No.215638

不敗無双~恋姫達は顔を真っ赤に染めている!?

くらのさん

さーて。始まりました。第三章。村を出た一刀は黄巾党がある軍と戦っているのを見て……。コメントをもらえますと「ヒャッハー! おはよう!」と隣の方に言います。それではケロリとお楽しみください。

2011-05-08 05:40:17 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:5998   閲覧ユーザー数:4634

 洛陽から離れた荒野で二つの軍勢は衝突していた。

片方は世を騒がしている黄巾党。そうしてもう一つには董の旗。

 本来ならば黄巾党相手にてこずる筈もない。しかし、本来ここに居るべき将が居なかった。

「ったく、霞も恋も、まさか華雄も居ない状態で来るなんて……」

 陣を構えるは董卓軍が誇る軍師、賈駆こと詠は爪を噛みながら呟く。全員が出払った状態で来るとは。

「あのくそ何進さえいなければ、せめて華雄だけでも残してたのに」

 ぶつぶつと悪態をつくが、かといってその現状がどうにかなるわけでもない。

「賈駆様! 伝令より、右翼! 前線持ちませんとのことです!」

「右翼を下げて! ったく、どうしろって言うのよ!」

 伝令を向かわせた後、詠はいらただしげに足踏みをしてしまう。こちらが五千に対して向こうは八千。

 本来なら覆せる数だ。けれどそれは将が居て、士気が万全ならばこそ。そのことを詠は知っていた。

かろうじて拮抗を保っていた前線も徐々に押され始めている。

(このままじゃまずい……)

詠が絶望に染まりかけた時。詠の視界に光が映った。

「流れ星? にしては、ってえええ!」

 その流れ星は詠のすぐ側、とはいっても前線の付近に落ちた。

「え、何あれ? 流星?」

 とそこで詠の脳裏にある記憶が蘇った。それは愛すべき主君、月が言っていたことだった。

『詠ちゃん、ここ最近、管輅ていう占い師さんが言うにはね、この大陸を治めるために『天の御使い』様が流星に乗ってやって来てくれるんだって』

『月、そんなのでたらめに決まってるでしょ? もし、本当にいたなら連れてきてあげるわよ』

『ほんと? 約束だよ』

『ええ、ほんとうに居たらね』

 そう言って笑いあった二人。

「ま、まさかね……」

 とかすかに引き笑いをおこしそうになる自分を押さえつける。それと同時に大きな音、まるで何かが爆発するような。それと同時に大きな声が聞こえた。

「爆発っ!」

「……嘘……」

 空を見ればそこには何十、もしかしたら百人以上もの人が浮いていた。詠はぽかんと口をあけるしかなかった。

人が吹き飛ぶ光景は何度か見たことがあった。だが、それは霞や華雄、恋という将たちがやっていたことだった。そんな事が出来るのはそういう人間離れした人達だけだ。今回の討伐にそんな人材は居ない。居たらとっくの昔に将として登用している。つまるところ、これを起こしたのは董卓軍ではない。ならば黄巾党なのかといえばそれもまた否定だろう。何故なら空を飛んでいるのは董卓軍ではなく、黄巾党たちなのだから。なら、一体誰が。そこま詠が思考した時、誰かが呟いた。

「……天の御遣い様だ」

 それは徐々に広まっていく。

天の御遣いだと。天の御遣いが現れたと。その感情の揺らぎを感じ取った詠は決断した。

「見よ! 先ほど落ちた流星こそ天の御遣いが現れた証拠! まさしく私たちこそが天軍! 今こそ御遣いが起こしてくれた好機を逃さないで! 全軍! 突撃!」

 誰かも分からない、顔さえ知らない相手に『天の御遣い』を演じさせると。

「はぁ、月に紹介しないといけないわね……」

 洛陽で心配しているであろう主君のことを思い浮かべた。

 

「はぁぁぁぁ!」

 一刀は李典にもらった剣を使いながら黄巾党を相手に切りかかっていた。

洛陽を目指して旅をしている途中で出会った黄巾党を相手にし、時折街を救いながら進んでいた。

ようやく洛陽まで後少しという所で黄巾党と闘っている軍を見つけた一刀は、丘の上から超級覇王電影弾で駆けつけたまではよかった。

「っち、多いんだよ!」

「御遣い様! 我らも一緒に戦います!」

 これだった。どういうわけか『天の御遣い』として認められていたことに疑問を持つ。だけど、これを使わないという選択肢はなかった。

「よし! なら、俺が先陣を切る! お前らはその後を続いて来い! だが、逃げる奴らは放っておくんだ! 倒すべきは歯向かってくる奴らのみ!」

「はっ!」

「ならば行くぞ! 流派東方不敗が奥義! 酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ!」

「行くぞ! 御遣い様に続け!」

「応っ!」

そこからの董卓軍は圧倒的だった。『天の御遣い』が切り裂いてくれた道を押し広げるように突っ込んでいく董卓軍に黄巾党は混乱を治めることも出来ずに壊滅させられた。

 

 

兵達が喜んでいる中、一刀はようやく一息付けた。

「流石に疲れた……。っていうか腹減った。それに眠い……」

 ぐぅ、と腹の虫が知らせてくる。実際、一刀は昨日から何も食べてなかった。食料もつき、近いだろうと寝らずに走っていたのだから。と、その時、本陣側の方が何やら騒がしい。

「賈駆様! 『天の御遣い』様と思われる方を発見いたしました!」

 近くにいた兵士の言葉の後、兵士たちの間から一人の少女が現れた。

「天の御遣い様初めまして。僕の名前は賈駆文和。もしよろしければこれから私の天幕に来ていただけないでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待ってく……れ……?」 

詠の言葉に一刀は慌てて立ちあがった。そして一刀の視界はぶれ、暗転した。

「ちょ、ちょっと!?」 

 

 

「う、うん?」

 一刀が目を覚ました場所、そこはどこかの部屋だった。見る限りどこか街の宿などではなく、どこか屋敷だと感じていた。

 体を起して窓の外を見てみれば既に太陽は沈み始めていた。

 その時、遠慮がちに部屋の扉がノックされた。返事を返すとするりと一人の少女が入って来た。

「あ、あの。お加減はどうでしょうか?」

 どこかおっとりとした雰囲気を漂わせ、優しさを体現させたような少女がおどおどしながら聞いて来た。

「あ、うん。大丈夫。それでここは?」

「あ、はい。洛陽です。詠ちゃんが連れてきてくれたんです。あ、あの御遣い様なんですよね?」

「あ、だから違うんだって」

「ち、違うんですか? 詠ちゃんは空から流星が落ちてそこに御遣い様が居たって……」

「えっと、その子が誰かは知らないけど、俺は御遣いじゃないと思う……」

 目をうるうるとさせている女の子に申し訳ないと思いながらも否定をする。それよりも一刀が気になったのは流星という言葉だった。

「っていうか流星って?」

「え、ですから流星が空から降って来て。そのおかげで助かったって。詠ちゃんが」

「あ~。そういうことか……」

 ようやくつながったと一刀はぽんと手を叩いた。

「それ流星じゃないよ。俺の技だよ。超級覇王電影弾っていうさ。まぁ、見ようによっては流星に見えないことも無いかな……」

「そ、そんな凄いことが出来るんですか!?」

 目をキラキラさせて、身を乗り出して、嬉しそうに尋ねる少女に一刀は苦笑を浮かべる。

「俺の流派はね。まだまだ修行不足だから上手く扱えないんだけど。ところで、え、え~と。名前は?」

「あ、と、董卓といいます」

「……え?」

 想像を超える名前を聞き思わず、見つめてしまった一刀。侍女かそんなところだと思っていたのだろう。

 董卓と名乗った少女は一刀に見つめられたせいか、頬を赤くさせ、もう一度名乗った。

「え、ええと。と、董卓仲穎と言います」

「な、なあああああああああああ!?」

「へ、へぅ!?」

 

それから数分後、どうにか落ち着いた一刀は改めて董卓と呼ばれた少女を見た。

 雰囲気は小動物。庇護をさそう濡れた瞳。小柄で抱きしめたらすっぽりと収まりそう。優しげに笑う笑顔は、人の心を穏やかにするだろう。

そこまで考えた一刀は大きくため息を吐いた。

(どうしよう……)

 キング・オブ・ハートの役目を果たそうと洛陽に居るであろう董卓の排除。そうすれば反董卓連合は組まれず、群雄割拠も生まれないだろうと思ったのは浅はかだったかもしれない。

けれど、しないよりはましだ。と一刀は動いていた。その結果……。

「あ、あの……私が何か粗相をしましたか?」

 不安そうに聞いてくる董卓。

(絶対暴政なんかしかないだろ……)

 どう考えても一刀の知る董卓ではない。この子は花一本折れてたら可哀想だとかいいそうだと一刀は思う。

「ああ、何でもないんだ。董卓さんがこんなに可愛いとは、って何言ってんだろう」

「そ、そんな可愛いだなんて……。へ、へぅ……」

 顔を真っ赤に染める董卓に釣られるように一刀の顔も赤く火照っていく。

 2人が微妙に気まずい、けれどどこかくすぐったい。そんな雰囲気が醸し出され始めた。

「「あ、あの……」」

 同時に言いだしてしまい、またもや顔を赤らめてしまう。その時、外から騒がしい、ドタバタと走り回る音が聞こえ始めた。

「月!?」

 バンッ、とけたたましく開き、そこには軍師の姿が。

「ちょっとあんた、私の月に変なことしてないでしょうね!」

「入ってきた瞬間、まずそれか!?」

「うるさい! 月。なにもされなかった?」

「う、うん。何もされてないよ~」

「ほんとう? 変なこと言われても無い?」

「へ、変なことって。……へぅ」

 先ほどの『可愛い』発言を思い出したのだろう。顔を真っ赤に染めて頬に手を当てる。

「ちょ、ちょっとあんた! 月に一体何したの!?」

 何をどう勘違いしたのか、一刀に食ってかかる。

「いやっ! 特に何もしてない! ほんとだから! 年下の子に興味ないし!」 

「え……そうなんですか?」

「なに月をいじめてんのよ!」

「俺にどうしろと!?」

 てんやかんやで大変な三人だった。

 

「ったく、何もしてないなら何もしてないって言いなさいよ。紛らわしいわね!」

「え、俺のせいなのか?」

「当たり前でしょ。で? あんたの名前は北郷一刀。『天の御遣い』ではなく、字も真名もないところからやって来た。って一体どこにそんな場所があるのよ!」

「おお。ナイスつっこみ」

「ないす?」

「ああ、いい、とか上手いって意味」

「世の中って広いんですね」

「こらぁ! 私を無視して月と何話してんのよ!」

「こらこら、人を指さしたらいけないよ」

 賈駆の怒りに対し、ズズっとお茶をすすりながら言う一刀はのんびりしたものだった。

「まぁ、いいわ。それよりもどうしてこの洛陽に来たのか説明してもらうわよ」

「旅の途中だった」

「旅? どこかに仕官しようとかそういうこと?」

「う~ん。ちょっと違うんだけどな……。まぁ、そんなところでいいや」

「あんたねぇ!」

「え、詠ちゃん」

「ゆ、ゆぇ~。だってこいつ今さっきから」

「まぁまぁ。それにしても董卓さんたちこそ。どうして洛陽へ? 俺の記憶が正しかったら洛陽出身じゃないよね?」 

 一刀の質問がでた瞬間、二人の表情が強張った。董卓は顔を暗くさせ、賈駆は顔をしかめた。

「あ、あの……」

 董卓の言葉を手を振って遮る。

「ああ、いい。何か面倒なことに巻き込まれるのは勘弁だから」

 面倒なこと、それはこの朝廷にはびこる権力争い。何進と十常侍の対立。歴史をしる一刀からすれば分かり切ったことだったが賈駆はそんなことは知る筈もない。

 賈駆の目が不審そうに一刀を見つめる。

「あんた。一体何者なの?」

「だから、北郷一刀」

「そう意味で言ったんじゃないの」

 分かってるくせに。といらただしげに爪を噛む。

「まぁ、敢えて言うなら……戦争の調停者だね」

「?」

 首を横に傾ける少女二人に一刀は笑みを浮かべる。

「ふっ、いいよ。分からなくて。それよりもお願いがある」

「奇遇ね。私からもあるのよ」

 不敵に、あるいはいたずらを思いついたように笑いあう二人にどこか疎外感を感じる董卓は親友に尋ねた。

「そうなの。詠ちゃん」

「うん。すごい不本意なんだけど」

 口をとがらせて言うが、目は笑ったままだった。それを見て一刀は肩をすくめる。

「あれ、こっちとしてはありがたい話なんだけど……」

「あんたにとっては。でしょ」

「いやいや。私情を除けばそこそこ互いに利があるでしょ?」

「ええ。でも、大きい損があるけどね!」

「……なら約束する」

「何を?」

「この身を持って助けるよ。災いの盾にも、運命を切り開く剣にもなってみせる」

 この時、一刀は決めた。全てを変えて見せようと。ここから何としても彼女達をこの権力争いから守ろうと。それが全ての始まりだと思うから。

「……いいわ」

「詠ちゃん?」

「北郷一刀。お願い」

「賈駆文和。頼む」

「「この陣営に仕えて、頂戴(させてくれ)」」

「こっちの条件は――」

「俺は天の御遣い。天より舞い降りた『天の御遣い』は董卓軍の元に。これはまさしく董卓が真の天軍である証。ってところか? それに大方もう流したんだろ?」

「ええ。あなたには武――「いや軍師で頼む」――どうして? 見た限りだと」

「ああ、はっきり言わしてもらえれば武将だよ。でも武将だと動きが取れないんだ」

「……そう言うこと」

 

2人が何を言っているのか分からないのだろう。二人に視線をキョロキョロと彷徨わせる。時折、声をかけようと頑張っているのだが、元来の気の弱い性質が邪魔をして声をかけられない。

「ああ。言ったろ? 俺は災いの盾にも剣にもなるって」

「月を泣かせたら許さないわよ」

「勿論。賈駆。貴方も泣かせない」

「なっ! 何言ってんのよ!」

 顔を真っ赤にさせる賈駆が可愛らしく、一刀は楽しそうに笑った。

「っもう! 馬鹿にして……」

 と少し拗ねた言い方をするが賈駆の頬は相変わらず赤い。

「ね、ねぇ。詠ちゃん? どういうこと?」

 だがしかし、ここに一人。全く話に着いて来れて居ない少女が一人いた。勿論董卓。その子である。

いつもならオロオロというか、戸惑って聞くのだろうけど。どういうわけかその声はどこか寒々としていた。

 董卓の顔は笑顔。笑顔。なのにどこか怖い。そんな印象を賈駆に与えた。

(え、あれ? ゆ、月だよね?)

 最初は置いてけぼりをくらって拗ねたのかと思ったが、雰囲気が違う。今までこんな月は見たことがないと。賈駆は焦った。

「さぁーてと。じゃ、俺はもうひと眠りするね」

 早速助けを求めようとした相手はそそくさと寝台に寝そべると布団にくるまって顔を隠した。

「こ、この裏切りも――」

「詠ちゃん? 私とお話の最中だよね?」

「は、はい!」

 それから月による『おはなし』は数十分に及んだと言う。

 

 

 

それから数日後、洛陽の練兵場には数人の影。董卓ご一行である。

 そもそもの始まりは張遼達が帰って来たことが始まりだった。

「どうも初めまして。姓名は北郷一刀。字と真名は残念ながらない。一応軍師見習いということで仕官しました。よろしくお願いします」

「「「は!?」」」

「……?」

「だから! ちゃんと『天の御遣い』だって名乗りなさいって!」

「あ、ああそうか。え~と。天の御遣いということです」

「どんな自己紹介よ! 『ということ』はいらない!」

「「「え、えええ!」」」

「…………(コテッ)?」

「ちょ、詠! ほんまに? この兄ちゃん、天の御遣い?」

「ええ、残念ながらね……」

「信用できるのか?」

「一応出来るわ」

「ねねはこんなのが軍師だなんて認めませんぞー!」

「私だって認めたくないわよ! こいつ字も読めないし書けないし!」

「いや。少しは出来る。凪達に教えてもらったから」

「ほんとに少しじゃない! あんなの認めないわよ!」

「まぁ、そんなとこなんでよろしく」

「無視するなぁー!」

「え、詠ちゃん。抑えよう、ね?」

「怒りすぎると疲れないか?」

「お前が言うなー!」

「おお、あの詠が翻弄されとる」

「出来るのか?」

「むむっ、ですがねねは認めないのです!」

「そうは言われても。俺に出来るのって……えっと、どうしたの?」

 じいと見つめていたのは全然喋らなかった赤い髪の女の子。どこか眠たげな瞳を一刀に向けた。

「……お前、出来る?」

 その瞬間、他の武将も頷いた。

「ああ、そやな。身のこなし、どう見ても武官やろ?」

「ああ、お前が持つ気も文官が持つものじゃない」

「あれ、ばれてる」

「なんや、やっぱり出来るんかいな。なら話は簡単や」

「ああ、そうだな」

「……(コクリ)」

「え、何で引っ張られてるんですか? ちょ、ちょっとお二方? 自己紹介もまだ済んでないのに。ほら、見てよ。二人もポカンってしてるじゃん。ね、礼儀って大切だと思うよ?」

「ああ、うちは張遼。字は文遠。よろしゅうな。まぁ、それを決めるのはこれからなんやけど」

「私の名は華雄。わけあって字と真名を教えることは出来ん。全ては戦ってからだ。話はその後聞こう」

「…………呂奉先」

「……もうやだ。この世界、何で皆女性なんだよ……」

「何言うとるんか分からんけど、さぁやるでー!」

「助けてぇー!」

 ズルズルと引きずられた一刀を見送るのは急展開についていけない二人の少女だった。

 

 

「……やる」

「恋がやるんか?」

 普段は自らこういったことをしないだけに張遼と華雄は驚きだった。

「まぁ、お前がそういうなら譲るのもいいか。だが、本気を出すなよ? 死んでしまう」

 華雄の忠告に恋は首を横に振った。

「…………強い」

 そういう呂布の瞳はわずかだけど嬉しそうだった。

「まさか、あの呂布とやることになるとはね……。こりゃ本気で行かないと死ぬんじゃないか? じゃ、改めて名乗らせてもらうよ」

 剣を正眼に構える。先ほどまでのゆったりとした空気は消え去り、張り詰めた空気が覆った。

「俺は、三代目流派東方不敗の継承者、そしてキング・オブ・ハートを冠する。名前は北郷一刀!」

「董卓軍所属第一師団師団長、呂奉先。……じゃ、いく」

 まさしく、一瞬。確かに存在したはずの二人が消えた。

「……え?」

 それを見ていた賈駆が驚いて動こうとする。しかし、一歩踏み出した瞬間、張遼の鋭い声が飛んだ。

「詠! 動くんやない! 動いたら死ぬで!」

「な、だって二人が消えたのよ!」

「ちゃう。消えたんやない。ただ、早く動いて見えてへんだけや!」

 そう言いながら霞の焦点は一つの所に止まっていない。絶えず、何かを追うように動き回っていた。

「はぁ!?」

「……華雄、見えるか?」

「ああ、なんとかな。それにしてもあやつがここま出来るとは……」

 

 

 

戦いの中、一刀は楽しんでいた。呂布と闘えることを。

 一瞬でも気を抜けば即座に呂布の武器が身に迫る。それを寸前でかわして、剣を振って距離を取らせる。

「……一刀、早い」

「呂布もね……」

 時折、交わらせる剣が甲高く悲鳴を上げる。それを幾度繰り返したのか、唐突に恋が立ち止まった。

「……一刀、止まる」

「ん?」

 立ち止まると一刀の視界に驚いた表情で固まっている董卓と賈駆がいた。

「どうかした?」

「ちょ、ちょっとあんた何してたの?」

「何って、試合。ちなみにまだ継続中だから話はあと。で、呂布。どうしたの?」

「……一刀、剣に慣れてない……」

「でも剣つこうとるで?」

 呂布の声に張遼は一刀の剣を指さす。

「……合わしてる?」

 首をコテリと傾け、一刀に

「違うよ。慣れてないんじゃなくてもっと得意なのがあるだけ」

「ほう、槍か? それとも弓か?」

「いや、素手さ」

 

 

「ほんまに素手でやりおうとる……」

 先ほどより速度を落とし、詠達にも見える二人。しかし、攻撃の際の武器や拳はとんでもない早さで動き回っていた。

「ねぇ、霞達じゃ無理なの?」

「当たり前や。あんなん誰がやろうと思うんや。この猪だってやろうとは思わんわ」

「誰が猪だ! だが、あんなのをやろうとはさらさら思わん。あんなのは死にたい奴だけだ」

「ええか、詠。うちらが使う武器の間合いは素手よりも長いんや」

「当たり前じゃない」

「そうや。やから相手が武器を使うんやったらこっちも使う。そうやないと相手が持つ武器の間合いに入らへんと攻撃出来へん。詠には分からんかもしれへんけど、間合いに入った時はほぼ死地や。いつ死んでもおかしくない。そんなんに普通の奴が長い時間、耐えられる筈ないやろ。それやのに一刀はずっと、間合い、死地におるんや」

「じゃあ、なんで大丈夫なのよ?」

「普通やないんやろうな」

「ああ。あれは戦うことを楽しんでる。しかも強ければ強い相手ほどにな。私達と同じだ。だが、されにその向こうをあ奴は行っている気がする」

「同じ?」

(まさか、華雄と同じ猪?)

 と少々失礼な考えがよぎる。

「詠。何考えとるか分かるけどちゃう。華雄が言いたいんは武将ってことや。戦うことに楽しさを感じる。けど、あいつは死に際で楽しさを感じ取るんやろうな。生粋の戦人や」

(……もしくは負けんっちゅう自信あるからかもしれへんけど……)

 そこまで考えたとき、張遼は自分の考えをばかばかしいと切り捨てた。いくら考えたところで答えが見つかるわけじゃないのだから。

「だからこそ不思議でならん。どうして軍師なのか……」

「……それは言えないわ。でも本人が望んだことよ」

「そうか」

「ならうちらが口出すことやないわ」

 そう言いながら二人はどこか悲しそうに、つまらなさそうな表情をした。

 

「はぁ!」

 一刀の多くの掌打をかわしているのは呂布。それでも完全にはかわせないのかいくつか擦り傷がついていた。

 一刀の方にもいくつもの切り傷がついている。呂布の斬撃を紙一重でかわしているが、全てをかわしきれたわけではなかった。

 時折、呂布の方天画戟と一刀の手甲がぶつかりあい、火花を散らす。

 そのたびに、董卓が小さく、悲鳴を上げているのは仕方がないのか。

 しかし、ついに決着が。

 呂布が放った鋭い突き。一般の兵なら何が起きたかもわからず、上半身と下半身は別れを告げたであろうそれを、こまのように回転してかすだけでなく、懐に入り込んだ。

「流派東方不敗が奥義! シャイニングフィンガー!」

 普段なら指に纏わせ、相手の腹部に突き刺すであろう技を掌に集中させ、掌底のごとく、呂布の腹部目がけて放った。

「…………はあ。負けかな?」

「……引き分け、だと思う」

 呂布の腹部には一刀の手が当てられ、一刀の首元にには先ほど方天画戟が向けられていた。

 一刀が懐に入り込み、シャイニングフィンガーを放ち恋に当てる寸前、呂布が引き戻した方天画戟の刃が一刀の首元で寸止めされていた。

「いやー。まさか呂布相手にこんな良い戦いが出来るなんて嬉しかった」

「……恋も楽しかった。また、一緒……」

「そうだな」

 笑みを浮かべる二人。しかし、それを見逃せない者が一人。

「っていつまでお前は恋殿のお腹に手を当ててるですかー!」

 怒りだしたのは呂布の側にいた小さな女の子。

「えっ! あ、ごごめん!」

「……あ」

「どうしたの? 呂布」

「……?」

「いや、首を傾けられても……」

 何を思ったのだろうか。呂布は一刀の手をもつとそのまま自分のお腹に当てさせた。

「「ああっ!」」

 そこに居た全員が声を上げた。驚き、そして羨望、そして嫉妬も。

「れっれれれれれれれ恋殿!?」

「……あったかい……」

 方天画戟を落とし、一刀の側に座ると、そのまま横になった。その間も絶えず一刀の手はお腹の上。

 さらりとして、絹よりもずっとさわり心地が良い肌。それはその上で寝ればまどろみどころか、あまりの心地良さのために死んでしまうんではないだろうかと思わせる程。そして、女の子らしいプニッとした感触。先ほどまで方天画戟を振るっていたとは思えないほどに柔らかなお肉。けれどそれは付きすぎではなく、引き締まった健康的な肉付きだった。そして綺麗なくびれ。いつもしっかりと動いているからこそだろう。決して細すぎることの無いそれはまさしく美の至高と言っていいほどだった。

「りょりょ呂布!?」

 突然の行動に慌てる一刀。しかし、呂布は何かを求めるように一刀を見つめる。

(何だか、犬みたいだな。……犬?)

 もしかして、と一刀は恐る恐る呂布のお腹を撫でる。

 正解だったらしく、目を細めて気持ちよさそうにする呂布。

 余りのことに董卓達は行動出来ない。そんな人達を放って呂布は話しを進める。

「……恋」

「いや、そりゃ真名だろ?」

「…………恋」

「だから――」

「恋」

「だ――」

「恋」

「……よろしく、恋」

「ん」

 気持ち良さげに頷いて目を閉じると、そのまま寝息が聞こえてきた。

 

ふぅ、とため息を吐くと一刀はすやすやと眠る恋から視線を外し、冷たい視線を感じる方へ向けた。

「一刀さん……少々『おはなし』があるのですが……」

「そうね。私もあるのよ」

「ねねもあるのですぞー!」

 最後はしっかりと怒りを表してくれるだけありがたいと冷汗を流しながら思った。

「あははっは! おもろいなぁ~。これからよろしくな一刀ー。まぁ、無事に生きとったらやけど?」

「私と今度一緒に稽古をしよう。無事だったな」

「出来れば、今からしない?」

 そんな二人の言葉を聞いて、ようやく仲間として認めてもらえたんだと安心した一刀だった。

「……か・ず・と・さん?」

 

 

 

どうも、相変わらず戦闘シーンが苦手なくらのです。いやー。難しいですねー。しかし、本気を出しました。戦闘シーン以外で。どこに本気を出したでしょうか? 正解者には『ヒャッハー』人形をプレゼント! 三つ揃えると読んでみたい恋姫の短編の望みを叶えちゃいます! 

 それでどうでしたでしょうか。気付いたとは思いますが、書き方が大幅に変更。特に、一人称から三人称への大幅なジャンプ。これかからもこれでいこうかなと。さて、ようやく月達と遭遇。

『あれ? 董卓って黄巾党の後じゃ……』そんなセリフは吐かないで。理由があるんですから。いや、もしかしたらその理由を書かないかもしれませんが……。と、とにかく楽しんでいただけたなら幸いです。

 そう言えば事件です。女房が私に優しくしてくれるんです。いえ、ブラックジョークです。本当はお気に入りが250人に届きそうなのです。いえ、それは嬉しいのです。私の作品を気に入って下さった方がこんなにいると思うと夜も眠れなくて昼間寝ています。ですが、私の中であった『50人ずつ増えたら特別企画をしよう!大作戦』が躓きました。一気に3作品分吹っ飛びました。さて、どうするべきか。特別企画を一気に三作品やるか。それとも無視をして次回にかけるか。問題はそこです。皆さんのご希望をコメントして下さるとありがたいです。 

さ~て次回の不敗無双は?

え~と、□□です。あれ、まだ名前は伏せられてるのですか? 仕方がありません。そんなことよりも『天の御遣い』という方のお話は大変面白いです。そして、更に私のことを叱って下さいました。ええ、叱ってくれたのです。早く、夜が来るのが待ち遠しいですわ。あ、そうだわ! 何でこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら。そうすれば毎日会えるのよ! そうと決まれば……。

 『叱れ! 一刀の説教!』

 お楽しみに! それでは次回に向かって! レディ~、ヒャッハー!


 
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