「一体何処へ行ったのでありますかー!?」

 

「お、要らん子二人じゃないか」

 

「ちんきゅーきぃーっく!!」

 

「オゴフ!? ありがとうございますっ!!!」

 

 

思い切り蹴飛ばされて恍惚の表情を浮かべる鉄に引きつつ、音々音は休に詰め寄った。

 

 

「恋殿は何処へ行かれましたか! ちきちき吐くのが身の為なのです!」

 

「まぁ待て、教えないとは言ってないだろ。

呂布殿は一殿の自室に行っているぞ」

 

「な、なんですとー!?

い、いけないのです、このままでは恋殿があの色狂いの餌食に・・・っ!!

待ってて下され恋殿ー!! 今ねねが助けに参るのですぞー!!」

 

「あ、待ってよねねー!!」

 

 

素に戻り、全速力で駆けるねねをヒィヒィ言いながら追いかける真理。

休の口元はやはり、邪悪な形に歪んでいた。

 

 

「起きろ鉄、準備を整えなきゃならないぞ」

 

「あぅん、くそ、もっと強く蹴ってくれた方が気合入るのに」

 

「だからだよ」

 

 

鉄を蹴り起こし、休は各部隊に指令を与える。

特に防寒をしっかりする様に、と念を押す。

そして聞こえてくる轟音。

 

 

「始まったな、出来る事なら早く治まればいいさ」

 

「? 一体何が始まったんだよ」

 

「女と女の戦争さ」

 

 

肩を竦め、休はそう言い切った。

 

 

 

 

第二十九話:了

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

遅い!!

でも大学始まっちゃうと、実験レポートとかでてんてこ舞いになっちゃうんですよね。

忙しいって苦しいと同義に取れそうで何か嫌だ。

 

コメ返し

 

 

・はりまえ様:行けました! リクエストが通りました! 応援ありがとうございます! 華織は外見も超美人ですので、罵られたいと思う男は結構いるようで。 徐庶は最初から出す気です、ですけど登場はもっと後です。

 

・shirou 様:もう暫しお待ち下さいませ。

 

・悠なるかな様:華琳の戦は、苦しい物です。 今回美里さん出ました。

 

・nameneko様:あー、前回は書き足らずでしたので、今回で補足をば。 一刀の鈍感治療は、実際には然程治って無いです「もしかしたらそうなのか?」と疑える程度なのです。

 

・不性鳥ティマイ様:華織は多分こっちよりも現代IF編での活躍しそうです。 華蘭は・・・もう少しだけ圧縮の時は続くんじゃよ。

 

・根黒宅様:一刀の鈍感は根っこが治って無いので、治った訳じゃなかったり。 華琳、実際には気付いてます、押し殺して見ないふりをしているだけです。

 

・流浪人様:ありがとうございます、頑張ります!

 

・うたまる様:でも実はそれ程変わって無い・・・ちょっと性に対してオープンになった位かな?

 

・砂のお城様:狙ってるんで、おかしくなんかないです。

 

・O-kawa様:華織は、華琳との繋がりは強いのだけれど、最終的には『他人・配下』カテゴリーに当て嵌まっちゃう相手ですね。

 

・無双様:そうですね、と言う訳で寧ろ、真・恋姫本編の一刀に近付いた感じです。

 

・F97様:ご安心あれ! 一刀君は自惚れない人間なので、好意の判別が付き辛く、未だに判断が下せない状態なのです。

 

・2828様:視線には気付くが、好意の質は分からない。 判別しているのは、視線に籠っているのが好意か否か程度なんです、実は。

 

・poyy様:稟はもっと可愛くてもいいと思うんじゃよ。

 

 

Sirius様に華蘭のリクエストが通り、線画が発表されましたー!

テンション上がって来たぜー!!

実に嬉しい展開です。

でも、少し執筆速度は落ち気味・・・

次の投稿は、息抜きを兼ねて天遣伝シリーズから完全に外れた別作品のSS書くかもです。

 

では。

 

 

 


 
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