望んだ事が絶対でないから人生とは面白い。一生は有限だから生甲斐を持てる。短い生涯に人は夢を抱き、志を秘めてただひたらすに突き進む。時には道草をしたり、時には迷走したり、時には道を外して、その中で必死に夢への道を探る。それが荊の道でも修羅の道でも。
「俺の人生はまさに荊が張り巡らされた修羅の道。波乱万丈だな」
振り返ってみると自然と笑みがこぼれてしまう。曹家に養子として迎えられ、邪見にされて、旅に出て義勇軍を結成したのち建国。自慢話にしては立派な人生だと思う。そして俺は終息へと向かっていくか………。
「俺だ、入るぞ」
琥珀が入室してくる。手には大量の書簡が乗っていた。
「頼まれていた資料だ」
机の上にばらまくように置いた。俺はかたっぱしから読み漁る。呉は国力に力を入れて百年は戦える備えがされている。魏も呉より遅くに国力に力を入れたが、大陸に誇る領土を持つだけあって尋常でない速さで賄っていった。劉備は蜀を平定して安定した力をつけ始めている。未開の土地であった南蛮も平定して力にした情報もある。その領土の拡大から蜀の平定の速さは諸葛亮と鳳統がいてこそだろうが、周りの将兵もかなり育っているとみて間違いない。
「これなら問題ないか。琥珀、全軍を動かすぞ」
「攻めるのか? どこの国にだ?」
「三国だ。魏・蜀・呉、すべてに一斉攻撃を仕掛ける」
「正気か!?」
大陸のほとんどを占める三国に一国が攻撃を仕掛けるなど無謀である。
「冗談でそんなことは言わないさ。ただ死期が近いだけさ」
「………翡翠、俺は何本指を立てている?」
「………二本?」
「四本だ。いつから視覚に異常が出た」
琥珀の問いに答えが返ってこない。
「翡翠!」
耳元で怒鳴る。
「………どうした?」
「聴覚もか。この様子だと、他の三感も似たような症状か。………わかった、戦の準備を始める。それまでお前は休んでおけ」
「迷惑をかける」
「……ふん」
琥珀は部屋から出て行った。俺は家臣に恵まれた。後少しだけでいい、俺の命よもってくれ。
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