No.198276

バカとテストと召喚獣 僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その2

本作品の設定の一部はnao様の作品の設定をお借りしています。
http://www.tinami.com/view/178913 (バカと優等生と最初の一歩 第一問)
本作品はバカコメが主体ですので重点が変わった優子さんになっていますが。

完結しましたので他の話とあわせてご覧ください

続きを表示

2011-01-28 12:43:44 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:9403   閲覧ユーザー数:8901

総文字数約15000字 原稿用紙表記49枚

 

 

バカテスト 化学

 

【第二問】

 

問 以下の問いに答えなさい

『(1)濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合してできる橙赤色の液体の名称を何と言うか答えなさい』

『(2)(1)の液体の特徴または使用方法について述べよ』

 

 

姫路瑞希の答え

『(1)王水』

『(2)酸化力が非常に強く、通常の酸には溶けない金や白金なども溶解できる』

 

教師のコメント

 正解です。本来Aクラス並の学力を誇る瑞希さんには簡単すぎる問題でしたね。

 

 

吉井明久の答え

『(1)姫路さんの手作り肉じゃが』

 

教師のコメント

 料理の中に濃塩酸と濃硝酸を入れる人はいません

 

 

吉井明久の答え

『(2)舌どころか色々な所までトロけるトラウマになること間違いなしの一品でした』

 

教師のコメント

 君が姫路さんの手料理を食べたことをFFF団のみなさんに伝えておきます

 

 

 

バカとテストと召喚獣 二次創作

僕と木下姉弟とベストフレンド決定戦 その2

 

「いくら放課後だからって、ちょっと静かになさいよ、Fクラスッ!」

 葉月ちゃんの心配から僕のベストフレンドを決めるという変な流れになってしまい、皆が好き勝手に大騒ぎしていた所、大きな怒鳴り声と共にFクラスにやって来た女子生徒。

「秀吉の……お姉さん?」

 ちょっとキツい目付きだけど秀吉と瓜二つの美人顔。女子の制服を着たその人は秀吉の双子のお姉さん、木下優子さんで間違いなかった。

 

「代表に久保くんに愛子まで! Fクラスの連中と一緒になって何を騒いでいるのよっ!」

 お姉さんは入って来て早々にクラスメイトである霧島さんたちを叱りつけた。

「……ごめんなさい」

「嬉しすぎて僕としたことが我を忘れてしまったよ。すまない」

「ちょ~と悪ノリしすぎちゃったかな。ごめんごめん」

 素直に頭を下げるA組の面々。

 このことからもわかる通りお姉さんのA組での発言力は極めて大きい。A組の実質的なリーダーと言えばお姉さんで決まりだろう。

 確かに勉強だけで言えば霧島さんや久保くんの方が点数は高い。だけど、2人とも他人を率先して導くリーダータイプじゃない。口数少なく自分の仕事に集中するタイプだ。

 その点お姉さんは行動力と決断力に富みリーダーとしての資質に溢れている。以前雄二がA組に試召戦争を仕掛けた時も交渉役を担ったのはお姉さんだったし。

「Fクラスも放課後いつまでも教室で無駄話をしていないで自習するなり、部活に出るなり、帰宅してBL本読むなり有意義に時間を使いなさいよ!」

「騒がしくしてごめんね、秀吉のお姉さん」

「ごめんなさい、木下さん」

「すまなかったの、姉上。          …………今、地が出ておったが」

 雄二を除いて頭を下げるF組の面々。そしてお姉さんの発言力はF組でも極めて大きい。言い換えればお姉さんは学年全体の風紀の統括者とさえ言える。

 お姉さんは秩序や品格、品位、風紀といったものを重視する。だから学園にとっても非常にありがたい模範的な優等生だ。以前学園のプロモーションビデオが製作された際にはお姉さんが中心となって撮影されたぐらいだ。

 だけどそんなお姉さんは、今や文月学園始まって以来の最悪な汚点へと進化を遂げつつあるこのFクラスを目の仇にしている。何かあると今みたいに怒鳴り込んでくる。

だからお姉さんを苦手としている人はFクラスの中には多い。僕もお姉さんの顔を見る度に怒られるのではと冷や冷やする。

 だけど、お姉さんの顔は秀吉と瓜二つでとても可愛いのでファンもまた多く存在する。そいつがマゾだったりした場合、その好きは大変なレベルに達してしまう。

 そうして何人もの勇者がお姉さんに告白し、フラれ、FFF団によって無慈悲に処刑された。

 

「しかし姉上よ、あまり怒りすぎると男子からの人気がまたなくなるぞい」

「放っておいてよ! 別にアタシは男子の人気取りがしたいわけじゃないんだから」

 お姉さんは秀吉にはかなり及ばないものの格好良い女性として男子生徒から人気がある。でも、お姉さんは誰とも付き合っていない。

 お姉さんが特定の男と付き合っていないのは以前理想が高いからだと考えられていた。

 でも最近、そうではないという説が有力になっている。それは、お姉さんが可愛い女の子か幼い男の子にしか興味がないからというものだ。僕もお姉さんの口から直接それらしいことを聞いてしまっているのでなかなか否定しづらい説でもある。

 そしてこの説が正しいとすれば、どんな男子高校生がお姉さんにアタックしても無駄だという結論が導かれてしまう。お姉さんは凄く美人なのに勿体無いと僕も思う。

「何、吉井くん? アタシの顔に何か付いている?」

「別に何も。ただ、綺麗な顔だなって」

「なっ、なっ、何を言っているのよ! からかわないでよ。まったくもう!」

 お姉さんの頬が真っ赤に染まった。

 ちなみに秀吉とお姉さんは外見が瓜二つだけど見分け方は意外と簡単。

 お姉さんをもっと女の子らしく、可愛いらしくしたのが秀吉。

 つまり、肉眼に頼らず心の目で見れば2人を見分けることなぞ造作もないのだ。

「何か今、すごく吉井くんにバカにされたような気がするんだけど?」

「いえ、そんな、滅相もございませんっ!」

 慌てて背筋ごと頭を90度下げる。危なくキツいお叱りを受ける所だった。

『何よ……そんなに怖がらなくても良いじゃない。吉井くんの中のアタシのイメージって一体どうなっているのよ? 何でそんなに印象悪いのよ?』

 お姉さんはブツブツと口篭っている。

「のぉ、明久?」

「何、秀吉?」

「何となく先ほど明久の心の中でワシの尊厳が侵害されたような気がするのじゃが?」

「僕は心の中でも秀吉のことをいつもベタ褒めだよ!」

 親指をグッと立てながら白い歯をニカッと見せる。

「そのベタ褒めというのが、ワシの尊厳を傷付けているのじゃろうな……」

 だけど秀吉は僕の顔を見ながら力なく溜息を吐いた。

 あれ?

 もしかして好感度が下がってる?

 フラグ消えちゃった?

 一体、僕は何を間違えてしまったのだろう?

 やはり現実はギャルゲーのように簡単にはいかないらしい。

 秀吉エンドへの道のりは遠い……。

 

 

「それで木下は、Aクラスからわざわざここまで騒音の文句を言いに来たんだな?」

 僕たちの中で唯一お姉さんに謝らなかった雄二が遂に口を開いた。

「そうよ。坂本くんたちが騒がしいからここまで注意しに来てあげたのよ」

 お姉さんは思いっきりツンッとした態度と声で雄二に返した。でも、お姉さんのその返答を聞いて雄二は意地悪そうに微笑んだ。

「A組まで騒音が聞こえただって? そいつは妙だな」

「何が妙だって言うのよ?」

 雄二とお姉さんが互いに食い付き合う、見ている僕の胃の方が痛くなる光景。

「A組とF組では渡り廊下を挟んで校舎自体が違う。しかもA組は防音完備だ。俺たちが少々騒いだぐらいで声が届くことは絶対にない」

「何が言いたいのよ?」

 お姉さんがギロっとした瞳で雄二を睨む。お姉さんの瞳が吸血鬼みたいに真っ赤に染まっているように見える。

 僕だったらこんな怖い瞳で睨まれたら、体が硬直して何も言えなくなってしまう。

 だけど雄二はお姉さんを見ながら楽しそうに笑っていた。

「つまりだ、木下優子よ。お前はずっとF組の前で俺たちの会話を盗み聞きしていたな?」

 雄二の言葉を聞いてお姉さんの顔が爆発した。

「なっ、なっ、何を言っているのよ、坂本くんはぁ~っ!」

 お姉さんの声は裏返り、顔は真っ赤に染まっている。こんなに動揺したお姉さんを見るのは初めてだ。

「アタ、アタッ、アタシが盗み聞きなんて下品な真似をするわけがないじゃないの!」

「入って来たタイミングから察するに、何が狙いかは大体見当がつくがな。フッ」

 雄二がニヤリと笑った。状況的・精神的な優位を得た時にだけ見せる意地の悪い笑み。

 試召戦争の際に見せてくれると頼もしいけど、それ以外の場面では雄二の性根の曲がりっぷりがよくわかる不快な笑み。

「……雄二、優子を見ていやらしく笑った。浮気は許さない」

「ちょっと待て! 今のはどう見てもそういう状況じゃないだ……ぎゃぁああああぁ!」

 さて、お姉さんの方はっと──

「クッ!」

 お姉さんは制服のポケットを押さえ付けながら強く唇を噛んでいた。そのポケットから何か紙のようなものがくちゃっと潰れる音がした。

 僕には雄二の言葉の意味がよくわからなかったけど、お姉さんの心を相当に傷付けるものだったらしい。

 

「のぉ雄二よ。あんまり姉上を挑発せんでくれ。家に帰ってから八つ当たりされて酷い目に遭うのはワシなのじゃから」

 見かねて秀吉が救済に入る。やっぱりこの学年で一番女の子らしいのは秀吉だと再確認。

「俺もたった今八つ当たりされたばかりだが、秀吉の言うことはもっともだ。秀吉はベストフレンド決定戦を控えた大事な身。負傷不参加では面白くないな」

「ベストフレンド決定戦が開催されるなんて僕は今、初めて聞いたよ?」

僕の知らない所で巨大な陰謀が渦巻いている。僕だけを不幸にする巨大な陰謀がっ!

「という訳で木下優子よ。秀吉の代わりに明久なら幾らでも破壊していいぞ。関節でも骨でも折り放題の大盤振る舞いだ」

「えぇええええええぇっ!?」

 やはりもう、僕の不幸は始まってしまっていると言うのかぁっ!?

 否ッ。断じて否ッ。これぐらいの逆境、僕の力だけで乗り越えてみせる!

「僕だってベストフレンド決定戦の賞品にされている大事な身。負傷するわけにはいかないじゃないか!」

「賭けるのは明久のベストフレンドという称号であって、おまえ自身じゃない。だから明久の手が1本折れていようが、なかろうが、首や腰の骨が折れていようが全く問題ない」

「しょっ、しょんなぁ~」

「いや、今の論点はそこではないような気がするのじゃが?」

 くぅ~雄二め。以前オレオレ詐欺から電話が掛かって来た時に、詐欺師に逆に金を振り込ませたという伝説を持つ生粋のペテン師だけあって手ごわい。

「それとも何だ、明久? お前は秀吉が実の姉に関節を一つずつ破壊されていく様を見て見ぬふりをする鬼だとでも言うのか?」

「確かに秀吉の綺麗な身体がキズモノにされるぐらいなら……僕が傷付いた方が良いや」

「だから、論点はそこではなく、姉上の気分を直す方法を模索すべきではないのか? それと明久、ワシに対してキズモノとか言うなっ。ワシは男じゃぞ」

 秀吉の体が傷付くなんて許されない。身代わりになれるのなら、僕が幾らでも傷を負おう。だってそれが、僕の秀吉への精一杯の愛情表現なのだから!

「さぁ、お義姉さんっ! 秀吉の代わりに僕の骨をへし折って下さい!」

 お姉さんがへし折り易いように右腕を差し出す。

「ちょっと、吉井くんっ!? 一体何をしているのよっ?」

 お姉さんは動転した声を出した。

「アタシはそんな暴力的な女じゃないわよ。吉井くんはアタシにどういうイメージを抱いているのよ!」

 そして今度は急に怒り出した。よほど僕の言葉が心外だったらしい。

 もしかすると〈頭が良くて胸のサイズをちょっとだけ増量した美波〉をお姉さんのイメージに当てはめて考えるのは間違っているのかもしれない。

「いやいやいや。姉上の本質は明久の思う通りに暴力的で……あっ、姉上っ! 関節はそっちには曲がらな……ぐっ!?」

「ごめんね、お姉さん。僕、お姉さんのことを美波のような暴力魔と一緒に考えてい……痛い、痛い、遺体ぃいいぃっ!? 美波、関節はそっちに曲がらないってばぁああぁ!」

 何故か僕と秀吉は言葉の途中で関節を極められてしまっていた。

 スッと意識が軽くなり、見慣れた大きな川とその先の綺麗なお花畑が見えて来る。

 色とりどりな満開な花が咲き誇る花畑の中で蝶々と戯れる秀吉は本物の天使の様に美しかった。 

 でも、この光景の中に雄二がいなのはとても悔しいので、次はどんな手を使ってでも道連れにしてやろうと思った。

 

 

 

 

「とにかく、吉井くんの誤解が解けたようで何よりね」

「あっ、お姉さん」

 気が付くと秀吉のお姉さんが目の前に立っていた。関節があらぬ方向に曲がってグッタリしている秀吉を放り捨てながらニッコリと微笑えむ。

 とても可愛い笑顔で思わずドキッとしてしまう。

 僕はこの顔に弱いのかもしれない。勿論顔だけと言ってしまうとお姉さんにも秀吉にも失礼だし、僕は2人の良い所を沢山知っている。それでも特筆して綺麗な顔だと思う。

 ちなみに僕の肘も秀吉と似たような状態だけど、もう慣れたことなので気にしない。気にしなければ別にどうということはない。人間の体って便利だ。

「そっ、そっ、それで、ねっ。吉井くんに是非お話したい大事なことがあるんだけど!」

 お姉さんの顔はまた真っ赤に染まった。

 普段はクールなお姉さんが取り乱してまで僕に話したい大事なことって何だろう?

 もしかして、お金を貸して欲しいのかな?

 でも僕、残り3円で20日間暮らしていかないといけない金欠学生だから困ったなあ。

『木下さんのあの態度、どう思う、瑞希?』

『由々しき事態の臭いがしますね、美波ちゃん』

 そして姫路さんたちが何かを呟いたかと思うと、鞄の中を漁ってFFF団の全身黒装束を取り出し始めた。一体、どうしたって言うんだ、みんな?

「それでね、吉井くんっ! 話って言うのは!」

「ストップだ、木下」

 勢い込んで話そうとするお姉さんを雄二が制した。

「邪魔しないでよ!」

 お姉さんが先ほどよりも更に鋭い剣幕で雄二を威圧する。だけど雄二は動じない。

「確かに本来なら木下が吉井に何をしようが俺の知ったことではない。だが、明久のベストフレンドを決めようという今の流れでそれをするのは抜け駆けというものだ」

 お姉さんの動きがピタリと止まる。

 静かになった教室で、FFF団の正装に着替えた姫路さんと美波が鎌を素振りする音だけが鳴り響く。

「それじゃあアタシにどうしろって言うの?」

「そんなことは決まっている。ベストフレンド決定戦に勝利して明久に何でも好きな望みを言えば良い。元々その為にF組に飛び込んで来たのだろ、木下優子さんよ? フッ」

 雄二は再び性根の曲がった笑みを浮かべた。

 

 

「私が吉井くんのベストフレンド決定戦に参加して優勝する為にFクラスに入って来たですって? バカも休み休みに言いなさいよ」

 お姉さんは腕を組み首を横に背けた如何にもな姿勢で雄二の言葉を否定した。

 確かに少し考えてみればお姉さんが雄二の言葉を否定するのはもっともだ。

 僕とお姉さんには接点がほとんどない。一緒に何かした覚えもない。

 そのお姉さんが僕のベストフレンドになりたがるとは思えない。

『やっぱり木下さんは明久くん狙いで間違いないみたいですね』

『FFF団は他人の幸せを許さないのよ』

 すっかりF組に馴染んでしまった姫路さんと美波が鎌を持って徘徊するのが気になって状況がいまいち掴み切れない。けれど、とにかく今回は雄二の勘違いだろう。

「まあ、認めたくないならそれでも構わんさ。それではベストフレンド決定戦のルールを決めていくぞ」

 追及がないのは雄二にしては珍しいと思ったけれど、波風立たないのならそれで良い。

「さて、ルールに関してだが、これは決定戦に参加しない奴が決めた方がフェアだろう。ちなみに俺は参加するぞ」

 雄二の言葉に僕を含めた全員の肩が一瞬小刻みに揺れた。

 だって、策謀家の名を欲しいままにする雄二が自ら進んで相手のフィールドに乗り込んで勝負しようだなんてどう考えたっておかしい。

 一体、何を企んでいるんだ、雄二?

「それじゃあ、他に参加する奴は誰だ?」

 雄二が一同の顔をジッと見回す。すると一番最初に手を挙げたのは意外な人物だった。

「……私、参加する」

 背後に暗黒のオーラを纏った霧島さんだった。

「……雄二の裸エプロンは、吉井には渡さないっ!」

 霧島さんが怨念を込めた瞳で僕を睨みつけてくる。あれっ?

「やはり私たちの最大の敵は坂本くんで間違いなかったのですね」

「男同士の強みを最大限に活かそうなんて坂本は卑怯よ!」

「雄二×明久は二次元だけじゃなくリアルでもやっぱりそうだったなんて……」

 姫路さんと美波に加えてお姉さんまで同じ場所に集まってヒソヒソ話をしている。どうして彼女たちは僕と雄二をそんなにくっ付けたがるのだろう?

「坂本くん、霧島さんが出るのなら僕も出よう。吉井くんの裸エプロンは僕が守るッ!」

 続いて手を挙げたのは久保くんだった。

 というか、久保くんの言い方だと、僕は裸エプロンになるのが前提みたいに聞こえるので修正して欲しい。

「…………ムッツリ商会に必要なのは明久ではなくアキちゃんの裸エプロン。俺も出る」

 更に続けて名乗りをあげるムッツリーニ。何でみんな裸エプロンが前提なんだ? 

しかも男の。誰得なんだ?

「ワシは裸エプロンには興味ないのじゃが、出場するぞ。これを契機に明久にワシが男だと再認識してもらわんと困る」

 そして遂に手を挙げてくれた秀吉。

「僕は秀吉の裸エプロンだったら大興奮だよ~」

 喜びを全身で表現すべく秀吉に抱きつく。

「アキはあんまり調子に乗るなあぁああああぁっ!」

 しかし抱きつく直前で美波に殴られてしまい僕の悲願は達成されなかった。

「そういう島田は参加しないのか?」

 追撃のパンチを決めようとしていた美波の手が止まる。

「友達、の決定戦なのよね?」

「恋人、ではなかったですよね?」

 何に悩んでいるのか知らないけれど美波と姫路さんは決定戦への参加に消極的なようだ。

「僕は姫路さんと美波のことを大事な友達だと思っているのに……ちょっと残念だよ」

 思わず大きな溜息が毀れてしまう。

「そっ、それは違うんですよぉっ、明久く~~~~んっ!」

「ウチだって、決定するのが友達じゃなかったら絶対に参加するのに~っ!」

 何故か2人はいじけて体育座りを始めてしまった。女の子って本当に謎だ。

「島田、姫路は参加保留と」

 雄二が視線をお姉さんへと向ける。

「それで木下よ、お前はどうする?」

 みんなの視線がいっせいにお姉さんへと向く。

 お姉さんは大きく深呼吸をした後、大きな、それでいて凛とした声で宣言した。

「アタシはベストフレンド決定戦に参加するわっ!」

 

 

 

「アタシはベストフレンド決定戦に参加するわっ!」

 凛とした声で言い放ったお姉さん。

 その宣言を聞いて僕たちは大いに驚いていた。

「ど、どどどどどど、どうして木下さんが参加するのですかぁ!?」

「そうよ! あんたとアキは今までほとんど関係がなかったじゃないのよ!」

 FFF団の装束を脱ぎ捨てた姫路さんと美波は僕以上に動揺している。だけど、どうして2人ともあんなにケンカ腰なのだろう?

「別に今まで関係があまりないからって出てはいけないという決まりはないでしょ? それに、理由なら……あるわっ!」

「どんな理由があるって言うんですかっ!」

「そうよそうよ! 理由があるのならこの場で言ってみなさいよ!」

 気のせいかお姉さんがヒーロー役で、姫路さんと美波が三下の小物悪役のように見えて仕方がない。

「アタシには文月学園の秩序と気品を守る義務があるの! アタシは一参加者として内部からみんなの行動を監視、場合によってはその場で正すわ!」

 お姉さんは“バーンッ!”という効果音が似合いそうなほど堂々と言い放つ。その理由はいかにもお姉さんらしいものだった。

「そして坂本雄二くん、アタシはあなたに個人的に勝負を申し込むわ。アタシはこの決定戦で絶対にあなたを上回る成績を収めてみせる!」

 再び“バーンッ!”の文字。

「A組を取り仕切る才媛に直接ご指名頂けるとは大層光栄だな。フッ」

 雄二のバカはまたお姉さんに目を付けられてしまったというのに喜んでいる。下手をすれば試召戦争開始の引き金にもなりかねない危険な綱渡りだとわかっているのだろうか?

「……雄二、浮気の現場をまた押さえた」

「いや、幾ら頑張ったって今のはどう見ても浮気の現場じゃないだろうがっ!」

「……問答無用」

「おいっ! 洗ってない折れた割り箸にマスタードとわさびとコチュジャン塗って近寄っ……うぎゃぁあああああぁっ!」

 最小限度の犠牲によりクラス同士の全面戦争の危機は回避された。

 進歩のないバカの死は放っておく。それにしても──

「どうしてっ、どうして私には木下さんみたいな大義名分がないんですかぁ~っ!」

「ウチだって、ウチだって、それっぽい理由があればこんな苦労しないのぃ~っ!」

 今日の姫路さんたちは本当にどうかしてしまっているのかもしれない。やっぱり、僕と秀吉以外は全員変態というクラスが彼女たちの心を少しずつ蝕んでいたのかも……。

「それに、優勝して叶えたいアタシの個人的な願望もあるし」

 お姉さんはチラリと僕を見た。

 お姉さんが僕に叶えさせたい望みって一体何だろう?

 

 

「さて、これで大体主要面子の意見を聞き終えたわけだが」

 死んでなかったらしい雄二がグルリと周囲を見回す。そして最後にショートカットがよく似合う天真爛漫な笑みを浮かべる少女を見た。

「一応訊いておくか。工藤、お前は決定戦に出る気はあるか?」

「ボクに出る気はないよ」

「それじゃあ、決定戦に関するルール決めは工藤に任せる」

「ボクは企画に乗っかる方が好きなんだけどなあ……まあでも、たまには自分でプロデュースしてみるよ。面白い大会にするからみんな期待しててね」

 工藤さんは決定戦の責任者になることをあっさりと承諾した。雄二がルールに関する話をした時からこの展開を既に予想していたのかもしれない。

「はいは~い! 葉月は一体、何をすれば良いです?」

「チビッコはイベントの発起人だからな。ドンと構えて、後は時々工藤を手伝ってやれ」

「葉月ちゃんがボクを手伝ってくれるなんて嬉しいなあ」

「こちらこそよろしくなのです。お姉ちゃんと同じぐらいペッタンコ胸のお姉ちゃん」

「その言い方は流石に傷付くなぁ」

「何よぉっ! バストの数値だったらウチの方が工藤さんよりも大きいんだからね!」

 そしてウエストもヒップも太モモも腕まわりもみんな美波の方が大きいと思う。

 つまり、単純に美波の方が工藤さんよりも大きい。小柄な工藤さんと手足がスラリと長い美波では身長だって10cm近く違う。つまり、例えバストの数値上で美波が工藤さんを上回っていたとしても、それは美波のプロポーションの良さを示しているわけでは決してない。

 そんなこともわからないから美波はFクラスになってしまったのだと思う。

「アキ、あんた今ウチのことを心の中でバカにしたでしょ!」

「何を根拠にそんな話を!? 僕はただ、美波に対する客観的事実をちょっと考えていただ……やめてっ! 足首を折るのはやめてぇええええええぇっ!!」

「さて、残るは開催期日に関してだが……工藤、いつ頃ならできそうか?」

「そうだねぇ~どうせなら学校側の支援も得て派手にやりたいし、となるとまずは高橋先生と相談になるけど……う~ん、だけど来週月曜日の放課後に開催できるようにするよ」

「……あの、そんな冷静に話し合ってないでこっちを助け……ぎゃぁあああああぁっ!」

 意識が、朦朧と、……し始めた。

「参加の申し込み締め切りは大会開始直前までだから、参加するかはゆっくり決めてね」

「だそうだ、姫路、島田」

「ううう。困りましたぁ」

「イライラするからとりあえず死になさい、アキィ~~ッ!」

「……優子に2度も浮気した雄二の処刑再開」

「この流れでそれは理不尽だろうがぁああああぁッ!」

 霧島さんが雄二に黒いオーラ全開で近付いて行くのを見て僕は安心して意識を手放した。

 雄二の道連れ……成功だ。

 僕は、短かった人生でやり遂げたたった1つのことに満足してあちらへと旅立った。

 

 

 

 

「どうして、こうなっちゃったのよ~」

 脱力して溜息を吐きながら自室の机の上に突っ伏す。

 アタシは今日ほど自分の負けん気が強くて、しかも変な所で優等生的な態度を恨めしく思ったことはない。

「チケットを渡して誘うどころか、吉井くんに気持ちを欠片も伝えられなかったじゃないの……」

 目の前には皺くちゃになった2枚の如月ハイランドパークの特別招待チケット。

 福引で当てたこのチケットは、当初の計画通りなら既に1枚は吉井くんの手に渡っている筈だった。

 今頃携帯で吉井くんと連絡を取り合いながら当日何に乗ろうかとか何を食べようとか他愛のないお喋りに興じながらデートの日を楽しみに待つ。そんな未来もあった筈。

 でも現実はこれ。アタシはテーマパークに誘うことにも、吉井くんに気持ちを伝えることにも、彼にアタシの気持ちに気付いてもらうことにも失敗した。

「坂本くんもアタシの行動を読んでいたのだから、もう少し気を利かせてくれたって良いじゃないのよ」

 失敗の元凶となった長身のツンツン頭を思い出しながらチケットを指で叩く。

 先ほどのFクラスでのひと時は威勢でこそ負けなかったけど他は完全にアタシの負け。坂本くんの掌で踊らされてしまった。そして全て彼の言う通りだった。

 

 アタシはFクラスの前で内部の会話をずっと盗み聞きしていた。中に入るタイミングを見計らう為に。

 ごく自然にF組の扉を開けて教室内に入っていく代表や久保くんや愛子が羨ましくて仕方なかった。

 アタシだって双子の弟である秀吉を出汁に使えばFクラスに入るのは容易。でも用があるのは演劇バカの愚弟じゃなくて吉井くん。だけどアタシは吉井くんとは個人的な繋がりをほとんど持っていない。

 だから吉井くんを含めたFクラスの連中に話し掛けても不自然じゃないタイミングをずっと狙っていた。

「だけど怒りながら話し掛けても吉井くんのアタシへの心象が良くなるわけがないじゃない。アタシのバカ……」

 話し掛けるという事象にばかり集中して、話す内容とその結果を熟慮しなかった自分を恨めしく思う。

 木下の血には深く集中できる代わりに周りが見えなくなる特徴みたいなものがある。

集中力が高いおかげでアタシの成績は学年でもトップクラス、秀吉も劇のコンクールで入賞を果たしたことがある。

 だけど一つのことに集中し過ぎると社会生活上ではバランスを欠いた人間になり易い。

 アタシは優等生な外面の反動と言える家での生活面のだらしなさやズボラさを弟にいつも注意されるし、秀吉は学生にとって最も重要な学業が極めて良くない。

 悪く言えばバランスを取るのが下手なのが木下の人間の特徴なのだ。そのバランスの悪さが今日は思い切り裏目に出てしまった。

 

「ただいま帰ったぞい」

 弟の声が階下から聞こえる。

 勿論アタシは返事なんかしない。秀吉もそれがわかっているから特に気にせずに階段を上ってくる。

 そして自分の部屋に入ると思いきや、アタシの部屋の前に立ってノックなんぞを始めた。

 ノックしないで入って来てくれれば関節でも極めてストレス解消になるのに、秀吉はこういうことに女の子以上によく気が回って時々困る。

「開いてるから入りなさいよ」

 机に突っ伏したまま返事をする。

「お邪魔するぞい」

 ドアが開いて弟が入って来る音がする。顔を上げるのさえ面倒くさい。

「……姉上、幾ら自室とはいえ嫁入り前の乙女が下着姿で机に突っ伏すのはどうかと思うのじゃが」

「別に誰にも迷惑を掛けていないのだから良いじゃない」

「他人の目の問題ではなく、だらしなさやズボラさに関する問題だと思うのじゃが?」

「その問題に関してはさっき反省した。今後は政治家並に前向きに善処を検討するわ。で、何の用?」

 秀吉が机の隣まで歩いて来たので視界の片隅に入る。

「いや、用というか話というか、姉上は明久狙いだったんじゃなと思って」

 弟の声は微かに上ずっている。

「意外?」

 ゆっくりと顔を上げる。机の横に立つ弟は天井を見上げながら難しい表情をしていた。

「う~む。意外と言えば意外じゃが、あり得ると言われてもあり得るんじゃよなぁ」

 秀吉は本棚に目を向けた。

 

 

 

 学習参考書がビッシリと詰まっている大きな本棚には4つの段ボール箱も収納されている。その内の1つに秀吉の視線は集中している。

 種明かしすればその箱の中には同人誌が収められている。そのほとんどがBL本なのだけど、中でも文月学園漫研発行の『雄二×明久』本が多い。他にも吉井くんが女装した姿であるアキちゃん総受け本は最近一番のお気に入りジャンルだ。

 つまりアタシはジャンルはともかく吉井くんが出て来る本を以前から多く収集している。アタシの部屋の整理整頓役である弟もそれは知っているので上記の様な言葉が出たわけだ。

「アタシも二次元の好みと三次元の好みは区分していたつもりだったんだけどねえ……」

 歯切れの悪い返事。

 アタシは自分で言うのも何だけど、白黒ハッキリ付けないと気が済まない性分だ。

 けれどそんなアタシでも割り切れない、というか論理立てられないのが吉井くんへの想いだ。

 アタシは多分、吉井くんのことが好きなのだと思う。

 多分、というのはアタシ自身にも自分の気持ちがよくわからないから。だけど“初恋だから自分の気持ちがよくわからない”なんて乙女チックなことは言わない。

 アタシの初恋は小学校5年生の時。クラスメイトの男の子に思い切って告白したら「口うるさい女は嫌いだ」と一瞬で振られたという美しすぎる思い出がある。しかもその男の子はその翌日に秀吉に告白したという美しすぎる思い出が。

 他にも、男子と付き合ったことはないけれど、恋心なら小中学校時代に2度抱いたことがある。高校に入ってからはBL愛が加速したこともあって三次元の男には興味を失っていたけど。

 だからアタシにとって恋心自体は未知のものじゃない。そして過去の事例と照らし合わせてみると、アタシが今吉井くんに感じてるのは間違いなく恋心なのだと思う。しかも今までで一番大きな恋心だ。

 問題なのは何故アタシが吉井くんを好きになったのかという理由の方だ。

 恋は理屈じゃないと言ってしまえばそれまでの話。だけど今までアタシが好きになった人は格好良いからとか、頭が良いからとか、頼りがいがあるからとか相手の魅力と思える場所をスラスラと述べられた。

 ところが吉井くんにはそれがない。だからアタシは自分に戸惑っている。

 確かに吉井くんの長所には優しさがある。吉井くんは誰かの為に一生懸命になる時、その力の本領を発揮する。それは人間として素晴らしいことだと思うし、そんな吉井くんをアタシも好ましく思う。

 だけど優しさと他人の為に一生懸命になれるという点は吉井くんだけの専売特許ではない。A組の男子は久保くんをはじめとして大半が優しいし他人の為に一生懸命になれる。

 他クラスの生徒たちはA組の男子生徒を勉強だけできて人間性はダメみたいに道徳的に批難したがるけれど、アタシに言わせれば見当違いも甚だしい。

 立派な考え方を持つ人格者だからこそ勉強でも何でも優秀な成績を収められるのだ。ちょっと意外かもしれないけれど、運動部のレギュラー選手数は実はE組よりA組の方が多い。

 つまり、優しさと一生懸命は吉井くんの美点だけれども、惚れた箇所と言い切れるものではない。何より吉井くんの優しさと一生懸命さがアタシに向いたことはないのだし。

 

 で、ようやく先ほどの秀吉とのやり取りに戻る。

 上記のような事情があって、結局、アタシが吉井くんを好きになったのは『吉井くん物の同人誌』の影響じゃないかという説が有力になっている。

 要するに二次元の好みが三次元の好みに影響を与えたということだ。言い換えれば好きな漫画のキャラクターそっくりの人が現実にいたから好きになった。ワイドショーのコメンテーターが聞けば現代の若者は……と渋い顔で語りだしかねない趣向の持ち主がアタシということになってしまう。

「好きな人は可愛い女の子か、幼い男の子か、漫画に出て来るような少年とは、姉上の伝説は留まる所を知らんのぉ」

「それ以上喋ったら首の骨をへし折るわよ」

 瞬時に立ち上がって秀吉の背後に回る。今、弟の生殺与奪はアタシが握っている。それを思うと心が落ち着いて正常な受け答えができる。

「大体、アタシが吉井くんを好きになったのは同人誌の影響とは何も関係ないかもしれないでしょ? それを確かめる為に……」

「明久を遊園地デートに誘おうと思ったのじゃな?」

 秀吉の視線の先には皺くちゃになったテーマパーク特別招待チケット。

「やっぱり秀吉には今ここで死んでもらって口封じするしか」

「それは幾らなんでも無茶苦茶すぎるぞ、姉上?」

「そうよね、アタシの輝かしい経歴があんたを殺めたせいで傷付くなんて割りに合わないもんね」

「ワシの命は姉上の履歴書の1行よりも軽いのじゃなぁ。既にわかっていたことじゃが」

 秀吉が溜息を吐く。

「そうね、今から言う質問に素直に答えたら死刑からの減刑を考えないでもないわ」

「死刑が標準なのが納得できんのじゃが?」

 さて、何を尋ねようかしら?

 

 

 愚弟に尋ねたいことはやはり一つしかなかった。

「お祈りはもう済ませた?」

「その質問はどう答えると死刑が回避できるのじゃ?」

 間違えた。

「吉井くん、あの後何かアタシのことを何か言っていた?」

 尋ねたいのはこっち。

「フーム、何かと言われてものぉ。姉上が参戦してきたのは意外だったと一言述べただけで後は特に何も……」

「じゃあ、吉井くんがアタシの気持ちに気付いている可能性は?」

「ほぼ皆無じゃろうなぁ。あんなんで気持ちが伝わるのなら、姫路か島田はとうの昔に恋人の座を射止めておるじゃろう」

「そうよね」

 吉井くんは鈍い。鈍いからこそアタシにもまだチャンスがあるわけだけど、恋愛成就への道のりは平坦でないことも示してもいる。

「わしは今の学年になってから、姫路と島田の健気な恋模様をずっと見てきたからのぉ。なので幾ら肉親とはいえ、姉上だけ後押しするというわけにはいかんぞ」

「あんたの助けなんか要らないわよ」

 嘘。秀吉の助けが得られないのは痛いけれど、弟は頑固者だから有言実行するだろう。いざとなったら関節と骨でお願いするかもしれないけれど、それは流石に格好悪いので切り札に取っておきたい。

「姫路と島田は強敵じゃぞ? 2人とも外見だけでなく心も綺麗な良い女じゃぞ」

「相手にとって不足なし、よ」

「姉上の負けん気の強さはこういう場面ではポジティブに発揮されて良いの」

 姫路さんと島田さんが強敵なんてことはわかっている。それに恐れおののいていて吉井くんに恋なんかできない。

「そしてベストフレンド決定戦ということに限れば、雄二は姫路たち以上の強敵じゃぞ」

「坂本くんが強敵なのはもう十二分に承知しているわよ」

 坂本くんには今日完全に手玉に取られた。

 思えば、A組がF組に試召戦争を仕掛けた時からアタシは坂本くんにやられっ放しだ。この借りは必ず来週の決定戦で返させてもらう。

「坂本くんは、あの荒々しい暴力的な態度と言葉巧みな鞭で吉井くんの身も心も縛り付けて離さないでいるものね。吉井くん争奪戦でも姫路さんたちを一歩先んじているわ」

「それは姉上の好きな同人誌の上での話じゃろう」

「だけど、幾ら吉井くんと坂本くんが男同士の熱い絆で結ばれていてもアタシは負けない」

「姉上の中で明久は完全にそっち側の人間なのじゃな」

 秀吉が生意気にもアタシを呆れ顔で見ているが無視する。

 坂本くんと吉井くんは既に18禁同人誌の関係なのかもしれない。ううん、きっとそう。そうあって欲しい。そう決まった。アタシがそう決めた。

 だけどアタシは負けない。男同士の真実の愛をアタシがもっと大きくて強い愛で塗り替えてみせる。

 でも、その坂本くん以上の強敵がアタシにはいる。

 そいつにだけは何があっても絶対に負けられない。

「でもね、アタシにとっての最大のライバルは坂本くんじゃないわ」

「雄二以上の強敵となると……確かに、能力をフルに発揮した霧島の力は測れ知れんし、明久に執着する久保の力も異常なものじゃ」

「そうじゃないわよ」

 瞳を細めながら弟をスッと見据える。

「アタシが最大のライバルだと思っているのは…………秀吉、あんたよ」

 アタシの言葉を聞いて弟は硬直した。

 

「なっ、何を言っておるのじゃ姉上は?」

 演技の一環としてポーカーフェースを信条とする弟の声が震えている。

「言った通りのことよ。アタシにとって吉井くん争奪戦の最大の敵はあんた」

 対するアタシは自分でも驚くぐらいに冷静な声を出していた。

「吉井くんの一番のお気に入りがあんたなのは見ていて明白じゃない」

「あれは明久がワシをからかっているだけで……」

「本気にしか見えないのだけど?」

 今日の放課後吉井くんの言動を観察しただけでも、彼の意識が弟に強く向けられているのは容易に見て取れた。

「大体ワシは男なのじゃぞ!」

「吉井くんはあんたのことを男だなんて思ってないじゃない。それに、男でも関係ないみたいなことを言っていたし」

「あっ、あれは明久なりの冗談じゃ!」

 弟は取り乱している。その姿に役者の面影は少しも見当たらない。

「それに秀吉、あんただって吉井くんのこと……」

「ワシが何じゃ?」

「………………何でもないわよ」

 大きく溜息を吐く。

「とにかくあんたはこのベストフレンド決定戦でアタシの最強の敵、ラスボス。それで良いじゃない」

「何だかよくわからぬが、姉上がワシにラスボスを望むのであればワシはそれを演じきってみせようぞ」

 ようやく秀吉がいつもの調子に戻った。

「決定戦ではアタシと当たるまで負けるんじゃないわよ」

「それはラスボスであるワシが言う台詞じゃ」

 顔を見合わせてフッと笑いあう。これで元鞘に戻った。

「でもやっぱりさっき秀吉にからかわれたのがムカつくから、腕1本へし折らせてね♪」

「表情と言っていることが一致してな……やめっ、肘はそっちには曲がらな……ギャアアアァ!!」

 秀吉の悲鳴を聞きながらアタシはベストフレンド決定戦の勝利を心に誓うのだった。

 

続く

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
11
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択