No.192582

真恋姫†無双呉√アフター~新たな外史をつむぐもの~ 第四話

米野陸広さん

とりあえずラストにたどり着きました。
長いこと休んでいてすみません。
コメント少しでもいただけるとうれしいです。

2010-12-30 00:01:41 投稿 / 全21ページ    総閲覧数:3904   閲覧ユーザー数:3443

信じられるわけがなかった。

この私が、全てにおいて勝っていたにもかかわらず負けたということが。

兵においても、軍略においても、糧食においても、蜀呉二国を正面で相手して負けるはずすらなかったのだ。

それなのにあの戦いで、赤壁で私は全てを失った。

唯一残ったのは、小さなプライドと私自身。

息苦しい。

もう、私の覇道は潰えた。にもかかわらず私は今、生きている。

 

なぜ?

 

答えなどない。それゆえに私は迷う。

誰しもが持つ疑問。自らの進む道を選ぶという行為に対する疑問。

私はこれからどこへ進もうというの?

志をなくした私は、あの牙を持つ虎にも、あの甘ちゃん君主にも劣る。

 

私はこれから、これから、これから……。

 

新時代の夜明けは近い。

真恋姫†無双呉√アフター~新たな外史をつむぐもの~

 

第四話 華琳~新たな船出~

天幕の中では華琳を筆頭に魏の将である皆が勢ぞろいしていた。

「では、そろったようなのでこれより軍議を始めたいとおもいます。よろしいでしょうか、華琳様?」

しかし、今日の司会を務めるのは桂花ではなく、稟であった。もちろん、桂花は華琳の傍に立っているがそれだけである。

「ええ、構わないわ。始めて頂戴」

「それでは、まず軍のほうですが、まだ赤壁での戦いで負傷したものも少なくないですが、再編成に関しましては順調に進んでおります」

「負傷したものたちは?」

「はい、多くはこの地にとどまることを選択したようです。華琳様の足手まといになるのを嫌がるものが主だった理由です」

「そう、この地に未練があるからではなくて?」

「もちろん、その理由は否定できません。しかし、そういった兵士たちはすでに昨日を持って解散させました。多くの兵は都へと帰ったでしょうが、中には他国へ、特に呉へと降る人間も多いかと存じます」

「なっ、それはまずいのではないか?」

反論するのは春蘭。

「そうですね~、ですからあまり我々にも時間がないのは事実なのです」

と、いつも通りのんびりな風の言葉。

「いくら魏の精兵といえど、時代の流れには逆らうことは出来ない、ということか」

時代の流れ……。秋蘭がこぼす言葉に覇王は嘆息した。

「私にはもう、何も残らないということか……」

その言葉に天幕がどんよりと重くなる。

「なぁ、華琳。ウチここから出て行ってええか?」

「霞!」

「霞様!」

「姐さん!」

その中で口火を切ったのは霞だった。しかしその言葉は魏のみなを驚かせるには十分に値するものだった。

「理由を、聞いていいかしら?」

「その言葉が、理由や」

苦虫をつぶしたような表情になる張遼。

「以前の華琳やったら、そんなこと迷わへんかったとウチは思うんよ。なのになんでなん。どうしてそこまで変わってしまうん? 華琳にとって負けっちゅうのはそこまで辛いことなんか?」

「私が、変わった?」

「自分で気づいてないわけや無いやろ。何をするにしたって自信満々やったやないか。それが今ではこのとおり、毎日が葬式みたいや。こんな軍ならウチはさっさと抜けさせてもらうで」

辛辣な言葉に華琳は目を細める。その瞳にはどこか狂気が宿っているような気さえした。

「もともとウチは董卓軍の人間や。けど、そんなうちやけど、華琳はウチを雇ってくれた。こんな戦人をや。だからこそ言おうと思う。一度は死んだ身やからなぁ」

「霞……」

「今の華琳は董卓軍の誰よりもみっともないで」

瞬間、華琳の絶が動いていたが、それを止めたのは驚くことに七星餓狼、春蘭だった。

「ありがとな、春蘭」

「礼はいらん。後で一発殴るからな」

口のはを吊り上げる春蘭。それを見て霞は春蘭は変わらんなぁと声を上げた。

「春蘭、これはどういうことかしら?」

「今、私の目の前にいる方はどなたですか?」

「な!?」

華琳は絶句した。まさか春蘭にそのようなことを言われるとは思いもしなかったからだ。

しかし、華琳の思っていた以上に春蘭は今の魏の状態をよく理解していたのだ。

「私は幼少の身より華琳様に仕えてきました。その頃より、華琳様は乱世に覇を唱えることを志とし、我等夏侯姉妹はその華琳様に忠誠を誓ってきました」

「そうね、その貴方がなぜ私の意思を拒むのかしら?」

「華琳様の意思ならば拒みましょう。ですが、この振り上げた絶は、何のためのものか、お答え頂きたい。この夏侯元譲が納得できる理由であれば今にでも剣を引きましょう」

その隻眼から放たれる意思があっという間に華琳の虚勢を飲み込む。

飾りきった王の自信を打ち砕かれた華琳は、振り上げた絶をおろした。いや、落とした。

「今のあなたの姿は私の知っている華琳様ではございません。華琳様は決して自分よりも力量が上の敵に対し、このような軽挙に出られないと私は思います」

「春蘭の言うとおりや。いや、皆がそう思っているはずや。今の華琳はウチラが知ってる華琳とちゃう。あの天に対して常に挑み続けてきた華琳とちゃうんや」

「天に?」

「違わないやろ? 実際、華琳はあの天の御使いとも戦うてたわけやし」

肯定するかのように問いかける霞。その問いに答える前に秋蘭が華琳に近寄り、絶を拾い上げていた。

そして献上する形で華琳に絶を手渡す。

「華琳様、無礼を承知で申し上げます。私たちはそれほどまでに頼りないでしょうか?」

「しゅう、らん?」

涙を流す秋蘭がいた。

ふと気づき見上げる。華琳の目にはそれまで写っていなかったものが写っていた。

彼女の傍らには誰もいなかった。

彼女に平伏するもの。

忠誠を誓うもの。

皆が彼女の下に属するものたちだった。

だからこそ彼女は自分を許すことをしなかった。

それが彼女の誇りであると知っていたから。あり方だと信じていたから。

震える声で、華琳は一歩紡ぎだす。

秋蘭がいた。

 

「ねぇ」

春蘭がいた。

 

「私は」

霞がいた。

 

「貴方達に」

桂花がいた。

 

「まだ」

稟がいた。

 

「愛想を」

風がいた。

 

「尽かされて」

季衣がいた。

 

「いないのかしら」

流琉がいた。

 

「私は」

凪がいた。

 

「貴方達と」

沙和がいた。

 

「まだ」

真桜がいた。

 

「歩いていけるのかしら?」

それが覇王の味わっていた本当の恐怖。初めて降りた玉座。してその地平にて見える初めての家臣たち。

その光景はとても新鮮で皆の本当の笑顔を見た気持ちでもあった。

 

「御意!」

 

今曹魏の牙門旗は落ち、新たに帆が張られた。その帆には不惑の曹の文字が描かれている。

 

「ほほう! ずいぶんと良い顔になったのう。曹操よ!」

今までどこに行っていたのやら、波間にゆれる華琳の傍らに卑弥呼が立っていた。

「ええ。ただ負けたという事実をありのままに受け止めた、それだけなのだけれど、随分と人は変われるものね」

「変わってなどおらぬようにも見えるが?」

「それもまた真理よ。私は曹孟徳以外の何者でもない。ただ志が在るか無いかで人は大きく変わるわ」

「ふむぅ、王としての言葉かの?」

「いいえ、違うわ。もう私たちに王は必要ない」

「ん?」

「大陸に覇を唱える、この志自体を体現する王が必要なくなったということよ」

「どういうことか? 曹操よ」

「私たちは世界を獲りに行くわ」

その見据える先には何があるのか?

「世界か……。乱世を捨て新天地に旅立つか」

「ええ、そのためにもまず邪馬台国とやらの暴動を治めに行きましょう」

「うむ。その心意気やよし! では、出航しようぞ!」

「華琳様!」

二人で話しているところへやってきたのは桂花。

「どうしたの? 桂花」

息を切らせ走ってきたのか、しばらく声が出せないでいる。

「誰か水を!」

「はっ」

兵士の一人が杯に水を入れ、桂花へと手渡すが……、

「男からの施しなんているかー! 下がりなさい!」

と、いつも通り兵士からの手渡しを拒否。

「あら、桂花。私の命令を無視するのかしら?」

「あ、いえ、華琳様、違うんです。ただ、その、……」

「それとも何かしら。恐れ多くも荀文若は私の手からじきじきに出ないと水を受けられないと?」

「あ、ああああ、」

「それともいっそのこと、口から口へ移したほうがいいのかしら?」

「はい!」

「ふふっ、可愛い子ね。でも先に用件を伝えなさい。その褒美として後で水をたっぷりあげましょう」

「はっ!」

先ほどまでの乾きはどこへやら、既に桂花は顔まで蕩けきっていた。

「さきほど、斥候からの情報で孫呉の兵がこちらへと進軍している模様。既にその者は息絶えており、最後の言葉は『旗に周の文字』とのこと。その可能性から相手方少なくとも周泰のいる本隊かと思われます」

「わかったわ、それでは時間が無いわね。皆を乗船させなさい」

「迎撃は?」

「しないわ。篭城できるわけでもなし、現状での我等の地の利は海岸を本拠地とする賊に等しい。即刻邪馬台国へと向け進水する」

「はっ!」

「皆を集めなさい!」

「御意」

その華琳の姿はまさしく王であった。だが今ここにいる将達は皆彼女を仲間と思っていた。

甲板には、魏の将全員が残っていた。出て行く発言の霞もまたである。余談だがその頭には一発こぶが出来ている。

「我等は今呉軍の追撃を受けているが、我等はこれに立ち向かう術を持たない」

初めてのことだった。自らの不利を将達に告げることは。あの官渡の戦いのときですら、華琳には勝利への道が見えていたのだから。

「だからこそ、我等は生きるために一つの方策を採った。敗北である。しかしこれは新たな出発に過ぎない!」

先へと広がる海原をみる。

「この海の先が邪馬台国という島国へつながるという! 我等は今からその国を目指し、やがて新天地へと旅発とうではないか!」

「行くぞ、魏の精鋭たちよ! 勝って未来へとつなげるばかりが戦ではない! これは生き抜くための戦である」

華琳は声高に叫ぶ! その新しい箱舟の名を!

「戦艦『四海』帆を揚げよ!」

蒼天に響くは兵士たちの鬨の声。

未来へと響く夜を終わらせる鐘の音となり、呉の軍勢をその場に留まらせるほどの勢いだったという。

これで曹魏の中原での戦いは幕を下ろす。

しかしこれは最後ではない。

新たな戦いの始まりなのである。

新たに帆を張った船『四海』は今世界という名の舞台へと躍り出たのである。

真恋姫†無双呉√アフター~新たな外史をつむぐもの~

 

あとがき

 

うわ、めちゃくちゃ疲れました。

てかごめんなさい。こんなに長くなってしまって。

期間あけすぎでした。

でも許してください。色々在ったんですよ。

ですが、とりあえず年内に作品が一区切りできてよかったです。

もしかしたら二章みたいなことで邪馬台国編とか始めるかもしれませんが、それは呉ルート如何ですね。

てか、あれはしばらく休載です。

申し訳ありませんが、短編をたくさん書きますのでそれで許してください。

プロットができあがらないので。

新年用作品は今必死に書いてます。

蜀は相変わらずないかもですけど、魏と呉は一つずつ作りたいですね。

来年のテーマは『切なさ』です。

シリアスでありながら切ない感じの二次創作を期待していてください

それでは、良いお年を!ごきげんよう!


 
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