No.20215

be born with weeping for sorrow

最初の死で翼を失くし、2つ目の死で光輪を失くした。

3つ目の死で体を失くし、4つ目の死で影を失くした。

そしてわたしは心だけになった。

2008-07-19 22:07:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:636   閲覧ユーザー数:598

 最初に気づいたのは、頬を伝う冷たい感触。

 ――わたし、なんで泣いているんだろう?

 赤レンガの町を臨む草原の丘、色褪せた緑のただ中にわたしは立っていた。

 ももの辺りまですっと伸びた草が風にかすかに揺れている。

 ――どうしてこんなところにいるんだろう?

 わからない。何かを思い出そうとしているのに、何を思い出そうとしてるのかわからない。何か、こわれてしまった。

 そうしていると、みぞおちあたりに穿たれた穴を風が、ひどく不気味な音を立てながら通り抜けていく。そんな心地がして、うずくまった。

 

「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」

 振り向くと杖をついた老人がいた。老人は目深にかぶった山高帽のつばをついと持ち上げると、おじいちゃんみたいな優しげな眼を私の向けた。

「どうして泣いてらっしゃる」

 わたしは答えることができなかった。答えを知らなかったのもあるが、それよりも驚いたことがあった。

「羽が・・・」

 老人の背中には、そこにあってしかるべき白い翼がなかった。

 老人はなにか納得した風で口から「あぁ」とやや高い声をもらした。

「新しくきた人ですか」そう言って背中のあたりをつついて見せた。

 はっとして背中に手をまわしてみる。そこに羽はない。

「そうかぁ」

 老人は空を見上げて、何か考えているように見えた。

 わたしもつられて空を見上げてみる。

 空はぼんやりと白く、もやがかかっているようで、よく見ると黄色や、赤色や、青色が混ざっているような気がした。太陽は見えないけど、不思議と明るかった。

 

「かなしいことが あったんだねぇ」

 

 老人のその言葉は、風のようだった。

 わたしは、先の問いに対する答えを知った。

「――・・・うん」

「そうかぁ」

 おじいちゃんは帽子を目深に被りなおし、赤レンガの町に向かって歩き出した。

 わたしもそれについて歩き出した。泣きながら。

 わたし達は羽を失った。他にもきっと、取り戻せないだろうものをたくさんなくした。

 それでも

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 少年はふとした疑問を父親にぶつけてみました。

 人間はどうして泣きながら生まれるのだろう。

「それは、この世に生まれることが嬉しいからだよ」

 しばらくして部屋の中から大きな泣き声があがりました。

 それから手術中のランプが消えてお医者様がでてきました。

 元気な女の子ですよ、とおっしゃいました。

 その元気な女の子には、白い翼も光る輪もありませんでした。


 
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