― 一刀Side ―
「・・・・・・・・・・・・・・」
「一刀様、緊張してるのか?」
「恥ずかしながら・・・・・・・って言うか何度も言ってるけどその口調で様付けはやめろよ・・・・」
今俺は淮南に来ている。
目の前には一万五千ほどの黄巾党。
対する孫家軍は一万。
俺が率いているのはその内の千。
その大半は新兵、そして祭さんと巌さんが自らの隊のベテラン兵を各百名づつほど寄越してくれた。
兵種は弓隊。
調練も基本的なものしかしていない。
戦いが始まってもう随分と時間がたつ。
前線で戦っている巌さんや玲さん嵩さん、そして前線の指揮をとる穏と遊撃隊の思春、さらに何故か雪蓮。
祭さんは弓兵を率いて前線の隊の援護にまわっている。
俺は本陣左翼で、本陣護衛として待機中なわけなんだけど・・・・・・・。
皆、気を使ってくれたんだろうな。
本陣は蓮華と冥琳。
亞莎と明命は建業の守備の為に留守番。
詔さんはもともと文官だから戦場には出ない。
もちろん美蓮さんも腕の傷の事があるので出てきてはいない。
戦をこの目で見るのは二度目。
もちろん一度目はあの日。
あんなに離れていても伝わってくる生々しい匂い。
聞こえてくる悲鳴や怒声。
敵味方関係なく命が散っていく。
俺は何時の間にか拳を硬く握り締めていた。
落ち着こうと思い周りの兵を見回してみる。
祭さん達の隊から来た兵達は鋭い目つきで戦場を見つめている。
だが、新兵達はこれが初陣。
この戦の雌雄はもう決しかけている。
いくら数が多かったとしても元農民だった者と生粋の兵隊との力量差は明らかだった。
「北郷隊の皆よく聞いてくれ。初陣の者達は今の目の前の光景を目に焼き付けておいてくれ・・・・・・・。
そうじゃない者達は戻ってからでいい、初陣の人達に戦で経験した事を話して聞かせてやってくれ。
どれだけ悲惨で、どれだけ辛くて、どれだけ怖いかを。
こんな事を将が言うのは失格かもしれない・・・・・・・・・・俺は怖い!!
人の命を奪う事、そして仲間が死んでいくかも知れない事・・・・・・。
建業に戻ったら直ぐに調練を始める!!
北郷隊は民や我等が同胞を守るために最前線で絶対に砕けぬ盾となる為に!!!
だが戦場で死ぬ事は絶対に許さない!!!
死ぬ時は寝床の上で人生に満足して死ね!!!
もう一度言う戦場で死ぬ事は絶対に許さない!!!
死なない為の方法は、この頭の中にあるもの全てをお前達に教えてやる!!!!
自分が死ねばそれだけ同胞が危険になるという事を頭の中に叩き込んでおけ!!!!!
いいな!!!!」
『『応!!!!!!!!!』』
「兵に死ぬな・・・・・か。一刀様は変わってんなぁ」
「お前もだぞ影、絶対に死ぬな。これは命令だ」
「御意」
随分と口調が荒かった気がする。
戦場の空気に当てられたのか、もしくは怯えからきた物なのか・・・・・。
前線から勝鬨が上がる。
雪蓮が敵将を討ち取ったみたいだ。
こうして俺の、そして北郷隊の初陣の戦は幕を下ろした。
― 祭Side ―
儂は今城壁の上にいる。
今から目の前で演習が行われる。
「何じゃあれは・・・・・」
一言で言えば
『威容』
あの戦の後冥琳から北郷が飛ばした檄の事を聞いた。
儂等の兵の盾になると言ったそうじゃ。
目の前の軍はまさしく盾と言っていいじゃろう。
しかし資金の問題で、北郷隊は未だ装備が揃ってはいない。
兵達が手にしているのは木製の盾。
それも、兵の身の丈程もある特大の盾。
一刀は何をしようというのじゃ?
相手は玲の率いる歩兵部隊。
演習は既に始まっている。
玲は目の前の異様な隊にどう攻めるべきか手をこまねいているのかもしれんな。
すると北郷隊が動き始めた。
ゆっくりと前進。
盾を構えずに前進している。
通常盾を持つ兵が前進する場合、自身の体の前に盾を持ってくるのじゃが・・・・・・。
すると玲の隊が動き始める。
「ほぉ、魚鱗か・・・・」
まぁ、無難じゃろう・・・・。
一気に突き崩そうというわけか・・・・・。
玲は北郷隊を打ち倒す為に徐々に速度を上げ始める。
どうする北郷?玲の部隊はわが軍の中でも特に攻撃力のある隊じゃぞ?
視線の端で北郷隊が動いたのを捕らえて視線をそちらへ移して儂は目を見開いた。
ほぉ、この短期間であそこまで瞬時に陣形を整える事が出来るようになっておるとは・・・・・。
「それにしても・・・・何じゃあの見たこともない陣形は」
一見鋒矢の様に見える。
だが鋒矢とは似て非なる物。
例えるのなら
『傘』
と言う字に近いだろう。
鋒矢の陣の中に小さな逆鶴翼の陣が敷かれている。
どう戦うというのじゃ?
玲も北郷隊の陣と相性が悪いと気づいたのか魚鱗から鶴翼へと陣形を変化させる。
「これは!?・・・・・・・なるほど!!そう言うことか・・・・・」
北郷隊の兵は身の丈ほど盾を持っておる。
最前列の兵はその盾をそれぞれ自分の体の前に隙間を作らぬように構えているのだ。
そうなると必然的に相手方から北郷隊の後方の様子は一切確認できんことになる。
じゃが、その状態からどうやって攻撃するつもりなんじゃ?
思考を巡らせている内に両陣営がぶつかった。
「なんと!?」
玲の鶴翼に食いつかれたかのように思われた。
しかし、目の前の光景は予想だにしなかったものとなっている。
玲の鶴翼に食い破られたかのように見えた・・・・。
じゃが、実際食い破られたのは玲の陣。
陣が崩れたと思わせたそれはただ道を開いただけなのだ。
鋒矢の中に位置していた小さな陣が飛び出す為の・・・・・。
飛び出したそれは鶴の両翼を貫き通す。
それにより、玲の陣の後ろには小さいながらも北郷隊の鶴翼の陣が忽然と二つ現れる事となる。
それと同時に傘の中に残っていた後方の小さな陣が鋒矢の両翼から飛び出すと同時に陣を変形させ此方もまた小さな鶴翼となる。
城壁の上から見ていたからこそ、その動きが理解できるというもの。
同じ地面、同じ視線でこの陣形を相手にしている者からすれば後方に加え左右から突如現れた敵に戸惑うじゃろう・・・・・・。
「なんと、まだ動くというのかこの陣は・・・・・・・」
残っていた鋒矢の中心、矢で言う軸の部分。
それが瞬時に先ほどと同じように逆鶴翼へと姿を変える。
そして鏃に位置する部分は、先ほどとは違う位置を押し開きその隙間から小さな陣が先ほどと同じように両翼を食い破る。
見る見るうちに玲の隊は分断され陣とは呼べぬものに変わっていく。
その集団は突き抜けた鶴翼に食いつかれあっという間に食いつぶされてしまった。
喉が鳴る。
こんな陣はどんな兵法書にすら載ってはいない未知なる陣。
今回は小規模な演習で互いに千程度の兵数。
だからこそうまく行ったのかもしれんが、これが数万規模の兵でも可能となると、とんでも無い事になるぞ・・・・・・。
「やはり祭殿も来ていましたか・・・・・・」
「おぉ、冥琳か・・・・・・。お主はさほど驚いてはおらんようじゃの?」
「えぇ、事前に北郷から聞かせてもらっていましたので。ですが、聞いた時は言葉すら発せませんでした・・・・・」
「そうじゃろうな・・・・・・。儂等老将は長年の経験から戦場に立っておる。
そして、その経験を元にさまざまな事に対処しとるんじゃ。
じゃがの、知っての通り戦には定石と言う物がある。
陣にしてもそうじゃ・・・・・・」
「えぇ、その通りです。私達軍師にしてもそうです。
相手の陣を読み、それに対し有利な陣形を組む、それが兵法の定石」
演習場を見ると一刀が玲に窒息させられそうになっている姿が見える。
一番驚いたのは玲じゃろうなぁ。
何せ取り囲もうとしたはずなのに自身が取り囲まれたんじゃからのぉ・・・・・・。
「のぉ、冥琳。あれも天の知識となのか?」
「・・・・・・・・いいえ。天にもあのような陣は存在しないそうです」
「なんじゃと!?それじゃ、あの陣を考えたのは一刀自身と言う事なのか?」
「はい。それにあの陣は幾通りにも変化します」
「まだ変わるというのか!?」
「盾兵を核として騎兵、弓兵、槍兵など他の兵種を幾通りにも組み替える事が出来るのですよ」
言葉を失ってしまう。
そんな常識外れの陣を一刀一人で考え出したというのだから信じられん。
いや、儂等の知る常識と外れた場所から来たあの男じゃからこそ考え付く物なのかも知れんのぉ・・・・・。
「何と言う名の陣か聞いておるか?」
「えぇ。・・・・・・・・金剛陣と言うらしいです。どんな攻撃も通さず、しかし内から金剛すら貫き通す刃で敵を討つ」
「ハッハッハッハッハ!!!まさしくその通りじゃわい!!内から貫くか!!
して、その金剛陣とやらはどれ位の規模まで使えるのかの?」
「北郷が言うには規模が大きければ大きいほど組み合わせの幅が広がる・・・・・とは言ってましたが問題は資金の方です」
「資金のぉ、確かに木盾じゃ実戦では使いものにならんか・・・・・。せめて今の北郷隊の分だけでも如何にかせんとな」
「えぇ。ですので、一度寿春へ足を運ぼうかと・・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
「・・・・・・と言っても余り気乗りはしませんが」
まぁ、そうじゃろうな。
しかし、そうそううまく行くとは思えんが・・・・・・・。
「のぉ冥琳、一刀を連れて行ってみてはどうじゃ?」
「北郷を?」
「こんな事言っては何じゃが、一刀なら何とかしそうな気がせんか?儂の勘がそう言っとるんじゃよ」
「雪蓮みたいな事を・・・・・・・。しかし、悪くない手かも知れません」
一刀は儂等の想像つかん事を平然とやってのけるからの。
まぁ、一刀が居れば何とかなると思ってしまうのは不思議で仕方が無いが、それが『北郷一刀』と言う男なのじゃろうな。
再び演習場へと視線を戻せば玲に窒息させられぐったりとしている一刀が目に入る。
「はぁ~・・・・・・玲のあほめ、加減と言う物を考えんか・・・・・・」
あとがきっぽいもの
厨二病が発症したようです獅子丸です。
一刀の考え出した陣形ですがまったく持って根拠はありません(ぁ
兵種は、守りに特化した一刀の隊ですので盾兵となっています。
作中に出てきた陣形、金剛陣。
わかりにくかったかもしれないので図を描いてみました。
↓
こんな感じです。
あくまで簡単に書いた物なのでなんとなくイメージしてもらえればw
作中の動きを説明すると敵にぶつかった後最前列の兵は盾を用いて敵を押し込みます。
次に図で言うとaとbの部分にから1,2の隊が道を押し広げ開いた隙間から敵の後方を目指し突き進みます。
1,2の隊が後方に突き抜ければ、そのまま小さな鶴翼の陣となります。
今回の場合、残りの3,4の隊はg、hを外から迂回して1,2が分断した兵を狙います。
その際3,4の隊は迂回中に鶴翼へと変化します。
内側に抱える隊が減ると同時に中央にある矢の軸の部分がそれぞれ1234と同じ陣形に組み分けされ
盾兵を押し開いた場所から打って出るなり迂回して背後をつくなりします。
今回は3,4は迂回していますが1,2が抜けた後3,4が1,2に成り代わり中央の軸の部分の後方の兵が3,4の隊になる・・・・と言う感じで運用も出来ます。
作中でも書いていますが、部隊が大きくなればそれだけ組み込める兵種も多くなり多種多様な運用ができると言うわけです。
その運用方法は後々の話で・・・・・。
ここまで書いておいてなんですが、
この陣形はあくまで獅子丸の脳内で考えた妄想の産物です。
ですので、ありえないや、勝てるわけがないなど言われても獅子丸は感知しませんw
もう一度言います。
『獅子丸の妄想』です!!
んではお次。
兵達が持つ縦の事ですが詳しい事は作中で書きます。
ただこれだけは先に、視界に関してですがちゃんと覗き穴つけてます(ぁ
まぁ、盾は一刀が未来の知識を存分に発揮して色々な機能がついてるはず・・・・・・。
と言っても現代じゃないと作れないような物ではないですw
盾の事を色々調べて見て思ったのですが、世の中には色々な種類の盾があり意外と面白かったので
それをうまく生かせればと思っています。
今回はこの辺で。
それでは毎度の一言
次回も
生温い目でお読み頂ければ幸いです。
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第十五話。
がんがん話を進めていきます!!
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