午後9時30分、先生方が担当してる患者の様子をうかがう時間帯。
俺は今か今かと待ち構えていた。
ガチャッ
[中島さーん、気分はどうですかー?]
先生が明るい声で病室に入り訪ねてくる。
「気分はフツーです。」
[そうですか。]
先生は笑顔を俺に向ける。
(今言うんだ…!!)
「なあ先生、1つ聞いていいか?」
俺は真剣な表情を向けて言う。
先生もそれにこたえるかのように
[なんでもどうぞ。]
と答える。
「記憶を失うほどの俺が負った傷って何なんだ??」
頭で整理したはずの言葉は、意味のわからない言葉として俺の口から吐き出され、
先生もきょとんといた顔でいる。
でもすぐに内容を理解したのか椅子に座り、
ゆっくり話し始める。
[中島さんには、後頭部に数針縫うほどのものと、腹部に一か所、深い刺し傷がありました。
これらが、中島さんの記憶を失うほどの傷だと思います。]
(頭と腹に一か所ずつ…。目覚めたときはそんな痛み感じなかった…)
[中島さんは手術が終わって、何日も目覚めませんでしたから、
頭のほうはほとんど治っているはずです。
それと、これは私の勝手な妄想ですが、
あなたは2人に恨まれていて、1人が呼び出し、もう1人が頭を殴って中島さんを気絶させた後、
別の場所(後の中島さんの発見場所)に運んで腹を刺し逃走。
どうですか、あり得ない話ではないでしょう?]
(確かにあり得ない話ではない…)
「でも、もしそうだったとして、どうしてだれにもバレずに出来たんだ…?」
[それは…あなたが酔いつぶれて歩けない状態の人みたいにして担いで行ったか
もしくは、見張り役が1人いたか。]
「見張り…?」
[そうです。見張りをつければ誰かに見られてないかなどの不安要素も無くなるし、
後のフォローなどもしやすくなる。特に中島さんの友人だった場合は。]
「!?」
先生が静かにはなった思いもよらない言葉に俺は驚いた。
俺の友人も絡んでいる…?
ますますわけがわからなくなる…。
俺がもんもんと悩んでいると、
[まああくまで私の勝手な妄想なので、もしもこの話が本当なら
出来過ぎてますよ]
先生は緊張感をほぐすかのように笑みをこぼす。
(出来過ぎている。まるで内容がドロドロの刑事ドラマだ。
しかも、この先生いくら妄想でも細かすぎる。もしかして…?)
[あ、私の事疑ってます?あり得ないですよ。]
心を読んだかのように先生が切り出す。
「どうして?」
[私が犯人だったらこんな風にばらすようなことはしません。
最後の最後で本人にばれるほうがよっぽど面白い。]
先生はまるで経験があるような口調でニコニコしながら話す。
(恐いな…。でもこの人は白だ。)
俺は安心し、
「そうですね、話してくれてどうもです。」
[いえいえ。医者が患者の身の状況を話すのは当たり前の事ですから。]
そう言うと、時計を見、病室を出ようとドアの前に行く。
[あっ、言い忘れてましたが、]
先生が振り向き、
[中島さんの頭の傷はもうだいぶいいんですが、
腹部のほうは治りが遅く、激しく動いたら傷口開きますからね。
走ったりしたら駄目ですよ。
でわ。また明日]
そう言って先生は病室の電気を消し、部屋を出ていく。
「傷口が開く…か。」
これで俺の記憶を失くした原因を知ることができた。
でも…
もしも先生が話した妄想が本当に俺の身に起きていたとしたら…
ますます闇は深まるばかりだ…。
でも知らなきゃ。
記憶を完全に取り戻すために。
明日ナギサに会って、また頑張ろう。
そう思いながら俺はゆっくりと瞼を閉じ、
ふかい深い眠りにつくんだ…-。
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記憶喪失の主人公が彼女と一緒に
記憶を取り戻そうとする奮闘物語です