俺達が袁術との戦に勝ってから3ヶ月程経った。
あれから俺達は、さらに勢力を強めた劉表軍に、そして各地に勢力を持つ諸侯に対抗するため軍と内政の強化に勤しんでいた。
まず、俺達は本拠地を新たに手に入れた建業に移した。そしてそこを中心に、揚州の諸侯達の平定を始めることになった。
次に内政の整備だが、その点は俺と愛紗の知識を用いることで何とかなった。
第一に文官の募集、これは後の中国で行われた科挙を用いることで集めることになった。
普通の科挙と違うのは、科挙の問題が、政についての意見等のいわゆる自由課題になっていることだ。
この科挙の解答で、冥琳達の目に留まるような解答を書いた人物は、二次試験の面接を行う(ちなみに試験官はなぜか俺だ。いちおう補佐として藍里がいるけど)。
その二次試験で合格した人物は、めでたく文官に採用、という訳だ。
もっともほとんどの人間は似たり寄ったりの解答ばかりで大体一次で落ちていくんだけどね。なかなか冥琳の眼鏡に適う人材は居ないようだ。
第二に教育の整備だ。これは最初雪蓮が反対していたんだけど、色々と利点を言い聞かせて何とか学校設立の許可を貰った。
学校では、普通の読み書きそろばん、すなわち算数の三つを主に教えることから始めた。
そもそもこの時代にはこの三つもまともに出来ない人がほとんどの割合を占めていた。
そこで俺はこの三つを教えて国の発展に生かそうと考えたのだ。
雪蓮は、庶民に余計な知識を植え付けるのは危険だと反対していたけど、俺が、王への忠義等も学校で教えることにしたため、なんとか許可してくれた。
正直こんな洗脳教育ははっきり言って好きじゃあないんだけど、時代が時代だからしかたがない。
最初、なかなか学校に来てくれる人は居なかったんだけど、最近は徐々に増えてきている。
そして軍備の強化なんだけど、これについては愛紗にお任せ、といったところだ。
あいにくと俺には軍に関する知識はあんまりないし。
せいぜいやったことといったら鐙の開発くらいなもの、かな・・・。
もっとも鐙についての説明を聞いた冥琳はすごく驚いていたけどね。「戦の歴史が変わる」とか何とか。
あとの新しい武器とか陣形、戦術なんかは俺よりも愛紗のほうが詳しいからそういうことは主に愛紗に任せている。
他にも農業の改革だの街の整備だの俺は未来の知識をフル活用した政策を次々と雪蓮や冥琳に献策、そして実行した。その結果、孫呉の勢力はさらに増大し、今では袁紹、曹操にも対抗できるほどになっていた。
「あ~あ、これでラストか」
最後の書類に目を通し終わると俺は大きく伸びをした。
外を見てみるともう夜になっていた。仕事を始めたのはもう昼飯を食べた後だったから、もう6時間以上仕事をしていたことになる。
孫呉の国力が増大するたびに俺と愛紗の仕事も増えて、今では夜中まで仕事、何てことも当たり前になってきた。
まあ忙しいのは冥琳や藍里も同じだから、その負担が少しでも減ると思えばなんとも無いけど。
「しっかしもうこんな時間か~・・・。少し夢中になってたかな?」
この世界では時計が無いから正確な時間は分からないけど、おそらくもう9時は過ぎているはずだ。
仕事の途中で愛紗が持ってきてくれた夕食も食べたからお腹は減ってないし・・・。
「仕事も終わったことだし、寝るか・・・」
丁度眠くなってきたことだし、寝台にごろりと寝転がった。
自分では気が付かなかったが、体が疲れていたのか段々と瞼が重くなってくる。
そしてあっというまに俺は夢の中に落ちていった。
「目覚めよ・・・・」
「・・・・・・」
「目覚めるがよい・・・北郷一刀よ・・・・・」
ん・・・・誰だ?人が寝てるときに起こそうとするのは・・・・。
「目覚めよといってるだろうが!!いい加減起きろ!!」
ガツン!!!
「いってええええええ!!!!何しやがんだこの・・・ってあれ?」
頭に突如走った激痛に飛び起きると、そこは自分が寝ていた私室ではなく、辺りが真っ暗闇の空間だった。
そして目の前には、小蓮か鈴々位の年頃の女の子と、紫苑位の年代(かもしれない)美女が立っていた。
「ふう・・・ようやく起きたか、とりあえず始めまして、というべきかの。北郷一刀よ」
「そうね~初めまして~、北郷さ~ん♪」
・・・この二人、俺の事を知っているのか?何者だ、一体。
「あの・・・あなたたちは一体・・・」
「わしの名前は管輅、この外史を管理するものじゃ」
「私の名前は南華老仙っていうの~。管輅ちゃんと同じく外史の管理をする存在よ~♪よろしくね~♪」
と、二人は自己紹介した。
外史の管理者・・・、それって・・・。
「まさか・・・左慈と于吉の仲間なのか!?」
俺は後ろに飛びずさって、腰に差している『白光』に、手を添える。
左慈と于吉は、以前の三国志の外史を消滅させようと暗躍した二人組。
この人達もそいつらの仲間なのか?
俺が警戒して二人を睨み付ける。
「ふむ、確かにわしらはあの二人と同じ『造られた存在』ではある。だが、わしらは奴らとは正反対の、外史の存在を肯定する者じゃ」
「まあ、あなたの知り合いで言えば貂蝉と同じサイドの人間って事。だから外史を壊そうなんて考えてないわよ~♪」
俺が警戒していることが分かったのか二人は俺の問いにそう答えた。それを聞いた俺は刀の柄から手を離した。
「そうか・・・。ならいいけど、それよりあんた達、貂蝉と知り合いなのか?」
俺が再び質問をすると管輅が少し嫌そうな顔をしながら答えた。
「知り合い、のう・・・。まあ確かに知り合いではあるな。同じ目的を持つ同士である故に。しかし、個人的には知り合いにはなりたくなかったのう・・・」
「あ~・・・まあ・・・気持ちは分かるわ・・・」
管輅の返答に俺も頷かざるを得なかった。確かにあいつは性格は悪くないんだが・・・。
容姿と話し方が・・・・。あれだからな・・・・・。
「まあまあ、二人共そんなこと言わないの~。貂蝉ちゃんが泣いちゃうわよ~?」
「・・・あ奴が泣いても気持ち悪いだけじゃ・・・。胸も痛まん」
「・・・気持ち分かるわ」
南華老仙が俺と管輅をたしなめてくるが、実際気持ち悪いものは気持ち悪い。どうしようもない。それは管輅も同じなようであった。
「まあそれは良いとして、じゃ。わしらが来た目的は、そなたじゃ、北郷一刀よ」
と、突然管輅が俺の方を向いてまじめな顔で話し出す。いつの間にか南華老仙もまじめな顔をしていた。
「この世界はそなたが泰山で銅鏡に触れたとき、分岐した幾多もの外史の一つじゃ。もう気付いておるやもしれんがの」
「ああ、それは分かっている」
あの泰山での最後の戦いのとき、俺が銅鏡に触れたことで俺と愛紗が存在する新しい外史と、それ以外の幾多の外史が作られた。
この外史は恐らくその一つなのだろうと、俺と愛紗は考えている。
「あなたはもともと正史の人間でありながらも、外史を越え、新たに外史を作り上げた稀有な人間なのよ~。私達の主、女禍様は、そんなあなたに興味を持たれて、あなたと関羽ちゃんをこの外史の世界に送ったのよ~」
「なるほど・・・、でも何の為に?」
俺の問いに管輅は肩をすくめた。
「お主らが外史の運命を変えるのを見たい、とか仰せじゃった」
「外史の運命?」
「そうよ~。外史っていうのは、全てが決められたストーリーで描かれているのよ~。誰がいつ、どこで死ぬのか、どこの国がいつ、滅びるのか、とかね~。そこが正史とはまた違うところなんだけど~。この外史も同じく運命が決められている。そして、その登場人物たちは、いえ、この世界に存在する全ての事象は、それに逆らうことは不可能なのよ~。本に書かれた登場人物が、本に書かれた事以外の事を実行できないようにね~」
南華老仙の説明を聞いた俺は、なるほどと頷いた。
外史とは巨大な本と同じだ。
あらかじめストーリーが決められ、登場人物はその通りに動くことしか出来ない。
そして、結末はあらかじめ決められたものしか存在しない。
・・・それがどれほど残酷でも。
「だがそなたと関羽はこの世界の完全な異分子、本来ストーリーには存在しない者じゃ。じゃから外史の制約には縛られぬ。お主等なら、新しい外史を描けると、女禍殿は考えたわけじゃ」
管輅の説明を聞いた俺は考え始めた。外史を変える・・・。
それはすなわちこの世界の定められた歴史を変えるということだ。
もしそうなった場合、この外史の未来は定められた方向とは別の未来へ進むことになる。
その結果、この外史はどうなるのか・・・。
それは俺にも分からないけど・・・。
「なるほど、つまり俺と愛紗は、この外史のストーリーの書き換えの為に来たって事か」
「まあそうじゃのう。しかし、じゃ。そなた等にも元の生活があろう。そなたの住んでいた世界に戻りたいと申すなら、戻してやっても良いが・・・」
管輅はそう言ってくれるが、あいにくと俺の答えは決まっている。
「気持ちは嬉しいけど、雪蓮達には色々と世話になってるしね。まだこの世界から離れるつもりはないよ」
その答えを聞いた管輅と南華老仙は、どこか優しげな笑みを浮かべた。
「そなたならそう言うと思っておったぞ。のう、南華」
「ええ~♪もう呉の女の子達を何人かやっちゃったみたいだし~♪」
っておい!!何であんたそんなこと知ってるんだよ!!事実だけどさ!!
「そりゃ管理者ですからね~。大抵の事は分かるわよ~♪」
ちょっと待て!!それって俺のプライバシー存在しなくねえか!?
「やましい事をしていなければ見られても問題ないではないか?」
問題大有りだ、ボケ!!
「あら~?もう時間のようね~♪それじゃあそろそろ帰りましょうか♪管輅ちゃん♪」
「おうよ、ってその名前で呼ぶでない!!」
ちょっと待て!!こっちの話が終わってないぞ!!
「安心せい。そなたの色事まで見る気はないわ」
いや、そういう事じゃなくて・・・。
「それでは行くかの」
「はいは~い♪行きましょ管輅ちゃん♪」
「その名で呼ぶ出ないといっておろうが!!」
MA☆TTE!!まだ俺の話が・・・・。
と、突然俺の目の前が白くなっていった。
「・・・んん?」
いつの間にかそこは俺の個室だった。
どうやらさっきのは寝ているときに見た夢、らしいが・・・。
「夢にしてははっきり覚えているんだよな~・・・」
俺はベッドから起き上がりながらそう呟いた。
しかし・・・、
「外史の流れを変える、か・・・・」
随分とまあ大層なことを言われたもんだ。
流れを変えるといっても、この先何が起こるか全く分からない。
でも・・・、
「まあ、やるだけやってみるさ」
ベッドから起き上がった俺はそう結論付けて、服を普段着ているものに着替えた。
「さて、それじゃあ愛紗にあいさつでもしに行くかな」
俺は自分の部屋から出て、愛紗の部屋に向かった。
「さてさて、これからどうなるかのう?」
外史の狭間にて、管輅は南華老仙に問う。
「そうね~。次に起こることは大体想像がつくけど・・・」
「孫策の、死か」
「そうそう~。この世界には于吉ちゃんはいないから、恐らく暗殺されるんでしょうね~。許貢の食客にね」
南華老仙の言葉を聞いた管輅は、再び視線を目の前の画面に向けた。
「その運命を、こやつらはどう変えるか・・・。見せてもらおうかの、管輅よ」
「ええ~そうね~」
そして二人は再び画面の人物、北郷一刀の紡ぐ物語を見始めた。
「ところで南華よ、あの筋肉の化け物共はどうしておる?」
「ああ~貂蝉と卑弥呼のことね~♪なんか愛しい人が待っている~とか何とか行ってこの外史に行っちゃったわよ~?」
「な、なんじゃと~!?・・・むう、一刀も哀れじゃのう・・・」
「大丈夫よ~♪彼の側にはすごいボディーガードがいるじゃな~い♪」
「ボディーガード、のう・・・。まあ、そうとは言えなくも無くも・・・」
「でも面白くなってきたわね~♪こういう奇想天外な事が起こるから外史って面白いのよね~♪」
(・・・面白くないと思うのはわしだけかのう?)
あとがき
新年、明けましておめでとうございます!!
そして更新、遅れて申し訳ありません!!
バイトだの何だの忙しくて・・・。
今回の話は一刀とこの外史の管理者の会話シーンのみです。
・・・管輅の口調が違う?外史だから違っていいんですよ。
さっそくですが次回の予告です。
次回は、本編ではなく正月の特別版でも書こうと思います。
無印ハーレムエンド後の正月とかでも・・・。
まあとにかく、これからも、私の外史を、よろしくお願いいたします!!
追伸、後ろにおまけも用意してあります。
これはあくまでネタなので、やる予定はありません。
ストーリーは、もし、アニメの乙女大乱後に、一刀が来たら、という話です。
おまけ
アニメ 真・恋姫☨無双 !!
新章突入!!
于吉を倒し、董卓を救出した桃香達。
しかし、未だに世の中は混乱の中にあり、平和には程遠かった。
そんななか、各地であるうわさが広がる。
『流星と共に、乱世を治める天の御使いが舞い降りる。
そのものは、あらゆる英雄、王を喰らい、蒼天の世に終わりを導く者なり』
やがて、荊州に一つの流星が落ち、その中から、白い衣に身を包んだ男が現れる。
「まさか・・・俺・・・タイムスリップでもしたのか!?」
やがて彼は一人の少女と出会う。
「天の御使い様、どうか私の主となって、この世に平穏をもたらしてください」
そして彼と少女の力によって、荊州は平穏を取り戻し、彼等の元に多くの軍師、英雄が集ってきた。
しかし、天下を望む孫呉が、ついに荊州を狙い攻めてくる。
「俺の仲間達が、俺達が作った平和を、壊させはしない!!」
仲間達とその国を守るため、彼は戦いを決意する。
それは、新たな物語の始まり。
新たな外史の幕開け。
真・恋姫☨無双 北郷外史伝 天帝光臨編
2011年末、公開予定
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新年明けましておめでとうございます!
かなり久しぶりの更新となり申し訳ございません!
どうかこれからもよろしくお願いいたします!