No.204123

DAGGER 戦場の最前点 第04話

BLACKGAMERさん

第04話です。

2011-02-27 22:12:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:675   閲覧ユーザー数:634

【view of ティスト・レイア】

「この部屋でいいか?」

アイシスを寝かせていた二階の空き部屋、俺の部屋と同じぐらいの広さだし、日当たりも悪くない。

「でも、ちょっとお掃除したほうがいいかもね」

カーテンをあけると、部屋の中を舞う埃が照らされる。

ほとんど使わないから、少し掃除が雑になっていたのは、否定できないな。

「これからしちゃおっか?」

「いいです。掃除ぐらい、自分で出来ますから」

「そだね、アイシスちゃんの部屋だもんね」

「私の…部屋」

慣れない響きというように、アイシスが繰り返す。

その顔は、戸惑いでいっぱいだった。

「じゃあ、お掃除がいいなら、ロアイスまで買い物に行かない?」

「…そうだな」

人が一人増えるなら、それだけ必要な物も増える。

俺の物を使いまわしてもいいが、アイシスのために一通り揃えたほうがいいだろう。

「そういえば…ユイが持ってきてくれたのって、日持ちするのか?」

「うん。この寒さだし、2~3日は平気だと思う」

「なら、行こうか」

「………」

俺とユイが廊下へ向かおうとしても、アイシスだけは動かない。

その場で俯き、じっとしていた。

「アイシス?」

「私は…いいです」

必要最低限、そう思えるような小さな声で、アイシスが答える。

だけどそれは、俺たちへの明確な拒絶の意思だ。

「でも…」

そこで言葉を区切って、ユイが口をつぐむ。

どう言えば、アイシスに話を聞いてもらえるのか、悩んでいるんだろう。

無理強いをすれば、頑なになる。

だからといって、このままユイと二人で行けば済む問題でもない。

「体調が悪くないのなら、ロアイスまでの道は今日中に覚えておいたほうがいい。

 このあたりの地理は、アイシスも把握しておくべきだしな」

「…わかりました」

賑やかなところは苦手で、そこに行くなら自分を納得させる理由がいる。

相手と少し距離を置くことで、自分にとって安心できる位置が確保できる…か。

昔の自分を意識して考えた説得が通じても、素直に喜べないな。

 

 

 

小屋を覆うように立ち並ぶ木々の間を抜けて、ようやく街道に出る。

眩しく輝く太陽は、もう一番上を過ぎていた。

心地よい風が草原を抜けて、草の波が体を揺らして音を立てる。

「いい風だな」

「うん」

目を細めて笑うユイの横で、アイシスは静かに辺りを見回していた。

「あれが、ロアイスですか?」

「ああ、迷わなくていいだろ」

遠目にロアイスの城壁が見えているのに、歩くと案外距離がある。

この時間からだと、夕方までにつけるかどうか…だな。

「行きはいいが、問題は帰りだ。

 森に入る場所は目印がほとんどないから、覚えておいてくれよ」

「はい」

通ってきた道も、いくつかある獣道の一つにしか見えないから、思ったよりも間違えやすい。

この辺りの森でも、変に深入りして迷うと冗談ではすまないときがあるからな。

「さて、行くか」

いつもは一人で、たまにユイと二人で歩くこの長い街道。

少し離れて歩くアイシスを気にしながら、速度をあわせてゆっくりと歩いた。

 


 
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