No.214872

そらのおとしものショートストーリー 守るから

恒例の水曜日更新第7弾。今回はカオスです。
滅多に出て来ない彼女の頑張りをお楽しみ下さい。
次週はラストを務めるじっちゃん。
それ以降はどうしようかな。
短編のストックを作っておくと更新作業は楽なんですけどね。

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2011-05-04 00:00:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2667   閲覧ユーザー数:2387

 

「智ちゃん……何か言い残すことはある?」

「あの、そはらさん。チョップの衝撃波で電柱を豆腐のように易々と切り裂いてしまうのはご近所迷惑なのではないかと……」

「桜井智樹ぃ……このぉ、変態っ!」

「アストレアさん。超振動光子剣(クリュサオル)を使われては幾ら僕でも髪の毛1本残らないのではないかと推測します」

「…………マスター。さようなら、です」

「イカロスさんも、ウラヌス・システムなんか起動しなくても私めは人間でございますから、通常攻撃で死んでしまいますよ」

「妹系で可愛い子が好きなら私でもいいじゃないのよ!」

「ニンフさん。その言い方、ちょっと萌えますが、あなたの本気のパラダイス・ソングは確か太陽も欠けちゃいますよね?」

「智樹が変態だと、智子まで守形先輩に変態だと思われるじゃないのよ!」

「俺の方こそ、智子が先輩に熱を上げていると変な趣味持っていると誤解されそうで嫌なんだが。って、元自分自身だと思って容赦ない攻撃すんな!」

「Mr.桜井。そこの見掛けたことのない金髪の綺麗なお嬢さんを賭けて勝負だ。脱衣(トランザム)っ!」

「鳳凰院・キング・義経っ! お前はややこしいから出て来るなっ!」

 桜井智樹は人生史上最大の危機を迎えていた。

 人生の大半の苦楽を共にして来た幼馴染に、忠義に厚いエンジェロイドに、自身の半身にさえ襲撃されようとしていた。

 智樹の思考を占めるのは、どうすれば痛みを感じずに安らかに向こうの世界に旅立つことができるのかのみ。ただ、諦念の彼方にあった。

 しかし、そんな智樹の前に1人のグラマーな女性が立った。女性は襲撃者たちから智樹を庇うように両手を広げて1歩も引かない。

「お兄ちゃんは死なないよ」

 背中に時計の針のように見えるオブジェをつけた女性は振り返りながら智樹に言った。

「だってカオスが守るから」

 女性、カオスの瞳に曇りはなかった。

 

 

そらのおとしものショートストーリー 守るから

 

 

「カオス……お前……」

 智樹はカオスの顔を呆然と見ていた。それしか智樹にできることはなかった。

「…………マスターを誘惑した、淫蟲(エロダウナー)の分際で。絶対に許さない」

 智樹とカオスのやり取りを聞いたイカロスたちの怒りが、戦闘力が際限なく上がっていく。

「やっぱりアイツ悪い奴。倒すっ!」

「以前やられた借りをここでたっぷりと返してやろうじゃないの」

「カオスさん。生まれ変わったら仲良くしようね」

「智樹が頭の中身幼稚園児に性的興味あるなんて知られたら守形先輩に嫌われちゃうわよ」

「何故君ばかりが美しい女性たちにモテるんだい?」

 最強の称号を持つ第二世代型エンジェロイド・タイプε(イプシロン)カオス。しかし幾ら最強の称号を持つ彼女とはいえ、相手は己の殻の限界を遥かに突き破って強くなっているZ戦士ならぬ恋する乙女。しかも複数を相手にしては勝てる筈もない。

 だが、それでもカオスはイカロスたちへと悠然と立ち向かっていく。

「お兄ちゃん。今まで遊んでくれて嬉しかったよ♪」

 智樹との思い出を胸に。

「お姉さまたち、お兄ちゃんは私に愛って何だか教えてくれたんだよっ!」

 そしてカオスは異型としか言いようがない黒き時計の針のような翼を広げながらイカロスたちへと全速力で特攻を仕掛けた。

 

 

「智樹、一体何が起きた?」

 激しい砲撃が飛び交う空の下、激戦を呆然と見つめる智樹に守形が近寄っていく。

 ちなみに智子は義経に目を付けられて県内1周マラソン大会の旅路に出てしまっていた。

「カオスが遊ぼうって言うからお医者さんごっこをすることになったんすよ」

「幼女エンジェロイドとお医者さんごっこという発想が既に人として終わってるぞ」

 守形のメガネが光る。

「俺はペッタンコ以前体型には興味ありませんよ! だから、他の遊びに変えようと思ったんです。そうしたらカオスが……」

「大人バージョンに変身した訳だな」

 第二世代型であるカオスにはイカロスたちにはない様々な特殊能力が存在する。姿を自由自在に操れる能力もその内の1つだった。

 そしてカオスは以前自己進化能力を発揮させて成人体型になっていたこともある。なのでカオスの大人バージョンはまるっきり空想の産物という訳でもなかった。

「中身は幼女だってわかってはいたんっすけど、ナイスバディーにお医者さんごっこと言われる誘惑には勝てなくって。それで、服をぬぎぬぎさせていた所をイカロスたちにみつかってしまいまして……」

 自分の犯罪を告白する智樹。

「そうか……」

 守形はメガネを曇らせた。

「智樹がそんなにもシナプスの超科学力に興味があったとは知らなかった。服を脱がせて内部から調べようとは」

「いや、その発想はおかしいっすよ!」

 智樹が興味を持っているのは超科学ではなく女体の神秘であることは言うまでもない。

「今度俺もカオスの服を脱がしてシナプスの謎を探求してみるか」

「先輩っ! 思いっきり誤解される台詞ですよ、それは!」

 智樹の不安は的中した。

「英く~ん。桜井く~ん。カオスちゃんの服を脱がせる相談なんて~会長~人として見逃すことはできないわ~。うふふふふ」

 黒い笑みを湛えた美香子が立っていた。

「美香子か。だがお前の身体には興味がない」

 守形にとっての探求対象はあくまでもシナプス関連だった。

「会長は~カオスちゃんに比べて魅力が劣っているという訳ね~。うふふふふーっ!」

 美香子の気が漏れ出して大地が鳴動する。

「俺はカオスを探求しなければならない。邪魔だから帰れ、美香子」

 なのに守形は美香子の異変に気付いていない。

 その鈍感はある意味当然の帰結を迎えた。

「他の娘のものになるぐらいならいっそ……死んで、英くん。ついでに桜井くんも」

「何ッ? 早い!?」

「何で俺までぇえええええぇっ!?」

 メガネが砕ける音がなり響いた。

 2人の少年の全身の骨が砕かれる音が鳴り響いた。

 カオスはまだ知らない。

 自分が守ると誓った者が、もうこの地上から永遠にいなくなってしまったことを。

 

 

「ハァハァハァ」

 カオスの着ていた修道服はもはや見る影もないほどにボロボロになっていた。

 剥きだしになった肩や足からは血が流れ出している。

 それでもカオスは戦うのを止めなかった。

「お兄ちゃんは私が守るんだからっ!」

 決意を言葉にしながら圧倒的な戦力を誇る敵軍へと突撃を開始する。

「殺人チョップ・エクスカリバーっ!」

 ウラヌス・システムの上に立ったそはらから放たれる必殺のチョップ。その衝撃波が光の渦となってカオスを襲う。

 カオスは身体を捻りながら直撃を何とか免れる。だが、右羽が光の放流の中に飲み込まれてしまった。

 それでもカオスはイカロスたちに向かって進み続ける。

「…………アルテミス、発射っ!」

「パラダイス・ソングっ!」

 イカロスとニンフによる休む間もない連続攻撃。

 左の羽も吹き飛ばされ、カオスは浮かんでいるのがやっとの状態になってしまった。

「これでとどめよ。超振動光子剣(クリュサオル)っ!」

 そして放たれるアストレアの最強の一撃。

 巨大な光の剣がカオスを捉えて吹き飛ばす。

「きゃぁああああああぁっ!」

 カオスが地面へと叩きつけられる。

 その衝撃でカオスの変身が解け、元の幼い少女の姿に戻る。

「…………さあ、大人しく、マスターと永遠に縁を切りなさい、淫蟲(エロダウナー)」

「私たちも鬼じゃないんだから、二度と智樹に近づかないっていうのなら、命までは奪わないわよ」

 鬼のような、いや、鬼より怖い形相をした天使の名を持つ敵がカオスへと近づいていく。

「やだっ! お兄ちゃんはカオスとずっと一緒だもん」

 しかしそれでもカオスは譲らない。

「だってお兄ちゃんは私の……」

 カオスは初めて智樹と出会った時のことを思い出す。

 初めて自分と一緒に遊んでくれたのは智樹だった。

 初めて自分に楽しいという感情を教えてくれたのは智樹だった。

 初めて自分に生きていることを実感させてくれたのは智樹だった。

 そう、カオスにとって智樹は初めての特別な存在だった。

「だってお兄ちゃんは……カオスの初めての人だったんだからぁっ!」

 カオスの絶叫を聞いて3人のエンジェロイドと1人の人間の少女は歩みを止めた。

 そして桜井家は天使たちのメギドの火により7度焼き尽くされたという。

 

 

 深海へと吹き飛ばされた為に奇跡的に一命を取り留めたカオスは後に語った。

「何でお姉さまたちはあんなに怒ったのかな?」

 真相は謎に包まれていた。

 

 了

 


 
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