No.209027

真・恋姫無双 ~中華に鳴り響く咆哮~ 第五話「昼下がりの出来事」

北方獣神さん

第五話。

次回一刀のプロフを載せる予定です。今回出て来るものが影響してきますので、楽しみにお待ち下さい。

2011-03-31 02:12:16 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1365   閲覧ユーザー数:1225

任官式の日から一週間。暖かな日差しの中、一刀は一匹木陰でスヤスヤと昼寝をしていた。

 

晴れて武官となった一刀はあの後、劉弁、劉協両名の護衛の任を与えられたが、所詮それは一刀がここに居る為の建前で、今では来た当初と同じに自由に過ごしている。

 

・・・ちなみに一刀が銀浪になれるということは、現在宮中では皆衆知の事実となってしまっている。

 

何故ならば――――――

 

回想。

 

「ではこれで任官式を終わります。一刀、ご苦労様でした。」

 

霊帝がそういうと、一刀はいきなりその場で鎧を脱ぎだした。

 

なんだなんだという風に、周りの文官侍女達が囁く中、薄着になった一刀は次の瞬間、周りが見ているにも関わらず、体を、骨格を変化し始めた。

 

ゴキッという音と共に徐々にその姿が縮んでいく中、側近や侍女達は悲鳴を上げる者、もしくは気絶する者が続出していった。

 

これには劉弁、劉協も驚きを隠せなかったが、周りの状況に気が付くとすぐさま収めようと動き出した。

 

霊帝はというと、目の前で姿形を変えていく一刀をジッと見つめているだけだった。

 

・・・・・・数分が過ぎた頃、そこには銀浪となった一刀がブカブカの薄着を被った姿があった。

 

周りが未だざわつく中、一人霊帝は一刀へと近づく。

 

「・・・・・・一刀、よく私の言うことを聞きなさい。」

 

「?」

 

霊帝はしゃがみ込みながら首を傾げる一刀の目を見た。

 

「まず一つ目。このように皆が見る場所では勝手に服を脱ぎだしてはなりません。どんなに貴方が嫌でも、これは守るべき常識です。判りましたか?」

 

強い口調で言われたその言葉に、一刀は一瞬首を傾げようとしたが、霊帝の目を見て頷いた。

 

「二つ目。・・・貴方はここにいる皆とは違うところがあるようですね。その姿、とても美しいですよ。」

 

「・・・・・・♪」

 

その褒め言葉に一刀は嬉しそうに尻尾を振る。

 

だが霊帝は目を細めて続く言葉を紡ぎだした。

 

「ですがだからといって人前でその姿に変わるのは、あってはなりません。・・・皆を御覧なさい、一刀。」

 

そう言われて周りを見渡す一刀。

 

そこには、恐ろしいものを見るかのような顔をした文官、侍女達の姿があった。

 

「・・・・・・?」

 

何故そのような顔を自分に向けるのか判らない一刀。

 

――――――幾ら始めて会ったからとはいえ、弁や協はそんな顔をしなかった。

 

そんな気持ちになった一刀は、悲しい気持ちと不思議な気持ちが入り混じった感情になり、そこから来る不安からなのか低く唸り始めた。

 

霊帝はそんな一刀の頭を優しく撫でた。

 

「貴方は皆には出来ないことを今ここでしたのです。それは私達には普通出来ぬこと。ですから皆は貴方を恐れているのですよ。」

 

「・・・・・・?」

 

言葉は発しなかったが、皆自分を恐れているの?という問いかけが霊帝には伝わった。

 

「えぇ、その通りです。二つ目は、不用意に人前で姿を変えてはならないということ。見知らぬ人の前では決してやってはなりません。やるならば自室、もしくは見知った人の前で。いいですね?」

 

その言葉に、すぐコクリと頷いた一刀。

 

そして再び霊帝は一刀の目を見つめながら言う。

 

「それから一刀、これからここで暮らすのならばそれ相応の礼儀というものを知らなければなりません。それはとても大切なことです。明日から弁と協にそれを学びなさい。

これが三つ目です。」

 

それにウォンっと答えた一刀に、優しく微笑みかけながら霊帝は立ち上がった。

 

「・・・皆の者、そう恐れずともよいのです。一刀は一刀。それ以外でもそれ以上でもありません。確かに一刀は我等には出来ぬことが出来るようですが、唯それだけなのです。それに、一刀はとても優しい子、優しく接すれば襲い掛かることなどしません。安心して接しなさい。」

 

そういうと、ようやく気絶した者を運ぶ指揮が終わったのか、二人が戻ってきた。

 

「母上、一刀を連れて行っても構いませんか?」

 

会うなり劉弁は言った。

 

どうやら劉協も同じ風に思っていたらしく、首を縦に振った。

 

それに霊帝はゆっくりと頷いた。

 

「そうか、ありがとう母上。・・・・・・一刀、お前には言いたいことが出来た。今から私達と共に来い。」

 

それにウォンッ!!と元気よく答える一刀。

 

そして歩き出そうとする二人に、霊帝は声を掛けた。

 

「弁、協。貴女達には後で伝えることがあります。後で政務室に来なさい。」

 

「判りました、母上。」

 

「判りました、母様。」

 

二人は同時に答えると、一刀を連れて祭壇から出て行った。

 

後に残された文官、侍女達は、今起こったことをその場で口々に話し始めるのだった・・・

 

――――――以上回想終了。

 

と言う訳で、一夜にしてこの話は宮中を駆け回ったというわけなのである。

 

ちなみに、あの後二人に連れ出された一刀は、こっ酷く叱られたようである。

 

「・・・・・・zzzzzz」

 

一刀は時々尻尾をパタパタと動かし、リラックスしているようだった。

 

すると、劉姉妹が一刀のところへと歩いてきた。

 

どうやら霊帝から与えられていた政務を終わらせ、一刀を探していたようである。

 

劉弁は一刀を見つけると、大きな声で呼びかけた。

 

「おーい、一刀。」

 

「・・・・・・?」

 

ムクリと起き上がり、大きなあくびと伸びをした後二人を見る一刀。

 

まだ眠いのか、しきりに目を細めている様子を見て劉協はクスリと笑った。

 

「ごめんなさい、起こしてしまって。だけど今から勉強の時間でしょう?」

 

「・・・・・・」

 

「そういうことだ。ホレ、さっさと次の教材を出しに行くぞ。」

 

そう言うと、劉弁は踵を返して蔵のほうへと歩き出した。

 

つられて劉協も歩き出し、一刀はノソノソと二人の後に続いていった。

 

「えーっと、確かここら辺にあったはずだが・・・」

 

「弁姉さま、そちらは軍記物語の欄ですよ。」

 

「・・・・・・」

 

蔵に来てから約一時間。未だに新しい教材が見つかる気配は見当たらなかった。

 

意気揚々と来たのはいいものの、肝心な場所を劉弁が忘れてしまっていたため、二人は手当たりしだい探しているのだが・・・

 

教材を探す二人をお座りしながら見つめていた一刀だったが、ふと顔を横にずらすと、奇妙なものが蔵の奥のほうにあるのが見えた。

 

「・・・・・・???」

 

好奇心が一刀を突き動かし、薄暗い奥へと進んでいく。

 

そこで一刀が目にしたものは、四つの奇妙な形をした鉄だった。

 

鈍く光るそれは、なにやら赤い札が貼られていたが、何と書かれているのか判らなかった。

 

「・・・・・・♪」

 

一刀はほんの出来心でその札を鉤爪で剥がしてしまった。

 

ペラリと簡単に剥げたそれは、地面に付くなり一瞬で燃え上がり、消えてしまった。

 

金属同士が擦れ合う音と共に、その鉄は一刀の足元に落ちてきた。

 

よく見れば、足首を入れられる隙間があるみたいである。

 

「・・・・・・」

 

――――――ちょっとだけ、入れてみようかな・・・?

 

そんな思いで一刀は隙間にそれぞれ足を入れてみた。

 

不思議なことに重さはなく、それはピッタリ一刀に合っていた。

 

「♪」

 

気分を良くした一刀は、ジャラジャラ鎖を鳴らしながら外に走り出した。

 

「っと、これだこれだ。協、あったぞ。」

 

「本当ですね。では部屋に参りましょうか・・・一刀?」

 

「ん?どうした?」

 

二人は外を見ると、そこには元気よく走り回る一刀の姿が。

 

だが、先程には見られなかった足首の枷が、一刀に付いていた。

 

「あんなモノ、いつの間に付けたんだアイツ?」

 

「・・・判りませんが、取り外しましょうか。一刀、こっちへいらっしゃい!!」

 

それに反応した一刀は、足首にある枷を感じさせない動きで二人の下へ走り寄って来た。

 

近くで見れば、それはピッタリと一刀に嵌っており、鍵穴らしきものもなかった。

 

「一刀、それ誰に嵌められたんだ?」

 

劉弁が聞いた。だが一刀は違うとでも言うように低く唸った。

 

「では自分で嵌めたのですか?それを・・・」

 

劉協が聞くと、正解だと言わんばかりに一刀は尻尾を揺らした。

 

ハァっと溜息を漏らす劉弁。さすがの彼女も呆れた様だ。

 

「お前な・・・まぁいい。とにかくそれを外すぞ、一刀。そんなものを付けていたら、これから勉強するのに、それはいらんだろう?」

 

「・・・・・・グゥ」

 

足元を見つめ、残念そうに鳴く一刀だったが、やがてそれを外そうと足を振り始めた。

 

だがそんなことで外れるわけも無く、劉協は手伝うことにした。

 

「一刀、此方へいらっしゃい。外すのを手伝いますから・・・」

 

片足を持ち上げ、引き抜こうと引っ張る劉協だったが、まったく外れる気配も無かった。

 

見かねた劉弁も引き抜こうとしたが、ガッチリと固定されているかのように、それは動かなかった。

 

「どうしましょう、弁姉さま?」

 

「どうすると言ってもな・・・」

 

困った二人を他所に、一刀は外れるかどうか足を振り続けたが、やがて諦めたのか気にしなくもなった。

 

それよりも二人の持つ教材に興味が沸いたようで、ジッとそれを見続けていた。

 

「・・・・・・一刀は気にしてないみたいだし、今は後回しにするほか無いな。」

 

「そう・・・ですね。気にはなりますが、私達ではどうしようもないですし。後で鍛冶の人に聞いてみることにしましょうか。」

 

二人は頷き合うと、一刀を引き連れて来た道を戻っていった。


 
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