No.19860

深色のファンタジア ――プロローグ――

E/Lyceさん

構想だけが浮かんでいるお話。
いつかこの女の子が主人公の乙女ゲーム風RPGにしてみたいと思いながらも、早数年(^^;)

2008-07-18 00:32:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:744   閲覧ユーザー数:700

何が悲しいのだろう。

 

少年は仰向けに倒れ、青空を見上げていた。

 

何が嬉しいのだろう。

 

少年の側に転がった、小さな時計が音を奏でる度に、彼はそう思った。

 

少年の体はボロボロなのに、その小さな時計は何事もなかったような姿で音を奏でている。

 

「…」

 

そんな時計の音に紛れて、微かに声が囁いてきた。

 

「大丈夫…?」

 

「怪我、酷いよ…誰がこんなことしたの…?」

 

ふと少年の目の端に、黒い髪の毛が映った。

 

それは声の主だろう、少年はそう思った。

 

少年はその声の主を見ようとしたが、体を動かす気力さえ無かった。

 

「だ…れ…だ……」

 

変わりに一つずつ、確実に声を出していこうとする。

 

「…私?」

 

一瞬躊躇した様に返事をする黒い髪の人物。

 

それだけ言うと後は黙ってしまった。

 

「君は、…君はなんて言うの、名前、なんて言うの?」

 

その変わりに、少年の名前を聞いてきた。

 

「…」

 

沈黙する少年に対し、黒髪の人物はくすくすと笑う。

 

黒髪の人物は、少年の怪我の手当をし始めた。

 

ふと少年の顔をのぞき込んだその黒髪の人物。

 

それは、少女だった。

 

艶のある黒い髪に、真っ赤な瞳の少女。

 

彼女は、まるで小さな子供でもあやすような言い方で少年に言った。

 

「大丈夫だよ、私は君のこと、いじめないから」

 

それを聞いた少年は驚いた。

 

「名前を聞いても、驚いたりしないから、大丈夫」

 

「見てたんだ…」

 

「うん…」

 

「ごめんね、助けられなくて…」

 

そう言った少女は微かに悲しい顔をしてみせた。

 

「本当は、もっと早くに助けたかったんだ」

 

「助けられる程弱くないよ…」

 

少年はそう言うと、起きあがった。

 

「そっか…そうだよね」

 

体の至る場所に絆創膏が貼られ、また別の場所には布の切れ端が巻かれている。

 

今、少女が少年にそうしたのだった。

 

それを見た少年はこう言った。

 

「…でも、ありがとう…」

 

「うん」

 

その言葉に対し、少女は微笑みを浮かべていた。

 

 

その後、彼らは何度も出会った。

 

名前も分からない二人。

 

そんな二人は、どこかしら惹かれる所があったのかもしれない。

 

 

そんなある日の事。

 

少年はふと、少女の出で立ちについての疑問を口にした。

 

それは、人にも魔にも、どちらにも属さない物の姿だったからだ。

 

 

「黒い髪に、紅い目…?」

 

少女はきょとんとした目で少年を見返した。

「うん」

 

「人間…?」

 

そしてその問いに、ほんの少し首を傾げながら答えた。

 

「うん…珍しいの?」

 

「…珍しいよ、…他の人たちに何か言われたこと無いの?」

 

そう聞かれると、少女は自信なさげに答えた。

 

「どうだったかな…覚えてないの」

 

「それじゃ、言われたことないのかな」

 

「みんなはどんな髪の色なの?」

 

「金の髪だよ」

 

「でも、君は銀の髪だよね」

 

「僕は、魔族だから」

 

「まぞく?」

 

「人間をいじめる人が、魔族って言うんだ」

 

「君は人間をいじめるの?」

 

「…いじめたことなんか、ないよ…」

 

「じゃあ君は、魔族じゃないんだね」

 

「そんなことないよ、僕は魔族だ」

 

「よく分からないよ…じゃあ…私はなに?」

 

「君は人間じゃないのかな」

 

「でもみんなは金の髪なんだよね」

 

「うん…そうだね」

 

 

「君は、目の色が金だね」

 

「うん」

 

「みんなも金なの?」

 

「魔族のみんなは金だよ」

 

「じゃあ人間のみんなは?」

 

「青…」

 

「…」

 

「私って、なんだろう…」

 

「君は君だよ」

 

「うん、私は…私」

 

「人間でも魔族でもどっちでもいいんじゃないかな」

 

「どっちでも大丈夫なの?」

 

「そんなのきっと、関係ないよ」

 

「そうなんだ、それならいいや」

 

「どこにいくの?」

 

「私、帰らないと行けないの」

 

「どこに帰るの?」

 

「私が帰るところに…」

 

「ねえ、君の名前教えてよ」

 

「私?…私は…」

 

「僕の名前はナダル、ねえ、君の名前は?」

 

「私はね…ユカ…って言うの、そう呼ばれるの…」


 
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