◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~
26:【董卓陣営】 日々研鑽に勝るものなし
董卓軍の兵たちが鍛錬に励む修練場。
今そこに集まる兵たちは皆、手を止め足を止め、ひとつの立ち合いに注視する。
呂布と、華祐。
天下無双とその名を世に響かせている、董卓軍屈指の武将。
そして、その呂布と互角の武を見せ付ける、見知った自軍の武将と同じ顔を持つ客将。
幾度となく行われているふたりの立ち合い。戦歴はほぼ五分。
その内容も一進一退。毎回毎回、先の読めない展開を繰り広げている。
「さーて、今日は恋のやつ、どんなやり方を見せてくれんねんかな」
ウキウキと声を弾ませ、張遼は、調練場の中心に立つふたりを注視する。華雄はその声に応えることもせず、腕を組みつつただジッと、同じようにふたりを見つめている。
彼女らだけではない。今、この調練場に集まっている者は皆、中央部分に対峙しているふたりに目を向けていた。
身構える呂布。のほほんとした普段のものとは異なり、今、その表情は真剣そのものだ。
正面に立つ華祐が身構えると同時に。呂布は地を蹴り距離を詰めに行く。
空を翔るが如き速さ。その速さを落とすこともなく、手にした戟になお速さを重ね振り抜いた。
呂布の間合い。踏み込んだ刹那、彼女は下方から逆袈裟に斬り上げる。
並みの兵ではその軌跡を追うことさえ出来るかどうか。それだけの速さを持つ、正に一閃。しかしそれも華祐はかわしてみせる。
戟が走る軌跡をしっかと見、華祐はその一閃を受け流す。
受け止めずにそのまま、刃を合わせただけで勢いを逃がす。
その反動を活かし、華祐が持つ戦斧の石突部分が顎先を狙う。
呂布の一閃そのままの速さ。呂布はわずかに身をよじるだけでそれを避けてみせるが。華祐の攻めは止まらない。
彼女の手の中で戦斧が回る。
まるで手に吸い付いているかのように一回転させ、刃の部分が再び呂布の顔先へと疾る。
呂布はそれさえも避けてみせる。顔色ひとつ変えないままで。
かわすだけではなく、足の運びをそのまま次の攻撃へとつないでみせた。
相手をねめつける呂布。地を噛み練り込まれた力と共に戟を振り上げ、振り抜けるや否や横薙ぎ。
さらに右肩から左足先へと抜ける斬り下ろ、そうとして。
華祐は一歩踏み込み、呂布の戟を柄の部分で受けきってみせた。
いかに膂力に満ちた一撃であっても、得物にその力が行き切る前に受け止められては、勢いもまた霧散してしまう。
組み付かれる状況を嫌い、呂布は交わる得物を力任せに押しやり距離を取る。
華祐もそれを無理に追おうとはせず、体勢を立て直す
ふたりは得物を握りなおし、再び構える。
どちらからということもなく。ふたりは同時に、互いへと向かい再び駆け出した。
ふたりが手にしている得物は、刃を落とした鍛錬用の戟と斧。それぞれが愛用する武器に近しいものだ。
刃を落としたといっても、扱う者が一流であればその破壊力は相当なものになる。斬れないからといって安全だといえるものでもないのだ。
うかつに一撃を受ければ骨まで持っていかれることは必死。その辺りも考慮され、ふたりの持つ武器は刃を落とした上で、赤い染料を漬した布が巻かれている。武器が当たり身体に染料がついたら負傷、という仕組みだ。
それでも、気を抜くことは出来ない。事実、呂布の一撃を受け止めただけで動けなくなる兵も少なくないのだ。その勢いと重さが骨まで響けば、さすがの華祐も動けなくなってしまう。
董卓軍の中で、呂布の武に及ぶ者はいない。張遼と華雄が追随してはいるものの、彼女が本気を出して戟を振るえばふたりとてそう長く相手をすることは出来ないのが現状だ。そのせいもあって、呂布は普段から加減をし武を振るうことを、自分でも知らず強いられていた。
ちなみに。
呂布が天下無双と広く呼ばれるようになった切っ掛けのひとつに、たったひとりで30000もの黄巾賊を屠ったという風聞がある。
さすがに数の誇張はあるものの、相手が匪賊の類であるということから枷をかける必要がなかったがゆえに、万を超える相手を捻じ伏せることが出来た。これは鬱屈した力の解放によるところが大きかったといえるだろう。
それはともかく。
普段から力を抑えていた呂布であったが。ここで、華祐という、自分の持つものと拮抗する武を持つ者が現れた。
彼女の出現による恩恵を、董卓軍の中でもっとも厚く受けているのは呂布であるかもしれない。
本来持っている力を発揮し、武の才を遺憾なく振るうことが出来るようになったのだから。
自分に敵う者がいないがゆえに、常に力を抑えていなければいけない。そんなことを気にすることなく、思い切り出し切ることが出来る相手。しかもそれを前にして渡り合うことが出来るのだから、出し惜しみや遠慮など気にする必要がない。そのことに呂布は喜びを感じていた。
彼女の武の程をすでに知っているはずの董卓軍の面々でさえ、本気を出した呂布の立ち回りを目にして認識を改めたほどである。
中でも張遼と華雄のふたりは、呂布の本気を引き出すことが出来なかったという自分の武に不甲斐なさを感じさえした。
そのふたりに対して、華祐は課題を与える。
「あの天下無双に対して、自分ならどうするか。よく考えろ」と。
以降、ふたりは立ち合いのひとつひとつを熱心に見るようになり、互いに「自分ならこうする」と意見を戦わせるようになる。呂布の存在を手の届かないものではなく、如何にあの高みに追いつくかという対象へと変化させたのだった。
呂布にとっても、華祐と行う立ち合いは新鮮なものだった。
これまで出せなかった力を振るえるというのはもちろんのこと。
それ以上に、ただいたずらに戟を振るうだけでは勝てないということを知った。
武才というものを基準として、いい方は悪いが格下の者を相手にすることが多かった呂布。これまで彼女は、ただ速さと勢いにまかせればたいがいの相手はなんとかなってしまっていた。技術や策を講じるよりも前に、単純な力でもって捻じ伏せてしまえた。
だが、華祐はそれでは倒せない。倒せなかった。そのため自然と、頭を捻り工夫を凝らさねばならなくなる。
呂布の武の働かせ方が、立ち合いの一回一回ごとに、少なからず変化を見せ出した。それはひとえに華祐の存在によるものだろう。
そして、その変化を日毎つぶさに見る、張遼、華雄、他の将兵たちにもまた同様の変化をもたらしていた。
常に工夫を凝らすふたりの立ち合いは、観ているだけで大きな刺激を受ける。
いかにして勝ちを引き寄せるか。
他の仕合を我がことのように意識し、ひとりひとりが、自分なりの手数を増やすことに余念がない。そんな董卓軍であった。
どれだけの時間が流れたか。得物同士がぶつかり合う鈍い音が、調練場の中で響き続ける。
膂力と勢いを主に押していく呂布に対して、華祐はひたすら技術で受け流す。
右に左に、上に下にと、ふたりは縦横無尽に得物を振るい。
力の強弱、握りの硬軟、更に虚実を交えながら。呂布と華祐は武をぶつけ合う。
殊に力が込められた一撃を防ぎきり、互いの腕に痺れが走る。
先に手を打ったのは、華祐。
以前までの"華雄"であれば、想像もしない一手。彼女は躊躇うことなく得物を手放した。
思いもよらぬ行動に周囲が驚きの声を上げる。呂布でさえ、一瞬だけ目を見張って見せた。
その一瞬が勝負の明暗を分ける。
身軽さを得た華祐が、身体に捻りを入れながら上段蹴りを放ち。
呂布は危機感に弾かれるように頭部を防御する。
必然、華祐の蹴りは呂布の戟を弾きあさっての方へと追いやり。
そのまま呂布へと組み付き、重心を崩し押し倒してみせ。
華祐が首を極めた状態で、時が止まる。
この日の立ち合いは、華祐の勝利で終わった。
武官ではない者が観ても、先ほどまでの立ち合いが尋常ではないことはよく分かる。
「あの恋さんに勝てるなんて……」
「本当にすごいわね……」
これを観覧していた董卓と賈駆は言葉も出ない。ただただ「すごい」としかいいようがなかった。
将兵たちの鍛錬に華祐が係わり、呂布までもが時折打ち倒されると聞いたふたり。かの飛将軍の実力を知っているがゆえに、一概に信じられなかったのだが。実際にその様を目の当たりにして、驚きを禁じえない。
これまでに、彼女に勝る武のほどを持つ者を見たことがなかった。
自分たちの擁する、最強と信じて疑わなかった将。それと肩を並べる武を持つ者。実際に目の当たりにしたことで、呂布の強さに頼り切ることは、軍閥として非常に危険だと賈駆は感じざるを得ない。そう考えれば、華祐が行っている"兵ひとりひとりの力量の向上"は理にかなったものだと、同時に納得することが出来る。
幽州勢は、敵に回したくないわ。賈駆は言葉通り、心からそう思っていた。
そんな軍師の内心など露知らず。華祐は董卓たちの姿を見て取り、わずかに一礼をしてみせた。
「お前たち、董卓殿がご覧になっているぞ? いい格好をしてみようとは思わんか?」
呂布に手を貸し起き上がらせた後。華祐は、董卓軍の将兵たちに向けて煽ってみせ。兵たちは発奮した。
河東軍に属する将兵のほとんどは、男である。
可愛らしい主が見ている。
単純といわれようが、それは実に効果的であることも事実であった。
董卓も董卓で、華祐の言葉に少しばかり顔を赤くしながらも手を振って見せたりするのだから。効果のほどは著しい。
その日、調練場に男たちの雄叫びが絶えることはなかった。
・あとがき
なんだか、書き方忘れてるような気がするオレ。
槇村です。御機嫌如何。
結局、年内に終わらせることが出来ないまま持ち越し。
その割に内容は超短い。なんという体たらく。
というか、この回って不要じゃないk
まぁいいです。
気にせず先に進みます。朝廷暗躍編に突入だぜ。
次の更新まで、また間が空きそうな気がします。
でも書く気はあります。バリバリです。(バリバリ?)
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さぁ今年もバリバリ行くぜ!(これまでの文を読み返しながら)
槇村です。御機嫌如何。
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