蜀の首都・成都城下は様々な商店が軒を連ね、活気にあふれている。その街中を銀髪をポニーテールにした小柄な少女が歩んでいた。魏の将軍である楽進こと凪の姪・楽仁こと朱莉である。
「ええっと・・・あと必要なのは何だ・・・?」
懐にしまっていた『めも』を取り出して、必要なものを再度確認する。
「よし、これで全部そろったかな」
腕にさげている袋の中身と『めも』を見合わせて、買い忘れがない事を確かめて満足げに肯く。しかし、気になる事があった。
「唐辛子を使用しなくても大丈夫なのだろうか・・・」
叔母と同じく、常軌を逸した辛党の朱莉はこれから『先生』と作る天の国の『でざあと』なるものに、ちょっとした疑問を浮かべるのだった。
「じゃあ早速始めましょう、朱莉さん」
「はいっ!よろしくお願いします、桃香様!」
普段は成都城の一刀の家族が腕を揮う上級厨房。美髪公が若かりし―――もとい、まだ戦乱の最中にあった頃、彼女が魏や呉を討つべく数多の生物兵器を生産していたという都市伝説で蜀の民に知られるこの場所で、朱莉はエプロン姿の桃香とともに厨房に立っていた。
「しかし桃香様、よろしかったのですか?明日も三国会議があるというのに・・・」
そう、本来は魏国の軍人である朱莉がなぜ蜀にいるのかというと、半年に一度行われる三国会議に出席する華琳の護衛役として随行していたのだ。
「今回の会議はそんなに重要なものじゃないし、何よりいつもお世話になってる華琳さん直々の依頼だからね」
それに―――と桃香は悪戯っぽく笑った。
「未来の娘と一緒に厨房に立てて、お義母さんは幸せなんだよ?」
『未来の娘』―――その単語の意味を悟り、朱莉の顔がボフッと赤くなる。
「と、桃香様!お戯れを―――!」
「あはは。じゃあはじめようか!永くんの大好物―――」
「はいっ、『銅鑼焼き』作りですね!」
厨房の食堂スペースに置かれた椅子にこっそりと腰かけた華琳は、可笑しそうな笑顔を浮かべて呟いた。
「さてさて、どうなることかしら・・・」
華琳は確かに桃香に『朱莉に劉永の好きな食べ物の作り方を教えてやってほしい』と頼んだ。しかし彼女としては、誰か料理の得意な者―――それこそ朱里や雛里、璃々に教師役になるものだと考えていたが、まさか朱莉の想い人の母が教えるとは思ってもみなかった。
それにしても―――
(銅鑼焼き・・・天の国の菓子。いったいどんなものなのかしら?)
未知なる食べ物に、心を躍らせる覇王様であった。
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2011年初めての投稿です!
今回久しぶりに彼女が登場します。