曹家に養子として迎えられて十年、子に恵まれなかったこの家にも念願の世継ぎが誕生した。曹操孟徳。ちゃくちゃくと成長していき才に溢れる神童。神は彼女に光を当て、俺に陰を刺した。城でも屋敷でも邑でも俺の風当りは強く、この許昌に俺の居場所はどこにも存在しなかった。
城の廊下を歩く。前方から文官が目に入り、俺は隅に体を避ける。立場なら逆の行為なのだが、俺の場合はそれが普通なのだ。通りすぎるたびに嘲笑と睨みが利く。日常茶飯事で感覚がマヒしてなんとも思わないのが現状であるが。
「………そろそろ潮時かもしれないな」
曹操が誕生してから今まで考えてきた事だった。ここには自分の居場所はもうない。外の世界にその居場所があるかもわからないが、可能性がゼロでない限りは試す価値はある。
「……あ、兄様……」
ツインテールの金髪少女が声をかけてきた。
「―――――――」
言葉を交わすことなく俺はその場を去った。いつものこと。曹操とは一度も会話をしたことがない。
「待って! 兄様!」
自室に戻り旅支度を始める。自室といっても馬小屋の隣に設置された小さな小屋である。曹家の重臣に追い出されてたどりついた俺の家だ。こんな家でも離れると考えると少し寂しくなる。
愛刀を手に小屋を後にする。このまま許昌を後にすることも考えたが、親には挨拶をするのが流儀だと考え玉座に向かった。
「これはこれはお呼びもしていない曹家の長子様がどうなされました?」
「軍議の途中でしたか。申し訳ありません。ただこの家を出ていく故、報告に参りました。これまで育てていただきありがとうございました」
「な、待ちなさい! 翡翠」
母の言葉に耳を傾けることなく俺は町を出た。
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曹家の養子として迎えられ、闇に生きることを定められた者の話。