「………よし。今朝はこれまでだ。」
レーヴェはそう言って兵士たちに解散命令をだす。レーヴェが行う朝一の調練。数日ごとに行われるこの調練を兵士たちの間では地獄の調練となっていた。その理由は内容にあった。
まずレーヴェが何人にも分かれ、分かれたレーヴェと兵士数十人が組んでひたすら剣を打ちあう。しかもレーヴェは兵士一人ひとりの実力にあった一撃、すなわちギリギリの攻撃を打ちこんでくる。それを2時間もやるのだから兵士たちは元気がなかった。だが最初に行ったとき、立つことができなかった状況から考えれば上出来だと、レーヴェは思った。
レーヴェは朝飯を食べるといつも通り庭に行くことにした。理由は、いつも朝飯の後に奇襲を掛けてくる人物をできるだけ被害が及ばないように撃退するためである。
(……さてそろそろくるか)
レーヴェが隙を作った瞬間後ろの茂みから突っ込んでくるものがいた。
「うおおおおおおおお!」
「!」
レーヴェは真後ろから振り落としてくる剣を振り向きざまに受け止め相手を見た。
「……春蘭。奇襲をかけるときに声を掛けては意味がないぞ」
「ふん!そんな卑怯な手を使わずともわたしは貴様に勝ってみせる!」
(…………)
奇襲は卑怯じゃないのかと思ったが口に出すのはやめておくことにした。
「……それにしても威勢だけはいつもいいな」
「黙れ!今日こそは威勢だけではないことを見せてくれる!ぐぬぬ……!」
そう言って剣を押し返そうとしてくる春蘭。口ではああ言ったが実は春蘭の実力は少しづつ上がってきている。言うと調子に乗るため言わないようにしているだけだ。
(一撃一撃が鋭くなっている……。たいしたものだな)
「ぐおおおおおおおおおっ!」
「……ふっ!」
レーヴェは後ろに飛んで距離をとり一瞬で春蘭の死角に入り剣を振り下ろした。いつもならこの一撃で勝負はつく。だが今日は違った。
「……そこだ!」
「!」
レーヴェは先ほどの事を思い出した。レーヴェが振り向きざまに相手の攻撃を受け止めたあの光景。それと同じだった。立場が逆な事を除いては。
「よ、よし!どうだ! やっと貴様の一撃を止めたぞ!」
「……驚いた。まさか止められるとはな」
「ふん。今日こそは貴様に一撃を叩き込んでやる!」
「そうか……。」
レーヴェは少し嬉しかった。春蘭の一撃が強くなってること、春蘭が自分の一撃を止めたこと、そしてなにより。
「ならもう少しだけ力を出そう」
ほんの少しまた力を出せることに。
「!?」
その瞬間、レーヴェは後ろに飛び、春蘭の死角に入り、先ほどと同じ所に一撃を入れた。
「く、くそ……」
もちろんみねうちだがレーヴェの理解を超えた一撃に春蘭はなすすべもなく気絶した。いつものことなので一時間もしないうちに目が覚めるだろうが。
「ふふ」
笑っていた。レーヴェも気づかない内に、無意識に。
(またしばらくしたらさっきの一撃も防がれるのだろうな……)
そう思いレーヴェは春蘭を通りかかった秋蘭に任せ、次の用事を済ませることにした。
(そこの角を曲がって……)
レーヴェは目的地に向かって街を歩いていた。本当は事務仕事がまだ残っているのだが、一応自分が指揮する街の警邏の仕事状況の視察もかねているので、問題はない。
「………あれか」
ようやく見つけた。その店に向かって歩く。すると向こうも気づいたのか呼びかけてきた。
「……兄ちゃ~ん! こっち!こっち!」
「季衣。もう来てたのか」
「うん!もう待ちきれなくって。」
「そうか。それでここが噂の店か」
そう言ってレーヴェはお店の看板を見上げた。看板には『お団子』とだけ書いてある。
「うん。ここのお店の団子すごくおいしいって、春蘭さまが言ってたから一度食べてみたかったんだ」
「そうか。ならさっそく入ろう。」
「はーい。ボクもうお腹ぺこぺこだよ」
本当は昼に甘いものだけ食べるというのはあまりしないのだが、季衣は喜んでいるので水は差さないことにする。それに自分もまんざらではないと思っていた。この世界の料理はおいしいものばかりで、初めて入る店というのは楽しみがあり、レーヴェも最近は自分でお気に入りの店を見つけていた。もっとも前の世界にいるときは料理をおいしく食べる心の余裕がなかったのかもしれないなと、レーヴェは思った。
「いらっしゃいませ!」
店に入ると店員が迎えてくれた。店内には甘い匂いが漂っており、それなりに客がいる。
「ここはまだあまり知られてないのかもしれないな」
「うん。春蘭さまがつい最近出来たばっかりだって言ってたよ」
レーヴェ達は適当な席に座るとさっそく団子を頼むことにした。
「団子を一人前頼む。……季衣はどれにするんだ?」
「ん~……。ねぇ店員さん。この『挑戦!超巨大団子!!』ってなに?値段が書いてないけど……」
「ああ。それはですね、お客さん。全部食べきると無料になるその名の通り、超巨大団子です」
「え!これただなの?」
見ると季衣は目をきらきらさせて店員を見ている。
「え、ええ。全部食べきれば、の話ですが……」
「へぇ~……。じゃあこれちょうだい!」
「おい。季衣………本気か?」
「うん! だってただでお腹いっぱい食べれるなんて夢みたいだよ! ねえ、兄ちゃんもこれにしなよ」
季衣は自信満々に頷いて、こちらにも進めてきた。いくらおいしいからといってもそんなにたくさんは食べれる気がしない。だが……。
「………いやオレは遠慮しておこう……。そうか。本気なら止めはしまい。店員……頼む」
「え……あ、はい。かしこまりました……」
店員は釈然としないまま注文をとっていった。まあ確かにこんな小さい女の子が頼むメニューではないのだろう。
それから少ししてレーヴェが頼んだ団子がやって来た。
「兄ちゃんの団子おいしそう~!」
確かにシンプルながらもいかにも団子という感じがしておいしそうであった。
「季衣も一つ食べてみたらどうだ?」
「え?でもボク、この後……」
「巨大というくらいだからあともう少しかかるだろう。それに一つくらい問題ないんじゃないか?」
「……うん。ありがとね、兄ちゃん」
そう言ってまずは二人で一緒に団子を食べた。味は自分には甘すぎる気もしたが噂通りおいしかった。
「甘くておいしいね」
「ああ。」
それからまた少しして、とうとう季衣が頼んだ団子が現れた。
「………これは」
「うわぁ……!これもとってもおいしそうだね」
一つ40㎝ほどの団子が4つ170㎝強の串にささっている。あまりの大きさに店員一人では持ちきれず、三人でやっと持ってきた物だ。店の客は一人残らず団子にくぎつけになっている。
「……季衣。本当に食べるのか?」
「当たり前じゃん。……よっと」
季衣はその団子を剣のように片手で持ち団子にかぶりついた。
「………おいしい!ボクこんなおいしい団子初めて食べたかも!」
「………そ、そうか」
正直予想外だった。季衣が大食いなのは知っていた。だがここまで大食いだとは思わなかった。その後も「おいしい」言いながらどんどん食べ進めていく季衣。あの団子があの体のどこにはいるのかと思わざるを得ない光景だった。
「ごちそうさまでした!また来るね!おじさん!」
店主にあいさつして店を出る。結局季衣はあの勢いのまま全部食べきってしまった。食べ終わる時には人だかりが出来ていてお客さんは一斉に拍手をした。店主からも店が有名になったと感謝され、今両手には城へのお土産を持っている。
「それにしても季衣、すごかったな」
「えへへ。たいしたことないよ」
季衣は照れくさそうな顔をしている。
「ん?なんだろう?あれ」
「あれは……」
季衣が遠くで人だかりが出来ている所を指差す。
「……餃子だな」
たしかあそこはつい最近まで何もなかった気がする。たぶん新しい店だろう。とそんなことを考えていると急に腕を引っ張られた。
「ほら。兄ちゃん。早く行かないとなくなっちゃうよ?」
「……まだ食べるのか?」
さっきあれだけ食べたのに季衣の体は一体どうなっているのだろう。
「当たり前だよ。さあ、早く来ないと置いてくよ~!」
そう言って季衣は人だかりに向かって走り出した。
「おい、季衣!」
やはり、どれだけ強くともまだ子供なのだろうとレーヴェは思った。小さい頃のヨシュアやレンもあんな感じではなかったか。
(……まあ、たまにはこんなのも悪くない……な)
向こうで季衣が呼んでいる。レーヴェは両手に団子を持ったまま季衣の後に続いた。
出し巻き卵です。
今回はこんな感じです。
華琳とレーヴェは次の拠点フェイズにもっていきます。
というわけで今回も読んで下さりありがとうございました。
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前々から考えていた拠点フェイズ
華琳とレーヴェのお話は次の話にしました。