注意
この作品は北郷 一刀が主人公ではなくまた登場する予定もありません。 オリキャラが主人公で、原作キャラが崩壊するかもしれません。 それを踏まえた上で楽しんでいただければと思います。
Interlude in
先遣隊に追いつくべく、行軍していく。
その先頭には、華琳、桂花、春蘭。
そして――葵の姿があった。
「クスッ……」
華琳は先ほど城であったことを思い出し、誰にも気付かれないように笑う。
それは新しい玩具をもらった子供のような笑顔だった。
時は遡り、後遣隊も出陣前。
玉座にて――――
「アナタは何者なの?」
華琳は鋭い視線で葵を見つめ、言葉を投げかける。
葵は顔を俯かせているため、華琳からは表情を読み取ることが出来ない。
「もう一度聞くわ。アナタは何者なの?」
覇王としての威厳のある声で訊ねる。
いや、訊ねるなんて優しいモノではない。
もはやそれは、命令に近いものが含まれている……そんな声だった。
だが。
「なんのことですか? 私は私……それ以外の何者でもありません」
葵はその声に従わなかった。
「あら、とぼけるつもりかしら?」
「とぼけるとは、どういう意味でしょう」
葵の声音はいつもと変わらない。
それが、華琳の胸中を不愉快にさせた。
「華琳様。貴女が何のことをおっしゃっているのか、私には存知あげませんが。私も一人の人間、秘匿したいことの一つや二つ……持っています。確かに貴女には真名を預けていますが完全に私が貴女に心を許した訳ではありません。それを努々、お忘れ無きよう」
葵は顔を上げて、そう云う。
その姿は凛としていて。
華琳が抱いていた不快な想いを取り除くほど、美しかった。
(この曹孟徳の言に背くなんて……面白いわね)
これが、普通の者ならば華琳はそう思わなかっただろう。
だが。
葵には華琳にそう感じさせるほどの何かがあった。
「……いいでしょう。ならば云わせて見せましょう。その秘密とやらを」
葵は華琳の言葉に微笑を浮かべる。
「……出来るものならば。では、失礼いたします」
そして、葵は踵を返して、玉座を後にする。
華琳は、葵の姿を見送ってから呟いた。
「鳴かない小鳥を殺すのは容易いけれど。殺さずに鳴かせるのも一興、ね……いえ、小鳥と決めつけるのはまだ早いかしら。――どちらにせよ退屈をさせてはくれなさそうね、葵」
Interlude out
昨日、玉座であったことが未だに頭に残っていてどうにも行軍に集中できず、私はどこか上の空だった。
昨日は何とか凌げたけれど、これからこのままという訳にもいかない。
ここはやっぱり、路銀がある程度――いやもういっそのことこの討伐が終わったらどこか別の場所にでも……
「華琳様。秋蘭から報告の早馬が届きました」
そんな桂花様の言葉が私の耳に届き、私は思考を遮断させる。
そして次に桂花様が口を開くのを待った。
「報告なさい」
「敵部隊と接触したそうです。張角らしき存在は確認していないようですが、予想通り敵は組織化されており、並の盗賊より手強いだろうとのこと。……くれぐれも余力を残して接敵してほしいそうよ、春蘭」
「うぅぅ……」
最後の方の伝言を特に強調して、桂花様は報告する。
それを聞き、春蘭様はうめき声をあげていた。
きっと春蘭様のことだ。
この伝言を聞いている途中ですぐにでも駆けつける決意をしていたのだろう。
そんな姉の性格を分かっていたのか、秋蘭様が釘を刺した、といったところか。
流石は秋蘭様。
姉のことは熟知していると云うこと、ね。
「数は?」
「夜間のため詳細は不明。ただ先遣隊よりも明らかに多いため、うかつに攻撃はせず、街の防衛に徹するとのことです」
「そう。流石、秋蘭、賢明な判断ね」
この報告を聞いて分かったことは二点。
この騒動は張角自身が指揮を執っていないということ。
そして張角に、人を引きつける才覚が――それも華琳様にも匹敵するほどのものが備わっているということ。
「……なかなか面白い相手、ね。ホントに最近退屈しないわ」
意味深い視線をこちらに向けながら、華琳様は呟く。
私はそれに気付かないふりをして、顔を下に向けた。
「また悪いクセが……よもや、張角たちを部下にしたいというのではないでしょうね、華琳様」
「それは張角の人となり次第。利用価値のない相手なら舞台から消えてもらうだけよ」
「曹操様! 曹操様はいらっしゃいますか!」
突然。
慌てた様子で駆け込んできた一人の兵士が来訪してきたことにより空気が一変する。
「どうした!」
「あれ? お前は先遣隊の……」
華琳様と春蘭様の言葉に兵士は敬礼し、大声で叫んだ。
「はっ! 許緒先遣隊、敵軍と接敵! 戦闘に突入しました!」
「……状況はっ!」
華琳様は表情を険しいものにしながら、兵士に続きを促す。
「数と勢いに押され、お味方に不利! 街に籠もって防御に徹していますが、戦況は芳しくありません! 至急、援軍を求むとのこと!」
状況は最悪の一歩手前。
つまり、援軍が間に合わなければ先遣隊と街は壊滅するということ。
「総員、全速前進! 追いつけないものは置いていくわよ!」
「総員、駆け足! 駆け足ぃっ!」
「あなたは殿について、脱落した兵士を回収しながら付いてきなさい。以降は本隊と合流するまで、遊撃隊として指揮を任せます。いいわね」
「はっ!」
華琳様は迅速に指示を飛ばしていく。
そして私たちは自分たちの体力の限りを使って、全速力で目的の街に疾駆するのだった。
あとがき
少し短く、予定とだいぶ違っていますが何とか更新です。
年末は何かと忙しく、また間が空いてしまいました。
でも、何とか年内に2010年、最後の投稿が出来て良かったです。
今年、お世話になりました。
また来年も宜しくお願いいたします。
では、本日はこれにて失礼いたします。
なにか誤字や脱字、意見等があればコメントしていただければ助かります。
読んでくださってありがとうございました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
良いお年を……
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2010年最後の投稿となります。
七作目の作品です。
楽しんでいただければ幸いです。