SEED Spiritual PHASE-93 おまえにこそ価値なんかない
光の格子が自分を包んでいる。常軌を逸した防御力を有しているからこそ続く脅威の連続。かつてクロも何度も圧倒的な戦力差というものを見せつけられてきた。その度に恐怖するか、絶望するか、悔しがってきた。
だが今は、そのどれでもない感情が彼の胸中を占めていた。
「貴様はっ!」
〝ルインデスティニー〟が光翼を置き去りにし、高速で追い縋る砲塔へと急迫した。その右手には展開する長刀が握られている。
「人間が憎いんじゃねぇのか! 何もかも破壊して、どうすんだっ!?」
黒い端末に剣が追いつく。思い切り振り下ろされた剣が空飛ぶ円錐に直撃する! しかし砲塔を包む揺らぎが〝メナスカリバー〟の光刃さえも受け止めた。
『無駄だ! お前には解らぬさ!』
「無駄とか勝手に――」
クロの意志に呼応しビームソードの刃が色を変えて膨大化する。
「決めんじゃねえっ!」
リミッターをカットされた〝メナスカリバー〟にTPS装甲が拮抗したのは一瞬、圧倒的な負荷をかけられた小型兵器は斬られることもなく消し潰された。
『ぬ!?』
更にもう一機、高速に超高速で追いつき蒼い刃を振り下ろす。至近距離の瞬発力でおよそ〝デスティニー〟に叶うモビルスーツは存在しない。刃がどれくらい保つのか、博士はこれをどこまで形にしたのかは未知数だが少なくとも不死身を滅ぼす手段はここにある。
「てめぇがそう言うつもりなのはよく分かった。ならオレも邪魔するなとも協力しろとも言わねえよ」
『調子に乗るなよ。お前には届かない領域があると思い知れ!』
その口を永遠に閉じさせてやる。
クロは真横で暴れ回り、地球の血を吐き出し続ける活火山の存在を忘れた。蒼く輝く刃を担ぎ、全速力をメインスラスターに注ぎ込む。
全ての砲塔を引き寄せ一つのモビルスーツに戻った〝ジエンド〟に刃を振り下ろす。
――しかしそこには敵機はない。
AIが告げるアラートすら、一拍遅れた。
「っ!?」
理解はできる。出力で負けたのだ。先程見せつけられた異常な瞬発力でさえまだ余裕を残していたと言うことか。脳裏に届く奴の嗤い声が感に障るがそれを口に出す前に被弾した。知らぬ間に、再び無数の機動兵器に取り囲まれている。
追う。しかしそこには影しかない。
『負けだ。お前の』
「……それを認めて何になる?」
火山は尚も、二人を照らし、星自身を食い潰そうと猛っている。
「く、くそぉおおおぉっ!」
甲高い怒号と共にコンソールパネルが殴り潰された。旧時代の機械は殴ると直ることがあったという。ならば〝フリーダム〟も意志を汲んでくれまいか!
先程から何度かアスランからの呼びかけがあったがイザークにはそれに応えられる心境にはない。皆が今も地球を救わんとしているこの時に、自分だけが脱落かっ!? 圧倒的な怒れる大自然に挑み、力及ばず命尽きたのならまだ納得もしよう。が! 自分はこんなにも動けるというのに機体のエネルギー切れで戦線離脱など我慢ならん。頭に血が上ったイザークは何とかして機体抜きでも陽電子砲を操る術を模索した。だが陽電子用の弾倉と機体の動力はイコールで繋がっている。原子炉が沈黙した今、対処法など見つからない。
「く、く、くっそぉおおおっ!」
こうしている間にも倭国最高峰は猛っている。熱風にあおられ離れた場所に叩きつけられたもののいつまでも危害が及ばないとも限らない。エネルギー切れで墜落の結果、飛来した火山弾の下敷きになって殉職など、想像するだに我慢ならん。
再度拳を振り上げた。――が、それが振り下ろされるより先に紛れ込んだ声が、拳を停めさせた。
〈こちら特務隊フェイス所属、キラ・ヤマト! オーブ軍所属機、応答願います! こちら――〉
「キラかっ!?」
イザークの指先が高速で踊る。通信の出所を探り当て、振り仰いだイザークは火山灰から遠く離れた青空に紅い大気を纏って落下する人型を見つけた。
「ふ、〝フリーダム〟!」
ZGMF‐X20A 〝ストライクフリーダム〟
軍神の力を具現化する機体が、盾すら構えることなく大気圏突入を果たし、地球鎮圧勢力を探している。イザークは更に指先を跳ね上げ相手の通信を捉えるとスタンドマイクでもあれば握り引き寄せかねない勢いで乗り出し叫んだ。
「キラ! 聞こえるかっ!? 俺が見えるかあっ!」
〈!?イザ――、あ、見つけた。大丈夫?〉
「大丈夫じゃないがそんなことはどうでもいい! どうし――いやそれもどうでもいい! こんな所に来たということは作戦内容はわかっているなっ?」
〈うん。陽電子砲は〝ターミナル〟が――〉
こちら経由でどこかの〝ターミナル〟と連絡を取り陽電子砲を融通してもらって火山鎮圧に加わろうとそう言う訳か。皆まで言わずとも理解は出来る。ゆるゆる喋るこいつの落ち着きが、唐突に許せなくなった。
「そんなモノは必要ないっ! 俺の所へ来いっ!」
〈あ、うん〉
灼熱する大気から解放された〝ストライクフリーダム〟が翼を広げ、こちらへ急迫してくる。火山を迂回し、飛来する礫弾を華麗にかわしながら灰色に染まった〝フリーダム〟の元へ降り立った。
〈あの、大丈夫?〉
「俺なんぞを気遣う暇があったらこれを持って行けぇっ!」
マニピュレータが動いたのなら突きつけてやりたかった。傍らの〝ローエングリン〟ランチャーを声で指し示し、吐き捨てる。非常電源だけでどこまで出来るかは不安だったがランチャーの運用モジュールを彼へと渡す。
〈え? これを――〉
「俺のことは〝ソロネ〟が回収する! お前が火山を鎮めてくれればなっ!」
富士山が、噴火した。
先程までの噴火を児戯と嘲るほど頭頂を吹き飛ばすほどの溶岩の爆流が青空を紅くし程なくして黒く、灰色く変えていく。飛び散る地球の血液はおびただしく、手の施しようのない創傷を連想させた。そんな中で動けない自分が恨めしく、イザークは吠えた。
「行けぇええっ!」
〈うん。解った!〉
傍らに転がっていた陽電子砲が奪われる。奪わせたのは自分なのだが……それは自らの価値を譲り渡してしまうようで――
「頼むぞ……っ!」
膨大な傷跡へと飛び去っていく蒼白の機体を見つめながら――イザークは操縦桿へ拳を振り下ろしていた。
〈シンさん! 大丈夫ですか 応答を――〉
「っ……ぐ…!?」
通信に頬を叩かれ意識を取り戻したシンは彼女への返答を適当に済ませると機体の状況をチェックした。武装、動力に問題はない。陽電子砲も少し探せば傍らにあった。だが渋面を作り呻くしかない。右のウイングが丸ごとごっそり持って行かれている。メインスラスターが無事なのが慰めだが、光圧推進が得られなければこの機体ならではの急加速は不可能だ。そして絶え間なく火を噴く火山共を従来機並の加速力で対処し続ける自信はない。
「――って、駄目だ。バックパックの交換ができるような設備は!?」
〈えっ? ちちょっと待ってください。南米の〝ターミナル〟――〉
フレデリカの焦りようで理解できる。付近にはろくな施設がないか、地震で全滅したか、この機体を調整できるような場所に心当たりがないか――つまり修復のめどなど立てようがないと言うことか。
「いい。解った」
機体を立ち上がらせ、左手のレバーを引き上げる。吹き上がるスラスターはバランスを崩しながらも機体を浮かび上がらせた。
「飛べるは飛べる。できるトコまでやってみるさ」
〈えぇ? でもそれは――〉
〈待ってくださいシンさん。飛べるのならジブラルタルまで行った方が可能性があります〉
「なに?」
ガラパゴス島からジブラルタルまで? ティニが言うからには基地は無事なのだろう。
〈その島はアスランさんに任せます。シンさんは今すぐ基地へ向かって、さっさと完全になって下さい〉
「だっ、だが、そんな遠出して、修復している間にどーにかなっちまわないか? 時間がかかりすぎる」
〈修復時間はほぼゼロで済みます〉
「……なんで?」
〈その機体の試作品である〝デスティニーシルエット〟が保管してあると。バックパックを丸ごと換装すればすぐ済みます〉
シンが〝デスティニー〟を受領したのもあの基地である。
――「〝デスティニー〟は――工廠が不休で作り上げた自信作だよ。――どうかな、気に入ったかね?」
ならばあそこに〝デスティニー〟の試験運用品があってもおかしくない。シルエットどころかこの機体の予備パーツも期待できる。
「そうか。了解した」
〈はい。ではリペア完了後はそのまま欧州の火山を処理して下さい〉
アスラン・ザラがフェルナンディナ山を撃ち抜いたとの情報が入った。
イザークがリタイアしたがどういう理由から跡を継いだキラ・ヤマトが富士山を貫いたらしい。
シンが、ザフト・ジブラルタル基地へ向かったらしい。
それぞれの詳細までは不詳だが、理解できることは一つ。自分だけが停滞している。
圧倒的な機動性を見せる〝ジエンド〟に、クロの反射神経は全く抗えず、AIですら辛うじて追い切れる程度。
『どうした? 口だけか無価値な要!』
……認めてはいけないのかも知れない。だが、世の中には言葉の、心の通じない場面というものはある。哀しいことなのかも知れない。
(クルーゼ……なんでお前はそんだけの実力がありながら――諦めることしかできねぇんだ?)
同時期にザフトに入隊した者の中でラウ・ル・クルーゼの実力は抜きんでていた。同じ〝ジン〟を与えられながらもその圧倒的な戦績差に自信を失ったものも何人もいると聞く。クロフォード・カナーバも、それを嗤える人間ではない。つまり彼の存在に憧れを抱いていたのだろう。彼の、強さに。
『終わりだクロフォード・カナーバ――いや、クロ』
「……男は女以上に、強い者に惹かれる、か……」
ティニか、ルナマリアか、女が誰かから聞いた言葉を嘲っていたが――おそらく自分はそいつの心が解る……自分は『男』とやらなのだろう。
『お前では私の相手にはならん。フ。死にたくなければ〝ルインデスティニー〟を降りてはどうだ? 世界が滅びるまでの短い一時くらい自分の自由に使いたかろうが』
だがそれでも、強さを至上と、全てを斬り捨てる理由にはできない。絶え間ない銃撃の嵐に晒されながら、クロは心に空隙を広げていった。
AIは、辛うじてではあっても〝ジエンド〟を追い切れてはいる。奴のトルーズフェイズシフト装甲は〝ゾァイスター〟や〝カリドゥス〟ですら掻き消してくれたが、時間限定の〝メナスカリバー〟は通用した。それに切り札は――まだある。
「クルーゼ。悪いがオレにはヒマして遊ぶような価値はねぇよ」
――Burst S.E.E.D――!
ナビゲーションウィンドウが深紅に色付きAIが意識を大きく奪う。
空隙で何かが弾けた。
意識に呼び出されたシステムが起動した瞬間指先にまで支配が及ぶ。人の精神にとって人の体は…ここまで使いこなせてなかったのかと暗い感動すら覚えてしまう。
見えずに追っていたものが感じられるようになる。脳裏に届く声に、動揺が感じられた。
「オレは、捨てる気はない。壊してでも今を正す」
翼が開く。
黒い蝶が檻から逃げ出した。
『ほう…! 出し惜しみされるとは私も舐められたものだな!』
檻が突き崩される番だった。蒼い剣を携えた黒いモビルスーツが砲塔達に襲いかかる。完全な装甲を施されているはずの小型機動兵器が長刀に撫でられる度消滅させられるのは悪夢でも見る心地になる。
「お前、めんどくさいだけなんじゃないか? 全部潰すことを浄化って考えてるみてーだが、ただ何も考えずに済むのが楽ってなだけなんじゃないか?」
『何を知った風なことを。凡人には理解できまい! この絶望は!』
「絶望を押しつけたい。ただそれだけのために動いてるのか。哀しい人生だな」
三つ、砲塔を斬り裂いた〝メナスカリバー〟が――弾けるような音を立てた。光の暴力を讃えていた蒼が火花を残して消失する。銀色の鉄塊となった剣へラウの嘲笑が投げかけられたがクロの心は何も感じなかった。
『これでもう私を倒す術は失われたな!』
ラウは嘲笑と共にビームジャベリンに星流炉の力を流し込む。火山の鳴動すら上回る風切り音をたて超長大化した〝デファイアント改〟が光を失った実体剣へと叩き付けられた。
レアメタルの刀身は高熱金属粒子に対抗して見せたものの光刃を吹き散らすことはできない。折り飛ばせずとも通り抜けた刃は――長すぎる。高速で大きくバックステップした〝ルインデスティニー〟だったが、鋭い熱さが黒い装甲をごそりと飲み込んでいった。
「その無敵の強さを――あんたは何に使う?」
『知れたこと! ――』
「腐った世界に粛正を、か?」
『……!』
クルーゼは声を出さなかったがそれでも絶叫が届いたような気がした。その気迫と共に再度巨大ビームジャベリンが振り上げられる。
「さっきも言ったよな。それは逃げてるだけだろ」
クロの指先に従い実体盾のシールドコアがビームシールドを展開する。〝ルインデスティニー〟が殺意の下で流れ、光の奔流へ光と鉄の複合盾を差し込んだ。
「原因だって言うニンゲン全部滅ぼして、できる世界が今よりマシって保証がどこにある?」
クルーゼが渾身の力を込めて振るい落とすもビームシールドが光流を受け流した。
(要に何が起きたというのだ!? 装甲に頼り切っていた先程までとは明らかに、違う。だがそれよりも――)
まるで交渉でもするかのような落ち着きが気にくわない。それ以上に信じられない。今の今まで猛っていた男が何を境にどんな悟りを開いたというのか。ラウは驚愕し続けた。しかしそれを表に出すことは矜持が許さない。動揺を飲み込み、星の命を乗せた刃を押し続ける。刃はビームの盾さえ押し潰そうと食らい付く。
だが、停滞すれば左腕が切り落とされるその未来が刹那の動作によって変えられた。
光なす盾が長大な光流を逆送する。瞬間的に巨大化した〝ルインデスティニー〟が盾に仕込まれたビームサーベルを突き立ててきた。
『愚かな!』
例え出力を上げたとて〝シュペールラケルタ〟ではこのトルーズフェイズシフトを突破はできない。巨大なビームジャベリンを構えたまま出力差にものを言わせ盾から生えたクローを無理矢理押し遣る。サーベルはあっさり揺らぎに屈し、吐き出されたはずの光刃は瞬間的に吹き散らされた。
ラウが口の端を笑みに歪める。
その微笑みが直ぐさま凍り付いた。鈍色に輝いた掌が〝デファイアント改〟を握る手首を掴み取っている。そして爆発。
『ちぃ!』
掌部ビーム砲か。だが如何に高出力砲とはいえこの装甲には毛ほどの傷も付けられないマニピュレータにエラーが返ろうとも関係ない。内懐に入られようと今の出力にものを言わせれば引き斬ることも――
そこには盾しかない。
『ぬ!?』
それだけではない。ビームシールドを展開した盾が独りでに飛翔しビームと実体両方の面積を大型化させた。それに何の意味が? 眉根を寄せる暇すらない。が、虹の翼が背後に感じられた。
目くらましでもしたつもりか。
嘲笑する。〝ジエンド〟は右足を放ち、続けて振り返ろうと――
「オレの考えを言おう。もうおまえにこそ価値なんかない」
真っ直ぐに突き出された〝ルインデスティニー〟の掌が蒼い光に輝いている。
クロは――躊躇いも確認もなしにトリガーを引いた。
改めての状況確認など必要ない。自分以上の判断力が機体の全てを把握し、理解している。
星流炉(ジェネレータ)直結型火束砲が兄弟機の眼前に突き付けられ、そして火を噴いた。
〝ジエンド〟は先んじて全てのリフレクターを展開、のみならず更に周囲の位相を歪ませ殺意の無効化を図る。
灼熱の奔流が黒いモビルスーツを丸ごと飲み込んだ――かに見えた。しかし〝ジエンド〟の異常出力はその全てを受け流している。
それでも〝ルインデスティニー〟は破滅する運命を見通していた。
敵機背後に展開したシールドは分離式統合制御高速機動兵装群情報網(〝ドラグーン〟)システムにより制御され、母機との直線上に位置している。火束砲を真正面から受け止めるに足る輝きが星流炉からの奔流全てを受け止めた刹那――
限定空間が異界へと切り離された。
『!』
脳裏へ刺さる意識の驚愕にもう逃げ場はない。空間の臨界に達するまで高まりきった熱量が世界を崩す。その渦中にいる意識体に未来などない。与えるつもりも毛頭無い。
「じゃあな。オレの目標――だった人」
無限熱量が爆縮する。そこにモビルスーツなど影も形もない。
エネルギー残量を心配した機体が悲鳴を上げたが意識を薄くしたクロは動じなかった。
一射できることは解っている。〝ジエンド〟の死を一顧だにせずニーラコンゴ山頂へと飛翔した〝ルインデスティニー〟は照準しつつライフルと砲身を連結させる。命の流れを堰き止めるため星を食い物にしたエネルギーを星へと返す。
薄い意識は無数に飛来する火山弾自体が避けるような世界に飛び込む。――そして戦場から山頂上空に飛び去り、停止する。同時にトリガーが引き絞られた。
機体の全てを吐き出す一閃が周囲の視覚を真白に焼き、火口へと垂直に突き刺さった。
SEED Spiritual PHASE-94 棚に上げるんじゃねえ
『はっ!?』
ラウ・ル・クルーゼは気がついた。荒れる息を何とか整え意識を徐々に冷ましていくと……ここが北欧の一角に潜んだ〝ターミナル〟の拠点であることが思い出される。だがそんなことは後回しだ。今も心に染みこんでくる熱すぎる恐怖が、いつまでも意識から薄れてくれない。
『――っぅう……!』
似たような感覚が、過去にもあったような気がする。あぁそうだ。ゴビ砂漠が思い返される。あの時はおぼろげに熱かっただけだが、今度ははっきりと感じた。全方位から襲いかかってくる炎熱の暴力を。
『……なぜだ。それなのになぜ私は、ここにいる? それに、ゴビ砂漠……半年近く前に〝エヴィデンス〟が潜んでいた拠点が攻められたのは識っているが……なぜそれを『感じた』などと…』
〈――『いる』、ではなく『ある』、が正しいかと思います〉
述懐が咎められた。
『〝エヴィデンス〟か』
脅しつけるかのような大声。だがその怒色は精彩を欠いていた。
〈たかがバックアップの分際で好き放題やってくれましたね。クロ一人に全てを任せるのは少しばかり不安ですが…兵力も整ったことですしまあ大丈夫でしょう。よってあなたは用済みです。〝ジエンド〟の弁償は――あなたの無価値化で折り合いを付けさせてもらいます〉
ラウの背筋に冷たいものが走った……様な気がした。そんな身体などないとわかっていても。
『……待て〝エヴィデンス〟。バックアップ? どういう意味だ?』
〈私は忙しいので無価値と話している潰せる時間などありません〉
一方的に通信は切られた。辺りにも、意識にも闇が満ちる。だが赤外線光増処理のされたラウの目はガラスドアの透過しきれない光が生んだ鏡状を捉える。例えそれがなくとも周囲の壁(モニタ)は自分の姿を映してはいたが。
鏡とモニタから無機質な眼をした仮面が、こちらを見返してくる。機械と繋がれ、仮面を取り付けられた肉片……。わかっている。これが自分の姿だと。
ラウはその姿に――解放(パージ)を命じた。
ぱきん、と硬くも軽い音を立てて外装が外れる。繰り返し命じる。命じ続ける。
ぱきん、ぱきん、ぱきん、ぱきん、ぱきん……。
最後の一つ――つまりは脳が収まっているはずの最終装甲を剥がす――が、躊躇いが生まれたラウはその前に横手の壁にスライドを命じた。
――意識に従い壁に擬装された扉が開く……。
人とは異なる関節で体を起こし、脚部のホイールを用いて移動。遅々として進まないこの体もこの先にあるモビルスーツと繋げれば世界最強の人型兵器に変貌できるはずだ――
『はは……はははは……』
扉が開いたその先には――闇に煙った袋小路だけがあった。
〝ジエンド〟で出撃する際何度も何度も通ったはずの道は、その先がなく、行き着く先には格納庫など見受けられない。
『フ……ふはは…そう言うことか。〝エヴィデンス〟め。よくも私を虚仮にしてくれたものだ……!』
記憶ではなく『記録』だったのか。
出撃を決意し、無人機と繋がる度脳裏に再生されるよう仕組まれた映像だったのか。ラウは最終装甲にマニピュレータを引っかけた。この中にはあるのは、肉か? 鉄か? どちらであろうと関係ない。錯乱生み出す狂気の元へ思う様爪を立ててかき回しこの惨めな生、否、データの進行を消し去ってやりたい――
『ふぅ……ふはははははははははははははははっははははははははぁ!』
哄笑とは裏腹に手は動かない。
嗤うしかない。嗤うしかできない、だからこそ、ラウ・ル・クルーゼを名乗り続けたコピーは嗤った。
嗤い続けた。幾星霜とも思える地獄のような刻を、憎むべき世界に弄ばれた自分を嘲ることで、自我を保ち続けた。そこに、足音が差し込まれる。
だがその音を集音装置が拾う前にクルーゼの遺産じみた能力がそれを教えてくれてはいた。
足音が、近づいてくる。クルーゼのプライドはそのまま嗤い続けることを良しとせず崩れかけた自我を総動員して笑声を飲み込む。
足音は、止まっていた。まさか自分が落ち着くまで待たれたのか? その想像は苛立たしい。
電流のような衝撃が、額を感じられる部位に走った。
「クルーゼ、なんだな」
『ほう。ムウ・ラ・フラガ……。シン・アスカに殺されたと聞かされていたがな』
「ヘッ。お陰様でな」
声帯を用いずとも齟齬無く意識を伝えられる手段を、ムウは意図して放棄した。嫌悪は口から出した方が相手により伝わるものだ。
「ガラクタになってまで世界征服か。全くおまえはどうしようもねぇなァ」
『お前は腐ったモノを捨てずに喰うというのか? 私はただ、捨てるべきモノを捨てようとしただけだ』
くつくつと笑う金属のフレームにパイロットスーツ姿のムウは――銃口を向けた。
「お前の、お前一人の面白くもねぇ妄想のお陰で世界がここまで歪んだ」
『……ほぉ』
面白がるようなその声色が感に障る。
「危ねぇ存在だよ。今ここで消しとかなきゃな。身内である俺が!」
コロニーメンデルでのラウから突き付けられた事実が思い返される。息子を蔑ろにした父親は『自ら』をこそ後継者に選んだ。自分の死後も続く自分。自らのクローン。それがラウ・ル・クルーゼ。歪んだ命を憎悪した彼は、自らを生んだその世界にこそ購わせようとした――
ラウが、嗤う。籠もるように。やがて叫ぶように。高きから低き、低から高へ声を歪め、蛇のようにくねらせる躯を想像させるほど不気味な嗤いをひしりあげた。
『ははははははは! 身内ときたかムウ! ははははははさぁ殺せ! 父親をなァ!』
お前の、一人の妄想のお陰で世界がここまで歪んだ
ガキリと音を立てて撃鉄を起こす。
こいつのせいで家族が消えた。
照底と照星を念入りに重ね、その直線上に仮面を置く。
こいつのせいで地球は全ての生き物が死に絶えるところだった。
………そして嘆息を返した。
『ぬ?』
だがそれも、元はと言えば父・アルの馬鹿な我が儘が引き起こした災事。自分の裁量内でそれ終わらせられるならそれは幸せなことかと思うべきなのかもしれない。
ムウは拳銃振り上げ、かぶりを振り、殺意を止めた。
『…………お前は何をしに来たのだムウ?』
「そうだな。親父と俺自身の敵討ちってんでお前を殺しに来た」
弄ばれた拳銃は結局激発することなくホルスターへ返る。ムウはラウが収まっているらしい筐体へ歩み寄り、爪先で小突く。
「――ってのは後付だ。俺をここに連れてきた奴がいてな。そいつが俺以上にお前を許せないそうだ」
『なに?』
『クルーゼ……。最後だ。もう一度だけ言わせてくれ。人間の、変革を!』
『!』
目の前にいる男が唇を揺らさぬまま脳裏に別の男の声が響いた。聞き覚えのある、のみならず自分が殺したばかりの男の声に、自己を物と貶め心を無感動となさしめたはずのクルーゼは驚愕に存在しない目を見開いていた。
『ケイン・メ・タンゲレ? ムウ・ラ・フラガの意識を乗っ取ったとでも言うのか……っ?』
『いや、今の私は意識の隙間を間借りしている反響に過ぎない。これが終われば消えてしまうさ。だからこそ答えろクルーゼ。お前は、我々を、進化した姿だとは思わないのか?』
解らない。不気味に怖気が走る。それでも彼の問いかけは失笑を禁じ得なかった。
『その議論はし尽くしたつもりだが? 殺し合いの役にしか立たぬ力の何が進化か』
『いずれ私達が『普通』になる。そうなれば、意思の疎通に齟齬など無くなりもどかしさは消える。誰もが内心の自由を奪われればまず間違いなく詐欺は消えるぜ?
誰も騙せない。誰も他人を疑わない。防犯なんて無駄なことに費やす技術も時間もゼロにできる。嘘のない世界ならお前のような存在が生み出されることもないんじゃないか?』
自分のような存在――利己的な都合で試験的に作られる不完全な、意識体。自己を持ちながらも自己の行使を許されない存在。
あぁそうだ。ニンゲンを滅ぼしたいと言う貫いた考えさえ後付だ。私は、私という悲しみを生む世界に我慢がならなかった。それこそが、許せなかった。
『何を言われようと無意味だ。どちらのせよ、今すぐ変えられなければ手遅れだよ。もう既に手の施しようのない所まで来ていると気づけないらしいな』
ムウは、彼の声に何かを感じた。
『……残念だよ。お前のその『固執』さえ消すことができたならきっと解り合えたのに――』
そしてラウにも感じられた。ケインの存在が水面に落とした一滴のインクのように希薄化していくのを。
ムウは、ゆっくりと鼻腔から息を抜いた。
「俺も何かの本で読んだよ。地球みたいな限られた世界じゃなく、宇宙って無限の空間に出ると、意識が大きく広がって、空間認識能力が高度化するとか…ってな。ケインの言ってた進化ってのもあながち間違いじゃねえのかもよ?」
『フ…進化など下らぬ。その結果が自らの星を滅ぼした〝エヴィデンス〟に過ぎぬ愚かな存在に留まるやも知れぬだろうが』
「留まらないかも知れない」
ムウの綺麗事に、ラウは反発した。
『知った風なことを。私は揺らがぬ。そしてそれだけが正しさだ。有史以来人が人の争いを止めさせられたことなどないではないか。西暦をもたらすほどの絶対者が現れても、愚かしい利己主義者がそれを殺す! 平和をと歌いたいなら人は滅ぶべきなのだ!』
この男と会ったのはいつだったか。子供の頃父に引き合わされた頃か。その時はただの親類程度にしか思わなかった。
この男の強さを思い知らされたのはいつだったか。ケインやラッセルと月を駆け、〝メビウス・ゼロ〟部隊が壊滅した〝グリマルディ戦線〟か?
この男の思想を聞かされたのはいつだったか。〝ストライク〟を用いて〝プロヴィデンス〟に挑みかかった〝ヤキン・ドゥーエ戦役〟ではないのか? 何度も何度も彼と戦ったが、奴は最後まで手の内を明かさなかった……それはこいつが豪語する揺るがぬ心故なのかも知れない。
「なぁ。昨年か? 〝ミネルバ〟にいた白い坊主、あいつも……お前と同じだったんだろ」
『レイ・ザ・バレルのことを言ってるのか? あぁ。レイは、もう一人の私だ』
「あぁ確かそんな名前だったな。そいつ、最後にキラと分かり合ったって聞いたぜ」
『なに!?』
ラウ・ル・クルーゼの中に、その可能性はまるでなかった。
「同じ遺伝子、同じ境遇でも白い坊主は世界の存続を認めたんだ。なあクルーゼ、お前の揺らがぬ心ってのは本物か? ケインも言ってたように意固地になってなきゃあ進める道ってのは幾らでもあったんじゃねえか?」
ムウは額に手をやった。こいつを諭す意味なんかあるのか? ケインの心に感化されることなく怒りのままぶち殺せば……それで世の中から不安要素を一つ消すことができたんじゃないか。間違いなく。
なら何故言葉なんぞをかけている?
黙考時間は思いの外長かったのか。ラウは驚愕したきり何も言えずにいる。仮面以上に表情の読めないラウの姿に――なぜか哀れを覚えた。
『――ないつもりか?』
「あ?」
思考の大部分を内に向けている内に声をかけられたらしい。
『私を殺さないつもりか? 後悔することになるぞ。必ずな』
呆然とも不遜ともとれる。
ムウは銃を再度引き抜くと銃身を滑らせた。
「そうだな。やることだけは、やらねえとな」
「当然です。国際的なテロ組織の撲滅を完遂できる軍隊など我らを置いて他にあり得ません」
確か、悪と断じた〝ターミナル〟の施設を潰して回ったとき、協力者から告げられた言葉だったか。暴力で他者を圧して何も感じぬ輩は、時に力で滅ぼす必要もある。アスラン・ザラにとっての、それは正義であった。
〈アスラン君、〝ターミナル〟からの暗号伝聞。あなた宛よ〉
〝アークエンジェル〟の艦長から伝えられ、確かめたその内容は――
「こ、これは!?」
ティニセル・エヴィデンスが、恐らく意図的にはぐらかしてきたであろう〝ルインデスティニー〟の所在であった。
〝エヴィデンス〟からもたらされる火山リストの埋まり具合はもう充分なように感じられる。南半球を移動しながらも地震に遭遇しなかったのが何よりの証しではないか。
「ラミアス艦長! し、針路をアフリカ共同体へ!」
〈え? 駄目よ。私達はこの後オセアニアに向かわないと。それにカーペンタリアで補給を受けないと!〉
理解して貰おうとは思えなかった。その間にも黒の〝デスティニー〟はどこへなりとも行ってしまうかも知れない。Nジャマーの影響下では間近をすれ違ってもレーダーは教えてくれないかもしれない。
(今、黒い〝デスティニー〟は動けないと!)
居場所が特定されている今を逃したら、次はいつになることか。今すぐにでも〝アークエンジェル〟をアフリカへ!
(黒い〝デスティニー〟を、討つために!)
だがアスランにとっての絶対の理由は、今皆に反対されることが、疑えない。それでも彼は、その正義を捨てられなかった。
「ハッチを開けてくれ」
〈な!? き、許可できないわ! 待ちなさい!〉
だから待っている時間など無いというのだ! 〝ジャスティス〟の装甲がフェイズシフトし乱暴に拘束をはぎ取ると自らの足でカタパルトを踏み越え、ハッチに、ビームライフルを突き付けた。
〈………本気なの?〉
「……。勝手なことを言っている自覚はあります。ですが、行かせてくださいラミアス艦長」
嘆息の間か。俯いて漏らしたこの言葉に、返る応えがいつまでも、ない。
〈解ったわ。あなたなら、間違ったことをしないと信じる〉
声の端々に嘆息が感じられた。感謝するしかない。アスランは頭を下げた
「……済みません」
一拍おいてハッチが重々しく開き、白い雲に満ちた空から風が吹き付けてくる。アスランは感謝の意をウィンドウ越しのラミアス艦長に向けると〝ジャスティス〟をカタパルトに乗せさせてもらった。
〈ただし――〉
重く固い声が、投げかけられた。
〈あなたは、責任というモノを一度考えてみて〉
何も言い返せない自分をどう思えばいいのか戸惑ったものの最優先事項は曲げられない。〝ジャスティス〟が母艦より飛び立ち――
――やがてニーラコンゴ山麓で息を潜めている黒の〝デスティニー〟を発見したその瞬間、アスランの脳裏で何かが弾ける感覚があった。
前回このシステムを終了させたとき、血を吐いたところを洗脳された人間達に見咎められた。今回も吐きはしたが血ではなかった。体に異常も、今のところは感じられない。とは言え夢を見たような感覚が残った。確かに夢を見た記憶があるだがそれがどんな内容だったのか曖昧……先程のクルーゼとの戦闘は、確かに戦った記憶はあるのだが、それを体験した事実が認識しづらいように思える。
「ま、動ければそれでいい」
地球からアブソーバでエネルギーを求めればもう少し早く戦闘可能になれただろうが、クロは頑なに太陽光充電のみに頼っていた。地球が死にかけていると聞かされたのにその地球から献血して貰うわけにはいかないだろう。
「ティニ、そろそろ動ける。アフリカ大陸は終わったはずだが、次はどこだ?」
〈それより――〉
ティニの警告より機体の警告の方が早かった。ロックオンアラートに騒がれ出所を探ればトリミングされたウィンドウが――〝ジャスティス〟を映し出していた。
「なん……だと? アスラン・ザラも地球の鎮圧をしてたはずじゃねえのか?」
警告は直ぐさま殺意に変わった。〝ジャスティス〟は警告もなしにこちらへとビームを撃ちかけてくる。起動した〝ルインデスティニー〟はすんでの所で回避。だが〝ジャスティス〟は今のが誤射ではなかったことを主張するように強引に距離を詰めてくる。
〈どっかの馬鹿があなたとアスランさんを引き合わせたがったようです。ああ馬鹿が一人片付いたと思ってすぐにコレですか。ニンゲンの馬鹿は本当に尽きませんねぇ〉
一枚岩にはなれない〝ターミナル〟に辟易している余裕も与えられなかった。飛んできたリフターをビームシールドで殴り飛ばして直撃から反らしながら、正面を注視。機動兵器に意識を取られたその一瞬に〝ジャスティス〟は予想の遙か間近にまでサーベルの切っ先を届かせていた。
〈クロフォード・カナーバァアアアァア!〉
逆手のシールドをサーベルに打ち付ける。アスランの怒りのままに突き込まれた刃はそれでも強引にこちらを押し込んでくる。スラスターを逆噴射させ距離を取ろうとするも彼の怒りはそれを許そうとはしなかった。
〈お前が世界を狂わせたっ!〉
「何言ってやがる!」
AIが危機感を叫ぶ。返ってきたリフターを辛うじてかわした。再び一体となった赤のモビルスーツは両腕のみならず翼と両足からもビームサーベルを輝かせ、〝ルインデスティニー〟へと突進してきた。
「良くもまぁ人のこと言えるモノだな! お前こそ狂わせてねぇと言えるのか?」
背後に手をやり〝メナスカリバー〟を引き抜く。しかし展開し、伸張しても光の刃が生まれない。補給なしの戦闘自体が愚行なのだ。叩き付けた銀の刃は何とかビームサーベルを滑らせてくれるもこんなもので鍔迫り合いなどできようもない。計三つのビームシールドで身を保ちながら相手の斬撃から疲労を読み取ろうとするが――アスランの気迫にやつれなど見受けられない。火山への砲撃を怠けていたのかと邪推してしまう。地球より我を優先させるほど、こいつは腐ってしまったというのか?
「全てを裏切った男が!」
光の刃の塊を押し返してもビームブーメランが飛んでくる。〝シャイニングエッジ〟が〝メナスカリバー〟の鍔に突き刺さり、鉄塊の取り回しが更に更に悪くなった。
〈暴力で我を通してっ! 平和への歩みを止めてまで何がしたい!?〉
長剣を大地に投げ捨て〝フラッシュエッジ2〟で追い打ちをかけた。シールドにそれを突き立てられたがそこに怯みどころか後退する意志もないらしい。光刃の球が再び絶叫と共に特攻してきた。
「〝メサイア〟でてめーらのしたことを棚に上げるんじゃねえ!」
もう一降りの〝フラッシュエッジ2〟を高出力で展開し、光刃球と化したモビルスーツを弾き返す。〝ジャスティス〟が両手にビームサーベルをぶら下げ怒りをぶつけてくる。辟易したクロは更にブーメランを投げ放ち一歩でも遠い間合いを求めるがアスランの憤怒はこちらの希望を容易く食い破ってくれる。
〈閉鎖された管理を望むのか!〉
「じゃあ無法から平和が生えてくるとでも!?」
シールドから一降り、〝シュペールラケルタ〟ビームサーベルを引き抜き敵機を斬り払わんと振り下ろす。しかしアスランの反射速度はクロを遙かに上回り紙一重の隙間を縫って刃を回避、クロは更にシールドに残されたもう一降りを左手に滑り落とし、突きかかるがその先にあるのはアンチビームコートされた実体盾。舌打ちを零した。
〈何本も何本も鬱陶しいっ!〉
「全身ビームサーベル(〝インフィニットジャスティス〟)に言われたくねェ!」
舌鋒を止められないが口撃に集中できるような余裕があるわけではない。アスランの挙動は一々曲芸じみ、のみならず鋭角的でとてもライフルで狙えるような相手ではない。中東で戦った時は圧倒――とまでは言わないまでも始終優勢を保てていた。ソートの横槍が入らなければあの時こいつを抹殺できた可能性すらあった。
(だが、今はなんてザマだ!)
追い切れない。振り抜いた〝フラッシュエッジ2〟サーベルが空を薙ぎ、ロックしていたはずの敵機はサイドモニタを赤く染めている。
(S.E.E.D.って奴か! 流石は選ばれし者だな!)
優良種進化要素運命決定因子(Superior Evolutionary Element Destined-factor)について、クロにもネットの論文程度の知識はある。そして、キラ、アスラン、シンらのデータから先天的な反射上昇要素くらいに認識していた。パイロットの知覚が上がった程度でモビルスーツ操縦にそこまで影響出るか? 文字で見た程度ではそんな認識を抱いていたクロだったが、実際晒されれその考えを改めるしかない。
コーディネイターが生み出したモビルスーツという兵器は既に生みの親の何十歩も先を行っているようだ。クロは改めて自分が〝ルインデスティニー〟の足枷だと思い知らされた。
クロは距離を取ろうと、アスランは掴み掛かろうと。戦場はやがて流れ初め景色が大きく変わっていくが両者ともそれに気をかけるような状況ではなかった。
SEED Spiritual PHASE-95 自分以外に目を向けろ
黒い〝デスティニー〟と新たな〝ジャスティス〟の殺し合いはやがて海を越えた。
クロは周囲を囲むモニタを弾く無数の赤に辟易していた。赤の正体はたった一機のはずなのだが、ナチュラルの視界の中ではそれが無数のように感じられる。眉を越えて落ちてくる汗に顔をしかめた。バイザーを外して拭い落としたいが、AIの負荷を増やしてリラクゼーションしてるような余裕はない。
(バースト・シードシステム……、いや下手して意識が飛んだらこいつに連れてかれることになるな)
それ以前にクロ自身があのシステム自体を理解できていない。明確な起動方法すら解らない。コンソールパネルには新たに増えたボタンなど無いのだ。こんな火山騒ぎがなければ今頃〝アイオーン〟に帰り着き、ノストラビッチ博士のレクチャーを受けられていたに違いない。先程消し飛ばしたラウへの憎悪が行き場がないまま膨れ上がった。
横からの斬撃を実体盾で受け止めた。病み上がりでも核エンジンを超越できる星流炉の出力に物を言わせ、〝ジャスティス〟を押し切ろうと試みるも――
力を向けた先に赤の騎士はいなかった。
「くっ!」
今度は、正面。〝インフィニットジャスティス〟のリフターが展開する。〝ルインデスティニー〟の両臑へと〝グリフォン〟ビームブレイドが喰らい込んだ。TPS装甲は激しい擦過光と擦過音を撒き散らしながらも何とか抗しているが、推力はその全てには抗えなかった。メインスラスターが真後ろを向いていればその限りではなかったのかも知れないが、戦場でIFを問うなど愚かなこと。肩と両足を拘束されたクロはアスランの質量を受け止めきれず眼下の大地に落下させられた。
「ぐぁあっ!」
超高速を持っての激闘はアフリカ共同体から地中海らしき蒼の見えるどこかにまで流されていた。砂漠であったのならここまで揺さぶられることもなかったとクロは理不尽に世界を呪う。押し潰された衝撃にダメージを受けたモニタを再起動させる内に、アスランはこちらの命を握っていた。紅い敵機は正面モニタから見て下部――胸部砲口かコクピットハッチか――に光刃の切っ先を突き付けている。
「……っ」
上半身を回せば、〝ジャスティス〟をはね除けることもできるかも知れない。両脚部からも行動不能になるようなダメージは伝えられていない。砲口までその限りではないが、装甲が万全であれば腹にサーベル突き立てられようとも体勢を立て直す時間は盗み出せると思う。――機体性能を完全に信頼できれば。
〈お前は……!どこまで世界を壊したら気が済むんだっ!〉
だが『万が一』が拭い去れない。TPS装甲の耐久力を数値で知っているわけではない。〝ジャスティス〟の腕力と〝シュペールラケルタ〟ビームサーベルの攻撃力数を暗記しているわけではない。ダメージの算出方法など知らないし、よしんばそれらの課題を脳裏でクリアできたとしても流動する現実世界には誤差という概念が付きまとう。
〈人を、洗脳して! 誰かの心を奪って何をするつもりだおまえは!〉
「……ほぉ。そこまでは辿り着いてたか」
アスランがそれを知る機会を得たのはいつだ? あの技術を大々的に、こいつに悟られるような使い方をしたつもりはなかったが、やはりどこかに誤差だの予想外だのがあったのだろう。
〈答えろ!〉
「だが今はこんな押し問答より地球を救うことの方が大事だと思うが。お前はいつも大局を見ることができないようだな」
〈貴様!〉
ビームサーベルが振り上げられる。クロは覚悟を決めるしかなかった。機体のダメージを不安視するのは未来に押しつけ操縦桿を――
〈アスラン!〉
だが二人の決意は予想もしなかった声に押し留められた。
二人が揃って探った声の出所がサブモニタに映し出される。互いが各々目を見張った。
〈キラ!?〉
「フリ…じゃなくて〝ストライクフリーダム〟っ!?」
クロが慌ててGPSナビゲーションをチェックすると場所は大きく変わっていた。欧州付近どころかユーラシア中央部にまで変遷している。
(やべぇ…! 歌姫の双剣なんて相手にできるわけねーだろ…!)
〈アスラン! 今は火山の処理をしなきゃ〉
キラの心中まで察することはできずともクロはその言葉に飛びついた。そうだ。今は地球が大事だオレなんか後回しにしろ。そんな趣旨を賢しい言葉に変えようと腐心したが、その思考が徒労に終わる。
〈解っている! こいつを討ったらすぐに戻るっ!〉
キラは望遠の倍率を上げた。アスランが組み敷いているものがようやく見えるようになる。あれは、黒い〝デスティニー〟ではないか? 〝ジャスティス〟がその胸目掛けて光刃を突き立てようとしている。胸――コクピットに。
「アスラン!? それ、黒い〝デスティニー〟じゃないの? 捕らえたんなら、裁かないと」
間近に白の天使が舞い降りる。しかし赤の騎士はその言葉に耳を貸そうとはしなかった。
〈何を言っている! こいつは生かしておいてはいけない存在だ! 万が一も起こらないよう、俺がここで……殺す!〉
とんでもないことを。それでは無法じゃないか。僕らのような立場の者が自分勝手を通したらそれこそこんな人達に絶好の言い訳を与えてしまう。ラクスとカガリがその後始末にどれほど苦労させられるか……自分よりアスランの方がその点は解っていたはずだ。
「駄目だよ。彼は裁かれるべきだ。みんなの前で。そう、ラクスだって言うはずだ。落ち着くんだアスラン」
〝フリーダム〟の手が〝ジャスティス〟へとやんわり乗せられた。しかしアスランの怒りはキラの道理を乱暴にはね除ける。
「お前がそんなに冷たい奴だとは思わなかったよ……!」
「アスラン!?」
「お前はラクスが殺されても、同じことが言えるか!?」
「それは……でも!」
キラも、アスランの気持ちは痛いほどわかる。――なのになぜ彼の気持ちを推してやれない? 立場のためか? 組織の行く末のためか? それらは……家族の命、友の心と秤にかけるようなものなのか?
それは否。キラの心は強く答える。しかし、それでも、彼を停めないといけない。この心、どういう言葉を弄すれば共に届くのだろうか。呻き、苦悶し、絞り出せる言葉はこれだけだった。
「――お、お願いだアスラン! わかってくれっ!」
それはアスランの脳裏に冷たく深く染み渡る。そして冷たいまま暴れ出す。蒼い炎が怒りを表し〝ルインデスティニー〟を蹴り飛ばすと〝フリーダム〟へと掴みかかる。
「お前の立場のために!! カガリの無念を無視しろと言うのか!?」
思い返されるのは〝セイバー〟のコクピット、そこに響く、心をえぐる勢いで響くキラの怒声。
『――そう言って君は討つのか!? 今、カガリが守ろうとしているものを!
なら僕は――君を討つ!』
怒りに眩む視界に映るのはやはり〝フリーダム〟の姿。
「お前はあの時カガリのために俺の立場を切り裂いたっ! 俺もそれを正しいと信じた! お前が信じさせたんだ!!
ならば俺に、こいつを殺させろ! 生かしておいたら……またカガリが殺される!」
〝ジャスティス〟と〝フリーダム〟が自分を挟み込んで対峙した。クロは脚部を確かめたかったが二人の間に押し込められた、嵐でも起こしそうな空気が視線を揺らすことすら許さい。逃げるのは今がチャンス……だが下手な動きをしようものなら歌姫の双剣を丸ごと相手しなければならない。それは、この上もなく恐ろしい。
恐ろしいのだが………
〈ならば俺に、こいつを殺させろ! 生かしておいたら……またカガリが殺される!〉
キラの言葉をかなぐり捨てたアスランが二振りのビームサーベルをクロ目がけ手振り上げる。しかしクロはスラスターに火を入れることすらしなかった。
〈駄目だっ!〉
これは、信じた結果だろうか? あろう事かあの軍神に救われようとは。普段ならば憤怒に我を忘れていたことだろうが今だけは嗤いをかみ殺す方が大変だった。
〈彼は裁かれないと! アスラン、拘束に協力して――〉
〈き、キラァアアアァァッ!〉
頭に血が上ったアスランは乱暴に〝フリーダム〟を押しのけ刃をクロへと。しかしキラも頑として譲らずその刃を光で薙いだ。
軍神に助けられても怒りが湧かない。逃亡の好機を前にしても逃げだそうとは思えない。あぁ何故だろう?
見上げれば――軍神同士が壊し合っている。
「は……ははははっ……!」
〝フリーダム〟さえも刃を抜き、光の剣と光の盾が互いの思いを排斥し合う。赤と白の人型兵器は直ぐさま光流に変わりとても肉眼では追い切れない速度に達する。
クロはそれを追うばかりで未だ〝ルインデスティニー〟を立ち上がらせようとも思いつけない。直ぐさま逃げると言う算段も、できずにいた。目の前で、紅い剣が白い天使に襲いかかっている。彼は胃の腑から漏れる笑いを零した。
「は……はぁーっはっはっはっはぁ!」
最強同士の大喧嘩。道理に合わない戦争行為を引き起こしたのは、心だ。
「心を奪うってのが、世界を壊すことだと言ったなあんたは!」
〝フリーダム〟のビームシールドが〝ジャスティス〟の刀身を絡め取った。しかし熱するアスランは第二刃を振り下ろす。最強と最強の一対一。この場には他に誰もいない。よしんば統合国家軍が犇めいていたとしても、止められるものなど誰もいない。
「だが! オレ達ならそれを遺恨も残さず止められる! アスラン・ザラ! その親友も殺しかねない感情を、本当に正しいモノだと思うか!?」
〝ジャスティス〟のスピーカーはクロの絶叫を明確に拾い、搭乗者に過不足無く伝えていた。アスランの冷静な心はそれを是と受け取るが煮えたぎる心はどうしてもそれを認められなかった。故に口から出るのは舌打ちのみ。友に答えるのは罵声のみ。
その、全ての木から取って食べなさい。
但し、善悪の知識の木からは、決して食べてはならない
食べると必ず…死んでしまう
――だがやがて、共に創られた野の生き物の内で、一番賢い蛇がこう言ったという。
決して死ぬことはない。それを食べると目が開け、神と同じく善悪を知るものとなる。そのことを、神はご存じなのだ……。
そうして――はじまりのヒトは、その実を食べたのだという
クロフォードの得意げな嗤いに想起されたのはいつか目を通した創世記。知恵がなければ、人は原初の平和に戻れると言うのか。知恵を与えた蛇――それこそ究極の悪魔だと言うのか。ならば、自分が許せないとしか感じられない奴の言葉が――正義なのか!?
クロフォードの笑い声が感に障る。今すぐにこの刃を奴の喉元に突き立ててやればどれほどの溜飲が下がることか。しかしカメラを眼下に向けようものならそこには黒の〝デスティニー〟ではなく、キラの〝フリーダム〟が映り込む。
「どけぇええっ!」
ビームサーベルを振り抜く。こちらを拘束する意図のためか、つかず離れずを繰り替えず〝フリーダム〟は紙一重での回避を繰り返す。アスランは右手を振り抜いた勢いを引き戻すことはせずビームキャリーシールドから巨大な刃を発生させた。
〈うっ!?〉
RQM55〝シャイニングエッジ〟はシールド先端に格納されているため抜いて投げずともビームソードとして扱える。意表をついても並の相手であったのならキラは回避していたことだろう。だがアスランは彼の癖を知り尽くしていた。続けて振り抜かれた左手の大太刀は〝フリーダム〟の砲口上胸部装甲をこそげ落とした。
キラは信じられない面持ちで親友を見つめた。
アスランは激怒し続けた。
クロは、そんな二人を嘲笑った。
二人の信頼が互いに対する憎悪へと変わり、クロが身も世もないほど嗤いに没入しようとした――その瞬間。
〈はいアホ達。自分の仕事を思い出してくださいっ!〉
三機ともが〝エヴィデンス〟の静かな怒りを見た。〝ターミナルサーバ〟を通じて彼女と繋がっていた二機は瞬く間に掌握される。
〈っ!〉
〈お前っ!?〉
「おいティニ!」
三者三様に呆然とする。二者は操縦桿を引っかき回すも二機は同様に反応を返さない。彼らの神経伝達は全て宙の上の異生物に握られてしまっている。
〈皆さん落ち着いて非常に冷静になって今までしていたことを思い返してみてください。地球死んでもいいんですか? まだ終わってません〉
機体達は大部分を黙らされてもティニの命令にだけは素直に従いまだ処置を施していない火山の名前と場所と三人が向かうべきルートその他諸々を表示させたウィンドウを連出させた。
「お前はまた人間さんが鬱陶しがるネタを……」
〈クロ、裏切り者の処理にすら感謝はできませんね。失敗を取り返すためにもせめて任されたお仕事は完遂していただきたいものですっ!〉
気怠く語りかけたがキツい語尾が返ってきた。怒らせてしまったかと感じると何やら居たたまれなくなってしまう。
〈お三方、それぞれ全員平和を願って戦ってらっしゃるのにどうしてこうも目先の感情発散を優先させるんでしょうかねっ?〉
キラはビームサーベルをぶら下げたまま、落下した〝ジャスティス〟と項垂れたままの〝ルインデスティニー〟を見下ろしていた。理由は、〝エヴィデンス〟と言う少女が教え込んでくれたが、方法は? 彼女は何を掌握しているのか。それを考えるとキラは戦慄させられた。しかし次のアスランの言葉がそれを考える機会を奪ってしまう。
〈くっ……〝エヴィデンス〟! 俺を…騙したのか!〉
アスランの怒りは、クロには噴飯ものでキラには理解不十分で……ティニにとっては嘆息しかできない。
〈今〝ジャスティス〟をロックしたことを、騙した、ですか〉
アスランが奥歯を磨り潰す音が彼女の元まで聞こえてくる。そう。こちらで管制を行うためのシステムに断りもなくシステムトラップを仕掛けた。その通りだ確かに騙した。
〈じゃあ騙しておいて良かったですね。あなたがこちらの信頼裏切りましたから!〉
〈なんだと!?〉
〈あ、アスラン、落ち着いて……〉
動かない機体の中で頂上の三者会談を見つめる。クロはそれに興味を持てずに内面に埋没していった。
騙した。
信頼されないから騙された。
信頼しきれないから騙しておいて良かった。
「鍵をかけた、かねぇ……」
操縦桿を小突いてみるが〝ルインデスティニー〟は応えない。自由を奪われたのは、自分のせいか? オレは任務に忠実だったが横槍が入ったせいで中断させられたに過ぎない。オレは悪くない。それでも、止められた。だがそれを理不尽と怒ることはできない。キラ・ヤマトは友を斬り殺せないから済んだのであって、二人が互いに殺し合う気質を持っていたのなら〝フリーダム〟にもロックをかけるべきだと考える。――でなければ、戦いが終わらない。
〈お前は信じられるようなことをしてきたつもりなのかっ!?〉
〈平行線ですねぇ…。理論のすり替えは知識の弊害でしょうか〉
〈俺は……! 俺の守りたい者のために、お前達は――っ!〉
〈反省の色はなし、と〉
〈お前がそれを言うか!?〉
ティニの大きな大きな溜息を、クロは初めて聞いたような気がする。直後、背筋が凍り付いた。
《いい加減自分以外に目を向けろ》
人ではない声が、、、、響き、、渡っ、た。
「!?」
直接向けられなかったクロでさえ意識が飛ぶような感覚を味わった。息を飲む、そんな次元を超越した恐怖、真正面から叩き付けられたアスランはどうなったのか。
…………。
ナノマシンを通して咳払いが聞こえたような気がした。
通信機を通して激しくえずくような男が聞こえた。
〈今は………地球を救う方が先決だよ〉
〈……っくっ……わかった〉
(進化しきった〝シードマスター〟ともあろぉ者が……ハ! キレんなよな)
キラの言葉にアスランはようよう声を絞り出した。彼の言い分は何一つ受け入れられることなく却下されたがそれに腹を立てる余裕もないらしい。怨敵と超越者の醜態にクロの黒い心は思わず吹き出した。
恐らくアスランに睨み付けられたのだろうがクロはナノマシンに悪意を乗せてやることをこそ優先した。アスラン・ザラとはもう話し合う気などない。嫌われ、恨まれようが知ったことではない。
キラ・ヤマトが飛び立つと同時に〝ジャスティス〟と〝ルインデスティニー〟が解放される。アスランの心には迷いがあったか、飛び立つのはクロより遅れた。
――やがてティニが皆に渡したリストの8割程度が塗り潰されたとき、天空から事態の収束宣言が出された。
地球は救われた。アスランは直ぐさまクロフォード・カナーバ確保のために動き出そうと決意したが、ミラージュコロイドまで仕込んでテロ活動をしていた存在が雲隠れしてしまえば……探しようがなかった。
「くそっ!」
それ以前に探しにも行けない。平常心を失ったアスランの剣は並み居る火山の猛攻に抗しきれず、中破させられていた。
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子供の喧嘩。自我と我が儘の押し付け合いでもそこに力はなくいずれ安息が訪れる。だが同じことを神々が押し通せば世界は滅ぶか。
号泣を続ける星の上で二つの譲れない概念がクロへと襲いかかる。93~95話掲載。
悪行は三度では終わらず――人は仏より慈悲深い