放漫な動作で振り返ると、そこにいたのは黄色で統一された服装の男二人組。
少し離れた所には荷台とその荷台を引っ張る馬、怯える操縦者らしき男とそれを脅しながら監視する男の二人が見える。
なんというか…魔術師に見慣れたせいか変な服装を変だと言えなくなってきている自分がいる事に気付く。
キリが無いから突っ込む気も失せるというやつだ。
日本語を母語のごとく話す外国人にも違和感を持たなくなり始めているのだから、慣れとは恐ろしい。
「ヘン、ビビッて動けねぇのかよ。情けねぇなぁ、おい!」
「まぁそう心配すんな。身なりからして豪族の息子だろ?身代金をたっぷり貰うまでは殺しゃあしねぇよ。もっとも、その後どうなるかは保障できねぇけどな!」
「ま、奴隷商人にでも高値で売り飛ばすさ。ああ、今日は本当についてんなぁ。こいつといいさっきの隊商といい、当分は贅沢に生活できるぜ」
――豪族。
――奴隷。
「…いつの時代の話してんだ。奴隷制なんて60年近く前に廃止されてんだろーが…どこの発展途上国だよ、ここ」
労働力が何より必要とされるアフリカ諸国などでは未だ人身売買が成り立っているというのは有名な話だ。そういった国に落とされてたというなら彼らの話は納得できる。
(顔立ちも肌の色もアジア寄り。…タイ、カンボジア、台湾、中国…人身売買ならここら辺りか。不法入国で訴えられるんじゃねーか、俺…大丈夫だよな?)
現在地や細かい地理は携帯のGPSで調べれば問題ないか、とまずは目先の問題を片付けることにした。
のちの嫌な問題を先送りにした、ともいう。
「発展とじょ…ああん?何言ってやがる。頭大丈夫かこいつ」
「お気遣いどうも。でも、あいにく心配されるような頭はしてねーよ。…ところでお前らなんで日本語喋ってんだよ。どっかに翻訳機でも仕込んでんのか?」
「に、ほんご?…だめだこいつ、訳わかんねぇ…」
「真面目な顔して何きちがいな事言ってんだよ。もうちょっと怯えでもすりゃぁ可愛げもあんのになぁ…まぁいい、さっさと身ぐるみ剥いでやるよっ!」
聞きなれない言葉に戸惑った様子を見せる男に対し、もう一人が先走ったかのように素手で襲い掛かって来た。
腰にある剣を使わないあたり、それほどまでにこの制服が気に入ったと見える。
だからといって俺が簡単に渡すわけではないのに。
「可愛げとか身ぐるみ剥ぐとか…俺そういう趣味の人じゃねーから。ていうか、鬱陶しいんだ、よっ」
「ぐはぁっ!」
襲い掛かってくる敵の単調な動きをあっさり避けると無防備な体に拳を力いっぱい叩き込む。
経験論だが、みぞおちは相当痛い。
綺麗に入った一撃に男は殺しきれなかった勢いから数歩後ずさり、腹を押さえたままその場でひざまずいた。
しばらくは痛みに悶絶する事しかできないだろう。
「なっ…てめぇ!人が優しくしてりゃ調子に乗りやがって!」
「知ってるか?優しい人間ってのは追い剥ぎもしなければ、意味無く殴りかかっても来ないんだぜ」
修司の実力をなめきっていた賊は簡単に一人がのされた事に驚愕し、侮った事をようやく後悔した。
先ほどとは顔つきも変わり修司をじっと睨んで警戒して来る様子を見る限り、恐らく次は本気で来るだろう。
(つーか俺、こんな事してる場合じゃないんですけど。さっさと逃げてくれりゃ良いのに、何でこんな好戦的なんだよ)
恐らく手加減していたから負けた、という認識が強いからだろう。
未だに、本気でかかれば勝てると思われている。
武器も持っていなければ体も隙だらけな修司は賊にとって未だ坊ちゃん育ちの脆弱な存在としか認識されていなかったのだ。
もしも圧倒的な力でも見せ付けていれば、彼らは一目散にこの場を退散していたかもしれないと思うと、自らにかかる制限がわずらわしい。
「あーもう…どうしよっかなぁ」
外部での、ましてや人相手に能力を使用、するのはためらわれる。それが学園都市での一般常識である。
外部で超能力関係の問題を引き起こした場合、著しくモラルに欠ける人間、もしくは無差別テロリスト並みの危険人物と認定される可能性があるからだ。
学生という精神的にも幼い人間が持つには強大すぎる力を管理するためには仕方ない処置でもあるのだが、もしそれに該当する事になれば外出もままならないうえ、それどころか最悪、学園都市に飼い殺される。
いくら学園都市で生きたい、帰りたいといっても、そんなものはゴメンだ。
その懸念が、修司の能力を使おうという気持ちを抑えていた。
ただでさえ危ない橋を渡っている身なのだ。必要以上に悪目立ちする事もない。
「何ぶつぶつ喋ってんだ!ふざけてんのかお前!?チッ、奴隷なんてどうでも良い、その首かっさばいて服だけ売り飛ばしてやる!」
そう結論付けた修司の意見は、男が腰に帯刀している剣を抜きこちらに構えた瞬間。
(――要はバレなきゃいいんだろ?今俺けっこうピンチだし)
簡単に崩れ去った。
能力を人相手におおっぴらには使えない。
なら、カモフラージュ出来るものがあれば良い。
そう考えた末に目に付いたのは、先程の戦闘で戦闘不能になった男の、腰に付いたままの剣だった。
ろくな手入れもしていないなまくらだ。
それでも素手の修司にしてみれば脅威に感じるだろう、と男は先程の出来事を見事に棚に上げて自らの勝利を確信する。
「首なんて切ったらそれこそ血で台無しだろ?そこらへんちゃんと考えろよバーカ」
「てっめぇ!」
それでもうろたえない修司に男は業を煮やしたかのように襲い掛かった。
体に斬りかかろうとした寸前、修司は傍にいる未だグロッキー状態から立ち直らないこの男には見向きもせず、ただ剣だけを静かに抜き取り、応戦する。
その動作の速さに男は驚きながらも、足を止める事無く進み、強く握った剣を迷い無く振りかぶる。
修司はその場に佇んだまま片手で握る剣をカチャリと鳴らして向かい打った。
両者の得物が激しくぶつかり合い、剣と剣の打ち合う音が鳴り響く―――はずだった。
「なっ…!?」
しかし実際にそこにあったのは、緊張感のない声と共にたやすく得物を断ち切られ、目を見開く賊の姿だった。
「あー…やりすぎた」
その身一つで逃げ出していった三人組の遠ざかる背を見つめながら、修司はそう呟いた。何ともいえない感情を持て余しながら、刀を持った際地面に置いていたカバンを拾い上げ肩に担ぐ。
剣という媒介を用いて能力を使う。
それは力を刃の部分のみに集中させる事が出来るので、少量の演算で済む上に剣の元々の切れ味を活かせる。
簡単に言えば、楽だった。
が、それがむしろマイナス要因になったかのように力加減を完全に間違えてしまったのだ。
真剣を握る機会なんて今回が始めてという事を考慮すれば仕方が無いのかもしれないが、正直この威力はしゃれにならない。
鉄でも切れると豪語していた御坂のあの砂鉄で出来た電動チェーンソーなんて目じゃないだろう。
武器を切られた当事者の賊はというと、半分から上が綺麗に無くなった自らの得物を見て冷や汗が流れるのを止めることが出来ないようだった。
あの時は心なしか足もプルプルと震えていた。
少しだけかわいそうに思ったのも事実だ。
その後すぐに荷車の操縦士から感謝の念を伝えられ、近くの町に連れて行ってもらうことを快く応じてもらった。
荷台に乗り込み積荷の敷き詰められた場所から空いたスペースを探して腰を下ろす。
カバンからケータイを取り出し、GPS機能を存分に活用しようと画面を開くと左上には圏外の二文字。
通話不可。メール不可。ネット不可。
ケータイを持つ意味の約半数を占めるこれらの機能が使えない状況にため息が漏れる。
ろくに考えずデザインと使い心地で選んだ物だが、確か海外対応ケータイだったはずだ。
それなのに使えないとなると、適応外地域にいるのだろうか。
困った。
こうなるとこの国の大使館に直接赴いて保護してもらうしかないかもしれない。
勝手に空を飛んで国境を越えてミサイルが飛んでこられでもしたら周りに迷惑をかけるし、第一日本への方角すら俺は知らないのだ。
…なんにせよ、まずは町に行かなくては話にならない。
そうやって最も建設的な方法を模索していると、ガタンっ!と辺りの積荷が物音を立てる。
しかし特別大きな揺れがあったわけでもない。
「…今度は何だよ。さっきの賊の逃げ遅れか?早く出てこないと何しでかすか分かんねーぞ、今の俺は」
もしさっきの戦闘を見ていたのなら、俺と敵対する事は得策ではないと判断してくれるだろう。
そいつと話が出来るならここの場所やらいろいろと聞きたい事もある。できれば大人しく出てきて欲しい。
「あっ、怪しいものではありましぇん!賊に襲われてつい荷物に隠れたんでしゅ!」
「……」
「…あわわ、噛んじゃった…」
第一印象、挙動不審な女の子。
この子の名前を聞いた俺は、その口から次々と話される言葉、それから導き出される真実に、本気で第六位を殴りつけたい気持ちに駆られた。
【あとがき】
修司がこの世界で初めて出会った恋姫は雛里でした。
雛里可愛いよなぁ…妹に欲しい。
というか可愛すぎて手が出せない。
星も早く出してあげたいのがシロクマの心境です。
星大好き。
プロット立てずに思うがままに書いているので未だにルート決めてないんですよねぇ…蜀ルートか袁ルートで構想してるんですけどどっちがいいですかね?
あとはオリジナルルートですが…これは難易度が高いから厳しい。
魏と呉はダメです。
だって主人公がかすんじゃうもの。
あそこは華琳と雪蓮と蓮華が主役だもの。
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一人称がめちゃくちゃなのは勘弁してくれると嬉しいです。
そこらへんは時間があれば直していきたいと思います。