No.208226 真・恋姫夢想 とある桂花のデレ日記 ~終の記~狭乃 狼さん 2011-03-26 19:59:16 投稿 / 全9ページ 総閲覧数:19742 閲覧ユーザー数:15140 |
「とある桂花のデレ日記~終の記~」
「こっちを見るな!」
私を見て。
「近づくな、向こう行け!」
傍に来て、近くに居て。
「話しかけるな、声を出すな!」
もっと話しかけて。もっと声を聞かせて。
「顔も見たくない!てか今すぐ消えて!」
もっとその顔をよく見せて。ずっとここに居て。
「あんたなんか、大っっっ嫌いなんだからね!!」
貴方が好き。大好き。愛してます―――。
以上。
私の口から出た言葉と、心のうちのほんとの想い。
私こと、荀文若、真名は桂花の、目の前に居る人物への、偽りの罵声と真実の本音。
それを、少々困った顔で頭をかきつつ、その青年は、それでも笑顔のままで聞いている。
青年の名は、天の御使いこと、北郷一刀。
その彼に、罵声とともに向けるのは、まるで汚物でも見るかのような顔と視線。
そんな表情と台詞を向ける以上、私は彼を嫌悪している―――。それが世間一般の評価。
けれど、その裏に隠された真実の想いは、まったくの正反対のものだということを、けして誰も知りはしない。
夢に見るただ一つの願い。いつかは叶えたい、ひそかな望み。それは、彼の子を抱き、そして、そんな私のすぐ傍で、優しく笑顔を向ける彼に、仕方なさげに笑うこと。
その日の来ることを願いつつ、私は今日も、彼に冷たく接し続ける。
「寄るな触るな顔を向けるな!それだけで妊娠しちゃうでしょうが!全身精液の種馬男!とっととどっかいけこの変態!!」
……よくも出てくる、これでもかというくらいの、そんな罵声を投げかけつつ。
某月某日
「・・・・・・どーやって出ようかしら・・・・・・」
私は今、深~い、穴の底に居る。何の穴かって?・・・・・・落とし穴です。はい、いつもどおり、一刀を落とすための罠です。
で、何で自分がその穴の底に居るのかというと。
「・・・・・・固定が甘かったかしら」
ちらりと、自分の脇にある一本の縄を見ながらつぶやく私。・・・そうです。掘り終えた後、自分が昇るために用意しておいた、縄。どういうわけか、作業中に落ちてきました。
「・・・・・・内緒でやっていたから、誰もここのことは知らないし。はあ~。誰か、私が居ないことに早く気づいてくれないかな・・・・・・」
それが華琳様だったらすごく嬉しい。・・・まあ、また懲りもせずにと、お説教の後、お仕置きが待っているんだろうけど。それはそれでいいかな?華琳様のお仕置きだったら、かえってご褒美ですもの♪・・・けど。本音を言えば。
「・・・・・・一刀が見つけてくれないかな・・・・・・」
怒られ、呆れられるのは目に見えてる。それが自業自得なのもわかっている。けど、そうなった時の事を想像すると、ついつい顔が緩んでいく自分が居る。
彼の気を引く。
そのためだけに、こんな穴をわざわざ掘って、彼を怒らせようとしている。たったわずかな間。その間だけ、彼を自分のものにしておくためだけに。
そんなことを考えつつ、私はその場に座り込む。ふと空を見上げれば、雲一つない、突き抜けるような蒼空が広がっている。・・・私の心とは、まったく反対の状態。
「・・・・・・私の心は雲一面だもの。わずかに見えているのは華琳様という名の太陽だけ」
それ以外―――心のほとんどを占めるはずの青空は、常に”嘘”という名の雲で、隠されている。青空って言うのは、もちろん一刀のこと。私の心の大半を占め、埋め尽くしている、大切な人。
「・・・・・・そんなこと、間違っても当人には言えっこないけど。・・・・・・・今更、こっ恥ずかしいもん」
出会ったときから、私は彼に夢中。その声を、その顔を、その仕草を。見れば見るほど惹かれていく。・・・はじめて抱かれたときなんて、もう、天にも昇る心持だった。・・・表面上は、思いっきり嫌がりつつだけど(笑。
そんなことを考えて居る間に、私はいつの間にか眠ってしまっていた。そして。
「(パチクリ)」
「お?目が覚めたか?」
え・・・っと。
なんで、一刀の顔が、目の前にあるんでしょうか?てか、何で私、自分の部屋で寝てるんでしょうか?
「・・・・・・どうした?桂花?」
「・・・・・・なんであんたが居るの?」
「なんでって・・・散歩してたら、なんかずいぶん深い穴が開いてるなって思ってさ。またいつもどおり、桂花が落とし穴でも掘ったのかと思ったんだけど、蓋もせずに放っておくわけもないしなーと思ってさ。覗いてみたら」
・・・・・・寝こけていた私が居たって分けですね。
「で?何してたんだよ?あんな穴の底で」
「な、なんでもないわよ!そ、そう!ちょっと気分転換に、深い穴の底で眠りたいと思っただけよ!」
わー。われながらなんていう、無茶苦茶な言い訳。
「そ、そう」
「そ、それよりも!あんたが私を助け・・・もとい、引っ張り出したわけ?」
「まあ、ね。季衣が一緒に居たからさ、上で縄を持っててもらってさ」
「・・・で?」
「・・・で?とは?」
ギロ、と。一刀をにらみつけ、とあることを聞こうとする私の口。ちょっと待て私の口!何を言おうとしてるの!?
「まさかあんた、これをいいことに私に何もしてないでしょうね?人の寝込みを襲って、口では言えないようなあんなことやこんなこと」
わー!やっぱり言ったー!何でこんな台詞しか出てこないかな?!私の口!!ホントなら感謝の一つも言いたいのにぃー!!
「・・・・・・してませんって」
「ふんっだ!あんたの言うことなんか、どれほど信じられるもんだか!・・・ま、まあ、衣服に乱れはないし、”とりあえず”!信用してやってもいいけど!?」
「・・・・・・そりゃどうも」
あ。涙目になってる。・・・泣きたいのは私のほうなんだけどなー。まあ、自業自得なんだけど。
「・・・結局、喧嘩したまま、部屋から追い出しちゃったもんなー。あ~あ。せっかく一刀と二人っきりだったのにな~」
日記を書き終え、筆を置いた私は一人ため息を吐きつつ、そうぼやく。この日記も、気づけばもう十冊目。よくまあ、ここまで続いたものだ。
「・・・もう、隠し棚にも収まりきらないな~。どこか新しい隠し場所を見つけないと」
とりあえず、いつもの場所にそれを隠し、そのまま寝台に横になる。そして、隣の机にある写真に手を伸ばし、それを顔の前にかざしてじっと見つめる。
「・・・・・・・なんで、私って、こんなに素直じゃないんだろ?・・・・・・男嫌いは元々だけど、どうしてこんなにねじくれちゃったのかな?」
男嫌いになった原因は覚えていない。物心ついたときには、もう、そうなっていた。始めのうちなんて、今よりもっとひどかった。道で男性とすれ違う。それだけで苦痛だったくらいだ。・・・袁家に仕官したばかりの頃には、幾分かだけマシにはなっていたけれど。
「・・・袁家に嫌気が差して、華琳様にお仕えすることを選んで、一官吏として陳留に仕官して、そして、一刀に出会った。・・・運命だと思ったな~。華琳様以外に、私が惹かれた人間。・・・それが男だったのは、私自身も意外だったけど」
クスクスと。
出会った時の、私の口の悪さに呆れる一刀の顔。それを思い出し、一人笑みをこぼす。そして、こんなことを思った。
「・・・あの出会いの時。・・・ううん。それよりも前に戻って、一刀と出会えていたら、華琳様よりも早く、私と一刀が巡り会っていたら、どうなっていたんだろ・・・」
ふと、そんな疑問が頭をよぎる。そして、
「・・・・・・もし。・・・もしも、そんな状態に戻れたら。・・・今よりも、素直に出来たかな・・・?そして、彼と、笑顔で、接することが出来たのかな・・・?」
それは、願いへと、変わった。
「・・・・・・彼の話だと、この世界で初めて出会ったのは、星、風、稟の、三人だったっていう話だったわよね。・・・それが、私だったら・・・良かったのに・・・な」
そんな、叶うべくもないことを願いつつ。
私は、襲ってきた睡魔の軍門に下り、まどろみの中へと落ちて行った。
机の引き出しの一つが、かすかな光を、放っていることに、気がつかないままに。
そして。
同じことを願ったものが、私の他に、あと二人、居ることを知らずに。
外史―――。
その発端は、正史の人間の、想像と願いが、強い想いの力にて、その形を成したもの。
しかし。
発端となりえるのは、何も正史の人間の想いだけとは限らない。
外史に生まれた外史の人間であっても。
強く願い、想い描けば、その発端となるに、十分な一因となる。
そして、同じ願いを持つ者が、複数存在すれば、なおその可能性は増す。
切欠となる、強い想いの宿った依り代があれば、さらに、それは高くなる。
魏。
呉。
蜀。
それぞれの屋敷にて、”それ”は輝きを増していた。
強い想いの込められた”それ”は、一つの外史を生み出すに、十分足りえる依り代となった。
ここに、新たな外史が生まれた―――。
『ツン・恋姫夢想 ~ツンツン娘の三国志演義~』
近日公開!!
・・・・・・・・・かもしれない(笑)www
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デレ日記、最新にして最終、公開です。
というわけで、ご好評だったこの日記シリーズ、
今回をもって最後と相成ります。
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