張角は重い病気にかかった。
原因は、心。
もう、彼女が治ることはないと妹達は確信していた。
そして、自分達の立場も―――。
最終話
『歌姫を想う堕天使』
張角が病のために動けなくなったため、広宗にて篭城することにした。
「天和姉さん。大丈夫?」
もはや治る見込みがないとわかっていても、奇跡で元気になってほしいと願ってしまう張梁。
「………」
だけど、張角自身は生きる気力が全くなかった。もはや自身が元気になったとしても無意味だと思い込んでしまっていたからだ。
「早く元気になって、また三人で歌を歌いましょうよ」
「歌?」
これまで病にかかってからずっと無反応だった張角が、口を開いた。
「ええ。だって、私達の歌はみんなを幸せにできる歌なのよ? こんな苦境だって歌で吹き飛ばせるわよ」
「………人和」
「何、天和姉さん?」
一旦、間が空く。そして、張角は言った。
「歌……って、何?」
それが、張角の最後の言葉となる。
―――時は流れて、皇甫嵩が奇襲で広宗を強襲したために張梁は戦死した。
「賈駆様。皇甫嵩様が張角の遺体を引きずりだせとのご命令です」
「はぁ? もう死んでしまっている人間をわざわざ墓から取り出せっていうの?」
「はぁ……部下達も、それはよくないと述べたのですが」
「………」
見せしめというやつだろう。皇甫嵩の考えも一理あるが、果たして死んでまで引きずりだす必要があるのだろかと賈駆は思った。
しかし……。
「逆らうことはできない……っか」
それが上下関係。それが当たり前の世界。
「………詠ちゃん」
傍にいて何も答えなかった皇甫嵩の補佐である董卓は、彼女の真名を呼んだ。
「……ごめんね月。ボクがいながら月を何度も戦場に出さしてしまって」
「ううん、いいの。少しでも詠ちゃんや兵士の皆さんの頑張りを感じたいもん。それに……」
董卓は一旦、間を置く。
「私は張角さんの歌好きだったよ。ただやり方が間違っていただけ、きっと外からじゃ世界は変わらない。内から変えていかないといけないと私は思うの」
賈駆は驚いた。いままで何も意見も言わず、目指すことも理想もなかった彼女がいきなり世界を変えると言ってきた。
「……でも、それは大変なことなのよ? もしかして死ぬかもしれないのよ?」
賈駆の問いに董卓は笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。詠ちゃんがいるもん」
「………」
結局はボクが頑張るのねと呟く賈駆だが、今まで意思のなかった董卓に役立たせることに喜びを感じていた。
「それじゃ……詠ちゃん。まずは、洛陽に行こう」
そして、董卓は動く。
張角の反乱をキッカケとし、己の理想を叶えるために。
完
ちなみに記録上、三国志での張角達の末路はこう書かれている。
184年10月、皇甫嵩は広宗で黄巾軍を奇襲によって破り張梁を斬った。このときすでに張角は病死していたのでその遺体を引きずり出し晒した。さらに鉅鹿太守の郭典と共に、曲陽にて張宝を打ち破りこれを斬った。これにより指導者を失った黄巾の乱は収束に向かう。
しかしに、張角ら幹部が死去した後も乱の根本的原因である政治腐敗による民衆への苛政が改善されることはなく、黄巾賊の残党はこののちも広範な地域に跋扈し、反乱を繰り返したり、山賊行為や盗賊行為を行っていた。これらの中で楊奉、韓暹に率いられ白波谷に拠った残党は「白波賊」と称されたが、献帝の洛陽帰還の際に後漢に帰順し、皇帝奪還を目論む李傕、郭汜らと交戦した。後に盗賊のことを「白波」と称するのはこれによる。また、青州は黄巾賊が大流行しており、青州の黄巾軍100万人が中国北部を大いに荒らし、公孫瓚に大敗するも、192年、兗州刺史の劉岱を殺したが、曹操の討伐を受け、黄巾賊の兵30万人・非戦闘員100万人が曹操に降伏した。
―――要するに、張角の野望は曹操へと受け継がれていくことなる
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前回のお話
朝廷の名の下に各地の諸侯たちに滅ぼされていく黄巾党。
もはや、張角の歌でどうこう出来るレベルではなくなっていた。