No.211348

IS<インフィニット・ストラトス> ~あの鳥のように…~ 第七話

箒の人気が少ないのはシャルと違って一夏と同室の時に積極的にアプローチしなかったからだよ。シャルとラウラはガンガン攻めてるがな…。

2011-04-12 16:39:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4837   閲覧ユーザー数:4387

セシリアの勝負の翌日、朝のSHRでだらだらと汗を流し俺は真っ青な顔で自分の席に座っていた。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりで丁度良いですね♪」

 

『織斑くんクラス代表おめでとう♪』とデカでかと書かれた黒板の前で山田先生が明るい声で喋っており、その先生の言葉にクラスの女子が盛大に盛り上がっている。暗い表情をしているのは俺だけ。そう、勝負の勝者がクラス代表になるという事を忘れていた俺だけだ。

 

わ・す・れ・て・たぁ~…!

 

特訓やらなんやらで勝負の後の事なんてすっかり頭の中からすっぽ抜けていた。そうだよ。そう言えばそれが原因で決闘する羽目になったんだよ…。

 

クラスの拍手を浴びながら俺は頭を抱えて突っ伏する。馬鹿だ。本当に馬鹿だ俺。何忘れてんだよ大事な事…。

 

「じ、辞退は…?」

 

「認められません♪」

 

力無く挙手しそう訊ねてみたが、山田先生に笑顔で却下される。まぁ、分かってたけどさ…。

 

「なってしまったものはどうにもならん。諦めろ。寧ろ経験が積める良い機会と思え」

 

千冬姉がいつも通りの厳しいお言葉をピシャリと言ってくる。ああそうか。クラス代表って事は対抗戦とか行事とかクラスの代表として出るんだよな。対戦相手は同じクラス代表で優秀な生徒。確かに経験を積むには持って来いの仕事だろうけど…。

 

セシリアのはミコトのおかげでもあるからなぁ…。

 

俺がセシリアに勝てたのはミコトがセシリアの手札を全て明かせてくれたからであって、ミコトとの戦闘を見ていなかったらおそらくセシリアとの勝負は負けていたかもしれない。いや、負ける可能性がかなり高いだろう。それなのに他のクラス代表って…まじか。

 

「おめでとう!織斑くん!」

 

「織斑くんおめでとー!」

 

「がんばれ~!」

 

「おりむー!ふぁいとだよー!」

 

「クラスの連中も異論は無い様だぞ?」

 

ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる千冬姉とクラスメイト達からの祝福の声。うわぁ、祝われてるのにぜんっぜん嬉しくないなんて初めての経験だぞぉ?涙が出てきそうだぁ。

 

「クラス対抗戦の優勝賞品は学食デザートの半年フリーパスだからね!しかもクラス全員分の!」

 

絶対俺の為に応援してるんじゃなくてデザートの為に応援してるだろお前等!?しかもその賞品俺にとってあんまし嬉しくねぇし!?

 

「! ピクリ」

 

がしっ!

 

「っと!?…ミ、ミコト?どうしたんだ?」

 

突然、前の席に座っていたミコトが此方を振り向いてきたと思ったら、俺の両肩をがしっと掴んでくる。しかもその表情は今までに見た事の無い程真剣な面持ちで…。

 

「一夏。がんばる」

 

「え゛…」

 

「デザート。食べ放題…ジュルリ」

 

お・ま・え・も・か!

 

輝かせんな。目を輝かせるなって。分かったから。出来る限り頑張ってみるから。だから離せってば…。

 

「まぁ、精々頑張れ。お前が頑張れば私も豪華な食事にありつける。タダで食べれる食事ほど美味いものは無いからな」

 

「ですね♪」

 

あんた等も賭けとんのかい!?教師に有るまじき行為だろ!?生徒の模範となる行動を見せろよっ!?

 

「ご安心ください一夏さん」

 

がたんと音を立てて立ち上がるセシリア。ん?今一夏って呼ばなかったか…?

 

「わたくしに勝てたのは此方の手札を全て明かしてしまったからではありますが、華麗にしてパーフェクトなこのわたくしが教えて差し上げればどんな相手にだって負けはしませんわ!」

 

何気に手札さえ明かさなければ負けていなかったって言ってるよなそれって。まぁ、その通りだけどさ。

 

しかしセシリアに教えてもらう、か。確かにセシリアは代表候補生だしその方が良いのかも…。

 

と、俺が考えていた時だった。バンッ!と机の叩く音が響いたのは。

 

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな」

 

『私が』の部分をやけに強調して発言する箒は、物凄い殺気だった鋭い眼つきでセシリアを睨む。その眼に入学初日同様にまたセシリアは怯えるかと思ったのだが…。

 

「あら、ISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何か御用かしら?」

 

全然そんな事無かった。寧ろ堂々と胸を張り箒を視線をぶつけて火花を散らしている。おい何で火花が出てるんだ?これもISの力なのか?おっそろしいなIS…。

 

「ラ、ランクは関係無い!頼まれたのは私だ!」

 

ちなみに俺のランクはBらしい。といっても、これは試験機で出した最初の格付けだからあんまり意味は無いって千冬姉が言っていた。ISは乗った時間…稼働時間によって上達も比例する。なら、専用機を持つセシリアは当然ISの稼働時間も長く試験時の結果が良いのは当然と言えば当然だ。余り自慢できる事ではないだろう。まぁ専用機持ちってだけで十分に自慢できる事なんだろうけど。

 

…って、俺も専用機持ちなんだっけ。

 

視線を右腕へと落とす。腕にあるのは光を反射して輝く白いガントレット。俺の専用ISである『白式』の待機状態の姿だ。何でも、ISそのものが量子化出来る為、普段は俺のようにアクセサリーとして形を変えて持ち運びが可能らしい。何でもありだなIS。もう魔法の世界だぞ。こんなもの使った束さんは本当にすげぇよ。

 

「座れ、馬鹿者ども。お前達のランクなどゴミだ。まだ殻も破れていないひよっこが優劣をつけようなどするな」

 

「「う゛…」」

 

流石の二人も、元日本代表にして世界大会の覇者である千冬姉に言い返す事なんて出来ないだろう。実際、千冬姉からみたら本当に俺たちなんて相手にすらならないだろうし。

 

「え~と…そ、それでは、連絡事項も終わったので授業に入りますねぇ?」

 

静かになった教室に、山田先生は空気を読んでか、それとも居た堪れなくなったのかSHRを終わらせて授業を始めるのであった。

 

もう、どうにでもなれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7話「思い出は宝物」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実戦してもらう。織斑、オルコット、オリヴィア。試しに飛んでみせろ」

 

4月も中旬に入った頃、ISの授業は座学から実習へと移ろうとしていた。千冬姉の入学初日に言っていた『ISの基礎知識を半月で覚えてもらう』と言う発言通りに行われ。まさに今日、初の実習で俺達はISスーツを着てグランドに出ていた。

 

「早く展開しろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒と掛からないぞ」

 

自分、ISに乗り始めて一日目です。何て口答えしたら叩かれるだろうから絶対に言わない。

 

集中。集中…。

 

右腕のガントレットを掴みI。Sを、白式を身に纏うイメージを思い浮かべる。

 

…来い。白式!

 

心の中でそう呼び掛ける。その瞬間、右腕のガントレットから光の粒子が俺を包み、光の球体だったそれは形を変えて光の粒子から実体化し白式に形成する。

 

ISを展開した瞬間世界が変わる。身体はまるで飛んでいるかの様に軽くなり、各種センサーに意識が繋がっているため視界もクリアーになる。隣を見てみればセシリアとミコトは既に展開が終了しており待機していた。

 

…と思ったのだが。

 

「うおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

千冬姉の指示無しに勝手にバシュンッ!と周囲に風を起こし空高くへと舞い上がるミコトと『イカロス・フテロ』。その速度は凄まじくたった数秒にして空に浮かぶ点となってしまった。

 

「「………チラッ」」

 

俺とセシリアは何も言わずにハイパーセンサーを使って視線を向けずに千冬姉の表情を窺う。当然、千冬姉は青筋立てて肩をプルプルと震わしてご立腹である。なんて事してくれてんだミコト…。

 

千冬姉のご機嫌を損ねれば当然授業を受けている俺達にまでソレは返ってくる。もし千冬姉を怒らせ様な事をしたら…。

 

「織斑、オルコット。お前達に課題だ。あの馬鹿を引き摺り下ろして来い。出来なかったら…分かるな?」

 

こうなる。

 

「「(あんまりだ!?(ですわ!?))」」

 

あんまりだと批難の視線を送るがそんなもの鬼にギロリと睨まれたら何の意味も無く。俺とセシリアは顔を真っ青にして慌ててミコトが居る空へと一気に上昇するのだった。急上昇と急降下なんて昨日の戦闘で無我夢中でやったから出来るかどうか不安だったが千冬姉の脅しも影響して問題無く成功。しかし、上昇速度はセシリアと比べるとかなり遅い。

 

「何をやっている!スペック上の出力では白式の方が上だぞ!?」

 

通信回線を通して千冬姉のお叱りの声を受ける。やっぱり昨日の今日で上達する筈も無い。昨日は無我夢中だったし…。今も身の危険に晒されているのは変わらないけど…。

 

「どうした!?なにをのろのろしている!?」

 

やってるってば。えぇっと…『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』だったよな。ううむ…いまいち感覚が掴めないぞ。

 

「一夏さん。イメージは所詮イメージ。自分がやりやすいイメージを模索するのが建設的ですわよ」

 

のろのろと遅れている俺を気遣ってかセシリアが速度を落とし俺の隣へとやってきてアドバイスをしてくれる。

 

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。その原理も良く分からないし。PICってのが関係してるんだよな?」

 

ISに翼なんて殆ど関係無い。念じればその求めた方向に飛んでくれるのだから。ミコトの『イカロス・フテロ』と言う例外もあるが。あれは普通のISとは逸脱した存在らしいからこの話題に挙げること自体が論外だ。

 

「あら、ご存知でしたのね?」

 

「正直言うと、ミコトとセシリアの戦いを見て無かったら知らないままだったな」

 

「うふふ、確かにミコトさんの機体は色々な意味で規格外ですからね」

 

良い意味でも悪い意味でもな。

 

「今の口ぶりからするとセシリアもミコトの機体の事は知ってるのか?」

 

「はい。存じてますわ。ですが、どんな欠陥機であろうと物は使い様。良い物であろうと悪い物であろうとそれは使う人物によって変わりますから」

 

「だな。ミコトはすげぇよ」

 

遥か遠くで優雅に空の散歩をしているミコトを俺は眩しそうに目を細めて見上げる。今の俺とミコトのいる位置が現在の実力差のように思える。けど、何時までもこの場所で甘んじるつもりはない。いつか俺もミコトの居る高みに昇ってみせる。

 

…ん?

 

隣を見ればセシリアも同じようにミコトを見上げていた。俺と少し異なるのはその表情に僅かに慈愛の色を見えたことだろうか。すると、俺の視線に気付いたセシリアは慌てて今の表情を隠すとこほんと咳払いをして誤魔化す。

 

「ど、どうかしまして?」

 

「いや…何かミコトと仲良くなったよな。前はあんなにライバル視してたのに」

 

「あ、あら?ライバル視しているのは今も変わりませんわよ?いつか決着をつけてみせますから」

 

「にしては、今のは…」

 

「と、友達ですから!それだけですわ!それより急ぎましてよ!もたもたしてると織斑先生にどんな目に遭わされるかわかりませんわ!」

 

そう言って加速して加速するセシリアだったが、今のはどう見ても誤魔化しているのが丸分かりだった。俺はそんなセシリアに苦笑すると俺もゆっりとだが加速を開始して二人の後を追う。

 

 

 

 

かくして始まったミコトとの鬼ごっこだが。やはりと言うべきかミコトに触れることすら出来ずにいた。

 

「こらミコト!いい加減捕まれ!」

 

「や」

 

「良い子ですから!捕まって下さいな!」

 

「や~」

 

「「お願いだから捕まって!(涙)」」

 

「~♪」

 

涙目な俺達の事情など知った事かと言わんばかりに鼻歌を歌いながらそよそよと空を泳ぐミコト。可愛らしい羽の生えたその姿は今の俺達にとって死神か悪魔にしか見えなかった。

 

ハイパーセンサーで千冬姉の表情を窺おうとその恐ろしい光景に直ぐその映像を遮断した。センサーが見たのはがくがくと震える山田先生と女子達。そしてジャージ姿の鬼だった。もう何て言うか本当に泣きそうだ。マジで角が生えてたよあの人…。

 

まずい。まずいですよこれは…。

 

早くしないと俺達の命がマッハでやばい。セシリアもそれに気付いているのか真っ青な顔で死に物狂いでミコトを追い掛けていた。

 

―――しかし、タイムリミットである。

 

「もう、良い…」

 

ゾクリ…

 

世界が停止し、気温が一気に下がる様な錯覚が襲い、凍りつくような冷たい声が耳に響いた。追いかけっこの終わりを告げる声が…。

 

「二人掛かりで捕まえられないとはな…」

 

あ、あれぇ?此処は空なのに何で後ろから声が聞こえるのかなぁ?

 

「どうした?何故こちらを見ない」

 

振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない振り向きたくない。振り向けば絶対にそこには鬼が居る。だから振り向きたくないっ!

 

「…まぁ、良い。どのみちお前達には後で罰が待っている」

 

「「(神は死んだっ!?)」」

 

死刑宣告を言い渡し俺達の横を打鉄で全身を纏った千冬姉がすり抜けて飛んでいってしまうのを眺めながら、俺とセシリアは近い将来降りかかるであろうであろう災難に絶望し、力無く降下もとい墜落するのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

 

 

 

「ん~♪」

 

良い天気。良いお散歩日和。

 

暖かい日差しとこれは花の香り?ん。とっても良い香り。これ、好き。クリスが言ってた。春になったら色んな命が芽吹くんだって。これが春なんだ。

 

…クリスも同じものを見てるのかな?

 

空を見上げて想う。クリスもこの春の空を眺めているのだろうかと。遠く離れていてもこの空は何処でも一緒だから…。

 

会いたい。一緒にこの空を眺めたい。でも、それは出来ない。約束だから。クリスが迎えに来るまで待ってるって約束だから。だから、我慢。

 

…ん。クリスが迎えに来てくれたら見れば良い。

 

―――警告!離脱!警告!離脱!

 

穏やかな空気を引き裂く様に響き渡るセンサーの警告音。

 

…この子が怯えてる?

 

怯える様に何度も警告をしてくるイカロス・フテロに私は首を傾げてセンサーに視線を向ける。

 

「――――…ぁ」

 

そして、センサーの示す先に『ソレ』はいた。

 

来る。あの怖い存在が迫って来る。

 

ぃゃ…いやぁっ…。

 

ぶんぶんとソレを拒むように首を振る。しかしソレは止まる事無く此方へと向かってくる。私は翼を大きく羽ばたかせて一気にもっと高く飛び上がる。でも、それは離れる所か距離は縮まるばかりで逃げるなんて到底出来るものではなった…。

 

「…ぅっ!?」

 

怖い。怖い怖い怖いっ!

 

伸ばしてくる腕に怯え私は更に高く飛ぶ。高く。高く。もっと高く。でも…。

 

「どうした?逃げないのか?」

 

「っ!?」

 

さっきまで離れた場所に居た筈のそれは、とても近くにあった。耳もとで呟かれて身体がカチンと固まる。震える身体で振り向いたらそこには…。

 

「授業の間は私の言う事に従って貰うと約束したよな?ミコト…?」

 

あ…ああ…ぁ。

 

「さぁ、お仕置きの時間だ」

 

千冬がすごく怖い顔で私の腕を掴みこっちを見ていた…。

 

「っ!!」

 

ジタバタと手と足をばたつかせて逃れようとしたが捕まれたその腕はピクリとも動かす事が出来ない。

 

「お前の軟弱な機体で私の拘束から逃れられると思っているのか?諦めろ」

 

腕だけだった拘束の手は腰まで伸びていて。っ!?この体勢…っ!?

 

サーッと血の気が引く。この体勢は覚えてる。此処に来てから何度も、何度も経験があるから。千冬が本当に怒った時にする行為の準備態勢だ。

 

これ!嫌い!

 

「うーっ!うーっ!」

 

必死に千冬から逃れようとする。でも逃げられない。千冬の逃げようともがく私を拘束している左手とは別に、空いている右手ゆっくりと持ち上げられると…。

 

ぺしーんっ!

 

「あうっ!」

 

お尻に走った激痛と同時に、甲高い音と悲鳴が空に響いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side 織斑 一夏

 

 

 

 

「えー…」

 

俺は、いや、俺達クラス一同は唖然と空に浮かぶ光景を眺めていた。

 

空に響き渡る柔らかい肌を叩く音。そしてミコトの泣き声。何が起こっているかと言うと『おしりぺんぺん』である。もう一度言うがお尻ぺんぺんだ。ISで、IS同士で。その異様な光景に皆あんぐり状態で空を見上げていた。

 

ミコトを捕まえた千冬姉の操縦技術に驚くべきか。それとも目の前の光景に驚くべきか…。ISでお尻ぺんぺんとか誰が考えるよ?

 

恐らく誰も考えないだろう。だって、相手が生身だったらお尻が赤く腫れあがる程度じゃすまないし…。

 

「うっ…」

 

「あれは…流石に…」

 

箒とセシリアが顔を紅く染めて視線を逸らす。他のクラスの女子達も同様だ。一部羨ましそうに頬を染めて息を荒げてる奴もいたが無視だ。あれに関わってはいけない。本能がそう告げている。

 

まぁ、クラスの女子のアレな性癖は置いとくとして…。

 

「幾らなんでも公衆の面前でこれはまずいだろ…」

 

ISでのお仕置きという妙な光景と言うのもあるが、飛んでいる所為で全校生徒の注目の的だ。どんな公開処刑だよまったく…。

 

流石にお尻を晒すなんて事は千冬姉もしないが、それでも十分恥ずかしい。あんな恥ずかしい姿を晒されたんじゃ登校拒否ものだぞあれは。

 

「ごめ゛んなざいっ!ごめんなざいっ!」

 

あぁ~、泣いてるよ…。

 

空から聞こえてくるな泣きを含んだミコトの悲鳴が痛々しい。

 

「あわわ…あわわわ!ど、どどどっ!どうしましょう!どうしましょう!?」

 

あっちこっちを行ったり来たりとしながら、顔を真っ赤にして落ち着きの『お』の字も無い我等が副担任山田先生。…先生、あたふたしてないで止めて下さい。この場で千冬姉を止められるのは山田先生しかいないんですから…。

 

ていうか俺も他人事じゃないんだよな。ミコトのお仕置きが終わったら次は俺達の番な訳だし…。一体何が待ち受けているのか想像したくも無い。唯、これだけは言える。俺達に待っているのは地獄だと言う事だ。

 

「お前はいつもいつも!何度言えば分かるんだ!馬鹿者!」

 

「う゛ぅ~~っ!」

 

…何て言うか。教師と言うか親が子供を躾けてる光景だよなこれ。

 

少なくとも、俺は教師が生徒にお尻ペンペンなんてする所なんて見た事が無い。ましてや俺達は高校生だ。小学生の低学年ならともかく、高校生でお尻ペンペンなんて流石に無い。女子にやったらセクハラで訴えられるしな。

 

「…まさか、わたくしにもアレを」

 

「無いから。絶対に無いから」

 

セシリアの疑問にキッパリと否定する。あれはミコト限定だろ。千冬姉とミコトはプライベートでも知り合いみたいだし。

 

くいっくいっ…。

 

ん…?

 

袖…と言うかISの腕を引かれる感覚に俺は振り向いて見下ろすと、そこには普段のぽや~っとした表情とは違い心配そうに表情を歪めているのほほんさんがいた。

 

「ねぇねぇおりむー。みこちーを助けてあげてよー」

 

何を言い出すんだこの子は。俺に死ねと言うのか?

 

「いや、でも、な?ミコトにも悪い部分もあった訳だし…」

 

だらだらと汗を流しながら視線を逸らしながら逃げようと試みるも腕はがっちりホールドされているため逃げる事が出来ない。ISを装着しているので振る解くのは簡単だが生身の相手にそれは危ないし、何より感じが悪い。

 

「お願い!みこちーすっごく泣いてるよ!」

 

「あ゛う゛~~~っ!」

 

「ぐっ…」

 

未だに聞こえてくる悲鳴に俺はとんでもない罪悪感に襲われて言葉を詰まらせる。見た目幼い少女が泣いているのを見るのは余り気持ち良いものではない。

 

確かに千冬姉にもやり過ぎな部分もある。皆の前であれは無いだろう。それに俺だってミコトが泣いてるところなんて見たくは無い。でも、でもしかしだ!

 

怖ぇもんは怖ぇんだよっ!?

 

「おりむー。おねがい!」

 

「ぐぐぐぐ…っ」

 

ミコトを助けると言う事はだ、つまり千冬姉をどうにかしろって事だ。言葉が通じる相手じゃない。て事は力尽くでと言う事になる。力尽く?千冬姉を?そうか。やっぱり死ねと言うんだな俺に…。ちくしょうめ…。

 

しかし、いつの間にか周りの連中は俺がミコトを助けに行くと言う事になってるらしく期待の眼差しが俺に集中している事に俺は気付く。おいおい勘弁して下さいよ。相手が悪すぎるだろ相手が。元世界最強だぞ?しかも自分の姉に手を上げろと?いや、姉の方には何度も叩かれてはいるけどさ…。

 

「おりむーGOーGO-!みこちー救出みっしょんすたーとだよ!」

 

謀ったな!のほほん!?

 

のほほんさんの掛け声で周囲の眼差しが一斉に応援の声と変わってしまう。こうなってしまったらもうどうにもならない。残された道は一つ…『玉砕』だ。

 

「う゛っ…う、うおおおおおおおっ!やらなきゃならねぇ時があんだよぉ!男の子にはあああああああっ!」

 

やけくそにスラスターを全開に吹かして一気に千冬姉へと向かってぶっ飛ぶ。先手必勝。不意打ち万歳。幾ら千冬姉でも背後から不意打ちされたらどうにもならない―――。

 

「…ほぅ?教師に手を上げるか。見あげた度胸だな。織斑?」

 

どうにもなりませんでした。

 

「ぎゃあああああああああああああああっ!?」

 

「馬鹿かアイツは…」

 

「はぁ…世界覇者を甘く見過ぎですわよ一夏さん」

 

なら最初から止めてくれよ…がくっ。

 

この日、俺は世界チャンピオンの恐ろしさを身を持って知る事になり、もう絶対に千冬姉には逆らわないと心から誓った。

 

 

 

 

 

「ふぅん、此処がIS学園か…」

 

夕暮れ時、IS学園の正面ゲートに小柄の少女がボストンバッグを地面に置き無駄に大きな校舎を眺めていた。

 

「ふふんっ!待ってなさいよ一夏!」

 

少女は笑って少年の名を口にするとゲートをくぐる。その足取りは軽やかなものだった。

 

そして、少女に名を呼ばれた当の本人はというと…。

 

 

 

 

 

―――本日のお勤めが終わり。現在、夕食を終えて自由時間。寮の食堂にて。

 

 

「というわけで!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

『おめでとう!』

 

クラスメイト一同からの祝福の声と同時にクラッカーが咲き乱れて色鮮やかな紙が宙を舞う。華やかなに飾り付けされた会場ではクラスメイト達が賑やかに騒いでおり盛大に盛り上がっているがそれとは反対に俺は盛り下がっていた。

 

壁にはでかでかと『織斑一夏クラス代表就任パーティ』と書かれた紙がかけられている。そう、このパーティの主役…もとい生贄は俺で、名前の通り俺のクラス代表就任を祝うパーティだ。当の本人は全然めでたくもなんともないが。

 

「はぁ………」

 

重い溜息を吐きジュースの入ったコップを呷る。

 

「一夏。つまらない?」

 

お菓子を一杯に抱えてトコトコとこっちへやって来るミコト。お前はハムスターかリスか何かか。

 

「ん?いや…どうだろ。祝ってくれるのは嬉しいけどさ」

 

本心は全然嬉しくない。正直言うといい迷惑だ。しかしこの場でそんな事を言えばこの空気をぶち壊す事になるし仮にもクラス代表がクラスの雰囲気を悪くするのは良くない事だろう。望んでなった訳で無いにしてもだ。

 

「良かったではないか。クラスの女子にちやほやされて」

 

「箒。この状況でどうしてそんな風に見えるんだ?」

 

嫌味か嫌味なのか?

 

隣で不機嫌そうにお茶を飲んでいた箒がそんな事を言って来るがもし俺が喜んでいる様に見えたのなら眼科に行く事をお勧めするぞ。

 

「箒。一夏。お菓子」

 

適当にお菓子を一つ取り出してミコトはそれを俺達に渡してくる。お、饅頭か。和菓子は好きだぜ。まぁ、量にも限度があると思うけどな?ミコト。その大量のお菓子一人で食うつもりか?

 

ミコトの抱えられたお菓子の量はハンパではなかった。俺達に渡して来た饅頭も含めて多くの種類のお菓子がミコトの腕に抱えられている。一体何処からそんなに持って来たんだろうか。この学園にも売店はあるがどれも売店には無いお菓子だぞ?

 

「あ、ありがとな。それにしてもすげぇ数だな。どうしたんだそのお菓子?」

 

「ん。休みの日に本音と一緒に買いだめした」

 

ああ、スイーツ巡りとするとか言ってたな。そのついでに買ったのか。納得…。

 

「おかげで酷い目に遭いましたわ…」

 

「え?セシリアも一緒に行ったのか?」

 

「そうだよー。一緒に食べ歩きしたんだー」

 

ぴょんことミコトの後ろから顔を出して説明するのほほんさん。へぇ、意外だ。あれだけミコトに勝負だなんだの言ってたのに一緒に出掛けるなんて。

 

「おかげで体重が…ブツブツ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、何でもありませんわ」

 

そうには見えなかったけどな。ものすっごく深刻そうな表情してたぞ?

 

「おりむー。その質問はタブーだよー?」

 

「は?」

 

何だ?何の事だ?

 

さっぱりわからないのほほんさんの言葉に首を捻る俺はどう言う意味か訊ねようとしたがそれは突然やって来た乱入者によって阻まれてしまう。

 

「はいはーい!新聞部でーす!話題の新入生、織斑一夏くんに特別インタビューをしに来ました~!」

 

おーっと盛り上がる一同。そして俺は更にクールダウン…。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部の副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

ずいっと差し出された名刺を受取る。そして名刺を受取るとずずいと今度はボイスレコーダーが迫って来た。

 

うわー…この学園に来てもインタビューされるとは思わなかったぞ。

 

「ではではずばり織斑くん!クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

「え~っと…皆の期待に応えて頑張ろうと思います」

 

「え~。もっと良いコメントちょうだいよ~。『俺に触るとヤケドするぜ!』とか!」

 

既にクラス代表云々関係無いよねそれ?それに随分ネタが古いな。今時漫画でもそんな台詞使う奴いねぇよ。

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわ、前時代的!」

 

アンタにだけは言われてくない。

 

「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして」

 

いやいやよくないよ?情報を管理する人は責任を持って正しい情報を提供する義務があると俺は思うのですが?

 

「じゃあ、セシリアちゃんとミコトちゃんもコメントちょうだい」

 

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

とかいって満更でもなさそうだぞ。俺がインタビューしてた時には既にスタンばってたみたいだし。

 

「コホン、ではわたくしと一夏さんが何故決闘することになったか話を―――」

 

「ああ、長そうだから良いや。写真だけ貰うね。じゃあ次、ミコトちゃん」

 

「ん?」

 

「さ、最後まで聞きなさい!」

 

「ミコトちゃんのインタビューは二度目だね~。元気してた?」

 

「ん。薫子も元気?」

 

「うん!私はいつでも元気だよ!いつどんな特ダネがあるか分からないからね!」

 

「あれ?二度目って…」

 

ミコトは以前にも一度インタビューを受けたのか?何時の間に…。

 

「うん?ああ。織斑くん達一年生は知らないよね。ミコトちゃんはね、入学する前からこのIS学園に住んでるんだよ。丁度去年の終わりくらいだったかな?」

 

住んでた?IS学園に?関係者以外は入れないって有名なのに…。

 

IS学園は関係者と生徒しか入る事は許されてはいない。それは生徒を守るためでもあるし、IS学園内にはISと重要な機密情報も存在するからだ。学園祭等には限定的に一般公開されてはいるがそれも少数に限られている。学生でも教師でもない人物が寝泊まりできるなんて事は本来有り得ないのだ。

 

「ミコトちゃん。セシリアちゃんと勝負してどうだった?」

 

「ん。楽しかった」

 

「相変わらずだねーミコトちゃんは。もうミコトちゃんは2、3年には有名で人となりが知られてるからねつ造し様がないよ」

 

だからねつ造するなって。てかねつ造前提になってないか!?

 

「じゃあ、専用機持ちで写真撮ろうか!並んで並んで~!」

 

「薫子。薫子」

 

「ん?なぁに?」

 

「箒も一緒。駄目?」

 

「え?」

 

突然自分の名が上がって驚く箒。そんな箒など気にもせずミコトは箒の手を引いて俺達の所まで戻って来る。

 

「箒ちゃんも?うん良いよ!」

 

「ん♪」

 

「ま、待て。私は…」

 

「別に良いだろ写真くらい。写ってやれよ。ミコトも一緒に写りたがってるんだから」

 

「う、うむ…」

 

「本音。本音も一緒」

 

「もうじゃんじゃんきなさ~い♪」

 

「やったー♪」

 

ぴょんと跳ねてミコトに抱き着きカメラに向かってピースするのほほんさん。もうクラス代表とか専用機持ちとか関係無いな。

 

「まったく…仕方がありませんわね」

 

何がっかりしてるんだ?セシリアの奴…?

 

 

「それじゃあ、撮るよー。35×51÷24は~?」

 

「74.375」

 

「正解~♪」

 

すげぇ!?ミコトの奴速攻で答えた!?てか2じゃねぇのかよ!?写真撮るのに全然関係ねぇじゃねぇか!?

 

パシャッとデジカメのシャッターが切られる。…って、オイ。

 

「なんで全員入ってるんだ?」

 

シャッターが下りる前は確かに皆俺達から離れていた。これは確かだ。コンマ単位で移動したと言うのか?恐るべしIS学園の生徒達…。

 

「クラスの思い出になっていいじゃん!」

 

「ねー!」

 

そう言うのはいつものほほんさんと一緒に居る二人組。まぁ、別に俺は良いけどさ。ミコトも嬉しそうだし。

 

「薫子。写真。ちょうだい」

 

「任せときなさい!ちゃんとクラス全員の分用意しとくから!」

 

「…ん♪」

 

それを聞いてミコトは頬を染めて微笑む。その瞬間シャッターがまた切られた。

 

「貴重なミコトちゃんの笑顔シーン!GET!これは売れる!」

 

売るな!

 

「あ~!せんぱい。私の貴重なみこちーの寝顔写真あげるからそれちょうだい!」

 

なにしてんののほほんさん!?

 

「な、なんと!?勿論OKだよ!むふふ…これは新しい機材を買えるかも♪」

 

嗚呼…折角ミコトの笑顔で心が癒されたのに台無しの気分だ…。

 

新聞部の訪問の後もパーティは続いた。終了したのは何と10時過ぎ。この学園消灯時間とか規律が緩くないか?何はともあれ疲れた。まさか女子のパワーがあんなに凄いとは…。

 

パーティが終了したあと俺は重い身体を引き摺って部屋へと戻りベッドへ身体を沈める。

 

「ふぅ…」

 

疲れた。本当に疲れた。千冬姉に絞られたあとであのパーティはキツイなぁ…。

 

「今日は楽しかっただろ。良かったな」

 

「どこがだよ。疲れただけで楽しくなんかねぇよ」

 

「どうだかな」

 

何で箒はこう突っかかるんだ?ミコトといる時はそうでもないのに他の女子が来ると妙に機嫌が悪くなるし。

 

「……なぁ」

 

「何だ?」

 

「ミコトの奴。入学する前から此処に住んでるって言ってたよな?」

 

「…ああ」

 

「有り得るのか?そんなの事?」

 

「…此処は世界中から多くの生徒が集まっている。それだけ特殊な人物も集まる。そう言う事だろう」

 

「入学する前に学園に住む必要がある理由って?」

 

「知らん。私に聞くな」

 

確かに箒に聞いても分かる筈も無いよな。寧ろ箒だって気になってるだろうし。

 

考えても仕方ないか。寝よ寝よ!

 

「んじゃ、寝るとするか」

 

「な、なに?まだ十時過ぎではないか」

 

「疲れたんだよ。千冬姉に絞られた後にあのパーティだぞ?」

 

「む…ま、まぁ、そうだが…」

 

「分かったなら寝かしてくれ。おやすみ」

 

そう言うと俺は布団を被り瞼を閉じる。視界が闇で覆われると、かなり疲れていたのだろう意識はそのまま闇に呑まれて俺は眠りにつくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Side ミコト・オリヴィア

 

 

 

 

 

「~♪」

 

私はイカロス・フテロに保存された映像を眺めながらごろごろとベットの上で転がる。

 

「みこちー嬉しそうだね」

 

「ん♪嬉しい」

 

ともだちと一緒に映った写真。私の宝物。

 

「そっかー。どんどん写真が増えるといいね?」

 

「ん♪」

 

私の思い出。いっぱい作る。クリスが迎えに来たらこれ見せる。楽しみ。

 

「むふ~♪」

 

クリス。どんな反応するかな?

 

きっと褒めてくれる。笑ってくれる。約束通りともだち作った。がんばったからきっと褒めてくれる。

 

「クリス。早くむかえに…くる…いい…な」

 

やって来る眠気が心地良い。このままその眠気に身を任せて私は眠りについた…。

 

「みこちー?…寝ちゃったかー」

 

 

 

「迎えに…か。ごめんね。みこちー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

本当は鈴の登場まで行きたかったけど区切りが良いので此処で終わり。

 

鈴の見せ場は学園祭だと思う。あのお尻と腋。そしてチャイナ服は胸を熱くするね!

 

…まぁ、私はオルコッ党ですが。

 


 
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