私が小さい頃、魔法が使えると思っていた。
私の持つ力は何でも出来る。
だから人は私のこの能力を妬み私に近づかないのだと。
私は「魔法が使えるから」1人だった。
例えばこの机の上に置いてあるトランプ。
思い通りのカードを引き出す事も…
…たまには外れる事もある。
それどころか出来たためしがない。
それもそのはず、仕掛けを抜けば純粋に52分の1の確率なのだから。
想いの力が足らないのだ。
それ以外のことを考えることなく想いさえ持てれば、魔法などいくらでも使えるに違いない。
時は流れ…
知りたくもない現実を知らされるようになってくると
一度も出来たことのない魔法、私がいざという時に魔法が使えないから私は駄目な子なんだと考えるようになった。
そんな役に立たない私を周囲は避け続けているのだと思った。
私は「魔法が使えないから」1人だったんだ。
…いや1人ではなかった。
いつも私を心配してくれる名前も知らない友達が1人だけいた。
その子も1人。
私も1人。
1人泣いているときは勇気を分けてくれて
1人嬉しい時は一緒に喜んでくれた。
私が魔法の話をした唯一の友達。
「想いを込めた力は人の心を動かす事が出来るんだ
其れが貴方の魔法。
貴方は素晴らしい魔法使いなんだよ」
なんて事をよく言っていたっけ…
本当に下らない事を…
「懐かしい夢でしたね…」
暗い夜の来ない世界にいるという事を忘れ、油断していると急な星星の光によって視界を妨げられる。
「…。
どうもこの夜のない世界は馴染めません…」
手を日除け代わりにして独り言のように呟く。
つい先程まで1人であったかのように。
「おやおや、らしくないな。
何?いい事でもあったの?」
独り言に返事が来た。
横に誰かいたのか。
「別に。
なんでそっちに傾くのです?」
その者は私がよく知る旅の道連れ。
私が知る初めに勇者と名乗りだした愚か者。
「よく言ってるじゃん
悪い事はいい事の前触れなんだ
とか、さ」
「そんなこと言いましたっけ」
「あら、言ってなかったっけか?
まあいいさ」
悪い事は重なるだけ重なるもの。
だけど、そういう運命なのだから、といって単純に頷けるような存在ではない。
だから私に嬉しい事は起こる訳がない。
私にいい事なんてある訳がない。
「もっと前を向いて考えればいいんじゃないの?」
「貴方と一緒にしないで下さい」
「んまあ、そろそろ行くか
おいジニー、
起きろ出発するぞ」
「なんだよ…もっと休ませろ…」
ブツブツ言いながらも立ち上がる。
そうして荷物を担ぎ3人で歩き始める。
「さあて、次に行くトコのメシは美味いかねぇ、フミ」
「それが目的じゃないでしょう」
「世界を救うなんてついでだよ
私にとってはさ」
幼い時の私の友達はもういなくなってしまったけど
今は肩を並べて歩く人がいる。
それをあの子に伝えてあげたいな。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
この回だけ語り部が変化している感じです。