No.207953

少女の航跡 第1章「後世の旅人」29節「一つの決着」

都奪還作戦は成功して、ようやく一つの決着をつける事ができた主人公達。でもそれはどうやら、まだ始まりでしか無かったようです。

2011-03-24 22:02:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:375   閲覧ユーザー数:339

 

 私は《リベルタ・ドール城》のバルコニーから、城下町の姿をじっと見据えていた。

 

 『ディオクレアヌ革命軍』の襲撃と、つい半日前に起きたばかりの、市街地、そして城での激し

い戦い。それによって街は大分荒れてしまった。城壁の一部は大きく崩れてしまったし、街のと

ころどころで未だに煙が昇っている。

 

 さらには、街外れに残っている、破壊された『リヴァイアサン』の残骸もどこか不気味なまま

だ。

 

 この城にいた者達、そして街にいた革命軍の兵達は、誰に知られる事もなく、完全に姿を消

してしまった。中には捕らえられた者達もいたが、それはごくごく少数。ほとんどが、『フェティー

ネ騎士団』によってやられたか、混乱に紛れて逃走してしまった。

 

 そして、自分が王のごとく玉座に構えていた、あの『ディオクレアヌ』も、どこかへと姿を消して

しまっていたのである。

 

 確実に、この街が襲われ、占領されたという痕跡は残っているだろう。後世に継がれる歴史

にも、くっきりと痕跡を残すだろう。

 

 だがしかし、この街はすぐに復興する。王は救出されたし、城も奪回できた。そして、大勢の

人々を守る事ができる者達の活躍も、国の民に伝わった事だろう。

 

 私は、どれだけ協力できたかは分からない。ほとんどが、成り行きに流されていたという感じ

で、自分が大それた事をしたかも分からない。

 

 ほとんどが、カテリーナや、彼女の率いる『フェティーネ騎士団』の活躍であり、私はただ一緒

に行動していたというだけだ。

 

 しかし、ほんの少しでも、大勢の人々を救う手助けになったのならば…。エドガー王には感謝

されていた。

 

「これは、まだ始まりに過ぎん…。それは分かっておるな…?」

 

 声が聞えてきた。それはエドガー王の声だった。私の思考の中に遮るかのように響いてき

た。

 

「はい…。『ディオクレアヌ』自体が、誰かによって操られている。それは間違いないでしょう。実

際に会って見て分かりました」

 

 続いてカテリーナが答える声。彼女はエドガー王の前に立ち、その周りには、クラリスやルー

ジェラ、フレアーとルッジェーロもいた。

 

「ええーッ!? こんなに大変だったのに、まだ始まりに過ぎないの?!」

 

 フレアーの声が響いた。

 

 王が前いた王室は、天井と壁が破壊されてしまったので、ここは客室だった。臨時の王室と

して利用されている。

 

「良いかフレアー? このような戦いは、歴史を遡れば無数にあった。街が占領され、王が捕ら

われる事など、戦国の世ではしょっちゅうじゃった。だが、おそらく、これから起こる事は違う」

 

 私も王の前に並んだ。そして彼の話に聞き入る。

 

「時代さえも変える出来事が起こる」

 

 エドガー王は言った。彼は続ける。即席の玉座から立ち上がり、ゆっくりと歩み出した。

 

「それは、我々も覚悟の上です。何が起ころうと、陛下とお国をお守りします」

 

 そうルッジェーロが答えた。

 

「頼もしいな。お前のような者達がいると、わしとしても心強いよ…。民としてもそうじゃろう…」

 

 王がルッジェーロを見てそう言うと、彼は口元が緩んでいた。どうも嬉しい事が顔に表れてい

るらしい。

 

「ただ…、今は、わしができる事をしよう。民の前に立ち、皆を安心させなければならんな…」

 

 私達は、再び人が戻った《リベルタ・ドール城》の中を歩き出した。

 

 階段を降り、廊下を歩き、向かった先は、城の正面入り口だった。沢山の人がいる。声が聞

えてくる。

 

 騎士達に守られ、王が歩いていく城の正面入り口の先では、民が集まっていた。その人数は

数え切れないほど。皆が、王を見ようと集まっていた。

 

 皆が、《リベルタ・ドール》のみならず、『セルティオン』の民が、思わず耳を塞いでしまおうかと

言うくらいの歓声を上げている。

 

 まだ、王都が奪回されて、半日しか経っていない。だというのに、自分たちが解放されたこと

を知った民は家々から飛び出し、王宮へと駆けつけていた。

 

 中には騎士達もいる。負傷したというのに、手を貸されこの場に来ている者の姿もあった。

 

「エドワード様ぁ!」

 

「陛下ッ! 国王陛下ッ!」

 

「エドワード王万歳ッ!」

 

「『セルティオン』は不滅なり!」

 

「《リベルタ・ドール》は永遠なり!」

 

「万歳ィィィーッ!」

 

 エドガー王は手を振り、民の歓声に答えていた。

 

 私も、王についていくカテリーナ達と一緒だったが、大勢の人々の目に触れ、凄まじい歓声

に、顔を赤くするほど恥ずかしいのであった。

 

 

次の章

 

30.影で動く者達


 
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