<前回までのあらすじ>
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小さな田舎の村を出て、大きな街『セシール』で一人前の狩人を目指す『P坊主』が、
集会所で出会った受付の女性『エミル』の協力により、ランスを手にする事が出来た。
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第二章『戦友』
「カラーン!」
………
「カラーン!」
集会所の中で、何かが崩れる音が響き渡る。
「イケる…6本越え……」
他のハンター達が食べ終えた肉の骨を集めて、P坊主が積み骨をしていると、
「あんた…折角ランスが手に入ったんだから狩りにでも行ったら?」
っと、エミルが困った顔をしてP坊主に話しかける。
P坊主はあれから一週間程、ずっとカウンターで積み骨をしていた。
エミルに狩りに行け言われるが、P坊主は流石に一人じゃ心細いと拒む。
それならば仲間を作ればいいじゃない、と、エミルに言われると、
「僕を見て…一緒に狩りに行ってくれる人がいるでしょうか?」
P坊主がエミルにそう聞くと、
「ん~~……」
エミルは、集会所内でP坊主と一緒に狩りに行ってくれそうなハンターがいないか見回すと、
「ん?……え!?ヤダ!!」
エミルは急に顔を赤く染め、両手で顔を覆う。
P坊主は何が起きたのか理解できず、とりあえずエミルに事情を聞くと、エミルが遠くの方を指差す。
P坊主は、エミルが指差した所に目をやると、そこには一人で椅子に座る男がこちらをじっと見ている。
特に変わった所と言えば、バケツのような銀色の鉄で出来た被り物を被り、上半身は裸で、下半身は赤い褌一丁な所だろう。
「エミルさん。確かにあれは変態ですが、何もそこまで恥ずかしがらなくても」
「僕なんて裸ですよ?…ッポ…」
P坊主が照れていると、エミルは、
「違うわよ!あ・あれを見なさいよ!」
エミルは男に向けていた指を少しだけ下げる。
P坊主は男の下半身部分に目をやると、エミルが恥ずかしがっている理由が分かった。
男は大きく股を開いた姿勢で座っている為、褌の両端から男性だけに付いている2つの玉が露出していた。
エミルとP坊主がドン引きしていると、男は席を立ちあがり、こちらに向かってくる。
「きゃー!こっちに来るな変態!」
エミルが男にそう言い放つと、
「何を怖がっているんだお嬢さん」
「見よ。私はこの通り丸裸。何の武器も隠し持ってなどいない!」
男はそう告げると、大きく胸を張り、自身の筋肉を強調させる。
良く見るとこの男性はものすごく体格が良く、筋肉だけを見ても相当な凄腕ハンターだと思える程だった。
「下よ!下のやつを直しなさい!」
エミルが男の下半身を指差す。
「むぅ?おお!これは失敬。レディーの前でとんだ失態を…」
男はそう言うと、褌の両端を持ち上げる。
「少し褌がずり下がっていたな」
褌が上に上がったせいで、両端に出ていた2つの玉がプリ!と、張る。
「ぎゃーー!!!」
エミルは近くにあったナイフで男を刺そうとするが、P坊主が止めにかかる。
「殺してやる!止めないでー!」
「落ち着いて!落ち着いてくださいー!」
2人の様子がおかしい事に気づいた男は、自身の2つの玉が露出していた事に気づき、ごそごそと褌の中に戻す。
「やぁ~すまなかったね。私の名は『バシルダ』だ」
男が自己紹介し、あいさつ代わりに先程股間を触っていた手を差し出す。
「やっぱり殺してやるー!」
再びエミルを怒らす――
エミルが落ち着いたところで、P坊主がバシルダに仲間になって欲しいと頼むと、
「私で良いのならお手伝いしよう」
と、案外簡単に承諾を得た。
「ん?確かあなたバシルダって言ったわよね?」
エミルが名前を確認し、ハンター名簿を見てバシルダの情報を調べる。
確かに名簿にはバシルダの名があった。
しかし、10年以上討伐歴が無く、ハンターズギルドと言う、ハンターが必ず入団しなくてはならない組合から解雇されていた。
ハンターズギルドを解雇された者は、二度とクエストを受ける事が出来ない。
「……いや…その……」
男は困ったように焦り始める。
更に、エミルがバシルダの経歴を調べると、バシルダは今までモンスターを討伐した事が無く、
今まで受注したクエストの数が1000を超えているのに、達成した事のあるクエストが0という酷い戦果であった。
エミルとP坊主が呆れていると、
「そのバシルダって男は可哀想な奴だな!っま、私は違うけどね!」
男は、自身がバシルダでは無いと訂正し始めた。
ハンターズギルドの情報だと、バシルダの右目には大きな傷があるらしい。
しかし、男の顔はバケツのような物で覆われているので確認出来ない。
「ちょっと。あんたその顔に付けている物取ってみなさいよ」
エミルがそう指示するが、男は、
「明るくて広い場所が苦手なのでちょっと…」
と、言い訳をして断る。
「じゃ~あんたの名前は?」
エミルが男に問うと、
「名は……昔、モンスターから受けた傷によって忘れてしまった…」
男がそう告げると、エミルは疑いの目で睨みつける。
すると、P坊主が急に泣き出し、
「なんて可哀想な人だ…エミルさん!疑うなんてあんまりですよ!」
「P坊主君!君は優しいひ……ひ……優しい『子』だ!」
感動し合う2人を見てエミルは大きくため息をつき、
「じゃ~あんたをなんて呼べばいいのよ?金○野郎?」
笑いながら屈辱的な名前を付けようとするエミルであったが、P坊主がそれは可哀想だと言い、
自らが良い名前を付けると豪語する。
「ん~…バケツみたいな被り物をしているから…『バケツ』!バケツ君!」
男とエミルが少し固まると、
「…す・すばらしい!これから私の名はバケツでいこう!」
喜ぶバケツとP坊主を見て、エミルは呆れた顔をして、ハンターズギルドの名簿にバケツという名のハンターを追加する。
「あなたの愛用武器は?」
エミルがバケツに問うと、
「私はこれしか」
バケツが見せたのはハンマーだった。
全ての武器の中で最大級の重量で、リーチは短いものの、その威力は大型モンスターを
めまい状態にする事が出来る程の威力だ。
しかし、バケツが見せたハンマーは少し小振りで、まるで工具のハンマーではないかと思う程小さかった。
「これ…ハンマーはハンマーだけど…トンカチ的な…」
エミルは、一応名簿にハンマーと書く。
「さぁー!これで仲間が出来たんだし、クエストを受けなさい!」
エミルに促されるP坊主であったが、後一人欲しいと言い、拒む。
P坊主達は、辺りを見回し仲間になってくれそうなハンターを探していると、
「あ・あの~…」
どこからか声が聞こえる。
「あの…ここですぅ…」
声は下から聞こえた。
机の上に乗っていたP坊主と、カウンターに居たエミルは机の下を覗き込み、バケツは足元に目をやると、
P坊主に負けず劣らず小さな女性が居た。
「あの…あたし…『メリィ』といいます」
深々と頭を下げ、丁寧な自己紹介を終えると、メリィはハンターズギルドの登録を先に済ませたいとエミルに告げる。
どうやらP坊主とバケツと同じく新米ハンターのようだ。
メリィの装備を見たエミルは、首を傾げ何かを考えている。
「あなた…新米ハンターよね?」
エミルの問い掛けに、メリィが頷くと、
「その防具…キリン装備じゃない?」
キリンとは『古龍』と称される他のモンスターと異なった種類で、その数は少なく『幻のモンスター』と言われている。
幻のモンスターの貴重な素材で出来た防具を付けているのに、今までの戦果が無いのに疑問を抱いたエミルは、
じりじりとメリィに詰め寄る。
すると、メリィは困った顔をしてP坊主とバケツを見つめる。
「待てぃ!この鬼畜暴力娘!」
「メリィさんが怖がっているじゃないですか!……………シネ……」
バケツとP坊主が庇うと、エミルはバケツとP坊主を殴る。
「うっさいわね!でも…所々防具のパーツが足りてないみたいだし…」
「それに…ちょっと汚れているわね…」
「正直に答えなさい」
エミルがずぃ!っと、顔を近づけると、メリィは泣き出し、
「すいません~!この街に向かう途中に、倒れていたハンターから剥ぎ取りましたぁ~!」
と、自白する。
「な!なんですってー!」
死んだハンターから装備を剥ぎ取るという行為は、外道中の外道がやる事だった。
エミルが呆気にとられていると、
「いやぁ~流石ですね。僕も今度辺りを良く調べてみようかな」
「先輩と呼ぶに至るお嬢さんだな」
P坊主とバケツが関心していると、エミルはP坊主に10発・バケツに30発の拳骨と、メリィに1発のデコピンをお見舞いする。
P坊主とバケツが倒れているそばで、エミルは涙を流すメリィに話しかける。
「いい?もぅしちゃったから仕方ないけど。これからは自分の装備は自分で作るの」
「もぅ、死んだハンターから剥ぎ取っちゃ駄目よ?」
エミルにそう言われ、メリィは頷く。
「男女差別だ…」
「我々とは偉い態度が違うではないか…」
P坊主とバケツは、エミルに向かって文句を言っていると、
「何かしら?」
エミルがゆらり、と、近寄り、手の指をポキポキと鳴らす。
「P坊主君!彼女の機嫌を直すような事を言うのだ!」
バケツがP坊主にそう伝えると、P坊主は急いでエミルに向かって、
「えっと。えっと。…あ!エミルさん!今日はピンクの縞模様の下着ですか!良いですね!」
「なに?…ほぅ……」
P坊主とバケツがエミルのスカートの中を覗き、鼻の下を伸ばす。
「い・いい度胸じゃない……」
この時のエミルは、今までに見た事の無い程恐ろしい殺気を発していた。
――エミルに殴られ、P坊主とバケツは血まみれで床に横たわる。
この日、集会所でラージャンが現れたという誤報が、他のハンター達の間で知れ渡った。
――こうして、P坊主はバケツとメリィと一緒に狩りをする事になった。
第三章『初陣』に続く――
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今回から、愉快な仲間が登場します・w・今回で、この作品の方向性が分かるようになると思います。