No.211436

今は、このままで-時空を超える者・外伝-

こしろ毬さん

最後だと思ったら、またまた落っこちてしまった『時空を超える者』外伝です。
今回はちと趣向を変えて、古代くんとヤマト艦長である守にーちゃんの会話です。
佑とは会えなかった守にーちゃんですが、古代くんとこんな話をしてたんじゃないかなあ…と。
守にーちゃんの怪我の理由は、ちょっと無理があるかなと思いましたが、ここは目をつぶってください;;

2011-04-13 01:42:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1973   閲覧ユーザー数:1965

「失礼します」

その声と共に艦長室の扉が開き、入ってきたのは戦闘班班長兼艦長代理の古代進だ。

「艦長、お怪我は…」

「ここには俺と進だけなんだから、いつも通りでいい」

進の言葉を遮るように、艦長と呼ばれた男性―――古代守は言う。

つまり、進とは兄弟の関係になる。

進もそう言われ、ふっと「弟」の表情になった。

「…怪我のほう、どう?」

改めて尋ねる。

「ああ、だいぶよくなってきてる。もうすぐ復帰できるだろう」

「それならいいんだけど、無理しないでくれよ」

「わかってるよ。心配性だな、おまえも」

守はくすくすと苦笑交じりに笑った。

 

辺境調査及びテスト航行中のヤマト。

その途中で、突如現れた宇宙気流。

それが思いのほか激しく強いもので、艦内ではバランスを崩して怪我をする者が多く出た。

守もより的確な指示を出すのに艦長席から降りようとして、怪我をしてしまったのだ。

そのため、守の怪我が治るまでは進が艦長代理として務めている。

 

「…そんなことより。“彼”の様子はどうだ?」

「彼?」

にこりと笑う守の問いかけに、進は目を瞬かせる。

「進がよく話してる子だよ。『佑介』といったか」

「ああ…」

途端に、進の表情がとてつもなく柔らかくなった。

「すっかり周りに溶け込んでるよ。医務室で佐渡先生や雪の手伝いとかをしてる」

その顔に笑みを浮かべて。

 

突然、自分の目の前に現れた少年。「落ちてきた」と言ったほうがいいかもしれない。

医務室で目を覚ましたその少年―――土御門佑介は、自分の置かれた状況に混乱していた。

無理もない。いきなり知らない場所に放り込まれたのだから。

しかも己がいる時代ではなく、200年もの未来へ。

進が説明をして「今はここで過ごすといい。皆にも言っておくから…」と落ち着けた。

本当は心細いだろうに、進に「…ありがとうございます」と言って向けた笑顔がとても印象的だった。

 

それからは何かと気にかかって。

進たちを心配させまいとする振る舞いの裏に、不安の色も隠せなくてよく人知れず展望室に行っていた佑介。

そんな佑介に、進は初めて、

 

「佑介は、今は俺たちの『大事な仲間』なんだからな」

 

そう伝えたのだった。

だから心配するなと。

佑介に接していくうちに、いつしか進の中に佑介のことを「弟」のように思う気持ちが芽生えていたのだ。

 

「…ほんと、初めはどうなるかと思ってたけどさ。杞憂だったよ」

進は笑顔のまま。

穏やかで、いとおしむように。

「今じゃ…あいつには悪いけど、このままいてくれたら…と思ってしまうんだよな」

「進」

苦笑のような、寂しげな笑み。

 

進とて、それが最良のことではないとわかってはいる。

わかっているが、それでも…と望んでしまう。

だがそれは、佑介のためにはならない。

佑介にも、己がいるべき場所でやることも、やらなければならないこともあるのだ。

 

「…情が移っちまったかな、俺も」

はは、と、ばつが悪そうに笑う進に、守は。

「……いいんじゃないか? 今はそう思っていても」

「え?」

兄の言葉に、進は目をわずかに見開いた。

「本来なら、出会うはずがないおまえたちが出会ったんだ。それが運命の悪戯だとしてもな」

「………」

「いつかは、彼が元の世界に還る時が来るだろう。…それまで、悔いのないようにしっかり支えてやれ」

にっこりと、柔らかく笑う守。

「兄さん……」

進はなんとも言えない表情になる。

 

守にも、既にわかっていた。

進がこの短期間で、佑介のことをどれほど大事に思っているかを。

婚約者の森雪とは、また違う意味だとしても。

こうして自分を見舞うときは、気がつけばいつも佑介の話になっている。

他人にも、そして自分にも厳しい弟の心の扉を開けた『佑介』という少年に、一度会ってみたいと思う守だった。

 

「そのくらい可愛がったとしても、罰は当たらんさ」

守は明るい声で笑うと。

「…その代わり、俺の怪我が治った時は真っ先に会わせろよ?」

悪戯な笑みを浮かべて言った。

「…うん、わかった」

進もつられて笑った。

 

 

「―――佑介。業務が終わったなら昼飯食いに行くか?」

「あ。…うん、もう少ししてから行くよ」

医務室に来た進に、満面の笑みで答える佑介。

「そんなのアナライザーに任しといて、行って来い」

医師の佐渡酒造が手をひらひらさせて言う。

「え、でも;;」

「いいから、ほれっ。行った行った」

それに苦笑しつつ、佑介は一瞬進と顔を見合わせて。

「じゃ、行ってきます」

にこっと笑って、進と医務室を出れば、入り口で雪も笑顔で待っていた。

 

「…まったく。傍から見れば兄弟と変わらんのう」

 

じゃれ合いつつ歩く進と佑介を、笑いながら見ている雪。

目を細めて、苦笑交じりに見送る酒造。

 

「―――いつまで、一緒にいられるかの…」

 

 

いつか、来るべき時が来るまでは。

今は、この時間を大事にしたいと思う。

 

―――そう、今だけは。

この我が侭を、許してほしい。

 

 

 


 
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