虎牢関。
ねね「やっと帰ってきたのです」
恋「・・・友哉、会いたい」
城壁の上から軍勢を確認した二人は急いで迎える準備をする。
霞「おお!恋やないか~」
莉空「久しぶりだな」
恋「・・・」トットットット、ムギュ
恋が走り寄ってきていきなり抱きつかれた。
恋「・・・会いたかった」
友哉「俺もだよ。恋元気にしてた?」
恋「コクコク」
霞「うちらは無視かいな・・・」
ねね「それで首尾はどうなのです?」
莉空「敵総数は約二十五万。こちらの損害は五千弱。それなりに上出来だろう」
友哉「ねねさん、あれの準備はできてますか?」
ねね「もちろんなのです!」
友哉「そうですか。後は向こうが乗ってくれるのを待つだけですね」
友哉たちが虎牢関つきもう日が傾いてきた。城壁の上で待機している友哉たちのもとに一人の斥候がやってくる。
斥候「申し上げます!敵先陣は袁紹・袁術!その後方離れてその他の諸侯が布陣しています!」
友哉「わかりました、ありがとうございます。あんなに罠を仕掛けたのにもうここまで来ますか。それでは俺たちは予定通り明日の朝、一斉攻撃を仕掛けます」
一同「応!!」
翌日の明け方、漸く空が明るんで来たころ。
じゃーん、じゃーん、じゃーん。
あたりに銅鑼の音が鳴り響く。
うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
そして虎牢関の前方二か所から同時に雄たけびが上がる。
--袁紹軍--
袁紹「な、何事ですの!?」
文醜「奇襲ですよ、麗羽さま!」
袁紹「何をばかなことをおっしゃいますの?奇襲なんてこんなところで・・・」
顔良「それがいきなり後ろに董卓軍が現れたんですよ」
袁紹「そんなバカなことがあるはずがありませんわ!」
文醜「実際に出てきたんですから・・・それと旗は華に天。絶対に本物ですってば!」
顔良「それと、虎牢関の方からは張と深紅の呂旗です!完全に挟まれちゃってますよう」
袁紹「何をおっしゃってますの?この名門袁家の兵士が奇襲程度で、それも数で圧倒的に勝っているではありませんの?」
文醜・顔良「はぁ・・・」
--袁術軍--
袁術「な、七乃!どういうことじゃ」
張勲「大丈夫ですよ、美羽様。相手は所詮三万程度、それに比べて私たちは袁紹さんを会わせて十五万。負けるわけないじゃないですか~」
袁術「そ、そうかの?なら妾は蜂蜜水を飲みたいのじゃ!」
張勲「あんまり飲みすぎるとすぐになくなっちゃいますからね?」
袁術「うむ、わかっておる。妾が蜂蜜水を飲んでおる間にとっととやっつけてしまうのじゃ!」
張勲「よ!美羽様、鬼畜少女!」
袁術「わははは!もっと褒めてたも」
――戦場――
袁紹と袁術の予想を大きく裏切り、混乱を極めていた。
袁紹・袁術軍はまだ到着したばかりで陣もまともに組めていない。そこに前と後ろから奇襲で挟み込まれる。さらに悪いことに戦場には深紅の呂旗がはためいている。その旗は見るものすべてを恐怖に陥れる。
四人の武将は次々に敵兵を薙ぎ払っていく。その中でも呂旗を掲げる部隊の進軍速度は異彩を放っている。まるでただ駆け抜けるだけのようだが、通り過ぎた後には金色の鎧をまとった屍が無数に転がっている。
文醜「おっと、ここで止まってもらうぜ!」
顔良「これ以上先に行かせるわけにはいきません!」
恋「・・・?」
恋の前に二人が立ちはだかる。
恋「じゃま、するの?」
文醜「当り前だぜ!」
邪魔をすると宣言した二人に向って恋が殺気を放っていく。
顔良「うぅ。やっぱり無理なんじゃないかな、文ちゃん?」
文醜「いうな斗詩!男には無理でもやらなきゃならない時があるんだ!」
顔良「一応、女なんですけど~」
恋「なに話してる?こないなら、恋から行く」
恋が一気に間合いを詰め戟を振りぬく。二人も武器を抜き攻撃を受け止める・・・
はずだった。
顔良「やっぱり無理だよ~」
力の差がありすぎた。二人がかりで受け止めようとしたが、無駄だった。
恋「またつまらぬものをきってしまった」
とりあえずこの前友哉に教えてもらったセリフを呟く。
顔良「文ちゃん、なんか私たちしんだみたいになってるよ~」
文醜「斗詩、男は引き際が重要なんだぜ」
顔良「だから私たちは男じゃないよ~」
(一応言っておくが二人とも切られてはいない。ただ吹き飛ばされただけだ。)
当然、唯一将軍と呼べる二人を失った袁紹・袁術軍はさらに混乱を極め、一刻もするころにはその数を半分まで減らしていた。
友哉「くそっ!どこだ!」
今いるのは袁術陣のど真ん中。必死に大将である袁術の姿を探している。あたり一面を覆いつくしていた金色の鎧もまばらになってきている。霞と友哉、莉空と恋がペアになってそれぞれ袁術、袁紹にあたっているがいまだ大将を取った様子はどちらにもない。一番大きな天幕を覗くもその中に気配はなく、今は縦横無尽に敵陣内を駆け巡っている。
そんな友哉の目に明らかに場違いな人影が写る。
袁術「七乃、早くしてたも。妾はもうこんなところに居りたくないのじゃ」
張勲「さすが美羽様!負けそうと分かると部下を全員裏切って一人だけ逃げ出そうなんて、天下無双のチキンやろう!」
袁術「チキンとはよくわからんが、もっとほめてたも」
馬に二人の女の子が乗っている。一人は同い年ぐらいだろうか。もう一人は明らかに子供だ。現代なら学生の前に小という字がつくだろう。しかし先ほどの会話の中に出てきた『部下』という言葉。この状況でその言葉が意味することはすなわち・・・
友哉「お前が袁術か?」
自身の愛剣・蒼天を片方だけ抜き、殺気をにじませながら小さな女の子に問いかける。突然現れた青年に二人はびくっと肩を震わせる。
袁術「誰じゃお主は?」
張勲「美羽様、美羽様!多分この人、董卓軍の天城将軍ですよ!」
大きなほうの女の子が友哉の髪と眼を交互に見比べた後、気まずそうに顔を引きつらせる。そして状況が理解できていない女の子に耳打ちする。
袁術「ひいぃぃぃ!?て、敵なのか?妾の首を取りにきたのか?」
友哉「ということは、やはりお前が袁術なんだな?」
袁術「やはりそうなのか!首を刎ねるのか!ガタガタブルブルガタガタブルブル・・・」
張勲「お願いです!どうか美羽さまだけは!お助けください」
袁術は状況を理解するやいなや、全身が恐怖に震えだした。その隣の張勲はいつの間にか馬を下りて土下座して頭を地面にこすりつけ、主人の許しを涙ながらに請うている。
この世界は予想をはるかに上回ってくる。女の子になるだけならまだしも、こんなに子供になるのはさすがに想定外だった。ここに来るまではすぐに首を刎ねこの戦いに勝ちをもたらすつもりだった。しかし、こんな二人を見て首を刎ねれる
ほど友哉の心は荒んでいない。どうしたものかと思い悩んでいる間も袁術は震え、張勲は涙を流し続けている。
友哉「分かった。命はとらない」
袁術・張勲「真か(本当ですか)!?」
二人は顔を輝かせ、友哉に感謝の視線を送る。
友哉「ただし、条件がある」
張勲「え?」
友哉「当たり前だろう。敵の大将を見逃そうって言うんだ、それくらい無いと俺の立場がなくなる。お前たちにも辛い目にあってもらわないといけない(ニコッ)」
友哉の必殺スマイルが発動する。その笑顔に似合わぬ殺気にはいまだ誰も勝ったことがない。あの飛将軍でさえ恐れをなしてしまうのだ。一度は歓喜に輝かせたその顔が再び恐怖に塗り替えられる。
袁術「妾は痛いのはいやじゃ!ガタガタブルブルガタガタブルブル・・・」
張勲「私ならどんな罰でも受けます!たとえあなたの肉奴隷にでもなります!ですからどうか美羽様だけは!」
袁術は再び震えだし、張勲は頭を地面にこすり付ける。先ほどはチキンなどと軽口をたたいていたが、本当は主人想いのいい将なのだろう。そういえば、なぜチキンという言葉を知っているのか・・・まぁいい。見たところ袁術軍には張勲以外まともな将軍といった存在はなさそうだ。この大軍を一人でまとめているのだからそれなりに優秀なのだろう。
友哉「お前の中で俺はどんな鬼畜なんだ・・・二人には俺の侍女になってもらう」
袁術「ガクガクブルブル、ガクガクブルブル・・・」
張勲「え?それだけでいいんですか?」
袁術の耳はもはや飾りではないだろうか?まったく聞こえているようには思えない。対して張勲は意外なその罰に困惑の表情を浮かべる。
友哉「このまま虎牢関にきて、掃除洗濯炊事などなど。全ての雑務を二人にやってもらう。当然その名前は捨ててもらわないといけないけど」
名前を捨てる。それが意味することは自分の呼称が真名だけになってしまうということ。それはつまり常に他人に人権を侵害されてしまうということに等しい。矜持の強い人間なら決して受け入れない提案だ。
袁術「わかったのじゃ!痛くないならそれでいいのじゃ!今日から妾は美羽として生きるのじゃ」
張勲「ありがとうございます!ありがとうございます!これからは七乃と呼んでください」
二人が友哉に抱きついてくる。二人の目は赤く泣きはらしているが、近くで見るとかなり美少女である。
友哉「わぁ!?ちょ、ちょっと何してるんですか!離れてください!」
張勲「あれ?急に話し方が変わっちゃいましたね?」
基本的に子悪魔(?)な性格の張勲はまったく離れるつもりはないらしい。袁術にいたっては喜びのあまりまた耳がお飾りになってしまっている。
友哉「そりゃ、敵に向かってこんな話かたしてたらなめられちゃいますから。改めまして、俺の名前は天城友哉です。二人ともよろしくお願いします」
今度は本当に心からの笑顔を二人に向ける。
袁術・張勲「//////////」
友哉「??」
二人の顔が真っ赤になるが、当然のように理由が分かっていない。二人はさらに友哉の背中に回した手に力をいれ抱きついてくる。そんなところへ・・・
??「うちが必死で袁術を探しとるっちゅうのに、女をはべらしとるとはええ身分やなぁ#」
友哉「!?」
突然後ろから聞き覚えのある声が、ゆっくりとそれこそギィィィと音が出そうな様子で首を後ろへ向ける。
友哉「し、霞さん・・・(滝汗」
霞「どーゆうことかきっちり説明してもらうで!」
友哉「あは、あはははh・・・・・ぬわぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
――曹操――
荀彧「よかったのですか?華琳様」
曹操「あら、桂花じゃない。どうしたのかしら」
早朝、まさに日が出でんとするころ曹操と荀彧ははるか前方・虎牢関の方をともに眺めていた。
荀彧「いくら袁紹・袁術とはいえ、あの兵力はこちらにとっても有利な駒です」
曹操「それくらいは問題じゃないわ。今私が興味を持っているのは・・・」
荀彧「またあの男ですか!?」
珍しく自分に向かって怒りをあらわにしている。正直これには少し驚いた。でもこの怒りの根源はやはり私への愛情。それゆえの天城へ対する嫉妬。こんな表情をする彼女もまたとてもかわいらしい。
曹操「そうよ。到着直後の今日を狙うなんて大胆だけど、たしかに袁紹は陣すらまともに組んでなかった。この行動力と判断力、賞賛に値するでしょう」
夏侯惇「それにしてもあの部隊はどこから現れたのですか?」
許緒「あ!それボクも気になってたんです!」
まだ予定の時間より早いのに、いつの間にやら主要人が二人の下に集まってきていた。あれだけの戦いが目の前で繰り広げられたのだ。戦人としてはこれを黙ってみていられないのだろう。
郭嘉「恐らくあの崖から来たのでしょう」
夏侯惇「あそこから飛び降りたというのか!?」
夏侯淵「姉者・・・そんなわけないだろう」
こんな馬鹿なことを言っている春蘭もまたとてもかわいらしい。朝からこんなに活力を得られるとは思っても見なかった。
程昱「ぐぅ」
李典「寝るんかい!」
相変わらず真桜の突っ込みにはキレがある。
程昱「おおっ!?あまりにもお馬鹿な奇想天外回答につい。稟ちゃんの言うとおり敵さんはあの絶壁を綱で降りてきたのですよ」
曹操「さすがね風」
崖の上のほうを見るとわずかに綱がたれているのが見える。降りきった後に上に残ったものが切り落としたのだろう。
曹操「次の戦いは私たちが出ることになるわ。なんとしてでも欲しいわね」
夏侯淵「天城をですか?」
曹操「いいえ、違うわ。今回の標的は張遼よ。私たちに絶対的に不足しているものは騎馬に長けた者」
夏侯惇「将を射んとせばまず馬を射よですね!」キラキラ
まるで学校で習ったことを親の前で披露する子供のような視線を向けてくる。しかしその期待にはこたえられず思わずため息が漏れる。
夏侯淵「姉者、向こうへ行こうか・・・かわいいなぁ姉者は」
夏侯惇「な、なぜだ秋蘭?」
問答無用で姉妹仲良く退場していく姿を見ながら皆で笑いあうのだった。
つづく
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やっとパソコンが復活したので久しぶりの投稿です。
前半と後半で書いた日が違うのでちょっと変かもしれませんが、
楽しんでいただけたら幸いです。