それは学校の屋上でお弁当を食べている時のこと。
彼はいつものように喋りだした。
「ツンデレってさ、あるじゃん?」
「うん?」
「あれ俺、すげー好きなのよ。だからさ、お前ツンデレになってくんね?」
「はあ?」
私の彼は、少しだけ頭が弱い。
いつも唐突にわけのわからないことを言い出すのだ。もちろん脈絡などあるはずがなく、私は彼の思考を理解することなどできない。
しかし、だからこそ彼といると楽しいのだが。
「でさ、ツンデレって俺のイメージだとツインテールなんだけどさ、お前髪短けえじゃん? なんとかしろよ」
無理だ。何を言い出すのだこのアホは。少しは考えて喋れ。
しかし私は優しいので、やんわりと否定する。
「そんなに急に髪は伸びないよ」
「そうだよなー。まじ人間って不便な」
お前の思う便利な人間は化物か。自由自在に髪を伸ばせる女など、妖怪ではないか。お前はそんな妖怪と付き合いたいのか?
しかし私は優しいので、笑って受け流す。
「ソーくんは髪長いほうがいいの?」
「ばっか、おまえ、だからツインテールだっつってんだろ? ツインだよツイン。いわゆるダブルよ」
さっぱり意味がわからない。というか、会話になってない気がする。ダブルってなんのことだ?
「そんで俺のイメージだと金髪なのよ。キンパな。でもさ、あれだよな。キンパってなんかビッチっぽくね?」
「そうかな? 別に普通じゃないかな?」
「いやぜってービッチだし。ツンデレでもビッチはダメだよな。ビッチは。だってビッチって口臭そうじゃん。俺、口臭いのダメなんだわ。もうぜってー無理」
そりゃあれか、イカ臭いって言いたいのか? シモネタかよ。セクハラすぎるだろ。
しかし私は優しいので、セクハラを許してやる。
「まぁビッチはだめだよね。私は一途な純愛がいいよ」
「だよなー! やっぱし純愛だよな純愛! そんで純愛なツンデレが最高なわけだよな」
なんだ純愛なツンデレって。もっと具体的に説明してくれ。私にもわかるように説明してくれたら、ちょっとくらいやってやるから。
まぁ、彼にそんな説明能力などあるわけないので、ただひたすらに私がその意味を考えるしかない。
なんて面倒なんだ。
「そんで俺の好きなお前が俺の好きなツンデレになったら最強なんじゃねえのかと思うのよ。二倍だよ二倍。ラブ二倍。やばくね?」
やばい。
ラブ二倍だなんて!
そんな、なんて、素晴しい!!
これはもう、やるしかない。
「ソーくんなんて死ねばいいのに」
私の演技力ではこれが限界だった。
そもそも、どうやったらツンデレになれるのだろう。やはり先天性のものなのだろうか。
「…………」
とりあえず私が考えた最大級のツンを放出してみたのだが、彼の反応を見るに、どうやら間違えたらしい。おかしいなぁ。
「俺……お前にそんなこと言われたら……生きてけないわ……」
どうやらツンが激しすぎたらしい。彼は燃え尽きた矢吹丈のように真っ白になっている。なんて可哀想な姿なのだろう。
しかし、ここでデレればラブ二倍!
「………………」
「………………」
デレなんて、何も思いつかなかった。
難しい。どうすればいいのだろう。
そうしてしばらく固まっていると、予鈴がなった。無機質な鐘が、私たちの間の沈黙を破る。
「ごめんよ、ミカ。俺……もう二度とツンデレとか言わねーから。だから、許してくれよ。まさか、そんなに怒るとは思わなかったんだ……」
泣きそうになりながら、彼が言う。そんな彼が、捨てられた子犬のようで愛らしい。
しかし、私にはデレがわからない。
このままでは私が彼に死ねと罵声を浴びせただけになってしまう。それはとても良くない。私が望む方向性の真逆だ。
考えて、考えて。
私は彼にキスをした。
物語の最後、ハッピーエンドはいつもキスで終わるのだ。
ああ、もう面倒くさい。
だから物語は、ここでおしまいだ。
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アホが書きたかった。しかし、一番のアホはこんなもん書いた俺。