真・恋姫無双 二次創作短編小説 ~異聞録~ 其の陸
『 とある思春の続・閲禁報告書 』
○月○日
部屋に戻ると甘述が甘えるように、思いっきり飛びついてきた。
そして今日一日どう過ごしていたかを楽しそうに話す。
私と違い。感情表現は素直なこの子だけど、人に甘えるのが苦手な所は、どうやら私に似てしまったらしい。 こうした甘える事をするのは私と父親である北郷にだけ。
「孫登ったら、すぐに泣いてお父様の気を引くんだよ」
「孫登様もお前と一緒だ。 父親の気を引こうと一生懸命なのだよ」
昼間短い間だけど、一月ぶりに父親と遊べた事。
蓮華様の子の悪口を言いながらも、普段は誰よりも気にかけている事を私は知っている。
ただ父親であるアイツの前だけは、どうしても我が出てしまうのだろうな。
それは他の子もきっと同じ事。 そう思いながら、娘の髪を優しく撫でてやる。
愛しい我が子。
何より彼との証。
私はそんな娘をぎゅっと抱きしめる。
彼の残り香を残す我が娘を。
今夜は早く寝る事にしよう。
娘に彼の香りが残っているうちに。
○月×日
まったくあの男は、何処までお人好しなんだ。
優しさが彼の魅力の一つだと分かっていても、それが頭に来る時はある。
行き倒れた袁術と張勲を、馬鹿な事をしないように保護するのは百歩譲って良しとしよう。
胡麻磨りだと分かっていても、そのために彼が呉の将全員の所に何度も閨で説得して廻った恩恵を考えれば、さして害意はあっても害のないあの二人を放逐する事には目を瞑る事が出来る。
だが、かといって街中をあの二人と楽しそうに回っている姿に、何も思わないと思うのか?
ましてや二人のために汗水垂らして蜂蜜を探すなどと。
そんな事など周りの侍女か兵士に命じれば済む話を、私にされて微笑んでいられるものか。
なにより、これ以上女を増やされてはたまらないと、感情に任せて彼に辛く当たってしまった。
彼に背を向けた先で、その事に落ち込んでいる私の耳に、明命のおせっかいの声が聞こえる。
「明命。何をしているっ!」
うむ、とりあえず後で団子でも驕ってやる事にしよう。
○月△日
明日は待ちに待った工作訓練の日。
個人戦では我ら呉の将の方が、優れている事を知らしめてやる事が出来る。
特に魏の猪馬鹿とか。
三歩歩いたら忘れてしまうような片目の鳥頭とか。
胸と腕力に栄養が行き過ぎて、頭が可哀相奴とかっ。
……こほんっ
とにかく私や明命が、三国で最も優秀な将だと彼に見せてやれる。
他の連中も、似たような思惑なのだったのだろう。
北郷を訓練に参加させる事に、誰も反対をしなかった。
とりあえず北郷が逃げ出さないように、ギリギリまで連絡しないように工作をしておく事にする。
○月◇日
工作員訓練は順調だった。
明命のおかげもあり、普段から彼に無暗矢鱈と暴力を振るうばかりか、無用なまでに育った胸で、彼の視線を奪うあの二人を真っ先に血祭り…もとい吊るし上げる事が出来た。
そして次々と、練りに練った策と罠に引っかかっていく将達。
少なくとも書かれた落書きによって、しばらくは彼女達が彼と閨を共にする事はないだろう。
そして、今夜は勝利者である私と明命が、彼の寵愛をそう思っていた。
明命の裏切りがあるまでは。
いや、明命としてはそう言うつもりはなかったのだろう。
北郷を残し全員を捕獲した以上、もうのこ訓練も終わったも同義。
故に北郷を捕まえるだけの、儀礼的なもので終わるはずだった。
明命なりの純粋な問いかけがあるまでは。
「『つるぺたおっぱい』『ちっちゃいおっぱい』『普通のおっぱい』『でっかいおっぱい』……世の中には数々のおっぱいがありますが、一刀様が一番お好きなおっぱいはどれですかっ!?」
「ぜんぶすき!!!!!!!!!!!!」
ぷちっ!
「……ふざけるな」
ごすっ!
其処は、私や明命のおっぱいが好きと言うべき時だろう!
いいかげん女心を少しは理解しろっ!
……いや、確かに北郷の言葉は私の胸も好きだと言う事だろうが、それはそれこれはこれだ。
まぁ気絶させてしまったものは仕方ない。
「明命は右の頬に、私は左頬に書かせてもらおう」
これで暫く此奴に女が近寄る事は………ないと言えないのが残念だが、少なくとも甘い雰囲気になる事だけ防ぐ事が出来るだろう。
×月○日
まったく、いったいどうしろと言うのだ?
先日明命が不思議な体験をし、猫の霊がが明命に乗り移ったらしいのだが、そんな事などある訳ないと馬鹿にしていたのだが、………馬鹿に出来なくなってしまった。
そのなんというか、私の頭の上と腰の下あたりに変なモノが生えてしまった。
たまたま一緒にいた明命が言うには、この街にもう一体だけ残っていた猫の霊との事。
そしてこれを取るには、その彼とするしかない訳だが、この場合は私が彼を誘うと言う事になってしまう。
今まであの手この手で、彼から私を抱くように仕向けてきたり、人を出汁に使ってきたが、私の方から誘うなどした事がないぞ。
そう頭を悩ませていると。
「くっ」
乗り移った猫のせいなのだろう。躰がどんどん熱くなり疼いてくる。こ、これがサカリと言う奴か。
苦悶の声を上げながら、このままでは、気がおかしくなってしまうと判断した私は明命に、後の事を任す。
そして部屋で彼を待つ間、私は彼にこれからされる事を期待しながら、どう体面を取り繕うか必死に考える。 いっその事気絶した振りを取っておくか?
だけどそんな悩みなど杞憂だった。
「思春まで猫に取りつかれるだなんて災難だったね。
あっ、でも思春とこういう事が出来るんだから俺的には幸運だったかも」
そんな彼の言葉で、全て解決できた。
全ては憑りついた猫のせい。
その言葉を楯に、私は安心して乱れる事が出来た。
憑りついた猫以上に、彼に抱かれる事に喜び。
私の姿に興奮したのか、いつも以上に激しい彼の行為に嬌声を上げ続ける。
脳髄が焼けるほどに燃え上がった私は、何度もお腹の中に放たれた彼の熱い感触に包まれて気絶してしまう。
文字通り、心も躰も蕩かされて♪
×月×日
北郷に私の雄姿を見てもらいたくて、ずっと努力してきたと言うのに、まさか天下一品武道会を二回戦を棄権する羽目になるとは……。
それでも燕人張飛と言われ、一機当万と謳われる張飛に勝てた事はよかった。
地力の違う相手である以上多少の無理は承知していたが、まさか鍛錬に夢中になるあまりに痛めた足で勝利を得れる事が出来るなどと、我ながら快挙だったと言える。
「くっ、くくくくっ ははは♪」
いかん、嬉しさのあまりに笑い声が止まらない。
別に張飛に勝てた事が嬉しくてではない。
気が付かれなかった。
相手であった張飛にも。
勘の良い雪蓮様にさえも。
なのに北郷は気が付いた。
私の異常を気が付いてくれた。
「脚大丈夫か?」
控室にいる私の所に訪ねて来るなり、心配げに言ってきた彼。
言葉には、【もしかして】程度の疑念ではなく確信をもっていた。
「くだらない戯言を事を言いに来たのなら、とっと自分の場所に戻って己の役割を果たせ」
誰にも気が付かれなかった足の痛みを、よりにもよって一番知られたくない人間に知られてしまった驚きと、嬉しさのあまりに頬が緩みそうになるのを必死に隠して北郷を追い払おうとする。
だけど
「ああ戻るよ。 こっちの役割を終わったらね」
そう言うなり強引に人を抱き上げる。
「ば、馬鹿者いきなりなにをするっ!」
「馬鹿だからね。馬鹿な真似をするだけだよ」
いつもは脅せばすぐに腰が引けるくせに、こういう時だけは不思議と強気になる彼。
こうなると幾ら脅そうと彼は引いたりしない。
その事はあの戦でよく身に染みた。
彼は私を腕に抱えるままに駆け、私を屋敷の部屋に降ろすと、己が役割をするために、息を切らせながら走って行った。
何も言えなかった。
ただ抱えながら見ているしか出来なかった。
きっとあいつは睨みつけられていたと思っていただろう。
それくらい私は恥ずかしさと嬉しさを誤魔化すために、目に力が籠ってしまったから。
武道会は棄権する形になってしまったが、これはもはやどうでも良い。
彼を自由にする権利は惜しいものの、どうせなんやかんやと有耶無耶になるのがオチだ。
彼を独り占めにする事など、彼の周りにいる女性達が許しやしないし。
優柔不断な彼が、周りの女性達を気に掛けないはずはないのだから。
そんな、どうとでもなるようなものよりも、彼があんなにも私の事を見ていてくれている事が分かった事が何よりもの褒賞。
ほんの僅かな間とは言え、私を抱えて一生懸命彼が走ってくれた事が。
私のために汗だくになって走る彼の顔を、誰よりも傍で見れた事が。
例え万金であろうと代えれない宝。
そう思うと、足の痛みなど何処に行ったかと言うぐらい部屋の中を転げまわる。
彼の前で必死に隠していた感情を、今ここで出すかのように頬が緩んでしまうのが止められない。
顔が熱いから、今の私はきっと少女のように頬を染めているのだろう。
感情が抑えられず、目が潤むのが分かる。
喜悦の声が、口元からどうしても零れ落ちてしまう
いかん、今夜は嬉しさのあまりに眠れそうもない。
×月▽日
休みの日に娘の甘述と街に出る。
今日の目的はあの娘の服だが、それも無事手に入れる事が出来た。
あの娘が着るには少し大きいが、なにすぐに着れる様になるだろう。
そんなおり、つい街の武具屋に顔を出してしまう。
三国の中心にあるこの街には、かなりの名品が出回る事がある故、定期的に彼方此方を回っているのだが、其処でとんでもないものを見つけてしまう。
以前孫呉に居た刀匠が、いつかの北郷の言っていた天の国の剣、日本刀と言う物を、彼の話を元に刀匠が先人達より引き継いできた技術と英知を掛けて、三年を費やして彼なりに得た答えがそれだと言う。
形こそは明命の剣に似ているが、その中身は別物。
確かに彼が言うとおり美しい剣だ。
剣の鋼そのものが陽の光を受け輝き。
波打つかのような刃紋さえも心を惹かれる。
人の命を絶つと言う道具にあるにもかかわらず、もはやこれは芸術品とさえ言える。
店の主が言うには特殊な製法故に、強度こそ我らが使う剣ほど無いものの。
その代わりに剣そのものに粘りがあり。
斬れ味はすさまじく、繋げた死体の胴を八つを容易く断ったと言う。
一般の使い手でそれだけの凄まじさ。
欲しい。 そう思った。
彼のいた天の国の剣。
おそらくこれですら彼の言うものには遠いのだろうが、彼の育った国を感じられる物を傍に置いておきたいと思った。
……だが。
「ぐっ………店主よ。 幾らなんでも高すぎないか?」
「いやぁ……ワシもそう思うのだが、刀匠がどうしてもこれ以上はさげれんと言ってな」
どうやら、この剣を作るのにかなりの財を費やしたらしく。
これが売れねば、首をくくりかねないと言うらしい。
買いたいし、買ってやりたいが……、私の年収に匹敵する額は流石に出させない。
……はぁ、残念だが諦めるか。
×月◇日
北郷が病に伏せた。
心配で心配で仕方ない。
だが私が心配したところで、病が相手では私は無力だ。
無骨な私が出来る事など、精々北郷の療養を邪魔する者を排除する程度の事しかできない。
それにしても、彼を心配してあれだけの人間が動いている。
その事実に、彼は私一人の物には決してならないのだと思い知らされ、胸が締め付けられる。
なのに、同時にそれだけの人間を私は好きになったのだと、諦めの吐息に似た表現しづらい気持ちで一杯にさせてくれる。
とりあえず、一生懸命なのは分かるが、もう少し考えて行動しろ思いながら、呂布に追い掛け回される袁術を見送り。 私は部屋に戻る事にする。
あっそうだ、朱里の薬が効いてきたのかあれだけ汗をかいていたのだ、せめて体を拭いてやろうと、準備して明命に気づかれぬように屋根裏から行くと。
「一刀……起きてる?」
部屋の中に蓮華様が入ってこられた。
………仕方ないと嘆息を上げながらも、蓮華様の人を気遣う気持ちの成長を見守る事にした。
孫登様のあやす事も禄にできないあの方だが、その想いは本物。
乳母に怒られながらも、それなりに御自身を磨いてきた成長の証なのだろうと、温かい目で見守っていたのだが、一生懸命考えながら行動するあまりに、私の行動に気づかない辺りはついつい笑みが零れてしまう。
……のだが、……蓮華様、幾らなんでも熱を出して寝ている者の、何処を見ておられなのですか……。
このままでは、孫呉の王以前に、孫呉の姫君としてもあるまじき行動に出てしまうと、北郷の病が治るものも治らなくなってしまうと思い。
「……そうよ。これは一刀の汗を拭くためであって、何もやましい事はないんだから……。
そ、そうよ……。これは…………」
「では、まずは上半身からお拭きになっては?」
「ひゃーーーーーーーーー…………………っ!」
「お静かに。北郷が起きてしまいます」
蓮華様の驚き具合に、我ながら意地が悪いと思いつつ内心笑みを浮かべてしまう反面。
(よかった。目を覚ましていない)
と蓮華様の悲鳴に北郷が目を覚まさなかった事に安堵の息を吐く。
とりあえず、蓮華様を嗜めようと、それとなく注意を促したのだが、蓮華様があまりにも可愛らしい反応をするので、ついつい興が乗ってしまう。
とりあえず、蓮華様にとって、今しようとしていた事は絶対の秘密にしたいらしい。
ふむ、これは好機かもしれない。 そう思っていると、さすがは蓮華様。
つい先日私が欲しい剣の事で零していた愚痴をしっかり覚えていられた。
「はて。 私は今部屋に入って来たばかりですので、何を報告すればよいのやら……」
「それでいいわ。 なら、街に行きましょうか」
「は。 お供いたします」
北郷の顔色から、もう心配はいらなさそうだし、後の事は皆に任せる事にしよう。
これであの剣が手に入る。
北郷の国の香りのするあの剣が♪
まぁ、蓮華様には高い授業料を払ったと思ってもらう事にしよう
△月○日
こっちを見るんじゃないっ。とばかりに殺気を飛ばしてやるが、懲りずに彼は私に視線を送ってくる。
うぅ、恥ずかしい………。
こんな可愛らしい服を着た私を、まさか彼に見られる事になるとは。
本当は、普段と違う姿を見られる事に喜びを感じながらも、それを表にはおくびも出させずに、北郷にだけ届くように再度殺気を飛ばす。
その都度に、首を縮ませながら目を逸らすものの再びこちらに視線を向けてくる。
そんな彼の姿を、
(可愛い~~♪ 力いっぱいに抱きしめたい)
そう心の中で嬌声を上げながらも、もう知らんとばかりに、彼を無視するような態度を取って見せる。
曹操の間の手から明命と亞莎を守る。 そんな事をしていないと恥ずかしさのあまりに暴れてしまいそうだ。
△月×日
朝から、寝台の上を悶えるように転げまわる。
娘が心配そうな顔で見ているが、これが悶えられずにいられるものかっ。
昨日。曹操を迎えた茶会の後で、北郷が私を可愛いと言ったのだ。
この無骨者で武の道しか知らぬ私を。
不調法者で、好きな人に辛く当たる事しかできない私を可愛いと。
そのうえ、あんな私に似合わない可愛らしい服を着た私を似合っていると。
髪を下した私がとても魅力的だと言ったのだ。
私には無縁と思っていた言葉を。
彼は私に贈ってくれた。
そしてあんなにも激しく愛してくれた。
「お母様何処か苦しいの? 痛いの?」
ああ、苦しい。 痛い。
嬉しさのあまりに、胸が張りきれそうだ。
だけど愛しい娘をこれ以上心配かける訳にはいかない。
私は無理矢理感情を抑え。娘に心配ないと言いながらやさしく抱きしめる。
ああ、……幸せだ。
彼が居て、こうして彼との証があるのだ。
これを幸せと言わずに何を言うのだ。
数年前には考えられなかった自分。
変わってしまった自分。
彼に変えられてしまった自分。
今も少しずつ変わっている。
そして、それはこれからもだろう。
もう今ならあの言葉を、彼に言えるかもしれない。
昨日、彼に大分変えられてしまった私がいる。
そう思いつつも、やっぱり恥ずかしくて言えない。
何かきっかけが欲しい。
そうだ。もし今度、天からの授かりものがあった時に言おう。
ずっと前から言いたかったあの言葉を。
今度こそどんな事があろうと伝えよう。
貴方を愛しています。と……。
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