風が頬を撫でる。
なんて、格好をつけた表現が似合う状況ではなく。
風が体に叩きつけられる。
といった表現が似合う。そんな状況。
なんて言っても状況を理解してもらうのは難しいだろう。
俺は今、ほとんど人気の無い高級船舶から、「爆弾」を抱えて飛び降りている真っ最中だ。使われている火薬はTNT。……まぁ、いわゆる軍用爆弾で。コレが爆発したら俺は跡形も無く吹き飛ぶに違いない。
ほら。海面が近付いてきた。
ドッボンッ!!!
そんな音を立てて、俺の体は海の中に落ちていく。
海面に叩きつけられた痛みが体に、海の青さが視界いっぱいに広がる。
そして。
ズガン!!!!!!!!!!
感じた痛みは一瞬で。感じた眩しさも一瞬だった。
僕の意識は暗黒の淵へと沈む。
もう、何も見えない。何も分からない。
これですべてが終わる。
心に浮かんだのは安堵だったのだろうか。
最期に思い出したのは、最愛の妹の顔か、それとも爆弾をしかけた敵の顔か。それすらもわからなかった。
ドタドタ
そんな誰かの足音で目が覚めた。
いや、夢落ちではなくてね。
死んで、何故かここにいて、気が付いたらもう小学生くらいで。
何言ってるかわからないかも知れないけど、コレが俺の認識。
「お生まれになりましたぞー!!!! 姫君がお生まれになりましたぞー!!!」
生まれたのは女らしい。
思わず溜息をつく。
この世界はわけがわからない。
「姉」である「孫策」。「双子の姉」である「孫権」。
まぁ、とっくの昔に考える事は放棄したのだけどね。
ドタドタドタドタ
足音が近づいてくる。
率直に言おう。うるさい。俺は別に構わないけど、蓮華が起きるじゃねーか。考えろよ。ッつーか母さんは励みすぎじゃないだろうか?
三人も子供がいるのに。
「蓮音! 蓮華! 起きてる!?」
ガタン!
と、大きな音を立てて扉は開かれ、入って来たのは、姉である孫策。真名――――名前以外につける物でとても大切な物と教えられた――――を雪蓮。
正確な年齢はわからないけど、俺を5歳としたら10歳くらいだろうか。いや、もうちょっと上かな?
ピンクの髪と口元のほくろ、それに年の割には成長した胸が特徴的な人だ。
「俺は起きてるけど……蓮華はまだ寝てるから」
そう言って俺は蓮華……ピンクの髪に碧眼の少女を指差す。
「そう……そんなことより生まれたのよ!」
「うん。知ってる」
「反応薄くないかしら?」
早くも人生に疲れてるからね。
心の中でそう返す。
「赤ちゃん見ても面白くないよ」
「そう? そんな事ないと思うけどなぁ」
人それぞれだよ。
そう。人それぞれ。
この世界が三国志の世界だと信じるのも信じないのも、人それぞれ。
妹の名前は孫尚香で真名は小蓮だそうだ。
小蓮が生まれて7年。12歳。
この時代ならもうすぐ成人といったところ。
と、まぁ、そんなわけで。(何がそんなわけなのか、わからないけど)
俺の賊討伐以外の始めての従軍が昨日決定、今日出発となったそんな日の朝。
ゆさゆさ
と、誰かが俺をゆする。
まぁ、見なくても分かるけど。
「起きてください、蓮音様」
「起きてるよ。起きてるけど、起こしにこなかったから、起き上がらなかっただけ」
「むぅ……なんでそんな意地悪な事言うんですか」
……意地悪だろうか?
いや、そんなことはない。というか、ややこしい言い方なだけで、普通だし。
「起きるから……ゆするの止めて」
いつまでゆすってる気だよ、まったく。
「あ、ああ、あああああ! ごめんなさい!」
「うるさい。わめくな」
「ごめんなさい……」
慌てたと思ったら、シュンとなる。
こういう、感情の起伏が激しい奴は苦手だ。前世からずっと。
なんでかな、感情移入をしてしまいそうになるから……とかかな?
なんて、そんなハズないけど。
バッ
と、起き上がり、少女の方を向く。
肩まで伸びた金髪のセミロングをそのままに。眼はパッチリで鼻と口は小さめ、眉は整っていて、体は同世代の少女と比べると小柄なほう……だと思う。
んで、まぁ、名前は凌統。真名を愛梨。
俺のお付きというか、従者というか。そんな立ち位置の娘だ。
「おはよう、愛梨」
「え、あ、はいおはようございます」
朝食を手早く済ませ、身支度を整えて、兵舎へ向かう途中。
「……なに?」
「お兄様、行っちゃやなのぉ!」
やなのぉって、言われてもな。
「何でやなのぉ、なんだよ?」
「うぅぅぅ、だってだってやなのぉ!」
要領を得ない。だから、子供は好きじゃないんだ。
妹だから許すけど。
「いいかげん、服を離してくれないか、小蓮?」
「やだやだやだ!」
「小蓮。蓮音が困っているでしょう?」
蓮華登場。
「蓮華」
「やだぁ!!」
はぁ。
と、思わず溜息を吐く。
子供をあやした事なんてないから、扱い方が分からない。
「もう一回聞くけど、なんで嫌なんだ」
「だって、だって! やなんだもん!」
「あのなぁ、小蓮。怒るぞ?」
「やだやだ!!!」
「蓮音も。そんな顔しないの。お兄ちゃんでしょう」
と、蓮華が言う。
お前は俺の母親か。ガキを宥めるような言い方をするな。
「あ、あの蓮音様。小蓮様は私が宥めておきますから」
……いたんだね、愛梨。
「ん、まかせる」
と、だけ答え、歩き出す。
「蓮音。気をつけて」「お気をつけて」
二人の声に、軽く片手を上げて返した。
江夏。黄祖。逃走。追撃。違和感。
要約するとこんなところだろうか。
まぁ、つまり、江夏に陣を張っていた、黄祖を襲撃。黄祖は応戦してきたが、俺と母さんの軍の挟み撃ちで、あえなく逃走。そして俺と母さんはさらに追撃をかけた。
というわけ。
ここまでは良かった。
だけど。深く深く追撃するにつれて違和感は深まっていく。
何度も伏兵の可能性を考えたが、斥候の情報ではいないとの事。
ならば斥候が裏切っている可能性も考えたが、黄祖と孫堅。どちらに使えたほうが後々得なのかは猿でもわかる……と思う。
なら、なんだ?
爆弾?
そんなわけあるか。
自分の考えを自分で否定する。
横目でチラリと母さんを見るが、違和感を感じている様子は無い。
でも。
その姿はまるで。
死神に誘われているかのような――。
ふと、俺の視線に気づいたのか、母さんがコチラを見る。
「どうしたの? 蓮音」
「別に……」
ぞんな短い言葉を交わした瞬間だった。
ドドドドドドド!!!!
突然、土砂が俺たちを飲み込んだ。
「うわぁ!!」
自分が出した大声で眼が覚めた。
視界に入ってくる、俺の知らない天井。壁。風景。匂い。
「ああ、夢じゃなかった……」
そう呟く。
「この世界」に来てから何度夢であることを願っただろう。今日寝て、明日起きたら夢だと、何度信じただろう。目が覚めたら、最愛の妹が俺の顔をのぞきこんでいる、そんな状況を何度思い描いただろう。
夢であれと思いながら。
この世界で生きることを認めていた。
前世を恋しく思いながら、今を愛しく思っていた。
それが。
それがいけなかった。
どちらかを捨て切れなかった……。
だから母さんは……。
「クソったれ……。ああ、畜生。何だってんだよッ!」
自分が吐きだした声は、驚くほど掠れていて。
流されたときに怪我をしたのか、左の脇腹が僅かに痛んだ。
「なんや元気そうやん」「よく見たら結構イケメンなのぉ~」
「こらお前たち。見世物じゃないぞ」
ッ!?
気がつくと、扉の外に三人の女の子がいた。
この距離で気付かなかったとは……ね。
「ウチは李典。んでこっちが于禁と楽進や」
「……俺は孫翊。字は叔弼」
「孫翊……聞いたことあるような……」
聞いたことあるようなって……俺の名前は結構通ってるぞ?
まぁいいけど。
「なんでもええやん! 村長さんとこ案内するからついてきぃ」
そう言って、ビキニっぽい服に身を包んだ関西弁少女が俺の手をひっぱる。
「痛い痛い!」
傷口が!
ってアレ?
今更ながら、手当されている。包帯巻かれてるし。
「あ~ごめんごめん。……動けへんとなると……凪が担ぐしかないなぁ」
「いや、動けるから」
君の引っ張り方が悪かっただけで。
「案内してくれればいい」
そう言って、そっと立ち上がり、体を確認。
そしてゆっくりと一歩目を踏み出した――。
~あとがき~
えっと……ここまで読んでくださってありがとうございます。
何となくで書いた作品なので、伝わりにくかったり、自己満足になってたりするところがあったと思います。
すいません<m(__)m>
続くかどうかわかりませんが、これからもよろしくお願いします(@_@;)
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はじめまして。
neoといいます。
この作品は処女作となります。
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