― 詔Side ―
今日はとてもいい天気ですね。
思わず遠くを見てしまいます・・・・・・。
昨日の夜中に聞こえてきた二胡の音色のおかげで、今此処でこうして冥琳さんが一刀君を質問攻めにしているのでしょうね・・・・・・。
美蓮様も漸く歩を進め始めたということでしょう。
雪蓮様は・・・・・・・・まぁ、あの調子で窓の外に視線を送りつつも聞き耳だけはしっかりと立てているようですし・・・・・。
はぁ~、流石親子と言うべきか・・・要らぬ所まで似てしまって・・・と言うべきか。
まぁ、そんな事は追々時が解決してくれるでしょうから関知しないことにしましょう。
今までは双方に遠慮して一刀君に何も聞きませんでしたが・・・・・わたくしも孫家の文官ですし天の話は気になります。
「一刀君、今仰っていましたが天ではすべての子供は勉学に励む事が義務と仰いましたよね?民はそれを悪用したりしないのですか?」
「あ~、そう言われるとないとは言い切れないかな。だけど、国に対して反乱とかはよほど悪政を強いているとかじゃないと
そう言う事は起きないかな。民に知識を与える事によってその民の中から国を運営する人が出てきたり専門的な勉強した人が
生きていくうえで重要なものを発見したり開発したりそう言った事メリット・・・・あぁ、利点がある。
まぁ、それを犯罪に使う人も出てくるけどそれは国で取り締まる事になってるよ」
「なるほどな・・・・・、だがそれは天の国だからこそ成り立つのであってこの国では成り立たないのではないか?」
「そうですね。確かに天の国はわたくし達より遥かに高度な物を築いているからこそ成り立つものでしょうね」
今のわたくし達が暮らすこの大陸では民に知識を与える事は自らの首を絞めることにつながる可能性のほうが遥かに高いでしょう。
「ん~、確かにそれはそうかもしれない。でも、すべてを真似しなくていいんじゃない?
国によってやり方は違うんだからさ、いい所だけ取り入れて駄目な所、
こう言っちゃ元も子もないかもしれないけど・・・・・・この国にとって都合が悪いところは無視すればいい」
「ほほぅ、私は少々北郷を甘く見ていたのかもしれん。確かに先ほど北郷が言ったものをそのまま取り入れるとなると
私たちにとっては都合が悪いところがある。正直に言うと、我等孫呉は王を中心とした国の安定を求めているわけだからな。
では北郷に問おう、どこを取り入れればいい?そしてその利点は?」
冥琳さんは意地が悪いと言うかなんと言うか・・・・・。
まぁ、本人は楽しくて仕方ないのでしょうけどね。
確かに一刀君は天の国の住人であってこの国の人間ではありません。
そしてその知識は天の国で得たものです。
しかし今までの話を聞いていると、勝手な推測ではありますが、裏ではその国を繁栄させる為に選り分けられた知識も数多くあると思います。
で、あるにもかかわらず一刀君は裏の一面を知っているかのように有益なものだけ取り入れれば良いと言ってのけました。
天の国ではこれほど柔軟な思想を持つ事が当たり前なのか、それとも一刀君が特別なのか・・・・・。
「そうだな~、一つは読み書きかな。街を見て回った時に思ったんだけどさ、文字を読む事はできても書く事ができない人が極端に多かった。
文字の読み書き程度は誰でもできるようになっていいと思う。
これは正しいかどうかわからないけど、誰もが文字の読み書きができるようになればそれだけ国に余裕がある、裕福だ・・・・って外には思わせる事ができるだろうし、
皆が文字の読み書きができるようになれば民にとっては今まで自分にはできないと思っていた仕事が文字を覚える事によってできる様になるかもしれない。
それが民の生活の幅が広がる事になる。
国にとって、それは都合が悪いと思うかもしれないけどそれによって文官とかを目指す人も数多く出てくるから国に役立つ人が増えることになる。
他国に流れたら如何する?と思うだろうけどそれこそ教育で何とかなる。
俺の住んでいた世界じゃそういう教育は印象悪かったけどそうやって民衆を教育してる国なんて幾らでもあるからね。
俺の勝手な意見だけどこの国の、特に孫家に好印象を持ってる民が多い。
孫家の好印象を伸ばす方向で教育を徹底すればいいんだよ。
孫家で働こう、孫家が納める地で働きたい、孫家の力になりたい・・・・・こう思ってもらえるような孫家になって、それを民に広げていけば自ずとそうなる。
問題は時間がかかる事だけどね」
「クックック」
「・・・・・・・・・驚きましたわ」
一刀君はわたくし達とはまったく別の方向から知恵を巡らせているのでしょう。
民に知識を与える事は国にとって悪影響を及ぼす・・・・・わたくし達文官やそれなりの地位にいる人は必ずと言って良いほどそう思っている。
だけど一刀君は知識を与える事によって民を導けば良いと仰る。
粗はありますが確かに有効だとわたくしは思います。
言い方は悪いですが、国に尽くしたくなるように教育する。
言い換えれば愛国心を持つように教育する。
これが実現できれば孫家にとっては大きな力となるはずです。
それなりの地位にいる人間が大して勉強していない知識を使って自らの欲を満たす者の方が圧倒的に多いこの大陸の中で、
愛国心を持ち、知識を付け国の為に働くような人間が多く現れればそれはそのまま国力の増加に繋がる事になることになります。
孫家が道を違えてしまえば逆に大きな痛手となるでしょうがそれは道を違えなければ良いだけの事・・・・・。
『天の御使い』
多少は名ばかりでは?と疑問に思う事もありましたが・・・・・・。
美蓮様、あなたはとんでもない力を孫家に導いたのかもしれませんよ?
― 冥琳Side ―
いやはや、驚いた。
天の国の事も驚きはしたが、北郷の意見にさらに驚かされた。
詔殿も同様なのだろう。
いつもうっすらとしか開いていないその目を見開いているのを見ればまず間違いない。
粗はある。
だが、それを補って余りある策だといえる。
粗など私達が根こそぎなくしてやれば良いだけ。
「1つ・・・・と言っていたが他にもあるのか?」
「うん、こっちはさっきの話とは関係ないんだけどこの国ってさ海沿いにあるじゃん?
となるとこの国の大きな特産品は塩、それと海産物って事になる。
んで、塩の生産方法とか聞いてみたんだけどなんて言うか効率悪いと思ってさ。
それと農業、こっちも効率が悪い。
肥えた土地が少ないのはわかる、それなら人の手で肥えた土地を作ってやればいい。
人の手では限界があるだろうけど今以上の収穫は望めるはず。
塩に関しては商人が独自に作ってるみたいだけどそれとは別に国主導で塩の生産をするべきだと思う。
塩の生産方法に関しても多少は知識があるから商人達がやっている方法よりも遥かに多くの塩が取れると思うよ。
国が塩を作るとなれば人を雇う事になるだろうしそうなれば仕事がなくて困ってる民に職を斡旋できるしね。
生産方法に関しては洩れたら困るなら洩らした者には厳罰を与えると最初に徹底すればいい。
農業に関しては国が肥料を作りそれを配るか売る、最初は皆変な顔するだろうから国が実際にそれを使って作物を育てて見せればいい。
肥料自体が他国に漏れたとしても作り方さえ漏れなければ今のこの大陸じゃどんなもので出来てるのかすら完全にわからないだろうしね」
「「・・・・・・・・」」
詔殿と二人して絶句する。
この国の主な収入の源をあっさりと見抜き其れの問題点を指摘し其れを解決する為の策を上げ、
この国の主な弱点を見抜き其れに対しても対処法を上げる。
塩や農作物の生産法は口にはしなかったがその口ぶりから今以上に良くなるとその目は物語っている。
北郷は最早、孫家に対して何の疑いもなく天の知識を使うつもりらしい。
まだ詳しい事は聞いてないがこれだけ頭が回り知識も豊富にある。
それなのに自身の知恵を高く売りつけようとする事もなく惜しみなく其れを活用しようとしてくれている。
唯の御人好しなのか、それとも知識を与える事すらも何らかの思惑があるのか・・・・・・。
いや、確実に前者だな。
横で私を見た詔殿が微かに笑っているところを見ると私と同じような事を考えていたのだろう。
私は確信する。
この北郷一刀と言う名『天の御使い』は我等が孫家に途轍もなく大きな物をもたらしてくれる。
それと同時にこの男が他国に渡るとなると其れは途轍もなく大きな敵を抱える事と同義。
しかし、美蓮様の一件で『天の御使い』が孫呉の英雄を救ったと民の間にはすでに広まっている。
となると、取れる手段は一つか・・・・・・。
詔殿に目配せを送り私の考えを北郷に告げる。
「北郷、今話した考えや策を誰かに話したか?」
「いや、誰にも話してないよ。今まで見聞きして思ってたことを此処で始めて言葉にしたからね」
「そうか、それじゃこの事は一切他言無用にしてほしい。正直なところ私は少し不安になったのだよ。
北郷が私達孫家に力を貸してくれるのは大変ありがたい、だがその力が他国に渡るとなると・・・・・な。
もし其れを聞きつけた他国は北郷を自身の国に招こうとするか、或いは邪魔になると判断して・・・・・・消しに来るか」
「消しに!?・・・・・・な、なるほどね、わかった。
まぁ美蓮さんのおかげで俺は此処にこうしていられるわけだし俺の知っている限りの知識は孫家の為に使おうと思ってたから出て行ったりはしないよ。
出て行ったとしても頼るところすらないわけだしね・・・・・ハハハ」
「すまんな北郷。・・・・・となると、美蓮殿が言っていたように孫家の婿候補としておくのが最善なのだが、
こうやって知識を貸してもらうとなるとその肩書きだけで急に孫家の中枢に・・・・というのは少々不味いか」
現時点では孫家の婿『候補』なのだ。
『候補』である人間が孫家の中枢に入り込むのは如何考えても怪しすぎる。
今はまだ客将であるがゆえに、癪ではあるが弱者と見られてはいるが今後のことを考えると『候補』のままでは不味い。
いっそ婚姻を進めてしまうか?
いや、其れこそあまりに性急過ぎる。
何か他に手はないものか・・・・・・・・。
「それなら簡単な事ではないですか?」
「簡単?詔殿、何か良い案でも?」
「えぇ、簡単ですよ。一刀君を孫家の将になってもらえばいいのです。
わたくしの旦那様とあれだけの立ち合いをしたのですもの、誰も文句を言う人などいませんよ」
「え?将って!?いや、そんなこと俺に出来るとは思わないよ!」
その手があったか!
私としたことがそんな簡単なことに気づきもしないとは・・・・・。
北郷の知識にばかり目が行ってそれ以外のことがすっぽりと抜けてしまっていた。
「いや、そうしよう。北郷、今日を以って貴殿を孫家の将とする、此れは都督としての命令である。
・・・・・・・何か不満はあるか?」
「・・・・・・・いや、不満が無いと言えば嘘になるけど、何時かはそうなるかもって思ってはいたから、その話しうけるよ」
「そうか、助かる。
雪蓮、と言うわけだ、この件に関しては私に一任させてもらうがいいか?」
窓の外にわざとらしく視線を向けていた雪蓮にそう問いかける。
「いいわよ~、冥琳に任せるわ。
それじゃとっとと話を先に進めたら?政治の話ばっかりでいい加減私も退く・・・・じゃなくて!?
早く終わらせてくれないといい加減私も疲れるのよ!!」
「・・・・・・なら別に居なくてもいい「なにか言ったかしら?」・・・・いいえ、何も!!」
「あらあら、ふふふ・・・・」
はぁ、とため息を吐きつつも北郷に苦笑を向ける。
素直じゃないのは相変わらずか、と思いながら北郷に雪蓮が楽しめそうな話題を問いかけてみる。
北郷を将に。
武においても力を持っているのは私もこの目で見ている。
二人が戻った日の後、美蓮様から聞かされていたことがある。
北郷は人の命を奪い合う様な国に住んでいたのでは無いと。
美蓮様を助ける過程で始めて人の命を奪ったと。
そしてそのことで悩んでいるようだと。
しかし先ほどの口ぶりでは何かしらの折り合いをつけたか・・・・覚悟したのだと思う。
その辺のことは後日直接聞いてみよう。
私も鬼じゃない。
まったく無関係である北郷をほぼ無理やり私達の都合に付き合わせているのだから。
戦場に出ないというのならその意思くらいは飲んでやろう。
知識だけでも大変有り難いのだから。
そんな思いも北郷が口にしている天の国の話であっという間に頭の隅っこに追いやってしまう。
すまん北郷、今は知識欲に勝てそうにも無い・・・・・・。
あとがきっぽいもの
人妻にしたの間違いだったかな?獅子丸です。
いや、詔さん書きやすかった。
書いてて人妻にしたの間違いだったってマジで思いました・・・・・。
詔さんは最初の方にちょろっと出てきただけだったのでそろそろ出さないと可哀想かなと思い登場した次第ですw
オリキャラを作ってみたはいいものの、純文官タイプだと使いどころが難しいです。
オリキャラといえばこの先の話で徐々に新キャラが登場するかと思います。
今のうちにしっかりとキャラを練り直そうかと決意する事になるとは思っても見ませんでしたがw
8話あとがきで書いた別の作品のことですがコメントでも頂いていましたが今はまだ書くつもりはありません。
なんて言うか書きたいこととそれで調べなきゃいけないことが多すぎてorz
小説(と言っていいのかどうかわかりませんが)のネタを考えるのが趣味になりつつある今、
リアルの都合で投稿に間が開くこともありますがしっかりと最終話まで書きたいと思っています。
では、毎度の一言。
次回も
生温い目で読んでいただけると幸いです。
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第九話
やっとこさっとこ物語が進みだします。
今回は久々?のあの人登場。
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