No.198528

Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)七巻の1

SFシリーズ7作目
やっと書けました(笑)
今まで、読んでくれた方も
初めて読んでくれる方も
有難う御座います。

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2011-01-29 18:55:40 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:880   閲覧ユーザー数:876

プロローグ

 

 

 夕方 魔法連合保護局付属病院

 秋の夕日が窓から見える景色を真っ赤に染める時間。

 さっき程まで賑やかだったこの病室は、今はとても静かだ。

 わたしは、窓枠に手を置いて、みんなの背中を見送っていた。

「・・・・・・たく。なんで、俺が叱られないといけないんだ? 全部アイツらの所為だろ、が」

そのとき、病室のベッドにいる少年《リョウ・カイザー》君が、不機嫌な声をだした。わたしは、そちらに振り返る。

「ふふ。エイルさん、カンカンだったね」

「それに、なんで請求が俺なんだ? おかしいだろ? アイツらが壊したんだぞ。クゾ!退院したら絶対払わしてやる」

リョウ君は、持っている請求書を投げ捨てると、ベッドに転がった。

 その姿に、わたしは苦笑すると、窓枠に体を預けた。

 そのとき、わたしは、チラッとリョウ君の腹部に目を向ける。

 入院着から少し覗く包帯。

 わたしのわがまま所為で負わせてしまった怪我―――。

「どうした? だれか死んだみたいな表情だぞ?」

「えっ?」

その言葉に反応したわたしは、顔を上げる。すると、リョウ君と目が合ってしまった。

 いつも、ぶっきらぼうな態度なのに、こういう人が落ち込んでるときは、なんで気付くのが早いんだろ?

「はぁ〜」

「・・・・・・マジ、どうした? さっきから暗いぞ」

すると、リョウ君は怪訝な顔になった。

「・・・ごめんなさい?」

「?」

「その怪我、わたしが急がせたから―――」

「まだそんなこと言ってんのか。いいかげんウザイぞ、お前」

リョウ君は半目でわたしを見てくると、なぜか溜息をついた。

 さすがに、ウザイはいいすぎだと思うんだけど。

「お前に謝られることをされた覚えはねーんだよ。大体、『ライブに間に合わせる』って言ったのは、俺だろ?」

「そ、それはそうだけど」

「なら、それでいいだろ。それに―――」

リョウ君は、体を起こすと、わたしを見つめてきた。わたしは、その視線を外すことができずに固まってしまった。

「優勝できたんだろ? なら、成功じゃねーか。謝ってんじゃねーよ」

「・・・・・・」

リョウ君は、じっと見つめてくる。わたしは、それがなにかを待っているように思えた。そして、気付くことができた。

 そうだ。優勝できたんだ。みんなで頑張って練習して。

 なら、別の言うことがあるよね。

 それに気付いたわたしは、口元に自然と笑みが浮かんだ。

「ありがとう。リョウ君」

「ん」

リョウ君は短く応えると、またベッドに寝転んでしまった。

 まったく、ぶっきらぼうだ。

 いつも、いつも、心配ばかりさせて。

 でも、いつも困っているときは助けてくれる。

 いつも、いつも、あのときも・・・・・・。

「―――っ!!」

そのとき、急に胸が締めつけられたような感じがして、わたしは驚いた。

 わたしは、反射的に胸を押さえる。

 でも、今は何も感じない。

 その代わりに、なぜか顔が熱くなってきた。

「んっ? どうした? 顔、赤いぞ。あのバカ共の相手して疲れたか?」

「き、気のせいだよ。多分、夕日の所為。あ、そうだ。なにか飲み物買ってくるね」

不思議そうに見てくるリョウ君を後ろに、わたしは、飛び出すように病室を出た。

 部屋を出て、扉に体を預ける。

 心臓の鼓動がとても早い。

 ど、どうしたんだろう? わたし・・・・・・。

第一章 予定と予兆

 

 

 十二月二十三日

 季節は冬

 十二世界の中の一つである《グラズヘイム》も、もうすっかり寒くなり、町を歩く人も寒さで少し体が丸まっている気がする。

 そして、この世界の主国《ミズガルズ》の町の景色は、あるイベントのおかげで夜も明るく、幻想的に輝いていた。

 多くの学業機関があるこの国の一つ《セイント・エディケーション学園》も、もうすぐ冬休み。生徒のみんなも、少し浮かれムードになっている。

 そんな放課後、三人の女子生徒たちは、マンションの一室で寛いでいた。

 

 わたし《リリ・マーベル》は、親友の《リニア・ガーベル》、《ポピー・ブルーム》ちゃんと一緒に、ポピーちゃんの部屋でいつもの放課後を過ごしていた。

 

 ポピーちゃんと出会ってからわたしは、学園が終わると、ほとんどはこの放課後を過ごしている。

 リニアもバイトがないときは一緒だ。

 そして、今の話題も自然と、もうすぐ来るあるイベントのこと。

 そんなとき、ポピーちゃんが急に思ってもいなかったことを口にしてきた。

「―――そういえば、カイザー君とはどうするん? もちろん、《クリスマスデート》の約束は、したんやろ?」

「ゴホっ!! ゴホっ!! はいっ!?」

唐突すぎるポピーちゃんの発言に、わたしは飲んでいたジュースでむせってしまった。

 いきなり、なんでリョウ君が出てきたの?

 そんな驚きも無視してリニアが話題を広げてくる。

「学園祭が終わってから、てめェら、ちっとも変わってねェよなァ? 少しは発展しねェのかよォ?」

「『発展』って、前から言ってるけど。リョウ君とは、そんなんじゃないの。ただの『家族』だって言ってるじゃない」

なんで、そういつも、リョウ君のことで二人は、わたしをからかってくるんだろう?

「それでも、休みの日ぐらい一緒に過ごすんやろ?」

「うーん、買い物くらいは行くけど」

「なら、クリスマスはどうなん?」

「もちろん。楽しみにしてるよ。家族みんなで過ごせるんだもん」

「・・・・・・イブは、どォすんだァ?」

「うーん、とくに予定はないけど」

「「はぁ~」」

えっ、なに? その呆れた溜息は? わたし、なんかおかしなこと言った?

 わたしは、二人のリアクションに困った。

 《クリスマス》を楽しみにしているのは本当だ。だって、今年は家族全員揃って祝えるからだから。去年は、リョウ君が、わけあって居なかったため、今年が、みんなで過ごす、初めてのクリスマスになる。

 だから、わたしは今から待ち遠しくて仕方なかった。

 そんなわたしは、二人のことを無視して、お菓子に手を伸ばす。

 すると、ポピーちゃんが、

「まあ、しゃーない、な。リリちゃん、奥手やし」

「限度がアンだろ。大体、一緒に住んでるのに、なんもねェのかよォ?」

だけど、この二人は、わたしの思いとは少しズレている。

「『なに』ってなによ? それに『奥手』っていうのも気になるんだけど」

わたしは、二人に半目で抗議した。

「キスとか?」

「なっ!?」

ポピーちゃんの、あまりに衝撃的な言葉に、思わずスティック菓子を落としてしまった。

 すると、急に顔が火照ってくる。

「するわけないでしょ!! なに考えてんの!?」

「面白くねェなァ。それくらいしてろよォ」

この二人は、わたしをからかって・・・。

 わたしは、二人からそっぽを向くと、ジュースを一気飲みして、高揚した頬を冷やす。

「ホンマになんも―――」

「してません! 大体、そんなこと、あのリョウ君とあるわけないじゃ―――」

と言いかけたとき、海の景色が頭を過ぎった。

 そういえば、あのとき、溺れたリョウ君を岸まで上げて―――っ!?

 それを思い出した瞬間、また顔が熱くなる。それは、先程とは比べものにならないほど。

 すると、リニアは黙っていたわたしに面白そうな笑みを浮かべて、

「なんだァ? なんか思い当たるのがあったのかァ?」

と訊いてきた。

 そんなこと恥ずかしくて、答えられるわけがない。

 わたしは、バレないようにリニアから視線を外すことにした。

 その雰囲気を気付いたポピーちゃんが、驚いた顔をした。

「・・・まさか? したん?」

「ンわけねェだろォ? この二人だぜェ」

すると、リニアはバカにしたような笑い出す。

 わたしも、一緒に笑うことにした。

 背中にはいやーな汗を感じながら・・・・・・。

 

 任務前、いつもの病院で検診を受け終えた俺は、結果を聞きに院長室を訪れていた。

 

 放課後、学園での一日を終えたあと、俺は仕事前に病院に行くよう上から言われた。

 なぜ、そう命令されたかと言うと、まあ、昔起こした事件が原因だ。

《魔連》正式名《魔法連合保護局》は、世界の平和を守る政府機関に所属する、組織の一つだ。他に、二つの所属組織があり、各々管轄の世界を管理している。

 そして、俺はというと、《魔連》が運営している学園に通いつつ、今はその組織にも席を置いている、いわゆる《非常勤》局員だ。

「なに、ぼーっとしてるんだ?」

「・・・べつに」

俺の主治医である《エイル》さんは、『まあ、いいけど』と興味なさそうに言うと、こー火が入ったカップを、俺の目の前に置いた。

 俺は、黙ってそれに口をつける。

「いい味だろ? 知り合いの喫茶店の店主(マスター)から貰ったんだ。中々入らない貴重な豆らいそうだが。うん、さすが、いい仕事をする」

「どうでもいいけど、結果まだ?」

俺は、面倒なので早めに本題に入るよう、エイルさんに諭した。すると、エイルさんは、不機嫌そうな顔をする。そして、俺の前に検査結果が載った電子版を置いた。

 俺は、それを覗き込んだ。

 しかし、まあ、見てもまったく分からない。

「で、どうなんだ?」

「単刀直入に言う。前より《ズレ》が酷くなってるな」

まあ、予想通りのだな。

 俺は驚くことなく、その言葉を受け取る。

 その様子にエイルさんの表情が、少し険しくなった。

「・・・・・・自覚はあるようだな」

「まあな」

俺は、自嘲するように笑うと、右袖を捲くった。

 そして、エイルさんにそれを見せる。

「腕にこんな傷があったら。誰だって気付くだろ」

その腕には、肘の辺りに黒い傷のような模様が憑いる。しかし、エイルさんは、俺のそれを見ても表情をくずさなかった。それよりも、先程までよりも険しくなった気がする。

「それもそうだが。もっと根本的なところで気付いていることがあるだろ?」

「・・・・・・やっぱ、誤魔かせねーか」

「当たり前だ。私は名医だぞ。数値をみれば、患者の常態ぐらいすぐに判る」

普段、人をからかってばかりいるくせに、こういうときは流石だ。

 俺は袖を元に戻す。

「違和感は、何時からだ?」

「学園祭の後ぐらいからかな。魔力出力の調節がしにくくなった。多分―――」

「そのときの無茶が、今返ってき、か・・・・・・たく、普通、あの大怪我で全力疾走なんてするバカいないぞ」

「仕方ないだろ? ああでもしないと、間に合わなかったんだから」

「アホが」

エイルさんは、半目でありがたい言葉をくれやがった。

 そこで、俺は質問する。

「・・・・・・で、治るの?」

「正直、分からん」

「即答かよ。アンタ、本当に名医か?」

俺は、呆れながら突っ込んだ。

「知らないものは、知らなん。下手に濁すよりは、そのほうがいいだろ」

「まあ、そうだけど」

「ちなみに、私は余命を告げるときもストレートだ。『お前は、あと一月で死ぬから、な』ってな感じで―――」

「軽いな!?」

ホントにストレートだ。そこは、少しは濁した方がいいと思うぞ。

「まあ、それは置いといて」

「・・・・・・置くんだな」

「症状だが。直すのは無理だが、和らげることはできる」

「・・・えっ? 本当か?」

俺は予想外の言葉に驚いた。すると、目の前の名医は、口元に笑みを浮かべる。

 あの顔はなにか企んでいる顔だ。

「簡単なことだ。女を喰え」

「・・・・・・はぁ?」

俺は、驚きを通り越して、呆れた声が出てしまった。

 この人、頭大丈夫か?

 俺は、あまりにも突拍子もない発言に脱力すると、ソファに体を沈める。でもまあ、一応訊いておこう。

「なんで女を食ったら症状が和らぐんだ? それに、いくら俺が《化け物》でも、人を食うのはゴメンだ」

「ほうー、そう答えたか」

なぜ、そこで感心する?

「人間には誰しも《三大欲求》というものがある。そして、幻獣と《契約》する代償として、その一つが、強くなることが研究結果で判っているんだ。っで、ここまで言ったら分かるな?」

「だから『食え』ってこと、か?・・・・・・っん? でも、なんで女なんだ? 肉が柔らかいのか? そもそも人間じゃなくてもよくねーか?」

「・・・・・・惚けてるわけじゃないようだな。まったく面白くないリアクションだ」

すると、エイルさんは不機嫌な顔をした。

 この人の意図がわからない。さすがに困った。

 

〝ピピピピピッ ピピピピピッ〟

 

 そのとき、急に携帯の着信音が部屋に鳴り響きす。

「おい。院内では切っておけ。最低限のマナーだぞ」

「わる―――すみません」

すると、エイルさんは、呆れたような表情で『早く出ろ』と手で催促した。

 俺は、すぐに席を立つと、部屋の隅に移動する。発信者を確認すると、ディスプレイには、『ナミ』との表示されていた。

「はい。もしもし」

『あっ、リョウ? 『ニア』のメンテナンスの終了報告よ。あと、注文があった《防護服》の《ダウンロード》。ちゃんとできたわよ』

「おっ、どうも」

『あと、余計なことだと思うけど・・・・・・少しオーバーワーク気味じゃない? 《ウエポン》からも、多くの箇所で激しい痛みが見つかったわよ』

 電話の向こう側から、呆れたような溜息が聞こえてきた。

 どうも、俺の周りは世話好きが多いならしい。

 ちなみに、今電話をしている《ナミ》さんは、俺の通う学園の一つ上、《通信科》の生徒だ。そして、俺と同じ学生兼局員であり、最近では、俺と組むことが多い。今回の仕事でも、俺のチームのサポートをしてくれることになっている。

「大丈夫だ。そこの医者にも、許しがでてる」

『えっ? 今病院だったの? ゴメン、すぐ切るわね』

「悪い、な」

『それじゃあ、あとで時空こ・・・・・・・・・』

「んっ?」

なんか、急に声が聞こえなく―――んっ?

 俺は、ディスプレイを見て、原因が分かった。そして、思わず溜息がでた。

 完全に画面真暗。そういえば最近、充電するの忘れてたなー。

 俺は携帯をポケットにしまうと、視線をエイルさんに向けた。

「それじゃあ、俺、もう行くから」

「いってらっしゃい。あんまり無理するんじゃないわよ」

俺は、片手を振って答えると、そのまま部屋を出た。

 そのときの俺は、まだ気付かなかった。

 この後、このバッテリー切れが、大事件に発展することなど全然・・・・・・・。


 
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