予定から遅れること三日。
私達は、西方の邑から戻ってきました。
あらかじめ戻るのが遅れるという事は伝令を通じて伝えておいたのですが、お兄さんの姿を見るやいなや袁術さんが泣きながら抱き付いていました。
「一刀ぉ~!! 妾を心配させるでない~!!」
「ああ、ごめん」
袁術さんに抱き付かれてなすすべもないお兄さん。
しばらくして周りの皆さんが笑っている事に気付いた袁術さんは、急いでお兄さんから離れるといつもの姿を取り繕うとしました。
ですが、思うようにいかず、結局笑い声が大きくなるだけでした。
この様子を見て、私は平和を感じていました。
誰もが笑い合える世界。
この世界をお兄さんと共に作ることが出来れば……。
そんなことを思いながら、この僅かな時を楽しんでいました。
白装束との一件は、袁術さんには報告しませんでした。
私を始め、星ちゃんも華雄さんも話すのがいいと言ったのですが、お兄さんがそれを否定しました。
「袁術が心配するだろ」
確かに、そうかもしれません。
ですが、そうだからこそお兄さんを守るには都合がいいはずです。
そう言ったのですが、お兄さんには無意味でした。
仕方がないので、その場にいなかった霞さん、月さん、詠さんと白蓮さん。
それから顔良さんと文醜さんにも伝えておきました。
袁紹さんには……やめておきました。
袁紹さんに伝えては、いつ袁術さんの元に話がいくか判りません。
張勲さんには、伝えておきました。
お兄さんの意向で袁術さんには報告しなかったことも含めて、全て話しておきました。
こうして、謎の白装束集団による謀略は防ぐことが出来ました。
しかし、まだまだ判らないことだらけです。
これは時間が解決してくれるんじゃないかと、何となくですが思っていました。
曹操さんが戦の準備をしている。
そんな情報が入ってきたのは、白装束の騒動が収まって間もない頃でした。
「曹操が戦の準備を進めているそうだが、どう思う?」
「そうですね~。」
この情報を得てから、私は周瑜さんと議論を交わしています。
「今までは地盤固めかと~。それがある程度形になったから、今度は新たに攻めていくという事でしょうか~」
「ふむ。なら曹操が攻めるとしたらどこだろうか?」
「西方か南方でしょう~」
「西方だと、馬騰が中心となっている西涼か……」
「そうですね~。南方なら劉璋さんの治める益州、劉表さんの治める荊州か、劉備さんの治める徐州でしょうか~」
「なるほどな。程昱ならどこに攻める?」
「西涼は馬騰さんを中心にかなり整った戦力を有しています~。さらに五胡との戦を通じて士気も常に高めです~。益州と荊州は武力はそこまではないにしろ、広大な土地を有し、数の上ではさすがの曹操さんも厳しいでしょうね~」
「となると……」
「劉備さんの元には、関羽さん、張飛さん、呂布さんという一騎当千を誇る武将が三人もいます~。さらに伏龍、鳳雛と謳われる知の天才もいます~」
「なら、徐州も厳しいのではないか?」
「ですが、州牧の劉備さんが基本的に争いを好みません~。また、土地の狭さ故に数でかなり劣っています~。いくら一騎当千を誇る人でも数で攻められては無傷ではすみません~」
「ならば、曹操が攻めるとすれば……」
「間違いなく徐州でしょう~」
そうです。
曹操さんにとって今一番危険が少ないのは徐州でしょう。
ただ、これは私の推測に過ぎませんが、間違っていませんでした。
数日後、曹操さんが徐州に攻め込みました。
数の上では圧倒的に有利な曹操さん。
個々の武将の力では、互角以上の桃香さん。
一見すると、どちらが有利か判りませんが、とにかく戦では数がものを言います。
そういう意味では、桃香さんに勝ち目はありません。
玉砕覚悟で戦うかそれとも……。
桃香さんの選択は、しばらくして意外な形で判りました。
「劉備殿が来ております」
兵士さんの言葉に袁術さんは驚きました。
「のう、七乃。劉備とやらは今あの曹操と戦っておるのではないのか?」
「確か、そうですよねー。本当に劉備さんなんですか?」
「はい。そう名乗っております」
張勲さんの問いかけに答える兵士さん。
「どうしましょうかねー?」
「とりあえず、会えばいいんじゃないか?」
張勲さんが言った独り言のような言葉に、お兄さんが反応します。
そんなお兄さんの言葉に、袁術さんが答えました。
「そうじゃの!! おい、その劉備と名乗るものを連れてくるのじゃ!!」
「はっ」
兵士さんは敬礼して、玉座の間を出て行きました。
しばらくして、玉座の間に現れたそれは紛れもなく劉備こと桃香さんでした。
それどころか、愛紗さんに鈴々ちゃん。
諸葛亮さんに鳳統さん。
さらに、呂布さんに陳宮さんと、桃香さんの元にいる皆さんも一緒に来ました。
これだけいるのであれば、考えられるのはただ一つ。
私達と同じ行動を、桃香さん達がとったということです。
「お主が劉備か?」
「……はい」
「妾に何の用があるのじゃ?」
袁術さんの問いかけに、桃香さんは諸葛亮さんの顔を見ると頷いて言いました。
「袁術さん、知っていると思いますが私達は自分達の領土を追われました」
「そのようじゃな。それで妾に助けて欲しいとそう言う訳じゃな?」
「いえ、違います」
「なんじゃと!?」
「私達は、袁術さんの領土を通りたいのです」
桃香さんの要求に、袁術さんは少し考えた後言いました。
「なんじゃ、その程度の事か。通ってよいぞ!!」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
袁術さんの言葉に喜ぶ桃香さん達。
ですが、その喜びに水を差す人が現れました。
「お嬢さま、簡単に通っていいなんて言ってはダメですよ」
「なんじゃ、七乃。妾は言ってはいけない事を言ったのか?」
「はい。ここは美羽様の領土ですから、そこを通るにはそれ相応の対価をもらわないと」
「対価か……。うーん……」
張勲さんに言われて悩む袁術さん。
一方、一旦は喜んだ桃香さん達ですが、袁術さんの要求が何か戦々恐々のようです。
しばらくして、袁術さんが顔を上げました。
「そうじゃ!! 妾は蜂蜜が欲しい!!」
「蜂蜜ですか?」
「そうじゃ!! 劉備、妾の領土を通りたければ蜂蜜を用意するのじゃ!!」
袁術さんの要求に、桃香さんは諸葛亮さんの顔を見ました。
すると、諸葛亮さんはその首を横に振りました。
「袁術さん、ごめんなさい。私達は、蜂蜜を持っていません」
「なんと!! 蜂蜜を持っておらぬのか!!」
「はい……」
「それじゃ、妾の領土を通すわけにはいかないのじゃ」
「……そうですか」
袁術さんに拒否されてうなだれる桃香さん。
ですが、こんな時にこそ口を出す人がいます。
「なあ、美羽。通してやってくれよ」
そう、我等がお兄さんです。
桃香さん達とは、白蓮さんの元で一緒に居た仲です。
こういう結論に達すれば必ず口を挟むと思いました。
しかし、いつの間に袁術さんの真名を呼ぶようになっていたのでしょうか。
「しかしのぉ、一刀。妾の欲する蜂蜜をこやつらは持っておらぬのだぞ」
「だったら、蜂蜜以外で通してあげればいいじゃないか」
「蜂蜜以外で欲しいものなどない」
意外と意固地な袁術さんに、お兄さんも困ってしまったようです。
しばらく押し問答が続いた後、ここに助け船を出す人がいました。
「それじゃ、お嬢さま。誰か残ってもらいましょう」
「どういうことじゃ、七乃?」
「劉備さんの元には優れた方々がいるんですよ。ね、程昱さん?」
突然呼ばれてちょっと驚きましたが、呼ばれた以上は説明しないといけません。
「そうですね~。関羽さん、張飛さん、呂布さんという一騎当千の猛者がいますし、伏龍鳳雛と謳われている知の天才もいます~」
「なるほどの」
そう言って、袁術さんは桃香さん達を見回しました。
ですが、その表情は特に興味がなさそうに見えました。
袁術さんはしばらく見回していたのですが、ここで意外な人物が話し始めました。
「……恋が残る」
「恋(殿)!!」
そう、呂布さんが立ち上がり自分が残ると言い出したのです。
「なんじゃ、おぬしは!!」
「……恋」
「そうじゃない!!」
「まあまあ、お嬢さま。それであなたはどうして残ろうと思うの?」
「……愛紗も鈴々も、朱里も雛里も桃香には必要」
ゆっくりながらもはっきりとした口調で言う呂布さん。
どれも真名ですが、皆さん理解できているようです。
ただし、袁術さんを除いてはですが。
「真名じゃよく判らんのじゃ!!」
「お嬢さま、ここにいる皆さんは劉備さんに必要だって言いたいんですよ」
張勲さんの言葉に頷く呂布さん。
「なんじゃ、それならそう言うのじゃ」
「……言ってる」
「そ…それで、自分はいらないという訳じゃな」
「………………(フルフル)」
袁術さんの言葉に呂布さんは首を振りました。
「……恋も桃香には必要。でも、誰か残らないとここ通れない。だから、恋が残る」
「う~ん……」
「……それに、ここには霞と華雄がいる」
そう言って、呂布さんは霞さんと華雄さんの居る方向を向きました。
そうです、この二人と呂布さんは元々月さんの元にいました。
この二人が居るというのも、一つの要因だったようです。
「恋殿が残るのならねねも残るのです!!」
「……ねね」
呂布さんの後ろで声がしました。
「なんじゃ、このちんちくりんは?」
「ねねはちんちくりんじゃないのです!! ねねは陳宮なのです!!」
袁術さんの言い草に、陳宮さんが反論します。
「ちんきゅーでもちんちくりんでも何でもいいのじゃ!! 妾は誰でも構わないからその二人が残るというのならそれでいいのじゃ!!」
「むむむ……」
袁術さんの発言に怒る陳宮さん。
ですが、今の立場では言い返して悪い印象を与えるわけにはいけないでしょう。
その気持ちをグッと堪えています。
「では、お嬢さま。劉備さん達は私達の領土を通っていいんですよね?」
「ふむ」
「だそうですよ~!! よかったですね!!」
張勲さんは、明るく言いました。
ですが、桃香さん達からは明るい返事が来ません。
自分から名乗り出たとはいえ、呂布さんと離れてしまうからでしょう。
桃香さん達はお互いを見合いながら複雑そうな表情をしています。
「なんじゃ、嬉しくないのか」
「いえ……あの……」
袁術さんの言葉に答えにくそうな諸葛亮さん。
「とにかく、今日はもう遅いですから、皆さんをお城に泊めてあげましょう。お嬢さま、いいですよね?」
「構わないのじゃ」
こうして、桃香さん達はお城に一泊していくことになりました。
その晩のこと、私は桃香さん達の元を尋ねました。
そして、先ほどのやり取りのことを謝罪しました。
「風達には、あれ以上譲歩する力は無かったですよ~。ごめんなさい~」
この言葉に桃香さんは首を振りました。
「ううん、いいの風ちゃん。あれでも良かったくらい。それより、私もごめんね。風ちゃん達が私を頼ってくれたときに助けられなくて」
「いいのですよ~。もうなんとも思っていません~」
「ありがとう」
桃香さんはなぜか感謝の言葉を言いました。
感謝されるようなことはしていないのですが。
それから、私達はたわいのない会話を楽しみました。
その中で、私は確認する事にしました。
「桃香さん達が向かうのは、荊州ではなくて益州ですね~」
「なんでそれを!?」
「簡単な事ですよ~。益州は太守の劉璋さんや役人の不正が多く、人心が乱れていますからね~。新参者でも付け入る隙が大きいです~」
「さすが、風ちゃんだね」
簡単な推測でしたが、桃香さんは感心してくれました。
それからも時間のある限り、色々話をしました。
そして、翌日。
桃香さん達は、西に向けて出発しました。
桃香さんは名残惜しそうでしたが、愛紗さん達に急かされていました。
こうして、私達の所に呂布さんと陳宮さんが加わりました。
その一方で、ある動きが進んでいる事に私は気付いていませんでした。
ようやく、第20話をアップです。
なんとか年内にアップできました。
本当は、先月末に完成させてもう一話作るつもりだったのですが、無理でした(;^_^A アセアセ…
桃香達が追われる話。
実際は袁紹達に追われて華琳の領土を通ると言う話なのですが、今回はまた別の外史という事で今回のようになりました。
恋が抜けて劉備軍は弱くなったかと思いますが、ご存じの通り益州に行って色々な人物がまた加わりますからまあ、大丈夫でしょう。
逆に袁術軍が強くなったように思えますが、そうでも無いかもしれません。
なかなかみんなを参加させる事が出来なくて難しいところです。
極力参加させるようにはしていきたいのですが、書き分けるのも大変^^;
そこは自分の実力不足と言うところですね。
次回は、いよいよ動き出す雪蓮と言ったところでしょうか。
いつアップできるか判りませんが、またお待ちいただけると幸いです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
なんとか年内のアップに間に合いました。
正直書ききれていない部分もありますが、良かったら見てやって下さい。
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