No.192134

真・恋姫†無双 ~凌統伝~ 01

傀儡人形さん

お久しぶりです。傀儡人形です。
変態司馬懿とは別に書いてみたかったお話を書いてみました。
変態司馬懿の世界とは全くの別物の話です。

2010-12-27 17:04:26 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3567   閲覧ユーザー数:3274

チリンチリンと心落ち着かせる鈴の音が響いた。

その音は荒野を歩く旅人から聞こえるもので、そよ風が吹くとそれに合わせて音色を奏でていた。

白い桜の花びらが刺繍(ししゅう)された桜色の羽織を肩にかけ、顔が隠れるくらい笠(かさ)を深く被った旅人は市販されている地図を片手に右、左と顔を向けてもう一度地図を見た。

 

「道を間違えたか」

 

周囲をぐるりと見渡して、もう一度地図を見直してみた。

逆さに見ていたのでは、と地図を反対にしてみたが違い、向きを元に戻す。

旅人はため息を漏らして地図を畳んで荷物の中にねじ込んだ。

 

「仕方のない。しばらく歩いてみるか」

 

強い突風が吹いた。

ふわりと舞った羽織が風に揺れ、腰につけている二つの鈴がチリンチリン、と

乱れながら音を鳴らした。

やがて風が止み、砂埃の上がった視界が徐々に晴れてくる。

 

「あれは……」

 

晴れてきた視界に移ったのは遠くから走ってくる人影だった。

何かから逃げているように必死に走り、その後ろから武装した男たちが追いかけてきている。

段々と距離が近づいてきて、賊らしき男たちから少女が逃げているのだとわかった。

 

「お願いします! 助けてください!」

 

少女の叫びにも近い助けを求める声に旅人はゆっくりと腰に差す二本の剣を抜いた。

旅人の下まで走った少女は肩で息をしながらその後ろにサッと隠れ、男たちがその前で止まった。

男たちは手入れのされていない赤い血で染まった剣を持っている。

衣服もボロボロで、風貌も容疑を掛けられてもおかしくないほど酷いものだった。

 

「んだテメェ! 邪魔すんなよ!」

「助けを求められたのだ。そうも行くまい」

「女の前だからってカッコつけてんじゃねぇぞ!」

「命が惜しかったら女とその高そうな羽織置いて逃げな。そうすれば助けてやる」

「愚かだな。相手の力量も測れぬのか」

 

旅人はやれやれ、と首を横に振った。

 

「さっきから黙って見てりゃ見下してんじゃねぇ!」

「黙ってなどおるまい。貴様は馬鹿か」

「テメェ……やっちまえ!」

 

賊の頭領らしき男の号令で一斉に飛びかかる。

少女は悲鳴を上げて地べたに座り込んだ。

 

「それが愚かだと言っているのだ。多数で攻めれば勝てるという道理はない」

 

駆け出して剣を振り下ろそうとする男の腹部をすれ違い様に斬り付け、ぐるりと反転して

迫ってくる剣を弾き、男の首を飛ばした。

 

「こ、こいつ強いぞ!」

「二人がかりなら大丈夫だ!」

 

同時攻撃を仕掛けてきた男たちにまったく動じることなく振り下ろされた剣を二振りの剣で弾き、

男たちの間をすり抜ける。

 

「ぐあっ!」

「ぎゃあ!」

 

すり抜け様に斬られた男たちは地面に倒れ、残るは一人となった。

 

「ひ、ひぃ!」

 

完全に戦意を損失している男が腰を抜かせて怯えた目で旅人を見ていた。

 

「た、助けてくれ! 命だけは助けてくれ!」

 

必死に命乞いをする男に旅人は何も言わずに剣を鞘に戻した。

 

「命だけは助けてやろう。行け」

「あ、ありがとうございます……なんて言うとでも思ったか!」

 

落としていた剣を持って旅人に飛びかかる。

 

「恩を仇で返すか。解せんな」

 

振り下ろされた剣をひらりと避け、勢いを殺さず男の顔に回し蹴りをお見舞いする。

ゴキッと嫌な音を立てて男の首はあらぬ方へ向き、ゆっくりとした動きで地面に膝をつき、倒れた。

 

それはあまりに一瞬の出来事で少女は開いた口が塞がらぬ様子で目を見開いて戦いを見ていた。

ひらりと舞い、するりと抜け、まるで舞を踊っているかのような光景だった。

 

「怪我はないか?」

 

賊を倒した旅人が少女の下へやってきて手を差し伸べた。

「すごい……凄いです!」

 

差し伸べられた手を握った少女は旅人の手を両手で包んで喜び始めた。

一体どうしたのか、訳の分からない旅人は黙って少女の興奮が収まるのを待った。

 

「あなたは何者ですか? 類稀なる武をお持ちとお見受けしましたが」

「凌操(りょうそう)の子、凌統(りょうとう)だ。大陸を旅して回っている」

「凌統さん……助けていただきありがとうございました! 何かお礼をさせてください!」

「別に礼など必要ない。助けを求める声に応えたまでだ」

「何て素晴らしいお考え……わたしは感動しました! お礼をしなければ気がすみません。

何かお礼をさせてください!」

「強情な娘だ。ならば頼みたい事がある。街まで案内してくれ」

 

少女はきょとん、とした顔で凌統を見上げて可愛らしく首をかしげた。

 

「街まで? そんな事でいいんですか?」

「ああ、道に迷って困っていた。街に連れて行ってくれれば十分な礼になる」

「わかりました。では、行きましょう!」

 

少女は凌統の手を掴んだまま歩き出した。

 

「手を離してくれないか?」

「あれあれ? もしかして恥ずかしかったりします?」

「いや、歩きづらいだけだ」

「なら何の問題もありません。さあ行きましょう!」

 

凌統は何を言っても聞かなさそうな娘だと思って早々に諦めた。

 

「あ、わたし蘇飛(そひ)と申します。よろしくお願いしますね」

 

結局、街に着くまで凌統と蘇飛は手を繋いだままであった。

「わたしは少々用があるので失礼します。それじゃあ、お元気で」

 

ブンブンと元気よく手を振って走り出した蘇飛の背中を見送り、凌統は心底疲れたようにため息を漏らした。

街へ来る道中ずっと蘇飛による質問攻めを受けたからだ。

年齢、趣味、女の子の好みなど、答えるのも嫌になるほどの質問攻めに遭い、

街に着いてようやくそれらから解放された。

流石に女の子の前でため息を漏らすのは気が引けたので居なくなったのを見計らってため息を漏らしていた。

 

「さて、この街でどれだけ情報が集められるかな」

 

凌統は周囲をぐるりと見渡して適当な商人を捜した。

往来の隅で商品を広げている商人を見つけ、近づいた。

 

「少々尋ねたい。貴殿はどこから商売に来た?」

「はぁ? 益州からですけど、いったい何の用ですか?」

「人探しをしている最中でな。……益州からは初めてだな」

 

凌統はしばらく考え、小さく頷いた。

 

「御仁よ。甘寧(かんねい)という名前に聞き覚えはないか? 些細なことでも構わない」

「甘寧……ですか? 昔そんな江賊がいたような気がしますが」

「その甘寧だ。些細な事でも何か知っていないか?」

「……存じ上げませんね。まったく名前を聞かなくなりましたから」

「そうか。商売の邪魔をしたな。詫びにこれを一つ貰おう。これで足りるか?」

「え、あ、はい。ありがとうございます」

 

商人が売っている魚の干物を拾い上げてお金を商人に手渡した。

あまりに一方的な行動に呆然とする商人を残して散策に戻った凌統は買ったばかりの干物を

かじりながら街をぐるりと見渡した。

 

「のどかな街だ。伸び伸びとしている」

 

すれ違う人たちは笑顔が絶えず、賑やかな声がどこからでも聞こえている。

世間話に花咲かせる主婦、仕事の成功を祝って騒いでいる男たち、無邪気にはしゃぐ子供たち。

荊州は豊かで賊の被害が少ないことを凌統は旅の途中に出会った行商から聞いたことを思い出した。

 

「おっとごめんよ」

 

そんなことを考え事をしていた凌統に子供がぶつかった。

ぶつかった子供に笠の奥から鋭い視線を向けて凌統は子供の手を掴んだ。

 

「いたいっ! なんだよ!」

「小僧、それは俺の旅費だ。返せ」

 

捕まった子供は男の子だった。

土のついたボロボロの衣服を着て、顔も泥だらけで貧民だと一目で分かる。

その男の子の手には袋が握られており、それは先ほどまで凌統の腰につけていたお金の入った袋だった。

男の子はぶつかった拍子にお金を盗もうとしていたのだ。

 

「これはさっき拾ったんだ! お前のなんかじゃない!」

「嘘を吐くな。袋に鈴が入っているだろう。振ってみろ」

 

言われて子供は小さく袋を振った。

袋の中からはジャラジャラとお金がこすれる音が鳴り、その中にチリンチリンと鈴の音も響いていた。

 

「もしも拾ったのならば俺のだ。返してもらう」

「わ、わかったよ。返すから見逃してくれ。頼むよ」

「いいだろう。貴様に改心する機会を与えてやる」

 

男の子から袋を受け取り、腕を離した。

掴まれた腕を庇いながら一度だけ凌統を睨みつけ、人ごみの中に消えていった。

 

「のどかだと思ったが、そうでもないらしい」

 

盗まれかけた袋を腰に戻し、歩き出そうとした凌統の前に人が現れた。

それは先ほど別れた凌統が助けた少女、蘇飛だった。

 

「またまたお会いしましたね。凌統さん」

「お前か。用とやらは済んだのか?」

「はい。大切なお守りを落としてしまっていて、見つけることができました」

「そうか。俺は失礼する。少々目立ってしまったのでな」

 

蘇飛の横をすり抜けようとした凌統の腕に蘇飛が自分の腕を絡めた。

 

「おい……なんのつもりだ?」

「いやぁ、せっかくまた出会えたんですからお茶でもしたいなぁ、と思いまして。

先ほど美味しそうなお菓子を売っている茶屋を見つけたので、そこで一息つきませんか?」

 

凌統の冷たい視線をまったく意に介さない蘇飛は狙っているのかそうでないのか、

掌で包めそうな柔らかい胸を凌統の腕に押し付けてきた。

 

「……いいだろう。振り払うのも気が引ける」

「なら行きましょう! さあ早く!」

 

ぐいぐい引っ張られる凌統は蘇飛を眺めながら内心ため息を漏らした。

茶屋は凌統たちがいた場所からそう離れていない場所にあり、席を確保した蘇飛が

凌統を席に残して単身菓子を買いに行った。

凌統は適当に見繕ってくれ、と蘇飛に代金を手渡し、席に着いて被っていた笠を脱いで

椅子の横に立てかけた。

凛々しい顔つきに長く伸びた前髪から燃えるような赤い瞳が覗いている。

 

「わぁ、改めてみると美人さんですね。最初は男か女かわかりませんでしたよ。

声もどちらかというと女性に近いと思いましたし」

「俺は男だ。顔立ちは母に似ているがな」

 

蘇飛が買ってきた菓子――饅頭を口に頬張った。

饅頭の中に入っている餡子(あんこ)の甘さが口いっぱいに広がり、自然と表情が緩んでしまう。

蘇飛も買ってきた杏仁豆腐を満面の笑みで幸せそうに食べ、食べるたびに杏仁豆腐を

褒め称えている。

 

「そういえば、凌統さんはどうして旅をしているんですか? あ、仕えるべき主君を捜してとか?」

 

杏仁豆腐を平らげ、さらに追加注文してから蘇飛が尋ねた。

 

「大した理由じゃない。人を捜しているだけだ」

「人捜し? わたしと一緒ではありませんか。何か運命的なものを感じますね」

「人探しなど別に珍しくもないだろうに」

「いえ、きっと何かしらの繋がりがわたしとあなたにはあるはずです。

もしかすると捜している人の名前が同じかもしれません。教えてもらってもいいですか?」

 

机に両手をついて身を乗り出してくる蘇飛を一瞥して、凌統は視線を下へと向けた。

凌統の周囲の空気が急激に冷えたような、少し肌寒さを覚えた蘇飛は

乗り出していた体を椅子に座らせ、唾を飲み込んだ。

 

「俺の捜しているのは親の仇だ。お前が捜している人物と同じならどうする?」

「え……いや、それは流石にないと思いますよ? 大陸には数えられないくらい人がいて、

その中でわたしとあなたが捜している人が同一人物なんてありえませんよ」

「もしもの話だ。そういう場合、お前ならどうする?」

 

蘇飛は考え込んだ。

もしもそんな事が起きたら、おそらく自分は自分の捜している人の味方をするだろう。

そして、それは同時に目の前の凌統を敵に回すことになる。

それは少し考えたくない筋書きだった。

 

「知らない方がお互いの為、かもしれませんね」

「そういうことだ。旅の途中に知り合った者とのわだかまりなど作りたくはないだろう」

「あはは、そうですね。ならこの話はなしにしましょう。あ、わたし追加のお菓子買ってきます」

 

席から立ち上がった蘇飛は追加の菓子を買いに席から離れていった。

 

「……考えすぎか。いや、これくらいしておいて損はない」

 

旅先で出会った少女が偶然にも同じ人物を探していた、なんてどこの夢物語だと笑いたくもなるが、

実際にそうなってしまう事を考えれば凌統の行動は無駄とは言えないものになる。

蘇飛が親の仇、甘寧を庇う姿を想像し、一緒に斬るのは後味が悪いだけだった。

 

「りょ、凌統さん! 大変です! 外で一大事です!」

「どうした? 賊でも攻め込んできたのか?」

 

血相を変えて帰ってきた蘇飛は凌統の腕を引っ張って外に連れ出そうとする。

何かあったのだろうと椅子に立てかけておいた笠を手に茶屋を後にした。

外に出た凌統の目に飛び込んできたのは男に棒切れで殴り飛ばされ地面に倒れた先ほど凌統から

お金を盗もうとした男の子だった。

 

「あれは先ほどの小僧か。またスリを仕出かして捕まったのだろう。愚かだな」

「そんな事言っていていいんですか? ちょっとあの男危ないと思うんですけど」

 

言われて男を観察してみる。

廃れた服にニヤニヤとしたいかにも悪人面の男は帯刀こそしていないものの棒切れを

手にして今にも男の子に殴りかかりそうな雰囲気をかもしだしていた。

 

「別に助けてやる義理はなかろう。罪の重みを知る事になるだけだ」

「いや、でも……」

「そんなに心配ならお前が助けてやればよかろう。あの程度なら何とかなるだろう」

「わたしはその……自分から危ない橋を渡らないというか、なんというか」

 

視線を逸らして言い訳を始めた蘇飛を放っておき、凌統は周囲の観察をした。

誰か助けに入るだろう、と少し客観的に観察していたのだが、誰もその動きをする気配がない。

それどころか見て見ぬ振りを貫いて、男と子供を避けて素通りしていた。

 

「箱を開ければこの様か。仕方ないといえば仕方のない」

 

巻き添えを食いたくないという考えは凌統も同じであった。

それがどんな結果を生むのか容易に想像できるし、一歩間違えれば自分の命が危険に晒される事になる。

助けようと飛び出して、返り討ちになったでは洒落にならない。

だから誰も見て見ぬ振りをしているのだ。

 

「許してください。お願いします。ごめんなさい」

「あのな、許してくださいって言えば助かるとか思ってんじゃねぇだろう?」

「出来心なんです。ごめんなさい」

「だから……謝れば済むなんて甘い考え通るわけねぇだろうが!」

 

男の怒鳴り声と共に振り下ろされた棒切れが男の子を叩いた。

 

「いたいっ! やめて……」

「そりゃ痛いだろう。こんなもんで殴られれば……よっ!」

 

力の限り振り下ろされる棒切れは何度も子供の体を打ち、そのたびに苦痛な悲鳴と打ちつける音が

静かな往来に響いた。

誰もが目を逸らし、耳を塞いでいる者までいる。

それでも誰も助けに入らず、その様子をただ傍観していた。

 

「このままじゃあの子死んじゃいますよ!」

「……」

か細い蘇飛の辛そうな声を耳にし、凌統は笠を深く被ってゆっくりと人ごみを

掻き分けて進み始めた。

 

「誰か……助けてください……お願いします……」

「馬鹿かお前。助けに入るならもう入ってるに決まってんだろ。お前は見放されたんだよ」

「お願いです……誰か……助けて……」

「誰も助けに来ねぇって言ってんだろうが!」

 

男の子の頭に狙いを定め、棒切れが振り上げられた。

周囲から誰かの悲鳴が響いた。それと同時に息を呑む声も聞こえる。

 

「その辺にしておけ。貴様も役人に捕まりたくはないだろう」

 

振り上げられた棒切れは真後ろまでやってきた凌統の手によって動きを止めた。

 

「邪魔すんなよ。これは悪い子への教育だぞ」

 

振り向いた男は忌々しげに凌統の顔を見て言った。

 

「貴様がただ憂さを晴らしているようにしか俺には見えなかったぞ」

「うるせぇ! でしゃばってくんな! こいつは俺の金盗もうとしたんだぞ!

これくらいされて当然だ!」

「当然かどうかは知らん。しかし、限度はある。貴様はやりすぎだ」

「てめぇ、こんな悪ガキの肩持つのかよ。どっちが悪いかわかんだろうが!」

 

怒鳴り散らす男は凌統から距離を取った。

 

「確かに盗みを働いた小僧が悪い。しかし、こいつは助けを求めてきた」

 

凌統は静かに帯刀する二本の刀を抜いた。

腰についた二つの鈴がチリンチリンと鳴った。

 

「助けを求められれば誰であろうと善悪問わず助ける。それが俺の誇りだ」

「すかしてんじゃねぇ!」

 

男は棒切れを振り上げて凌統に襲い掛かった。

振り下ろされた棒切れを切断し、男の首に刃を当てて動きを止めた。

流れるような動作に一瞬何があったのか理解できない男は首に伝わるひんやりとした

刃の冷たさに身を震わせた。

 

「逃げるがいい。無駄な殺生は好まん」

「ひ、ひえぇ!」

 

尻尾を巻いて逃げ出した男を見送って剣を鞘に戻した。

それと同時にドッと湧いたような歓声が往来を包み込んだ。

歓声に包まれた中、凌統は倒れた男の子の前に立った。

 

「小僧、生きているか?」

「うぅ……」

「生きているようだな。どうであった? 罪を犯したものへの洗礼は」

「いたいよ……」

「それが罪の重さだ。貴様はそれを受けたに過ぎん。日頃の行いが悪かったと思え」

「ま、待って……!」

 

踵を返して立ち去ろうとする凌統に男の子が声を張り上げて呼び止めた。

 

「お願いします……おれを連れて行ってください。おれ、なんでもするよ」

「ふざけているのか? 貴様などいらん」

「おれ、この街じゃ生きていけない。だから連れて行っておくれよ!」

「……」

「頼むよ。なんでもする。盗みは得意なんだ。旅費はおれが稼ぐよ。だから……」

 

必死にすがり付いてくる男の子に凌統は獣を見るかのような冷たい視線を向けた。

足にすがり付いてきた男の子を蹴り飛ばし、男の子が地面を転がった。

沸きあがっていた歓声が一瞬でなくなり、先ほどまでと同じ沈黙が流れる。

凌統は剣を抜き、男の子の頬に当てた。

 

「貴様は俺に寄生するつもりのようだが、生憎と一人旅が性に合っている」

「………」

「拠り所のない虫のまま生涯を過ごせ」

 

剣を収めた凌統は今度こそ踵を返して男の子に背を向けて歩き出した。

自然と人が避けて道を作り、凌統はそのまま門を抜けて街を後にした。

男の子が追いかけてくるのではないかと何度か後ろを振り返ったが、あれだけの重傷を負って

追いかけてこられるはずがなく、街が見えなくなるところで振り向く事を止めた。

 

「待ってくださ~い! 凌統さ~ん!」

 

聞き覚えのある声に振り返ると蘇飛が荷物を担いで走ってきていた。

 

「はぁ……はぁ……やっと追いついた」

 

肩で息をしながら凌統の隣に立った蘇飛は恨めしそうに凌統を見上げた。

 

「酷いですよ。さっさと行っちゃうなんて。わたしのこと忘れていましたね?」

「忘れるも何もお前は俺と旅をしているわけではないだろう」

「あれあれ? そんな事言っていいんですか? こっちには有無を言わせない

秘策があるんですよ?」

 

勝ち誇った顔で凌統を見る蘇飛に嫌な予感しかしなかった。

 

「賊に襲われるかもしれません。わたしを護ってください。もとい助けてください」

 

差し伸べてきた手を見て心底疲れたようにため息を漏らした。

 

「お前は確か、俺とは逆方面に旅をしていなかったか? 俺はこれから南陽に向かう。お前は

道筋的に揚州辺りだろう」

「そのつもりでしたが、か弱い女の子一人で旅をするのはとても危険だと思いまして。

なら答えは簡単です。わたしを護ってくれそうな強い人と旅をすればいい」

「人探しなら自由に動けた方がいいだろう。一緒にいる意味はない」

「あれあれ? もしかして自分の誇りを汚すんですか? 善悪問わず誰であろうと助けると聞きましたけど」

「……これも助けを求める声、か」

「その通りです。別に人探しは情報さえ入ってくればそれでいいですからね」

 

妙に嬉しそうな蘇飛に腕を絡み取られた。

歩きづらい、と思いながら同じようなやり口で返されるだろうと何も言わずに歩き出す。

 

「あ、わたし真名を聖(ひじり)と言います。これからよろしくお願いしますね」

「……真名は鴉(からす)だ。こちらこそ、とは言いたくないな」

「あはは、ご愁傷様です。わたしは好き勝手について行きますからね。逃げても無駄です」

「妙な奴に好かれてしまったな」

「もぅ、そんなこと女の子に言っちゃ駄目ですよ? 女の子というのはですね……」

 

女の子はどういう生き物なのか語りだした蘇飛の話を左から右に聞き流し、凌統は内心でため息を漏らした。

凌統の人探しの旅はまだまだ続いていく。

 

どうも傀儡人形です。

新しいお話はいかがでしたでしょうか?

前々からずっと考えていたお話を書けてちょっと嬉しかったりします。

変態司馬懿と凌統伝は平行して執筆するつもりですが、

好評の方を優先するつもりです。

まぁリアルが忙しくて更新に凄く時間がかかると思いますが、

長い目で見てくれるとありがたいです。

では。


 
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