バレンタインデー。恋する乙女にとって、とても大切な日。
もちろん、わたしにとっても大切な日だったりします。
ずっと、ずっと大好きだったあの人。
その人を想い作ったチョコレート。
この気持ちと一緒に渡す事が出来たら、どんなに幸せなんだろう。
だけどわたしは、チョコレートを渡す事が出来ない。
彼女を取り巻く環境がそれをさせないのか。またはわたしに勇気がないだけか。
いや……ただ単にわたしに勇気がないだけだよね。
「うわぁー相変わらず、すごい量のチョコレートね」
「あはは♪ これを全部食べるのは大変だ」
教室に入るなり、彼女の机の上には大量のチョコレートが積まれていた。
これだけでも凄い量だけど、彼女に渡されるチョコレートはこれだけじゃない。
机の中にも入っているし、廊下を歩けば生徒からチョコを渡される。
バレンタインの時期は、彼女の周りは一種のお祭り状態になるんだよね。
本当に彼女は学校一の人気者だ。
容姿端麗で勉強も運動も出来る。そんな凄い友人。
みんながそんな彼女に憧れ、恋心を抱く。
わたしも、そんな中の一人で――
「かなみ? どうしたの?」
「あぁ、うん。相変わらずの巴の人気っぷりに驚いてただけよ」
「そう……?」
「うん。それだけだよ」
それだけ……だよ。
別に周りの人間に嫉妬なんかしてないもん。
チョコを渡せる勇気に憧れてなんかいないもん。
「ささ、そんな事より早くチョコを片付けないと授業を受ける事が出来ないわよ♪」
「……そうだね」
無理やりテンションをあげて、会話を変える。
そうやって無理やりテンションをあげて、泣きそうな気持ちを抑えるの。
そうしないと、挫けそうだから。
それに巴の机を片付けないと授業を受ける事が出来ないのも事実だしね。
「……それ、全部食べるの?」
学校が終わり一緒に帰る途中で巴に質問をする。
巴が受け取ったチョコの数はとても一人で全部食べられるような量じゃない。
でも、巴のことだからきっと――
「もちろん全部食べるよ。皆の気持ちが籠ってるんだから、きちんと食べないと相手に失礼だ」
やっぱりね。巴ならそう言うと思ってたよ。
優しすぎるくらいに優しい。
そんなのだからわたしは――
「よかったね巴」
「うん……でも一番肝心な人からは貰ってないんだ」
「肝心な人……?」
肝心な人ってつまり、巴の好きな人ってことだよね。
そっか。巴にも好きな人がいるんだ……
当たり前だよね。だって、巴は綺麗で可愛くて素敵な女性なんだから、好きな人の一人や二人
はいるよね。
「うん、かなみからまだチョコを貰ってない」
「…………ふぇ?」
わ、わたし……?
「皆からチョコを貰えるのは嬉しよ。でも一番大好きな人。大切なかなみからチョコを貰えないと
意味がないんだ」
な、何を言ってるの……? わたしが巴の大好きな人だなんて、そんなこと。
「巴……冗談は――」
「冗談なんか言ってないよ。私は巴が大好きだから」
そ、そんな……巴がわたしのことを好きだなんて、何かの間違いじゃ……
「かなみ。私は自分の気持ちを伝えたよ。今度は、かなみが私に伝える番だ」
「わ、わたしは――」
「チョコ……作ってくれてるんだよね?」
「――――――っ!?」
ど、どうしてそれを……?
「かなみの事なら何でも分かってるよ。だって、ずっとかなみの事を見てたんだから」
巴……
「かなみ。君の想いが詰まったチョコを私にくれない?」
今日一番のとびきりの笑顔でチョコを催促してくる。
ほんとに巴は――
「…………ばか」
「ははっ♪ バカでもいいよ私は」
眩しすぎるよ。
結果に怯えていた自分が情けなくなるくらい眩しいよ。
「……はい、これ」
渡せずに仕舞っておいたチョコを巴に渡す。
「うん。ありがとかなみ♪」
チョコを受け取り幸せそうな笑みを浮かべる巴。
あぁ、本当に――
「巴。大好きだよ」
「私も大好きだ」
伝えきれないくらいに巴が大好きです。
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バレンタインネタです。
一応、季節ネタは書いてみようみたいな感じですかね?
そしてただの百合です。