真・恋姫†無双~赤龍伝~第48話「蓮華と思春」
宴会が行われた次の日……。
赤斗が厨房から肉まんを貰い、庭を散歩していると、鋭い剣戟の音が聞こえてきた。
赤斗「誰だろ?」
木陰から剣戟する方を覗き込んだ。
蓮華「はぁっ、は、はっ…………はぁ!」
思春「…………!」
赤斗(蓮華、思春)
裂帛な気合と共に放たれる斬撃を、思春は表情も変えずに受け流す。
思春「闇雲に切り込めばいいというものではありません、蓮華様」
蓮華「えぇい、その余裕……今日こそ崩して見せる」
蓮華「やあ……っ!」
再び裂帛な気合と共に蓮華の斬撃が放たれる。
赤斗「もぐもぐ……」
赤斗(なるほど……思春と剣の稽古か……)
思春「熱くなるのは蓮華様の悪癖です。それでは剣捌きが多少冴えたとしても、心の方が乱れます」
蓮華「言わせては……おかぬっ!」
流麗な身のこなしは……そのものが舞踏のようだ。
踏み込みから袈裟がけの一撃、さらに剣先を翻しての鋭い突きを放つ。
思春「……それです、それを諌めているのですが」
少なくとも五回はフェイントを入れた蓮華の攻撃は、思春は悠々と受け流して、見返す。
蓮華「………………ちっ!」
蓮華は舌打ちをして後退する。
思春「それが孫呉の血、孫呉の気性……私の目には時に危うく映ります」
蓮華「……子供扱いなどさせておかぬ!」
そう言って蓮華は斬撃が放つ。
思春「ふぅ……」
蓮華「呆れたな! その余裕が、私を苛立たせるのだ……」
赤斗「……もぐもぐ」
赤斗(まあ……確かに、蓮華と思春じゃ実力差があるものな)
赤斗は肉まんを食べながら、二人の稽古を見学する。
蓮華「思春、いつまで余裕を見せている……打ってこい!」
思春「私の守りを崩せぬ苛立ちが、顔に出ていますよ」
蓮華「うるさい……!」
思春「では……思春、参ります」
思春が蓮華に向かって、斬撃を放つ。
蓮華「くっ、く、ぐ……!? おのれっ、この」
途端に劣勢。蓮華は受けるのが精一杯で、じりじりと後退していく。
蓮華「死中に活を見出すのが孫呉の剣……! 食らえっ、はああぁ……っ!!」
思春「……む!」
蓮華「………!?」
逆転を狙った蓮華の一撃だったが、思春に簡単に弾かれてしまった。
蓮華の剣が地面に突き刺さる。
赤斗「もぐもぐ………」
赤斗(勝負あり……だな)
思春「何故、集中を乱されたのです……蓮華様」
蓮華「く…………目に」
思春「そのような取り組みをなさるのであれば、以後、鍛錬のお相手は出来かねます。思わぬ事故に繋がりかねませんので」
蓮華「鍛錬の最中、気を抜いたのは……私の落ち度。この通り頭を下げよう」
思春「……ふぅ、あまり根を詰めても仕方がありません」
思春の態度の一つ一つに、蓮華に対する優しさが滲み出ていた。
蓮華「いや、思春……鍛錬を続けさせて欲しい」
思春「……その前に、見ているのなら声ぐらいかけろ!」
思春が背中越しに赤斗に話しかけてきた。
赤斗「もぐもぐ……なんだ、気がついていたのか」
赤斗がそう言うと、思春は赤斗の方に顔を向けた。
思春「蓮華様の集中が乱れた理由は、その間抜け面か」
赤斗「間抜け面とは失礼だな」
思春「その肉まんはどうした?」
赤斗「厨房でもらった♪」
蓮華「…………はぁ。相変わらず子供みたいだな」
思春「そのような間の抜けた顔を目にすれば、武神でも気が抜けるというものだ」
赤斗「そんなに間抜け面か?」
蓮華「そのくらいにしておけ、思春。赤斗の子供のような顔に集中を乱されたのは事実だが、それはあくまで私の心の弱さが招いた結果」
思春「そう仰いますが……」
蓮華「故に、なじる言葉は私に向いているのと同じ事だ」
思春「く……!」
クールな思春らしくない形相で、歯噛みする。
蓮華「私としては克服したい弱さだ。赤斗……時間が許すのならば、私たちの訓練を見ていてはくれないか?」
赤斗「ああ。今、暇だからいいよ」
思春「蓮華様は、そのように甘やかされる」
蓮華「甘やかすとは何だ。赤斗は呉の大切な仲間、対等な個人と私は考えていたのだが、お前は違うのか?」
思春「…………そのような事は」
蓮華「見苦しいところを見せたな、赤斗よ。どうか気を悪くしないでほしい」
赤斗「僕は大丈夫だよ」
思春「ふんっ…………では、続けますか? 蓮華様」
蓮華「頼む」
適当な間合いを取って、蓮華と思春は向かい合う。
赤斗「ちょっと待った!」
赤斗は蓮華の様子がおかしい事に気が付いて、二人を止める。
思春「…………」
思春が黙ったまま赤斗を睨みつける。
蓮華「どうしたのだ? 赤斗」
赤斗「思春。僕と立ち合ってほしい」
思春「……なに」
蓮華「いきなりどうしたんだ?」
赤斗「……前にした約束を急に果たしたくなった」
呉に帰ってきた時、曹操の刺客かもしれないと思春に疑われ、立ち合うように言われた事を思い出す。
思春「あれはもういいと言ったはずだぞ」
怪訝そうに思春が赤斗に言う。
蓮華「赤斗。それは今じゃないと駄目なのか?」
不思議そうに蓮華が尋ねる。
赤斗「まあ、そうだな。蓮華も疲れているみたいだしね」
思春「!」
蓮華「なに、それはどういう意味だ」
赤斗「別に特別な意味はないよ。ただ、肩で息をしているんだから、休めばいいのになと思っただけさ」
蓮華「そのような気遣いは無用だ。お前は鍛錬というものを誤解している。鍛錬とは、実践のための鍛錬だ」
赤斗「確かに、実践のためではあるな」
蓮華「お前は分かっていない。戦場でお前は疲れた者に休めと言うのか? 常在戦場の心持でやらなければ、鍛錬にならぬではないか」
思春「…………」
赤斗「……それは違うと思うな」
蓮華「何が違うというのだ?」
赤斗「常在戦場の心持は、すごく立派だよ。けど、戦場では休息は必要だと思うよ」
蓮華「…………」
赤斗「もし、戦場で休息も取らずに戦い続けても、勝てるとは限らない。それに休憩も取らせずに、兵たちに戦えなんて命令したら、士気にも大きく影響してくるよ」
蓮華「うぅ」
思春「実践のための鍛錬ならば、心身ともに充実した状態で、身の入った訓練をした方がためになる……という考えには私も同意します。本来ならば、私が強く休憩をお勧めすべきでした。申し訳ありません」
蓮華「総出で私を甘やかそうとするな……!」
思春「無理をして怪我でもすれば、元も子もありませんよ」
蓮華「えぇい! 休めばよいのだろう、休めば」
そう言って蓮華は、ようやく腰を落ち着かせた。
赤斗「思春、ありがとう。気が付いてくれて」
思春「貴様も回りくどい事をするな」
赤斗と思春は小声で話し始めた。
赤斗「ははは……、こうでもしないと蓮華は休憩しないと思って」
思春「はぁ。それで私に勝負を挑んだのか」
蓮華「二人とも何をしている、思春も休め」
思春「……私はさほど、疲れておりませんので」
蓮華「皮肉か、それは……」
赤斗「確かに思春は、蓮華と違って疲れていないな」
思春「……当然だ」
蓮華「ちょっと思春っ! それはどういう意味!」
赤斗「はっはは……。そうだ、二人も一緒に食べよう」
赤斗は、蓮華と思春に肉まんを勧める。
蓮華「疲れている者に肉まんを勧めるな!」
思春「要らん」
赤斗「えぇ~~~」
蓮華「子供のような声を出すな」
赤斗「だって、さ~~」
蓮華「はぁ、……分かったわ。頂くわ」
ため息をついて蓮華が折れた。
赤斗「そうか! なら、お茶もあるから飲もう♪ はい、二人とも」
さっきまでのふて腐れた態度から一変して、赤斗は満面な笑顔を見せて、二人に肉まんとお茶を渡した。
蓮華「……本当に子供みたいだな」
思春「随分と用意がいいのだな」
赤斗「肉まんをもらった時に、一緒にもらった♪」
思春「…………」
蓮華「ふぅ、生き返る……助かったぞ赤斗」
お茶を飲んた蓮華が赤斗に言う。
赤斗「それは良かった。……思春は?」
思春「…………」
思春は無言のまま、肉まんやお茶に口を付けようとしない。
赤斗「思春?」
赤斗はそんな思春をじっと見る。
思春「……分かった。分かったから、そんな目でみるな」
ついに思春も折れて、肉まんを口にするのだった。
赤斗「よくこういった鍛錬をしているの?」
蓮華「身体を動かしたい時にはな。もっとも、相手をしてもらうのは思春だけだが」
赤斗「へー、そうなんだ」
蓮華「人物としても信頼しているが、技量の差から安心して鍛錬の相手を頼めるのもある。思春は……わが呉でも有数の使い手だ」
思春「勿体ないお言葉です」
赤斗「ふーーん。二人は仲がいいね」
蓮華「そういえば、赤斗は今日は鍛錬をしないのか? よく祭と鍛錬をしていただろ?」
赤斗「祭さんが、昨日の宴会で二日酔いになっちゃったから、今日の鍛錬は一人で済ませちゃったよ」
蓮華「そうなのか。なら今度から、そういう時は一緒に鍛錬をしないか?」
思春「……!」
赤斗「……いいの?」
蓮華「私は構わないぞ。ねえ思春」
思春「…………はい」
不服そうに思春は返事をする。
蓮華「思春、不満なのか?」
思春「…………」
赤斗「……蓮華。僕は思春みたいに、上手く鍛錬につき合う事はできないと思うぞ。だから、鍛錬は一緒じゃない方がいいかも」
蓮華「そうか……」
赤斗「蓮華、ごめんね」
蓮華「お前が謝る事はない。無理に誘った私が悪いのだから」
赤斗「そういえば……」
蓮華「ん、どうしたのだ?」
赤斗「蓮華とこうやって話すのも、何だかひさしぶり。昨日の宴会じゃ、全然話ができなかったもんね」
蓮華「そ、そうだな。ひさしぶりだな」
赤斗「だから、こうやって話ができて嬉しいよ」
蓮華「/////////」
蓮華の顔が赤く染まる。
蓮華「さ、さて、汗も引いた……相手をしてくれ。思春よ」
思春「御意」
赤斗「蓮華?」
蓮華と思春との鍛錬を再開した。
その後、何度か休憩を挟みながらも鍛錬は続いた。
しかし、蓮華は鍛錬中、どうしても集中する事が出来なかった。
つづく
~あとがき~
呂です。読んでくださって、ありがとうございます。
真・恋姫†無双~赤龍伝~に出てくるオリジナルキャラクターの紹介
オリジナルキャラクター①『風見赤斗』
姓 :風見(かざみ)
名 :赤斗(せきと)
字 :なし
真名:なし
武器:花天と月影……二振りの日本刀(小太刀)。赤色の柄で赤銅の鞘に納まっているのが“花天”で、黒色の柄で黒塗りの鞘に納まっているのが“月影”。
本編主人公の少年。
身長168㌢。体重58㌔。年齢17歳。黒髪黒眼。
放課後に道場で古武術の達人である先生に稽古をつけてもらうのが日課だったが、ある日道場で黒尽くめの男に襲撃される。
その際、赤い光に包まれて恋姫の世界に飛ばされる。
死にかけていた所を、火蓮によって保護され“江東の赤龍”という異名を付けられる。
古武術 無双無限流を学んでおり、その奥義を使えば恋姫の世界の武将とも闘えることができる。
無双無限流には、『全ての奥義を極めしとき、その身に龍の力が宿る。』という伝承がある。
奥義には“疾風”“浮葉”“流水”“月空”“烈火”“絶影”“龍鱗”“狂神”などがある。
奥義の同時発動は可能だが、奥義単体の発動以上に身体に負担がかかる。
好きなもの:肉まん
能力値:統率3・武力4・知力4・政治2・魅力4
オリジナルキャラクター②『孫堅』
姓 :孫
名 :堅
字 :文台
真名:火蓮(かれん)
武器:南海覇王……やや長めの刀身を持つ、両刃の直刀。派手な装飾はないものの、孫家伝統の宝刀。
孫策(雪蓮)たちの母親。
身長173㌢。腰まで伸びる燃えるような赤い髪の持ち主。
血を見ると雪蓮以上に興奮してしまう。
孫尚香(小蓮)には非常に甘い。周りの人間が呆れるほどに甘い。
この外史“赤龍伝”では孫堅は死んでいない。
好きなもの:娘たち(特に小蓮♪)と酒
能力値:統率5・武力5・知力3・政治4・魅力5
オリジナルキャラクター③『諸葛瑾』
姓 :諸葛
名 :瑾
字 :子瑜
真名:藍里(あいり)
武器:風切羽(かざきりばね)……火蓮から受け取った護身用の短刀。諸葛瑾(藍里)の実力が低いので、あまり役に立っていない。
諸葛亮(朱里)の姉。
諸葛亮(朱里)とは違い、長身で胸も大きい女性。髪は金髪でポニーテール。
温厚で気配りのできる性格で、面倒見も良い。赤斗の世話役として補佐につく。
一時は、自分たちとは違う考え方や知識を持つ赤斗に恐怖心を持っていた。
政治、軍事、外交と様々な仕事をこなすが、諸葛亮(朱里)には僅かに及ばない。
苦手なもの:酒(飲めるが、酔うと周りの人間にからむようになる)
能力値:統率3・武力1・知力4・政治4・魅力4
オリジナルキャラクター④『太史慈』
姓 :太史
名 :慈
字 :子義
真名:嶺上(りんしゃん)
武器:雷電(らいでん)……二本の小型の戟。
非常に勇猛かつ、約束に律儀な武将。銀髪レゲエの女性。
孫策(雪蓮)と一騎打ちして引き分けたことがある。
それ以来、孫策の喧嘩友達になっており、よく喧嘩をしている。
孫尚香(小蓮)や諸葛瑾(藍里)と仲が良く、孫尚香(小蓮)の護衛役をしている事が多い。
弓の名手でもあり、その腕は百発百中。
好きなもの:子供
能力値:統率4・武力4・知力3・政治2・魅力3
オリジナルキャラクター⑤『司馬懿』
姓 :司馬
名 :懿
字 :仲達
真名:不明
武器:不明
黒尽くめの衣装を身に纏った、曹操軍の軍師。
曹操軍に属しているが、曹操からの信頼はないといっても良い。
色々と裏で暗躍しており、虎牢関では張遼を捕え、術により自分の傀儡にしている。
今は、魏から姿を消している。
能力値:統率5・武力?・知力5・政治5・魅力?
オリジナルキャラクター⑥『玄武(げんぶ)』
姓 :不明
名 :不明
字 :不明
真名:不明
武器:魏軍正式採用剣……魏軍に配備されている剣。
司馬懿の部下。
普段は何の変哲もない魏軍の鎧を身に纏い、普通の兵士にしか見えない。
しかし、眼の奥からは異質な気を醸し出している。
鎧の下には黒の衣を纏っており、素顔は司馬懿に似ている。
虎牢関では、鴉と一緒に張遼を捕えた。
能力値:統率2・武力4・知力3・政治1・魅力2
オリジナルキャラクター⑦『鴉(からす)』
姓 :不明
名 :不明
字 :不明
真名:不明
武器:爆閃(ばくせん)……司馬懿から受け取った回転式拳銃。
司馬懿の部下。
性格は軽く、いつも人を馬鹿にしているような態度をとる。
司馬懿と同じ黒い衣装だが、こちらの方がもっと動きやすい軽装な格好をしている。
寿春城では、孫堅(火蓮)を暗殺しようとした。
能力値:統率2・武力4・知力2・政治1・魅力3
オリジナルキャラクター⑧『氷雨(ひさめ)』
姓 :不明
名 :不明
字 :不明
真名:不明
武器:氷影(ひえい)……氷のように透き通った刃を持つ槍。
司馬懿の部下。
青い忍者服を着た長い白髪の女。
背中には“氷影”を携えている。戦闘時には全身からは氷のように冷たい殺気が滲み出す。
洛陽で董卓(月)と賈駆(詠)を暗殺しようとした所を、赤斗と甘寧(思春)に妨害される。
官渡の戦いでは、呂布の部下を連れ去り、それを止めようとした陳宮を殺害する。
能力値:統率2・武力4・知力3・政治1・魅力3
オリジナルキャラクター⑨『宮本虎徹』
姓 :宮本(みやもと)
名 :虎徹(こてつ)
字 :なし
真名:なし
武器:虎徹……江戸時代の刀工が作った刀。
赤斗の古武術の師匠。
年齢は50歳。実年齢よりも、肉体年齢は若い。
赤斗と一緒に、恋姫の世界に飛ばされたと思われる。
最初は河北に居て、それからは用心棒をしながら、色々と辺りを転々としている。
赤斗曰く、『無双無限流の妙技を見せてやるっ!』が口癖で、その実力は呂布(恋)以上。
能力値:統率?・武力6・知力5・政治?・魅力?
※能力値は「5」が最高だが、呂布の武力と劉備の魅力は「6」で規格外。
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呑気な赤斗が、蓮華と思春の鍛錬に遭遇します。
この作品は、基本的に呉√にそっては行きますが、他√に
脱線することもあります。また、主人公も含めてオリジナルキャラクターが出てきます。
未熟なため文章におかしな部分が多々あるとは思いますが、長い目で見てくださると助かります。