【view of ティスト・レイア】
「この部屋でいいか?」
アイシスを寝かせていた二階の空き部屋、俺の部屋と同じぐらいの広さだし、日当たりも悪くない。
「でも、ちょっとお掃除したほうがいいかもね」
カーテンをあけると、部屋の中を舞う埃が照らされる。
ほとんど使わないから、少し掃除が雑になっていたのは、否定できないな。
「これからしちゃおっか?」
「いいです。掃除ぐらい、自分で出来ますから」
「そだね、アイシスちゃんの部屋だもんね」
「私の…部屋」
慣れない響きというように、アイシスが繰り返す。
その顔は、戸惑いでいっぱいだった。
「じゃあ、お掃除がいいなら、ロアイスまで買い物に行かない?」
「…そうだな」
人が一人増えるなら、それだけ必要な物も増える。
俺の物を使いまわしてもいいが、アイシスのために一通り揃えたほうがいいだろう。
「そういえば…ユイが持ってきてくれたのって、日持ちするのか?」
「うん。この寒さだし、2~3日は平気だと思う」
「なら、行こうか」
「………」
俺とユイが廊下へ向かおうとしても、アイシスだけは動かない。
その場で俯き、じっとしていた。
「アイシス?」
「私は…いいです」
必要最低限、そう思えるような小さな声で、アイシスが答える。
だけどそれは、俺たちへの明確な拒絶の意思だ。
「でも…」
そこで言葉を区切って、ユイが口をつぐむ。
どう言えば、アイシスに話を聞いてもらえるのか、悩んでいるんだろう。
無理強いをすれば、頑なになる。
だからといって、このままユイと二人で行けば済む問題でもない。
「体調が悪くないのなら、ロアイスまでの道は今日中に覚えておいたほうがいい。
このあたりの地理は、アイシスも把握しておくべきだしな」
「…わかりました」
賑やかなところは苦手で、そこに行くなら自分を納得させる理由がいる。
相手と少し距離を置くことで、自分にとって安心できる位置が確保できる…か。
昔の自分を意識して考えた説得が通じても、素直に喜べないな。
小屋を覆うように立ち並ぶ木々の間を抜けて、ようやく街道に出る。
眩しく輝く太陽は、もう一番上を過ぎていた。
心地よい風が草原を抜けて、草の波が体を揺らして音を立てる。
「いい風だな」
「うん」
目を細めて笑うユイの横で、アイシスは静かに辺りを見回していた。
「あれが、ロアイスですか?」
「ああ、迷わなくていいだろ」
遠目にロアイスの城壁が見えているのに、歩くと案外距離がある。
この時間からだと、夕方までにつけるかどうか…だな。
「行きはいいが、問題は帰りだ。
森に入る場所は目印がほとんどないから、覚えておいてくれよ」
「はい」
通ってきた道も、いくつかある獣道の一つにしか見えないから、思ったよりも間違えやすい。
この辺りの森でも、変に深入りして迷うと冗談ではすまないときがあるからな。
「さて、行くか」
いつもは一人で、たまにユイと二人で歩くこの長い街道。
少し離れて歩くアイシスを気にしながら、速度をあわせてゆっくりと歩いた。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
第04話です。