No.207289

真・恋姫†無双~恋と共に~ 外伝:こんな出会い

一郎太さん

外伝

2011-03-20 23:09:39 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:14552   閲覧ユーザー数:9776

 

こんな出会い

 

 

マズった………。待ち合わせに遅れそうだからって、近道なんかするんじゃなかった。私はいま………一言で言えばピンチだ。目の前には3人のガラの悪い男の人。髪が黒い人なんて一人もいない。それどころか一人はピンクのモヒカンなんていう世紀末ヒャッハーな人もいる。3人はそれぞれ厭らしい眼で私を見つめていた。

 

「どうする?こんな可愛い娘、なかなかいないぜ?」

「そうだな。さて、お嬢ちゃん………俺達といい事でもしようぜ」

 

 

 

もう一度言おう。いま、私はピンチだ。

 

 

 

 

 

 

いま、俺は雪蓮と街を歩いている。雪蓮と二人きりになる事は別段珍しい事ではないが、それでも今日は俺の気分がダウナー気味だった。理由は一つ。恋が勝手に雪蓮に合鍵を渡したうえに、起き抜けから変な世界に引きずり込まれたからだ。………なんだよ、死因が豆腐、って。

 

「ほらー、いい加減機嫌直してよ、一刀」

「うるさい。俺は腹が減ってるんだ。機嫌をとろうと思ったら何か奢れ」

「しょうがないわねぇ………じゃぁ、一刀が選んでよ」

「………………じゃぁ、牛丼」

「そんなところでいいの?」

「ただし、特盛、ネギだく、ギョク×2個。追加で豚汁とサラダ―――」

「恋じゃないけど、結構食べるわねぇ」

「―――を雪蓮が一人で行って一人で頼んで来い」

「………めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」

「冗談だ」

 

とまぁ、実際には口で言うほど怒ってはいない。ただ、朝のように雪蓮のペースに巻き込まれないようにしているだけなのだが。言葉の通り冗談はさておき、どこで食事にしようか考えどころである。

恋がいれば昼間からだろうが焼肉の食べ放題でも奢らせるのだが、恋は昨日友達のところに泊まりにいって、そのまま遊びに行っている。という訳で却下。昼間から焼肉は重すぎる。

 

「まぁ、牛丼でいいや」

「………ちょっと、こんな美人を連れてそんなチョイスはないんじゃないの?」

「え、俺が決めていいんじゃないの?」

「でもあたしがいるんだから、もうちょっと気を利かせてくれてもいいんじゃない?」

「我儘だなぁ………」

「なにか言ったかしら?」

「いえ、なにも」

 

これだから女性というのは扱いにくい。恋みたいにお腹が満たせればなんでもいい、って娘は他にはいないのだろうか。

 

「じゃぁ、あそこでもいいか?」

 

俺はとりあえず、目についたファミレスを指差して問う。雪蓮は腕を組んで何事かを考えると、口を開いた。

 

「まぁ、一刀に期待したあたしが馬鹿だったわね………」

「ばーかばーか」

「うるさい!」

 

上から目線の彼女に言い返すも、拳で返される。本当に、女の子は扱い難い。

 

 

 

 

 

 

「さて、飯も食ったし、また帰って寝るかな………って、雪蓮?」

 

1時間後、食事と雑談(ただし喋るのは雪蓮で俺は相槌を打つのみ)を済ませた俺たちは、再び繁華街に出ていた。この後どうしようか、なんて会話を聞き流して俺の予定(=未定)を伝えるも、返事がない。振り返ってもその姿はなく、どこかのウインドウでも覗いているのだろうか。と、その時、ポケットで震える携帯に気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えて一刀と繁華街を歩く。デートをするにしても、どこに行こうかを決めなければならないが、一刀は乗り気ではないみたいだ。まぁ、こんな状態の彼の扱いには慣れている。無理矢理にでも引っ張っていけば、いつも諦めたような顔でついてきてくれるのだ。

そんな事を考えて歩いていると、ふと、建物と建物の間の暗がりが気になった。何かがいるわけではない。ただ、気になったのだ。あたしの勘はよく当たる。それはこれまでの経験上から知っていたし、またその勘を信じて行動すれば、結果的に良い方向へ事態が動く多かった。あたしは前を歩く一刀を放置して、その暗がりへと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………や、やめてください」

 

こんな時、自分の気弱な性格が悲しくなる。友達なら、こんな人たちが相手でも気丈に言い返してくれるはずだが、その友達は今はいない。当然だ。彼女に会いに行く為に移動していて、こんな騒動に巻き込まれてしまったのだから。

 

「つれないこと言わないでくれ、よっ!」

「きゃっ!」

 

そうこうする内に、腕を掴まれる。世紀末ヒャッハーな人はその外見に違わず筋力はあるようで、私の腕をとると、軽々と持ち上げられてしまった。

 

「は、放してくださぃ………」

「へっへっへ、可愛い声出してくれるじゃねぇか」

 

残りの男たちも下卑た目で見つめる、そんな時―――。

 

 

 

「ちょっと、その娘を離しなさいよ!!」

 

 

 

 

 

 

出てきたのは、背の高い美人さんだった。ハーフのデニムを履いて、白い半袖のパーカーのポケットに手を突っ込みながら仁王立ちをしている。

 

「なんだぁ、てめぇは?」

 

男たちも楽しみを邪魔されたようで声を荒げるが、すぐに彼女の容貌に気がつくと、再びいやらしい顔つきになる。

 

「なんだぁ?姉ちゃんも俺達と遊びたいのか?」

「いやよ、アンタ達みたいな不細工。それにたとえイケメンでも、女の子を無理矢理どうこうしようとする輩なんて、死ねばいいのよ」

「なっ―――」

「だから、さっさとその娘を放して消えろ、って言ってんの………痛い目に遭いたくなかったらね」

 

その挑発に、男たちもキレてしまったようだ。あたしの腕を放すと、そのまま走り出し、彼女に向かって殴りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

ポケットから携帯電話を取り出すと、メールが届いていた。差出人は―――。

 

「って、雪蓮かよ!」

 

今度はどんな悪戯を思いついたのかと思ってメールを開くと、そこには短い説明だけがあった。

 

『女の子が絡まれてる。ビルとスーパーの間の路地の奥。1分以内に来ること』

 

パチン、と携帯を閉じると、俺は軽く息を吐く。

 

 

 

「………ったく、無茶振りにも程があるだろうがっ!」

 

 

 

俺は来た道を全速力で戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

危ない!そう思った瞬間、鈍い音が響く。しかし、倒れたのは女性に殴りかかった男の方だった。見れば、彼女の背後から拳が伸びてきている。おそらくその拳が男を殴り返したのだろう。

 

「なっ!?」

「言ったでしょう?痛い目に遭いたくなかったら、さっさと消えろ、ってね」

「そういうのは自分で倒してからいうべきだな、雪蓮」

 

不適に笑うお姉さんの後ろから、一人の男の人が現れた。会話から察するに、2人は知り合いのようだ。呆気にとられている内に、もう一人の男を彼は殴り飛ばす。その姿にようやく事態を理解したのか、残る世紀末男が私に駆け寄り、羽交い絞めにした。

 

「て、てめぇら動くんじゃねぇ!!こいつがどうなってもいいのか!?」

「………だってさ、雪蓮。動くなよ?」

「あら、一刀もよ」

 

私の顔にはナイフが当てられている。要するに人質らしいのだが、あの2人はそれを気にした様子もない。もしかして私を助けに来たわけじゃないのだろうか。

 

「なに気の抜けた話してやがんだ!さっさとここから消えろ!でないと………」

「仕方がないなぁ、雪蓮、消えろってさ」

「いやよ、あたしたちの顔が見たくないならアンタが消えればいいじゃない。その娘を置いて」

 

 

 

いや、一応助けてはくれるらしい。

 

 

 

 

 

 

少しの間沈黙が流れるが、私を掴んでる男も、助けに来てくれたカップル(推定)も動く気配はない。というか、むしろカップル(暫定)の方は全く危機感を持っていないように見える。あの、私が危険なんですけど。

 

「さて、一刀。ちゃっちゃとやってしまいなさい」

「また無茶振りするなよな。さっきのメールにしたって、どう考えても1分の距離じゃなかったぞ?」

「でも58秒で到着したじゃない」

「………数えてたのか」

「まさか本当に間に合うとは思わなかったけどね」

 

それでも2人は会話を続ける。

 

「で、助けないの?」

「ほら、もしかしたらあの2人が実はカップルで、そういう嗜好の持ち主なのかも知れないぞ?」

「んな訳ないでしょ」

「でもさ、人質の中に仲間を紛れ込ませる方法もある、ってデ○ノートでライト君が言ってたじゃん」

 

また古いネタを………。

 

「また古いネタを………」

 

あ、ツッコミがかぶった。と思っていると、2人がこちらを向く。

 

「で、貴女は助けて欲しいの?」

「………へ?」

「それともそういうプレイ?」

「へぅ………そんなんじゃないです………助けて欲しいですぅ」

「だってさ、一刀」

「やっと聞けたか………じゃぁ、さっさと終わらせますか」

 

私の願いがようやく届いたのか、彼は腰を曲げると、地面に落ちていた空き缶を拾い上げた。

 

「そこの君、動くなよ?」

「………はぃ?」

 

そして、彼が振りかぶったと思った次の瞬間―――

 

「あべしっ!?」

 

―――カーン、という甲高い音と共に私の頭の上にあった男の顔が仰け反る。

 

「走れ!」

 

そしてかかる声。私は両肩にかかる力が弱まった事に気づき、その手を振り払うと、数メートル先にいる2人に向けて駆けだした。

 

「がっ……ま、待ちやがれっ!?」

 

男が声を上げたかと思うと、私の横を何かがもの凄い速さで通り過ぎる。

 

「はい、捕まえた」

「………?」

「ひでぶっ!?」

 

女性が私を抱き留めて振り向かせると、そこには、お兄さんが世紀末男をちょうど殴り飛ばす光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

「さて、とりあえず表通りに戻るか」

「そうね」

 

3人の男たちの気絶を確認すると、俺と雪蓮は、少女を連れて人通りの多いところまで戻った。明るいところで改めて確認すれば、なるほど、確かに絡まれるだけの要素を持ち合わせた顔立ちをしている。色素の薄い髪はわずかにウェーブし、パッチリとした瞳に、小柄な身体。中学生くらいだろうか。その少女はスラックス地のハーフパンツに、薄い水色のノースリーブシャツを着ている。そこから伸びる手足は白く細く、将来性を感じさせた。

 

「さて、お嬢ちゃん。昼間でも、ああいうトコは歩いちゃ駄目よ?」

「へぅ………わかりました」

「うん、わかればよろしい!それじゃ、あたし達は行くわね」

 

雪蓮が少女の髪を優しく撫でて別れを告げる。俺も一言声をかけて背を向けるが、後ろから力がかかった。振り向けば、俺の服の裾を少女が握っている。

 

「どうした?」

「あの、その……ありがとうございました………」

「あぁ、お安い御用だ」

 

お礼を言っていなかった事を気にしていたのかと思ったが、彼女は礼を述べてもまだ手を放さない。どうしたのかと見ると、その手がわずかに震えている。どうやら、遅れて恐怖が襲ってきたようだ。

 

「仕方ないわね、あんな事があった後じゃ」

「そうだな」

 

俺は雪蓮と顔を見合わせて苦笑すると、服を掴む手を優しく解く。その様子に少女は悲しそうな顔をするが、雪蓮がその娘の左手を、俺が反対側の手を握ると、ぎこちないながらも笑顔を向けてくれた。

 

「ほら、家に帰るなら送るし、誰かと会う予定だったんならその人のところまで送っていくから。安心して」

「あの、えぇと………ありがとう、ございます………」

 

 

 

ようやく安心したのか、彼女は両目に涙を滲ませながらもはにかむのだった。

 

 

 

 

 

 

聞けば、待ち合わせは駅だという。駅ならばここからそう遠くもない。歩けば10分でつくだろう。俺たちはその10分を他愛もない会話で埋めていたが、ふと、少女が質問をする。

 

「あの、お二人は…その、カップルなのですか?」

「いや、俺た―――」

「そうよ!」

「へぅ、こんなかっこよくて強くて優しい人が彼氏なんて羨ましいです」

「いや、そうじゃなく―――」

「でしょう?あげないわよ?でも、貴女も将来物凄い美人になる顔立ちだし、きっといい人が見つかるわよ」

「へぅ、そんな事ないですよぅ………」

「雪蓮、ちょっといいか?」

「なに、かず―――」

 

俺は雪蓮の返事を待たずにその顔を空いている方の手で鷲掴みにする。

 

「いだだだだだだ!いだいいだい!」

「嘘はよくないと思うな、俺」

「わがっだ、わがっだがら!!」

「よろしい」

 

ジタバタと暴れる雪蓮の顔を放すと、俺は彼女を促す。

 

「という訳で、先ほどのは嘘です。私たちはカップルじゃないの。ごめんね」

「え、そうだったんですか!?………お似合いだと思ってましたのに」

「聞いた、一刀?お似合いだって」

「はいはい」

 

少女の言葉にニヤニヤと笑う雪蓮を一蹴し、俺は再び歩き出した。

 

ほどなくして、駅に到着すると、こちらに駆け寄る影があった。深緑色の髪をたなびかせ、小さな鼻の上には赤いフレームの眼鏡をかけている。

 

「月、遅かったから心配しちゃったじゃない!………ってこの人たちは?」

「うん、近道したら変な人に絡まれちゃったんだけど、このお兄さん達が助けてくれたの」

「そう、無事でよかったぁ………あの、ボクの親友を助けてくれて、どうもありがとうございました!」

 

そう言って、少女は腰を曲げて礼を述べる。

 

「気にしないでいいわよ。それより月、でいいのかしら?ここまで来ればもう大丈夫ね」

「はい、あの、ありがとうございました。えと………」

「雪蓮よ。そう言えば、まだちゃんと自己紹介してなかったわね。で、あたしの彼氏が―――」

「あ?」

「―――こっちがあたしの『友達』の一刀よ」

「はい、一刀さんもありがとうございました」

「気にするな。じゃぁ、今度こそ俺達は行くから。気をつけてな」

「はい」

 

そう言って、月と呼ばれた少女は親友と連れ立って去っていく。その後ろ姿を眺めていると、眼鏡の少女が月に何事かを話しかける。と、月はいくらか躊躇した後、彼女に向かって頷き、こちらに駆け戻る。その手にはバッグから取り出した携帯電話を持っていた。

 

「どうしたの?」

「あの、よかったらお二人の連絡先を教えてもらえませんか?今度お礼をしたいので」

「お礼なんていいわよ。でも、連絡先は交換しよっか」

「軽いな」

「いいじゃない。それに、このくらいの年頃の子にとって、大学生の知り合いがいるのって結構重要よ?精神的な成長にも繋がるわ」

「重いな」

 

それはいいとして、俺と雪蓮も携帯を取り出し、赤外線で連絡先を交換する。どうやら月は苗字を登録していないらしく、俺と雪蓮の携帯には彼女の連絡先と名前のみ表示されていた。

 

 

 

 

 

「「………ライトっ!!」」

「へぅ…『ゆえ』ですぅ………」

 

 

 

そんな、とある休日の昼下がり。

 

 

 

 


 
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