秋の紅葉
冬の山茶花
春の梅
夏の彼岸花
お寺へ向かう参道は
いつも赤色で満ちています
蝉は毎年同じ声で鳴くので、あれがどの夏だったか思い出せないのですが。
ただその赤に、無心に惹かれて入り込んだと、記憶しています。
「触れてはいけません。毒があります」
静かにたしなめるその声に、梟もかくやと振り返ったのは、刹那にとらわれていたからだと今になって知りました。
御仏に尊い経をささげるため、鍛えられたその喉が震えるたびに、伏せた眼を持ち上げることができずにいます。
こんなにも清らな場所で、名を呼ばれるたび喜悦におののく私は、どれほど昏い地獄に落ちることでしょう。
岩にしみてなおあふれる蝉の声が示し合わせたように鳴りやむので、心臓がひくりとすくむのです。
紅の中に立つ墨色が、あのよく通る清水のような声で、笑みとともに私の名を呼ぶので、日傘の頼りない影の中で精いっぱい頭を下げることでしか呼吸ができなくなります。
(触れないでください、毒になるでしょう)
きっと、こんなにもたくさん赤く咲いているから、私は曼珠沙華に染まってしまったのです。
吐き出す場所がないから、身の内に溜まってゆくばかりのこの毒は、しびれるほどにひどく甘いことを。
あなたはきっとご存じないでしょう。
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墨染めの衣をまとう人に恋をするのは、どうしようもなく罪深いことだと思うのです