軍議は終わり、結局陣を展開する暇もなくレーヴェ達は出発することになった。
「レーヴェ。貴方の目から見て気になる人物はいたかしら?」
レーヴェは話しかけてきた華琳の言葉に少し考えた後。
「……あの孫策、という女は侮れないな」
「江東の虎の娘ね。確かにいい目ををしていたわ」
「ああ。おそらく武は春蘭と互角か、あるいはそれ以上の実力者だ」
「なっ! 確かに孫策は強いが私は負けはせん!」
レーヴェの言葉に春蘭が噛みついてきた。だがレーヴェはその言葉を無視しているのか、何かを考えているようだった。
「……?どうしたのレーヴェ。まだ気になる人物でもいたの?」
華琳の言葉にレーヴェは先ほどの男を思い浮かべたが、あの男には特に何もないだろう、と自分の中で結論を出すと話を軍議に戻した。
「……いや、なんでもない。……それより汜水関を最初に攻めるのは公孫賛と劉備とのことだが……オレ達が引き受けなくてよかったのか?」
レーヴェの問いに桂花がしぶしぶ答えた。
「……汜水関の将は華雄一人よ。それほど強い相手ではないのだから戦力は虎牢関まで温存しておくべきだわ」
「その口ぶりだと虎牢関にはそれほど強い相手がいるようだな」
レーヴェは「どうなんだ?」と桂花に聞いたがその答えは華琳が答えた。
「天下の飛将軍呂布と、神速の用兵を使う張遼。どちらも一筋縄ではいかない強敵ね」
「……ほう。それは確定情報か?」
レーヴェはその言葉に不謹慎だが少し楽しみになった。無表情で誰にも気づかれなかったが。
「さっき戻って来た斥候の情報だから、今のところの最新情報よ」
桂花がレーヴェの問いに答える。レーヴェと話すのは嫌みたいだが、どうやら仕事はちゃんとするようだ。
「その情報、あとで公孫賛と劉備の所にも送ってやりなさい」
「……よろしいので?」
桂花が少し躊躇うように言った。連合とはいえど、少し躊躇するのは仕方ないだろう。
「構わないわ。劉備というのは良く分からないけれど……公孫賛が信用する人物のようだし、戦いぶりは汜水関で分かるでしょう」
「承知いたしました」
桂花が答えた後、軍議は問題なく終わった。
汜水関に向けて一番に行軍しているのは劉備の軍。こちらも行軍しながら軍議を行っていた。
「曹操から情報……」
言葉を発したのは黒い髪の女。関羽と言われる女だ。
「うーん。みんなどう思う? 」
次に言葉を発したのは劉備という女。
皆が考える中、軍師の諸葛亮が答えた。
「罠ではないでしょうね……。曹操さんは野心の塊ですし、敵には容赦しないでしょうが……味方の足を引っ張って、自らの評判を落とすような人でもありません」
「なら情報は正しいと?」
「恐らく、こちらに貸しを作っておきたいのと……こちらが本命だと思いますが、我々の実力を測りたいのだと」
「まあ、我々は新参者ですからな。実力が見たいというのも無理はありませぬ」
趙雲は少し微笑を浮かべながら、答えた。
「そっかー。じゃ、この情報は正しいと思ってよさそうだね~」
緊張感がない喋り方で喋る劉備。彼女はこれが素なのだろう。
「はい。当面の作戦は、曹操さんの情報が正しいことを前提に立てますね。一応偵察も送っておきますので……違いが出たらその都度修正しますので……それでよろしいですか?」
「うん。それでいいよね。ご主人様!」
「………」
劉備にご主人様と呼ばれた男。北郷一刀は先ほどのことを考えていた。
(三国志にレオンハルトなんて人いたか?っていうかあの名前漢字どころかカタカナだよな?いや、でもそもそもこの世界、元の三国志とちょっと違うし、中国の人じゃないってだけでヨーロッパの方から来た人だったり……あー!もう頭が混乱してきた!)
頭の中でいろんな可能性やらなんやらを考えるがどれもピンとこない。
「ご主人さま、どうかしたの?」
返事がない一刀を心配したのか桃香が声を掛けてくる。
「えっ、あっ、いやなんでもないよ」
一刀は必死に平常を保とうとした。
「そう?ならいいんだけど……」
「あはは、心配してくれてありがとな」
一刀は笑いながらごまかした。桃香にはなんでもないと言ったが一刀はやはり気になっていた。
(………やめだやめ。考えても分からないことを考えても分からないし、今は目の前のことを考えないとな)
一刀はとりあえずそのことは後回しにすることにした。そして桃香達といつもの騒がしい会話に巻き込まれていった。
「……どうだった雪蓮」
また別の陣営。周瑜と呼ばれる人物がもう一人の女に話しかける。
「……最悪よ。ったく……あのガキの機嫌とるのも面倒ね」
孫策は頭を抱えながら言った。
「これも孫呉のためだ。間違っても……」
「わかってるわよ。いきなり殺したりしないって」
孫策は周瑜の言葉を遮るように言った。
「まったく……本当に分かってるんだろうな?」
周瑜は腕を組み眉間にしわを寄せながら言った。
「分かってるわよ。冥琳ってばそんなにあたしを信用できない?」
「普段の行いが行いだからな」
周瑜が渙発いれず答えた。
「ひどいわね……。あ、そういえば一人気になる人がいたわ」
孫策は先ほどのことを思い出すように話した。
「ほう。どういう人物だ?」
「アレよアレ。噂の『剣帝』よ。やっぱり曹操のところにいたわ」
剣帝という言葉を聞いて周瑜の眉が少し動いた。
「……ふむ。してどうだった?」
「あれは強いわね。他にも強い人はそれなりにいたけど……アレは桁違いね♪恐らくあたしより段違いに強いわ♪」
孫策は子供がいたずらするような笑みを浮かべながら言った。
「……そういう割には随分と楽しそうだな。いきなり勝負を仕掛けたりするなよ?」
「あら、人を戦闘狂みたいに言わないでくれる?」
「実際にそうだろうが……」
その時二人の目の前に一人の少女が報告に現れた。
「明命か。どうした」
「はっ!劉備、公孫賛の両軍が間もなく汜水関に攻め入るようです!」
「そうか、下がっていいぞ」
「はっ!」
明命と呼ばれた少女は部隊の方へ戻った。
「さて……私達も準備しないとね?」
「そうだな。もっとも我らの出番はないかもしれないが」
周瑜はそう言って、部隊の確認に行った。
「……そうね。この戦いで周りの実力を見せてもらわないとね♪」
孫策は楽しそうに汜水関の方を見た後、周瑜について行った。
「……ほう」
レーヴェは戦いが始まった汜水関を後方から見ていた。連携のあまり取れてない同盟軍のなかでもこの二つの軍はお互いを助け合うように動いている。
(……部隊の方は及第点といったところか。それと……)
レーヴェは前方で戦っている三人の劉備の将を見た。
(……あの三人は強いな)
「……始まりましたね。でも隊長。本当に見ているだけでいいのでしょうか?」
凪が戦いを見ながらレーヴェに問いかけた。
「ああ。華琳の命令は指示があるまで戦闘態勢のまま待機だ。状況が変わればオレ達も戦闘に参加するだろう。あまり気を抜くなよ」
それに実力を見極める、という目的もあるしな、という事を胸の内だけで呟いた。
「まあ、今んところはこっちが有利みたいやし、大丈夫やろな……」
真桜も戦いを見ながら言った。すると戦場に動きがあった。
「あれ? 砦から兵士が出て来たの……」
沙和は少し不思議そうに呟いた。
「挑発に乗ってしまった、といったところか……」
レーヴェとしては呆れて笑いすらおきない。
「守備隊の将ってどんだけアホやねん……」
それには全面的に同意だ、とレーヴェは思った。するとまた戦場に動きがあった。
「……一騎打ちのようだな」
見ると戦場の真ん中で二人の女が対峙している。
「きれいな黒髪なのー」
「あれは……華雄と誰でしょうか?」
「劉備のところの将軍で、関羽というそうだ」
「秋蘭さま、どうしてこんな所に?」
凪の問いには秋蘭が答えた。
「あまりに暇なのでな。伝令役を買って出た」
「……それでオレ達はどうすればいい?」
レーヴェは戦いから目を外し秋蘭の方を向いた。この戦いの勝敗は見るまでもないと思ったからだ。
「汜水関が破られたら、ただちに進撃を開始。劉備達が様子見で退いた隙を突いて、一気に突破する。敵に追撃をかけるぞ」
「そうか。あちらも勝負がついたようだ。オレ達が先頭を務めるぞ?」
「ああ、了解した」
そう言うと春蘭は本隊に戻っていった。
「総員、移動開始! あの門が閉まるまでに無理矢理ねじ込むぞ!……行くぞ!凪!真桜!沙和!」
レーヴェの声に兵士たちは掛け声を挙げて、突撃していった。
結果、汜水関をあっさりとレーヴェ達が攻め落とした。そして今さっき次の虎牢関攻めの軍議が終わったところだ。
華琳が袁紹にどんな手を使ったのかは知らないが虎牢関の先方はレーヴェ達が務めることになった。だがレーヴェは先ほどの華琳の命令の事を考えていた。
「呂布、か……」
「どうかしましたか隊長」
「隊長どないしたんや?」
凪と真桜は考え込むレーヴェを見かねて、声を掛けた。
「いや、なんでも……」
「隊長~!」
「なんでもない」と答えようとした時沙和がレーヴェ達の方へ走ってきた。
「どないしたんや?」
「すごい情報なの!」
「すごい情報?」
凪が聞き返すと、沙和は落ち着かない様子で話し始めた。
「なんでも華琳さまが春蘭さまに張遼を捕まえるように命令したそうなの!どうやら華琳さまは張遼を軍に加えるつもりなの!」
沙和の言葉にレーヴェ以外はかなり驚きを見せた。
「な、なんやて!?」
「捕まえるって……あの張遼を……!?隊長どう思います?」
凪が驚きながら上官であるレーヴェに問いかけたのだが。
「……春蘭なら出来ないこともないだろう」
レーヴェは素直にそう思った。春蘭は毎日レーヴェに挑戦して、少しずつ成長している。その成長を一番レーヴェは知っているからだ。
「あれ?隊長はあまり驚いてませんね?」
「そりゃあ隊長は軍議に出てるんやから知ってて当然やろ?」
真桜はため息を突いて凪を見ながら言った。
「そ、そうだった。す、すみません隊長」
凪は少し恥ずかしそうにレーヴェに謝った。
「それにしても春蘭さますごいの!隊長はなんか命令受けてないの?」
沙和は期待した眼差しをレーヴェに向けた。
「……ああ。呂布を捕まえろ、という命令なんだが……。どうした?口をあけて……」
レーヴェの言葉に三人は口をあけて固まっている。そして次の瞬間三人同時に声を上げ絶叫した。
「「「えっーーーーーーーー!!!」」」
「……来る」
「ん?恋どうしたん?」
虎牢関の上で陳宮と敵の状況を確認していた張遼は隣にいる少女に声を掛けた。
「………強い人が来る」
「呂布どのが感じるほど……ですか。相当強い敵がいるんですね」
「…………(コクッ)」
恋と呼ばれた少女は敵の方を向きながら頷いた。
すると兵士の一人が報告にやって来た。
「申し上げます!」
「どないしたんや?」
「はっ。あの……華雄殿が出撃されるようです」
兵士は言いにくそうにしながら伝えた。
「………………はぁ!? なんやそれ!」
「そ、そんなの聞いてないのですっ!」
二人は最初時が止まったように唖然したが、やがて頭を抱えて慌て始めた。
「………出る」
そんな中、恋と呼ばれる少女が一言だけ発して、走っていってしまった。
「呂布どのっ!」
「……しゃあない! 陳宮は関の防備、しっかり頼むで!」
仕方なく急いで張遼も恋について行った。
「っ! わかったのですっ!」
そう言って陳宮もいそいそと戦いの準備を始めた。
出し巻き卵です。
やっとの10話ですね。遅くなってすみません。
ぶっちゃけキャラが多くて、全てを生かしきれてません。(桂花とか流琉とか桂花とか)
まあ、努力はしますが。
ちなみに私はロリコンではない(キリッ
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とうとう10話です。
ここまで長かったようで実は一カ月しかたってないという…