No.196799

種馬の最期 (魏エンド後 )

sougaさん

真・恋姫†無双の魏ルートの後、一刀がどうやって生きたか。
その最期は……。

2011-01-19 23:02:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4473   閲覧ユーザー数:4016

 

一人の老人が病室のベッドで眠っている。

 

老人には、人工呼吸器だけではなく、胸を裂いて中に管が入れられていた。

 

まるで、死ぬ事を許さないかのように……。

 

その外の廊下で二人の男がベンチに腰掛けている。

 

「なぁ……まだ続けるのか?」

 

一人は、小太りの日本人であった。

 

そのスーツはオーダー品なのか、腹の出た男に似合っている。

 

正直今の老人の状況を見てどうするべきか考えてしまう。

 

「手は、まだあると思っています」

 

一人は、中国人であった。

 

スーツの上から白衣を着ているが、左腕は肘から先がないようである。

 

「正直、あんな状況だったら」

 

「言いたい事は分かります。

 ですが、私は、あの人に多大な恩があるんです」

 

中国人の男は、かつて日本に仕事を求めてきていた不法労働者だった。

 

その時働いていたのが、老人が経営する小さな工場だった。

 

不法滞在者だと知った老人――その頃はまだ壮年であったが――は、すぐに通報した。

 

それに気づいて、逃げ出した仲間は多くいたが、男は逃げられないと思い留まった。

 

そして、呼び出された社長室で、一枚の封筒が渡された。

 

「コレは?」

 

「うまく行かなかったらそこに行って、中の封筒を渡せ」

 

強制送還後、仕事が決まらず言われたとおり、中の住所に向かった。

 

そこにあったのは日本の企業の工場で、求人はしていなかった。

 

だが、工場長に手紙を見せると、採用をしたのだ。

 

なんと言う幸運だろうと思った。

 

その後、働いて自分の会社を持てるまで成長できた。

 

これは全て老人のおかげだった。

 

「そうだったのか」

 

小太りの男は、老人の友人の息子だった。

 

老人は、女性にかなりアプローチをされていたが、独身を貫いた。

 

父親が生きていた頃、その事を不思議に思い、たずねた事がある。

 

「あいつは、惚れた女がおるんや。

 もう会えんのやけどな」

 

どこか悲しそうにそういった父親の言葉は、今も忘れられない。

 

だが、今は老人の事を考える。

 

二人が仕事をするために病院を後にする。

 

彼らもまた、やらなければならない事が多いのだ。

 

老人は、自分が生かされている事を夢心地で見ていた。

 

 

『何や、かずピー、情けない面しとんなぁ』

 

――及川、お前が迎えか

 

『不満なんか?』

 

――死ぬ間際にでも会いたかったと思うのは我侭かな?

 

『……やっぱ、会いたいんか?』

 

――当然だろ。

 もう一度会えたときに、胸を張って会うためにずっとがんばってきたんだ

 

『……なぁ、もし、もしもやで、俺がもう一度会わせたる言うたら信じるか?』

 

――それ、何度も聞いたなぁ。

 

『えぇやん、俺もう死んどるんやし』

 

――あの時と答えは変わらない。

 やれるんだったらやってみせろ

 

『ははは、それでこそかずピーや。

 俺の親友や』

 

――なぁ、及川、一つだけ聞いていいか?

 

『何や?』

 

――俺は、彼女に胸を張って会えるかな

 

『そんなん知らんわ』

 

――ははは、まったくその通りだ

 

『でもな、かずピー、先に言うとくで。

 俺が送り出せるのは、外史の外史や』

 

――外史の外史?

 

『そや、かずピーの外史は、三国志の武将が女性という外史や』

 

――あぁ、そうだな。

 

『そん中でも魏に……かずピーが曹操に拾われた外史や』

 

――つまり、俺が劉備や孫策に拾われた外史もあるって事か

 

『他にも色々とあるんよ』

 

――まぁ、それで

 

『俺が送れるんは、そっからの派生ちゅうこっちゃ』

 

――送れる場所が決まっているのか?

 

『まぁ、愛しの女と再会ぐらいはさせたるって程度や。

 ただ、先に言うとくで』

 

――ん?

 

『かずピーの体は、外史に落ちたときまで若返るんや。

 知識とかは持っていけるけど、体はあん時の体や』

 

――知識が持っていけるだけでも十分さ

 

『ただな……初めからやり直しやで』

 

――……そうか

 

『他にも、俺が思うとるよりも変化があるかもしれへんしなぁ』

 

――かまわない

 

『あと、落ちる場所がどこかも分からんで』

 

――それでも……もう一度会えるなら

 

『ははは、それでこそかずピーや。

 自分のことちゃんと知らんとあかんよ』

 

――あぁ、やってくれ

 もっとも、お礼は言えそうにないけどな

 

『そんなもん要らんちゅうねん。

 生きとる間、何度助けられたかわからんわ』

 

――そんな事あったか?

 

『か~、これやからお前はアホやねん。

 えぇか、息子の就職に口聞いてもろた。

 俺の借金だって肩代わりしてくれたやろうが』

 

――友達だから当然だろ

 

『アホ。

 貸しと借りちゅうのは、こっから先でも重要やろうが』

 

――分かっているよ。

 ただ、俺の事をお前だけが信じてくれたからな

 

『それこそ当たり前やん。

 あんな真剣な目で言われたら信じる以外にないやろ』

 

――それだけで、どれだけ救われたか

 

『まぁえぇわ。

 これが最後や。

 一刀……もう一度生きて考えてや』

 

――あぁ、ありがとう

 親友

 

『こっちこそ、楽しい人生をありがとう。

 親友』

 

 

 

日付が変わった瞬間、老人、北郷一刀はこの世を去った。

 

その小さなニュースは、世界中に流れた。

 

その年には、何度も発展途上国や戦災国、被災地に行き、その国でその場所に必要な事を考え教えた功績を称え、ノーベル平和賞を受賞。

 

彼の口癖は『大したことじゃないよ』であり、生涯において大した報酬を貰った事は一度もなかったという。

 

北郷一刀、享年87。

 

生涯を独身を貫いたが、その理由は誰も知らない。

 

 

 

 

北郷一刀伝 了

 

 

 

 

はじめまして、sougaという物書きです。

このたび、此方に投稿をさせていただきました。

 

一刀が元の世界に戻って戻れなかったなら、こういう事もあってもいいかな。

そう考えて文章にしてみました。

現時点では、この続きはありません。

 

拙い分ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 

下記2011/11/20追加

続編希望と言われる方が思ったよりも多かったので、プロットを仮組みから作ってみようと思います。

 

 

 
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