ねぇ、一刀。
一刀が居なくなってからもう一年がたったわ。
今日は三国同盟1周年を記念して『りっしょくぱーてい』をするの。
あわただしい一年だった。
あわただしくて。
唯あわただしくて。
一刀のことなんて忘れていたくらいよ。
・・・・・・嘘。
ひと時も忘れてはいなかった。
「ねぇ、華琳さん。これが『りっしょくぱーてい』なんですか?」
「えぇ、そうよ。天の国の宴会の形の一つだそうよ」
「へぇ~、これが天の国の宴会ねぇ。ねぇ華琳、天の国のお酒とか教えてもらってないの?」
「ないわ。教えてもらうつもりだったけど・・・・・・・その前に消えてしまったからね」
「そう、それは残念・・・・・・」
ねぇ、一刀。
もう少し私達に残すものがあっても良かったんじゃないかしら?
確かに一刀の残してくれた警備案や政策はこの国にとっても蜀や呉にとってもとてもありがたいものだわ。
だけど、私達が欲しかったのはもっと大切なものよ。
「はぁ、今更こんなこと考えても意味がないわね」
「ん? 華琳さん今何か言いました?」
「桃香、そっとしておいてあげなさい。ほら、私達はあっちにいって飲みましょ♪」
「あ、っちょ、ちょっと引っ張らないでください!雪蓮さ~ん!」
まったく。
雪蓮は無駄なところで勘がいい。
「はぁ・・・・・・」
皆この『りっしょくぱーてい』を楽しんでくれるようだ。
一刀、あなたが教えてくれたこの宴会は大成功みたいよ。
空にはあの日と同じような大きな満月が輝いている。
「ねぇ、一刀。・・・・・・・私はもうそろそろ前を向いてもいいかしら?」
つい口に出た言葉に自分で苦笑してしまう。
別に一刀のことを忘れるわけじゃない。
私だって女だもの。
でも、彼に囚われ過ぎて後ろを振り返ってばかりじゃいけない。
だから私は前を向くことにするわ。
「華琳様!!」
「あら桂花、どうしたのかしら?」
「それが、城下の方でなにやらお祭り騒ぎが起こっていまして。ご報告を」
「そう。民の皆も浮かれているのでしょ? 羽目をはずし過ぎないなら今日くらいは好きにさせてあげなさい」
「はい。でわ失礼します華琳様、何かありましたらすぐにこの桂花をお呼び下さい!」
「えぇ。・・・・・・・・ふふ、かわいい子ね桂花は」
私は杯を傾けながら満月へと視線を戻す。
『りっしょくぱーてぃ』の喧噪を肴にしながら。
『ほら、祭さん!! ここまで来て今更それはないだろう!!』
『いーやーじゃー!! やっぱり嫌じゃ!! 儂は帰る!!』
『帰るって何処へ!?』
『そんなものは知らん!! どこかその辺の山の奥でよいわ!!!』
飲みすぎたのかしら?
「・・・・・・・・・え? 祭? ねぇ、冥琳、あれって・・・・・・」
「あぁ、何処をどう見てもあれは祭殿だな・・・・・・・・」
『何わけのわからないこと言ってるんだよ!! ほら、もう皆こっち見てるよ、祭さんってばれてるって』
私の背中から聞こえてくる聞きなれた声。
聞きたくても聞くことができなくなったはずの声。
その声に私は戸惑いを隠せなくなる。
『なんじゃと!? い、いかん!! 儂は逃げる!! ほれ、『一刀』にげるぞ!!』
一刀。
一刀・・・・・・・・・・。
一刀・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あ、逃げた・・・・・・・。思春!! 今すぐ祭を捕まえてきなさい!!」
「御意」
「ねぇ、流琉。今『一刀』って聞こえたよね?」
「うん、私も聞こえたよ季衣」
「うちにも聞こえたわ『一刀』って」
「そうか、霞もか。姉者はどうだ?」
「秋蘭もか!!うむ、私にも聞こえたぞ!!」
「真桜、沙和。今あそこにいたのって・・・・・・」
「どう見ても隊長やったな・・・・・・」
「うん、隊長だったの・・・・・・」
「ふふふ、お兄さんは相変わらずですねぇ・・・・・・」
「まったく、一刀殿は・・・・・・」
「・・・・・・って、皆何ぼーっと突っ立ってるのよ!! 早くあの変態を捕まえなさいよ!!」
「おぉ!! そうだった!! 皆行くぞ!! あの男の首叩き切ってくれる!!」
「春蘭様切っちゃ駄目ですってば~!!」
場の空気が一瞬でかわる。
懐かしいあのころのような空気に。
だけど、私は振り向くことさえできなかった。
『っちょ!? 春蘭!? なんで!? っちょ!! 本気で切りかかってくるな!!』
「しるか!! 突然いなくなったくせに今更何をしに帰ってきた!! いいわけがあるなら聞いてやる!! だからさっさと切られろ!!」
『切られたらいい訳もクソもないだろ!!』
「春蘭様~!! だめですってばー!!」
『これ思春!! 離さぬか!!』
「駄目です。命令ですので」
「祭殿。どういうことか説明してもらいましょうか?」
『ヒィィ!! な、なんじゃ冥琳・・・・・・ちょっと会わない内に顔がこ、怖くなっておるのぉ・・・・・・』
「祭。なんで逃げようとしたのかしら?」
『こ、これは雪蓮殿、お、お久しぶりで・・・・・・・・・・こ、これ一刀!!助けぬか!!!』
『無理言うな!! 俺だって命がかかってるんだよ!!』
「へぇ~、ずいぶんと『北郷一刀』と仲良くなったのねぇ・・・・・」
『ヒィィィ、雪蓮殿顔が怖いですぞ!!』
「そうね、ここじゃお邪魔だろうし、あっちでじっくりと聞かせてもらいましょうか。思春、連れて行きなさい!!」
「御意」
『いぃぃぃぃぃやじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
『祭さん、ご冥福をお祈りします。って、あぶな!! 春蘭危ないっていってるだろ!!』
「そんなもんしらん!!」
「「「隊長ー!!」」」
『凪、沙和、真桜!! ただいま!! だけどその前に春蘭を何とかしてくれ!!』
「うちもまざる~!! なぁ、一刀うち、寂しかったんやで? この責任どう取ってくれるん?」
『ごめんな、霞・・・・・・。 だ・け・ど!!今背中に抱きつくのは簡便してくれ!!・・・・っうわ!? こら春蘭!!』
「ほら、皆そこまでだ!! 姉者ももう良かろう」
「そうか?秋蘭がそう言うのならやめてやろう」
『はぁ、助かった・・・・・・。ありがとう秋蘭。そして、ただいま』
「あぁ、よく帰ってきてくれた。・・・・・・・お帰り、ほ・・・・いや、一刀」
「兄ちゃ~ん!!」
「兄様!!」
『ただいま季衣、流琉。ほら、二人ともそんなに泣かないで』
「「「隊長!!!」」」
『ただいま、凪、真桜、沙和。お前達までそんなに泣くなよ・・・・・』
「か~ずと♪」
「一刀!」
「一刀さん」
『ただいま、天和、地和、人和。夢はかなったか?』
「お兄さん」
『ただいま、風。宝譿も元気だったか?』
「一刀殿」
『ただいま、稟。 ・・・・・・って、何でそこで鼻を押さえるんだ・・・・・』
「この変態!!今更なにしに来たのよ」
『・・・・・・・・・ただいま桂花。相変わらずだな』
「うるさいわね!! 私達が今までいったいどれくらい心配したと思ってるのよ!!・・・・・ッグス」
『え? あれ? け、桂花がデレた!!』
「で、『デレ』てなんていないわよ!! もう、死んで!!今すぐ死んで!!早く死になさいよ!!」
『・・・・・・・・はぁ・・・・・気のせいか。ところで華琳は?』
「あちらだ。・・・・・・・・早く行ってくれ北郷」
『あぁ、そうするよ』
少しづつ足音が近づいてくる。
一歩、また一歩。
そして足音が止む。
私は彼の顔を見ることができないでいる。
どうして見ないの?
何故見ることをためらうの?
『華琳』
「・・・・・・どうして?」
どうして?
何故?
何で今更帰ってきたの?
『はは、帰ってきちゃ駄目だったかな?』
帰ってきた?
急にいなくなったくせに?
「今更帰ってきて何がしたいの?」
違う。
こんなこと言いたいわけじゃないじゃない
『ごめんよ。はは、今更だよな・・・・・・・でも、どうしても華琳の傍にいたくてさ』
その言葉に胸が締め付けられる。
なら、どうして勝手にいなくなったりしたのよ!!
「・・・・・・ダメよ、そんなの認めないわ」
『・・・・・・・・そうだよな。勝手にいなくなって勝手に帰ってきて今更だよな』
徐々に彼の声が弱々しくなっていく。
何でそこで弱気になってるのよ・・・・・・。
そして彼の息遣いが遠くなる。
「行くの?」
『あぁ・・・・・・今更華琳に会わせる顔がないって気づいちゃった』
彼は優しい声でそう答える。
彼はどんな表情で私に会いに来た?
この期に及んで私は彼の顔すら見ていない。
彼は今どんな表情で私に背を向けた?
「そう・・・・・・」
彼と話したい、触れ合いたい、その優しい笑顔を見たい。
「・・・・・・いくじなし」
どうして!!
どうして素直になれないの!!
どうして彼の顔を見ようとしないの!!
どうして勇気を出せないの!!
・・・・・・そうだったわね?
私はこんなに弱かったことを忘れていたわ?
『ははっ、ごめんな・・・・・・。でも、華琳の声だけでも聞けてうれしいよ・・・・・・』
彼はいつもの調子でそう答える。
そして彼の足音が遠ざかっていく。
どうして?
帰ってきたんじゃないの??
私の側にいたくないの?
私は側にいたい。
「・・・・・・行かないで!!」
行ってほしくない!!
側にいて!!
離れないで!!
『っえ!?・・・・・・華琳?』
「おかえりなさい・・・・・・一刀」
私は勇気を出して振り返り彼を抱きしめる。
『ただいま・・・・・・誇り高き王・・・・・・』
「・・・・・・・一刀」
私は覇王よ当たり前じゃない。
『ただいま・・・・・・寂しがり屋の女の子』
そうよ、私は寂しがり屋の女の子。
「・・・・・・一刀・・・・・・!」
・・・・他にも言うことあるでしょ!!
「ただいま・・・・・・愛しているよ華琳」
愛してる?本当に私を愛しているのね?
「・・・・・・・・・・・・一刀?」
何で喋らないの?
何か言ってよ。
ねぇ、何か言ってよ。
いえ、違うわね。
今度は私が言わなければいけないわね。
「一刀、愛してるわ」
なんで?
どうして?
なんで何も言ってくれないの!!
「ばか。・・・・・・ばかぁ」
わかってる。
ばかなのは私。
わかってる。
話している間・・・・・今、彼はどんな表情をしているのかしら。
笑ってる?
それとも、私に呆れていたのかしら?
「ずっといるって・・・・・・言ったじゃない・・・・・・・・・!」
『ごめんよ。もう、何処にも行かないから』
私は一刀の顔を見る。
そう、一刀はこんな顔だった・・・・・・。
私が愛している男の顔・。
私の前からいなくなる彼はこんな表情をしていたのかしら?
涙に濡れている。
それでも笑顔を絶やさない。
私が、私達が愛して止まないその笑顔。
「ばか・・・・・・ぁ・・・・・・!」
本当にばかだったのは私だ・・・・・。
彼の顔も表情を声を・・・・やっと、やっと見るこも聞くこともできた。
どうしてもっと早く素直になればよかった。
こうして・・・・・・彼に・・・・・触れることができる。
私がまだ伝えてないことも伝えることができる。
言いたいことも沢山あるんだから。
「一刀っ!・・・・・・かずとぉぉぉっ・・・・・・!あぁっ・・・・・ぅあぁぁぁぁぁぁっ!」
私はもう、彼の名を呼び泣く事しかできなかった。
彼の胸に顔を埋め我を忘れて泣き叫ぶ。
彼が今この腕の中にいることを全身で確認したかった。
そうしなければ怖かった。
彼は、今、私のこの腕の中に確かにいる。
・・・・・。
私は本当に弱い人間だったのね・・・・・・。
だから、彼には私を支えてもらわなくちゃいけない。
だから私はもう彼を手放さない。
この先何があろうとも。
この『世界』をすべて敵に回そうとも。
私は彼を手放さない。
そして彼の胸に抱かれた私は自身の力が急に抜けていくのを感じながら思った。
(明日からはまた賑やかな日が始まるわね。・・・・そうだ、勝手にいなくなった彼になにか・・・・・・おしお・・・・き・・・・・・・しな・・・きゃ)
そして私はあの夜のような満月に照らされ。
彼の腕の中で。
彼の温もりに包まれながら。
一年ぶりに幸せな眠りについた。
『おやすみ、華琳』
翌朝
「さぁ、一刀。何故自分がここにそんな姿でいるのか。もちろんわかっているわね?・・・・・・さぁ、皆、やってしまいなさい!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「御意!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
『・・・・・・・・・結局こうなるのか!! っちょ!、ぁ、そこは、いや、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・』
― エピローグ ―
「祭さん、また来たの?」
「なんじゃその嫌そうな顔は!!こうして遥々呉から会いに来てやっとるのに」
「いや、誰も頼んでないから・・・・・・」
「そんなつれない事言わんでも良かろう。儂は一度、戦で死んだのだからの。それをお主に拾われた。
だからこの儂はお主の物だろう?」
「いや、だからそれは何度も断ったじゃん・・・・・」
「ほれ、この儂の体もお主の物じゃて、好きにしていいのだぞ・・・・・・・」
「祭さんがそういうこと言うから俺は蓮華や思春から目の敵にされてるんだぞ!!」
「そんなこと気にすることもあるまいて。儂とお主の関係じゃ、ほれ、堪能してみぬか?」
「っちょ、祭さ「へぇ、そう言う事」ヒィィ!!か、華琳いつからそこに!!」
「何時からでもいいじゃない。所で一刀」
「・・・・・・・ハイ」
「そういえばまだ詳しく聞かせてもらってなかったわね。今の話じっくり聞かせてもらいましょうか?」
「え?、あ、いや、話しても大して面白くないと・・・・ってっちょっと引っ張らないで!!わかった、わかったから!!絶は引っ込めて下さい!!」
あの漆黒の世界からまたこの『世界』に俺は戻ってきた。
ご丁寧に初めてこの地に来た時のように荒野の真っ只中に落とされていた。
そこに貂蝉が現れて祭さんにあることないこと吹き込んでくれたわけだがそれは置いておいて。
本当に帰ってこれたことがうれしくて俺はその場で声を張り上げて泣いた。
結局俺は世界の我侭に振り回されただけだって貂蝉が言ってた。
でも、俺は思うんだ。
この『世界』はこの地に住む人たちの幸せを心から願ってるんじゃないかって。
だから我侭を言ってもそれに気づかない俺を選んだんじゃないかって。
そう言うと貂蝉は「流石ご主人様ね」といって笑っていた。
皆からは手痛いお仕置き?をされたけど、それは皆を悲しませる道を選んだもう一人の俺と
勝手にこの世界からいなくなったもう一人の俺への罰だから。
そしてお仕置き?が終わった後は皆で泣いた。
本当に戻ってこれてよかったって。
戻ってきてくれてありがとうって言ってくれた。
本当にうれしかった。
華琳は笑ってみてただけだったけどね。
もちろん、桂花はいつも通り罵声を飛ばしてた。
もう戻ってこないと思ってた日々にまたこうして俺は身を置いている。
さぁ、これからはもっと忙しくなるぞ!!
・・・・・・・
その前に目の前にいる笑顔の華琳を何とかしないと・・・・・・。
「ちょっと華琳、少し落ち着こうか?」
「あら、私は落ち着いているわよ? いいえ、違うわね。
今から一刀が聞かせてくれる話が楽しみで胸が躍っているわ」
「カ・・・・カリンサン。カオガトテモコワイデスヨ?」
「私の顔が怖いですって? 一刀にはきっつ~いお仕置きが必要ね」
「ヒィィィィ」
「やれやれ、これじゃ先が思いやられるのぉ・・・・・・」
「っちょ、祭さーん!! 遠くを見つめないで助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ほら!! 行くわよ一刀きびきび歩きなさい!!」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
こうして俺はこの先も愛しい人達と幸せな日々を過ごしていく。
『愛しき彼女達と共に』
あとがきっぽいもの。
最終話でした獅子丸です。
一から練り直した最終話。
華琳様はちょっと崩しすぎたかなと思うけど・・・・・。
こんな華琳様もたまにはいいよね!!
もう多くは語りません。
この最終話までが獅子丸の脳内レベルと文章レベルです。
一人でも読んで良かったって思っていただける方が居てくれればそれだけでも獅子丸はうれしく思います。
読むんじゃなかったって言う人がいれば本当に謝ります。
それでも最後まで読んでいただけたのなら本当にありがたく思います。
さて、懲りずに次回作のことです。
元ネタが面白いからかへっぽこ脳みその獅子丸の頭でもどんどんネタが沸いてきます。
お笑いネタは少ないですがw
序章、1話、までは完成しています。
2話は完成していたものを白紙に戻して練り直し中です。
近いうちに投稿すると思いますのでよければまたお読みいただけるとうれしく思います。
それでは毎度の一言
次回作も
生温い目でお読みいただければ幸いです。
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-真・恋姫無双 魏After-月下の誓い 終幕
最終話です。
もう何も言いません。
生温い目でお読みいただければ幸いです。