ふと、見つめた先・・・窓の向こう、空が微かに明るくなっていた
夜が明ける
結局私は、眠れぬままこうして今に至るらしい
“らしくない”と苦笑する
それから、ゆっくりと体を起こす
眠っていないせいか、妙に体が重く感じた
頭も、少し痛む
「参ったな・・・」
呟き、見つめた先
あの“鈴”が、目にとまった
昨日・・・北郷に貰った鈴
“チリン”と小気味の良い音をたて揺れるソレを、私はそっと手にとった
「良い音色だな」
軽く揺らすと、また“チリン”という音をたてるその鈴を・・・私は、笑顔のまま見つめていた
「北郷・・・」
ふと、呟いた名前
この鈴をくれた男の名前
それだけで、自然と心臓の鼓動が早くなった気がした
いや・・・寝不足のせいだろう
そう決めつけ、私は苦笑する
それから、見つめた窓の向こう
ゆっくりと、昇っていく太陽
私は、それを見つめながらフッと微笑んでいた
「北郷一刀・・・か」
≪明け空彼方に、君を想う-呉書†思春伝-≫
二章 この気持が何なのか
『じゃあ母上はいつの間にか、父上のことが好きになっていたのですか?』
私の言葉
母は飲んでいたお茶を思い切り噴き出します
それから何度か咳き込み、首をブンブンと横に振っていました
『ばっ・・・好きとか、そんなこと・・・』
『母上・・・』
その反応は、駄目なんじゃ・・・もう、バレバレですよ
というか、気付かない方がおかしいです
母は自分で気づいていないのかもしれませんが、父のことになると本当に楽しそうな表情をするのだから
普段は冷静で無表情な母だけに、とてもわかりやすいのです
『そもそもだな・・・アイツとは、その・・・』
・・・まだ言ってます
我が母ながら、本当に“不器用”です
『母上、わかりました
母上が父上のことをどれくらい好きかはわかりましたから・・・そろそろ、続きを聞かせてください』
『~~~~~~~っ』
私の言葉に、母は顔を真っ赤にしながら俯きます
やがて、諦めたかのように溜め息を吐き出しました
『仕方ない・・・か』
それから、母は腰にぶらさげていた鈴を手にとります
古ぼけた二つの鈴です
それを母は軽く揺らします・・・ですが、音がしないのです
不思議に思い首を傾げる私に、母はフッと笑みを浮かべていました
『お前には、まだ聴こえないさ』
『私には・・・?』
気になる言い方でした
“私には聴こえない”
ということは、母には聴こえていたんでしょうか?
この、古ぼけた二つの鈴の音が・・・
~ある少女の手記より・・・~
ーーーー†ーーーー
「思春・・・貴女、顔色が悪いわよ?」
「え・・・?」
朝・・・城内を歩いている時のことだった
私の前を歩く蓮華様が、ふいにそのようなことを言ったのは
「そうでしょうか?」
言って、私は首を傾げる
蓮華様はというと、そんな私の行動に苦笑いを浮かべていた
それから、私の額にそっと触れる
「熱い・・・もしかして、風邪でも引いたんじゃないかしら?」
「はぁ・・・」
風邪?
この私が・・・?
“そんな馬鹿な”と思い、私はふと思い出す
『うん・・・やっぱりさ、思春は笑顔の方が可愛いよ』
「~~~~~~~~~っ!!!!!」
何故!?
何故今、このようなことを思い出す!?
私はいったい、何を考えているのだ!?
「し、思春!?
貴女、顔も真っ赤じゃない!」
「あ、いえ、これは違うんです!」
「熱も上がってるし・・・思春、貴女今日は休んでなさい!」
「だから、違うんで・・・」
“違わない!”と、思い切り私の腕を掴む蓮華様
蓮華様はそのまま、ズルズルと私を引き摺るよう歩き出したのだ
「蓮華様!
私は、大丈夫ですから!」
私はそう言うが、蓮華様は聞く耳を持たない
ただひたすら、足早に歩き続けるだけだ
「くっ・・・!」
おかしい・・・逃れようにも、上手く力が入らない
体が、重い?
いったい、どうして・・・?
そんなことを考えていたのが、恐らくは伝わったのだろう
蓮華様は呆れたようにため息をつくと、“ほら、みなさい”と私の腕を引っ張る力を強めた
「わかった?
貴女、本当に酷い熱よ」
「・・・はい」
ああ、もう何を言っても無駄だろう
その一言に、私は渋々頷くことしかできなかった
ーーーー†ーーーー
「それじゃあ、ちゃんと安静にしていろよ」
「ああ・・・」
華佗の言葉に、私は寝台に寝転がりながら頷く
その様子に苦笑を浮かべながら、華佗は部屋から出て行った
認めたくないが、私は本当に風邪をひいてしまったらしい
原因は、どう考えても昨日のことだろう
しかし・・・たった一日眠らなかっただけで、こんなにも弱ってしまうとは
「情けない・・・」
呟き、私は溜め息を吐き出した
本当に情けない
このようなことで体を壊すなど、昔では考えられなかったことだ
「私は、弱くなってしまったのだろうか?」
ポツリと、こぼれ出た疑問
だがそれに答えてくれる者などいない
私は“ふぅ”と息を吐き、静かに目を瞑った
「馬鹿馬鹿しい・・・」
“らしくない”
そう思い、私は呟く
その瞬間・・・“チリン”と、鈴の音が聴こえてきた
窓にぶら下げてある、あの鈴からだろうか
確かめようにも、襲いかかってきた眠気のせいで目が開かない
“チリン”
ああ、また鳴った
心の奥底、深く響いていく音
優しい音
“チリン”
小気味よい音色
それに合わせるかのように、私の意識はゆっくりと闇に沈んでいく
“おやすみ・・・思春”
ふいに、聴こえた“声”
聞き覚えのある。とても優しい声
薄れゆく意識の中、その声の温かさに包まれるかのような錯覚さえ覚えた
ああ・・・私は、この声を知っている
この温かさを知っている
「おやすみ・・・北郷」
こぼれ出た名前
それと同時に、頭の中浮かび上がった笑顔
太陽のような、温かな笑顔
北郷・・・
ーーーー†ーーーー
“チリン”
頭の中、あの鈴の音が響いた
ああ、また鳴っている
また心地よい音が、私の中に広がっていく
“チリン”
また、響いた
でも何かおかしい
“チリン”
ああ、そうか・・・近いんだ
窓にぶら下がっているはずなのに、私のすぐ傍で鳴っているように聴こえる
もしかしたら、まだ少し疲れているのかもしれない
そんなことを考えながら、私はゆっくりと目を開いた
途端、視界に入ってきたのは・・・あの“鈴”
いや・・・これは、私のではない
これは・・・
「やぁ、目が覚めたんだね・・・思春」
「な・・・」
ふと、聞こえてきた声
私は驚きのあまり、目を見開いてしまう
そして気づいたのだ
私の目の前にあった鈴は、“アイツ”の腰からぶらさがっていた・・・あの鈴だったのだ
寝台に腰をかけ、温かな笑顔で私のことを見つめる男
北郷一刀のものだった
「なんで、貴様が・・・!」
「あ、こらっ・・・まだ少し熱があるんだ、無理に起きようとしないほうがいいよ」
「ああ、済まない・・・って、そういうことではなくてだなっ!」
“まぁまぁ”と、アイツは私の肩を掴み起きれないようにする
悔しいが、今の私ではコイツの力には勝てそうもない
そう思い、仕方なしに私は体を起こすのを諦めた
「熱は、だいぶ下がったみたいだね」
「そうか・・・」
私の額に触れ、北郷はホッと胸を撫で下ろし言った
触れられている部分が、妙に心地よく感じる
落ち着くのだ
さっきまでの気怠さが、和らいだ気がしたのだ
はっ・・・何を考えてるのだ私は
そんなの、気のせいに決まっている
「なんで・・・お前がここにいるんだ?」
そう決めつけると、私は未だ寝台に腰掛ける北郷を見つめ言う
北郷はというと、この一言に笑顔を浮かべたまま口を開いた
「蓮華に聞いたんだよ
思春が風邪を引いたって・・・だから、急いで仕事を終わらせて様子を見に来たんだ」
「っ、そ・・・そうか」
「うん
すごい心配してたんだけど・・・元気そうで、安心したよ」
一瞬・・・胸が、高鳴った
何だそれは
つまり・・・私のために?
「・・・とう」
「ん?」
声が、上手く出なかった
だからだろう・・・北郷は、私が何を言ったのかわからなかったようだ
ああ、くそ
「ありがとう・・・と、言ったんだこの馬鹿」
やってしまった
結局、いつものように・・・強い口調になってしまう
慣れないことはするものではない
これなら、言わなかったほうがよかったのではないか?
こんな態度で言われたって、アイツは・・・
「うん、どういたしまして」
「っ・・・!」
違った
私が思っていた反応と・・・まるで違った
北郷は、笑っていたのだ
嬉しそうに、私を見つめ無邪気に笑っていたのだ
なんで・・・なんでコイツは、こうして笑えるのだ?
わからない
北郷が、何を考えているのか
そして・・・
「ふん・・・私は寝る」
「わかった
それじゃあ俺は、思春が眠るまでここにいるよ」
「・・・勝手にしろ」
胸の奥・・・この“妙な感じ”は、いったい何なのだろう?
こんなもの、私は知らない
それに・・・
「おやすみ・・・思春」
「ああ・・・」
たまには、風邪を引くのも悪くない
そう思ってしまった・・・その理由も
私には・・・何一つわからなかったのだ
★あとがき★
ども~、思春√第二章ですw
今回も短く、あっさりとなっております
少しの時間の間に、“ほっこり”とできるような内容を目指してみました
ていうか、先にこの“思春√”から更新していきます
あと少しなんでww
“呉伝”“焔耶√”“白き旅人”“キミオト♪”はもう少々お待ちください
ていうか、“白き旅人”“キミオト♪”は需要あるのだろうか?ww
まぁ、頑張りますがww
それでは、またお会いしましょう
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思春√、第二話ですw
今回もゆったりとした雰囲気となっております
ちょっとした暇な時間にでも、いかがでしょうか?
それでは、お楽しみください