第1話 リーナさんの家庭の事情
浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな街、名古屋の大須。
その大須で有名な大須観音の近くに、周囲の日照権なんか、まるで無視した
傍若無人な二十階建ての高級マンションが建っている。
そこがリーナお嬢様とその家族の自宅。
一応、各階の部屋に表札も出てるんだけど全部偽名で、実際は安治江家の所有物。
旦那様は「金さえ払えばホワイトハウスでも持ってくるぞ」と豪語する、世界中を
駆け回る凄腕のブローカーなので、敵も多い関係上、少し隠れ住む必要があるわけ。
屋上に用意してあるヘリポートや短距離滑走路もそういった事情で用意した物だ。
放任&実力主義な旦那様は、リーナお嬢様から全収入の五分の三をとりあげ、
〈住むところ位はくれてやる〉と、一階と二階をリーナお嬢様に与えた。
ヤケになったお嬢様は「気分だけでも優雅に暮らしてやる!」と
一階の半分を窓がステンドグラスの温水プールに改造して、仕事がオフの時は、
大抵ここでダラリとノビて、ソーダ水をすすっている。
その温水プールで前回の激ヤバ爆弾事件をなんとか逃げきった疲れから、
僕とリーナお嬢様はのびたラーメンのようにグダーッとダレていた。
「ふぅ~~っ、こうして太陽光線を浴びて、イオン溶水に浸かっていると、
生き返るようだ……」
SFアクション漫画にでてくる悪役の植物人間みたいなことをつぶやく
お嬢様だけど、僕も気分は一緒だ。
ようやく疲れもとれて、プールから出ようとしたとき、お嬢様の携帯が鳴った。
「よぉーっ、リーナ、アイガーくんだりまで原爆抱えてご苦労ご苦労。
誉めてつかわす!!」
相変わらず天上天下唯我独尊な旦那様だ。
「あ……あんたいきなりかけてきて、なんちゅう言いぐさ!? 何様のつもり!?」
「お父様だ。おまえがいるのも俺のおかげやろ。神様と呼んでもええよ」
「私はお母様一人から産まれたの!! あんたなんか知らん!!」
お嬢様それは生物学的にちよっと無理……
「そのデカい胸や尻も、みんなおまえに流れる俺の血のおかげだ。感謝せい」
最近またご立派になられて、長年見守ってる僕としては感慨もひとしお。
「やかましいっ!! 馬鹿っ!!」
ミシッ、バキバキ…… 携帯が今にも握りつぶされそうだ。
いつもは天真爛漫、笑顔で陽気なリーナお嬢様だけど、旦那様にだけは
真っ赤になって、怒りに震えてる。喧嘩するほど仲がいいっていうから
多分いいんだろう。(笑)
「ふふふっ、暖かいファミリートークはこの位にして、本題に入る。
リーナ、おまえ地下に来いや。ええもん見しちゃる!」
「ええもん?、なによそれ……」
急な話の展開にとまどいながらも、旦那様の言葉がお嬢様の探し屋根性を
くすぐったらしい。
「あ……あんた自身はともかく、あんたのやってることだけは面白いから、
まあ見てあげてもいいわよ」
「そうか、なら地下で待ってるぞ。お楽しみはメインステージまでお預けだぁ!!」
一方的にかかってきた旦那様の電話は一方的にきれた。
「ったく、あのセクハラ親父っ!! じゃあ行こうか ハルロー!」
エレベーターでマンション地下に降りる僕とリーナお嬢様を待ちかまえていたのは、
想像を超えたとんでもないシロモノだった。
第2話 地下鉄のハジにつづく
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サブタイトルどおり、リーナお嬢様の
家庭のお話です。
3月に加筆修正を行いました。