「ハァッ!!」
「ぐあっ!?」
星の一閃により、その攻撃を受け止めた巨体が後ろに吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた男はたたらを踏みながらも、目は星を捉え続けていた。
「なかなか粘るではないか」
「あったりまえだ……ここで負けるわけにゃいかないんでな!!」
(体中傷だらけ、それに足も震えている……。
もう立っているのもやっとだろう……だが倒れない。
目が、死んでいない)
琥栗が去り男との戦いが始まってしばらく、二人の戦いは膠着していた。
といっても優勢は誰の目から見ても星のほうにある。
だが男は膝をつくことはなかった。
槍を受け、血を流しながらも致命的な攻撃は何とか捌き続け、
未だに星の行く手を遮る。
「……なぜ?」
「あん?」
「なぜ貴殿のような男が賊になど成り下がっている?
どうしてこのような事を続けている?」
この戦いを通して星は、男をただの賊とは見れなくなっていた。
強い意志を宿した瞳は、そこらの賊とは比べるのもおこがましい程
真っ直ぐな色をしているからだ。
「…………はっ何だそりゃ?
賊になった理由だ?……答えは簡単だ。
テメェら官軍が許せないだけだぁ!!!」
「っ!」
星の言葉にハッキリと怒りを宿した瞳で返し、
傷ついた身体など気にした風もなく星へと襲い掛かる!
「お前たちはいつも奪っていく!!」
「くっ!」
「何もしてくれないのに税だけはしっかりと奪い!」
「……っ!」
「それだけに怠らず、愛すべき者たちまで奪っていく!!
親!妻!子供!親友までも!!
もう俺たちはただ奪われるのは勘弁なんだ!!
このまま奪われるなら……俺たちが奪ってやる!!
そう思って……何が悪い!!!!」
「ぐぅっ!?」
力任せの一振りは星の身体を簡単に吹き飛ばす。
それでも何とか体勢を崩すことなく槍を構えなおす。
「俺たちは……お前らを許さない!!」
「…………!」
「はあああ!!」
「ぐあっ!」
人を斬った感触に顔を歪めながらも、
血を払うために刀を振る。
血が流れ飛ぶ戦場の中、一刀は六花に乗りかけていた!
(琥栗……どこにいるんだ!?)
一刀の目的はただ一つ。
琥栗に会うことだ。
だから六花と共に戦場を駆け回っているのだが、一向に見つかる気配はない。
キリリ……
そんな音がかすかに耳に届く。
視線をやると敵の賊がこっちに向かって弓を引いていた。
「六花!!」
「ヒーン!!(まかせて下さい!旦那様!!)」
一刀の声に答え、六花は弓を構えた賊へと向かい走り出す。
それに気づき慌てた賊が弓を放とうとした瞬間…!
「飛べ!六花!!」
掛け声と共に六花は強く地面を蹴る!
そしてその反動で高く高く空へと飛び上がった!
その跳躍力は軽く賊の背を飛び越す程の高さであり、
それに驚いてる賊を飛び越す瞬間に一天を下から振り上げる!
「かひゅっ!」
その斬撃は賊を切り裂き、命を散らせた。
倒れた賊に一度だけ目をやった後、一刀は再び六花を走らせる。
「琥栗……一体どこに!?」
見落とさないよう回りを見渡す。
だが、一向に琥栗は見つからない。
焦りが一刀を包み込んでいた。
(琥栗……)
脳裏に彼女との想い出が蘇る。
怒っていた彼女。
笑っていた彼女。
泣いていた彼女。
落ち込んでいた彼女。
喜んでいた彼女。
そしてあの夜に見た……冷たい彼女。
話しがしたかった。
した所でどうなるものでもないのかもしれない。
でも……。
「でも……俺は!!」
そして――
「一刀……さん?」
二人は再び出会った。
「どう……して戦場(ここ)に?
今まで……前線には出てきてなかったのに」
戸惑う琥栗の声。
彼女はまさかまた会うとは微塵も思っていなかった。
なぜなら敵であるからこそ、一刀の価値を
琥栗は良く分かっていたからだ。
「……会いに来たんだ」
「え?」
「君に……会いにきたんだ」
だからその答えに。
琥栗は暫く身動きがとれなかった。
「え……はぇ?~~~~~~~!!あぅ~~え、え……
えええええええええええええええええええ!!?」
戦場の中だというのに顔を赤くし叫ぶ琥栗。
その姿は街で一刀といた時とまったく変わらない。
そんな姿に安心しながら六花から降り、
琥栗に近づく。
「(ってダメダメ!私は盗賊、一刀さんは官軍!……敵、なんだから)
あ、会いに来たって……何か用事ですか?
私にはもう貴方に用はないんですが」
「琥栗と……話しがしたいんだ」
「この状況分かってます?
いま戦ってるんですよ私たち。
今更話し合いもないですよ」
「俺は!……俺は知りたい。
俺と楽しそうに話していた琥栗。
そしてあの夜や今みたいに冷たい目をした琥栗。
どっちが本当の琥栗なのか?
どうして琥栗が盗賊なんてやってるのか……」
「…………」
その言葉を聞き、琥栗は暫く考える。
そしてあの冷たい瞳で一刀を睨みつけた。
「琥栗……?」
「知りたいなら戦って下さい」
「だから俺は―「私は!!」っ!?」
「私は……正直、一刀さんの事嫌いじゃないです。
でも……天の御使い・北郷一刀が憎くて仕方がない……。
だから、目の前にいる今!……お前を殺す!
私の話が聞きたいなら、力付くで聞き出してみろっ!!」
「……!!」
「やああああああああああ!!!」
戸惑う一刀をよそに、琥栗は槍を一刀へと突き出す!
二人の戦いがここに始まった!!
「おらあああああああああああ!!!!」
「づぁっ!?」
豪腕に任せた一突きが星の頬をかすめ、
スパッと血が噴出し美しい真紅の血が星の頬を伝った。
ここに来て戦況は反転していた。
優勢だったはずの星は防御に回り、
男の猛攻をただ防ぐだけになっていた。
力量は明らかに星が上。
だが、今の男は限界以上の力を確かに引き出していた。
「は、ははははは!ざまぁねぇな!
奪われてきた辛さを味わってきた俺たちに、お前らが敵うわけがねぇんだ!!」
「…………」
「俺たちは……こんな所で死なねぇ!
死んでいった者たちのために……!
家族のために……!
親友の残した宝物のために……!
俺は人の物を貪り食う奴らなどには絶対負けねぇ!!」
「………っ!」
また一振り!
重たく鋭い一撃を何とか受け止め、
星は静かに男を睨み返していた。
星は……確かに男の気にあてられ
怯んでいた。
それがこの結果。情けない……と素直に思う。
だが今、星の中にふつふつとある感情が生まれていた。
それは……その感情は星の根本を刺激する。
鈍っていた感覚を鋭く蘇らせる。
力が……湧き上がってくる!
「なるほどな……」
「あ?」
「貴殿……キサマの言いたいことはわかった」
指先から身体全体に力が戻ってくる。
ああ……この感情を星はよく知っている。
「だが……それがどうした?」
「………おい、今なんつった?」
男の顔が強張る。
それでも星は怯むことなく、言葉を続けた。
「それがどうした……と言ったのだ!」
「……ふざけるなぁあああああああああああああ!!!」
怒号!
共に突き出される槍。
それは今日一番の男の突きであった。
最高速度、威力、共に最高。
防げるはずがない!確信にいたる。
だが、そんな男の確信は……簡単に砕け散ったのだった。
「………なっ、ふせがれ……!?」
いい終える間もなく、胸元を星に捕まれる。
と、同時に強く引きつけられ―
「甘えるな!!」
顔面を強い衝撃が襲った。
地面を転がりながら、殴られたことに気がつくのに時間はかからなかった。
慌てて身を起こし殴った相手を睨みつける。
そこには先程の自分と同じように怒りの目を宿した星が仁王立ちして男を見下ろしていた。
「何もしてくれないのに税だけ奪われた?
ああそれはかわいそうに!」
「……っ?」
「親が奪われた?それは悲しかったでしょうな!」
「何言って……」
「妻が奪われた?子が奪われた?友も奪われた?
それはさぞ悔しかったでしょうな!!」
一歩一歩、星は男に詰め寄っていき、
男は知らず知らず身を少しずつ後退させていく。
「だが、それが一体なんだというのだ!?」
「なん……だと?」
「貴様が不幸だというのは分かった。
官軍に恨みをもっていることも分かった。
だが、それが一体なんの理由になる!?
略奪行為をするための何の理由になる!!?」
「奪われた苦しみを与えようとしたことが悪いとでもいうのか!?」
「当たり前だ!!!」
「っ!?」
「奪われたからといって他の誰かから奪っていいとでも思っていたのか!?
いや、思っていたのだろうな…そんな訳があるわけないというのに!
確かに貴様は不幸なのだろうな……だが、今この大陸に
不幸な人が何人いると思う?
それこそ貴様より不幸な人が……何人いると思う?
不幸なのは貴様だけではない。
皆、不幸だとしても一生懸命明日を生きようとしているのだ!
腐らずに……精一杯生きようとしているのだ!!
自分ばかりが不幸なような言い方ばかりして……本当に腹立たしい」
星は……怒っていた。
目の前の存在に。
悲しい思いで生まれてしまった悪という存在に。
「私個人……貴殿は悪人ではないと思う……思うが、やはり貴様は悪人だ」
「悪人……?」
「やられたことをやり返してどうする?
それをしてしまったら、やった者と同じになるということが何故分からない!?」
「っ!?」
「今までいくつ村を襲った?
いくつ人の大切なモノを奪っていった?
分かっているのか?奪われた者にとって貴様は
貴様にとっての官軍と寸分も代わらないということに!」
男は……震えていた。
思いもしなかったことだった。
自分のしたことが、ただ苦しみを分からせたいがためにやっていたことが、
自分の憎み者たちと変わらないことに……。
「貴殿は立ち上がるべきだった……。
自分のような者を作らないようにと……立ち上がるべきだったのだ」
「………俺は」
何がなんだか男には分からなくなっていた。
自分が何を信じて立っていたのかさえ、今の男は見失っていた。
男は考える。
確かに目の前の女の言う通りなのかもしれない。
自分は、これ以上自分にような者が出ないように、
立ち上がるべきだったのかもしれない。
でも……。
『琥栗を……娘を頼む』
でも……。
「もう今更っ引き下がれるかあああああああああああああああああ!!!!」
――トスン
「………あ?え?」
胸を見る。
そこには自分に刺さっている槍の刃があった。
男は理解する。
目の前の女に、自分は負けたのだ。
負けてしまったのだと……。
そして、静かに地面に倒れた。
「…………馬鹿者が」
星は悔しそうに顔を歪め、
それだけ呟いてこの場から去っていった。
「………ぅ」
まだ息のある男を残して。
「………あ……あぁ」
男は今までのことを思い出していた。
それが走馬灯だとは……気づくことなく。
愛する妻。子供。家族。
皆死んでいった。
親友も死んでいった。
奪われていった。
何もかも奪われていった。
だから奪ってやろうと思った。
それは……間違っていたのだろうか?
今の男には分からない。
ただ分かることは。
「ごめ……くぐ……りちゃ……」
自分が死んだと分かったら絶対泣いてしまう、
親友の優しい娘を泣かしてしまうことだった。
それから暫くして、男は静かに動きを止めた。
あとがき。
二章その8が終わりました。
残すところあと二話!頑張って書いてくぜぇ!!
と気合を入れたところで今回の話しはどうだったでしょうか?
何か恋姫世界の戦闘でも思ってたけど、
戦場で一対一で戦えるもんなんでしょうか?
気を抜いたら後ろから攻撃されたりしないのか?とか気になってたりします。
まぁ一対一にしないと話しが作れないので仕方ないんですけどねwww
次回!VS琥栗、決着です。
二人の結末がどうなるのかお楽しみに!
してくれると嬉しいなぁ…。
ではまた次回に。
何か感想・指摘あればコメントしてくれると嬉しいです。
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一刀が琥栗を探す中、
星の戦いが激しさを増す。
そんな中男の強い精神に星は少し怯んでしまい……