ある日の午後。
一刀は蓮華に『話がある』との事で呼び出された。
「蓮華、『話』ってのはなんだ?」
「一刀に、『ある任務』を頼みたいの。」
「任務?」
蓮華は机の上に地図を広げ、『ある一点』を指差す。
「最近、この街で『不審な集団』が活動しているみたいなの。」
「・・・・へぇ。」
一刀も地図を覗き込む。
「ってことは、俺の任務は『現地調査』か??」
「そうよ。今回の任務は、貴方と『もう一人』でこの集団の捜索、そして連中が何をしているかを調べること。」
「もう一人??」
「ええ。もうすぐ来ると思うけど・・・・」
やがてトタトタトタ・・・・と、足音が聞こえてきた。
「蓮華さまっ、お呼びでしょうか!!」
入ってきたのは、一振りの長刀を背負い、まるで忍者のような格好の少女。
彼女の元気いっぱいの声が、執務室の雰囲気を明るくする。
「・・・・・コイツか?」
「ええ。彼女は『周泰』。我が孫呉の武将の一人で、隠密活動に長けていて、工作活動においては孫呉一よ。」
「ほぉ、そりゃスゲェ。」
次に周泰の方を向いた蓮華は、彼女に一刀を紹介する。
「明命、彼は北郷一刀。『天の御使い』で、孫呉独立の協力者よ。」
「ふぇっ!?み、御使い様・・・・??」
声を出して驚く周泰を見て、蓮華は「意外でしょ?」と補足して微笑む。
一刀は周泰に歩み寄る。
周泰は『天の御使い』である一刀に対して緊張しているようで、顔の表情が強張っている。
「北郷一刀だ、よろしくな。」
「え、えっと、我が名は『周泰』、字は『幼平』ですっ!み、御使い様!あ、えと・・・・」
慌てる周泰の姿が面白可笑しく見えた一刀は、「落ち着けって」と呟いて苦笑いを浮かべる。
「周泰よぉ、もっと気楽に話そうぜ。な?」
「え、は、はい!!」
「よし、んじゃ俺のことを『御使い様』って呼ぶんじゃなくて、名前で呼んでくれ。」
「でも・・・・よろしいのですか?」
「『御使い様』なんてよそよそしいにも程があるってもんだ。そんなんじゃ仲良くなれねぇだろ?」
蓮華と契約をしてから多少は日が経ったとはいえ、一刀のことを『御使い殿』と呼び、畏敬の念を抱いて接してくる人は多かった。
一刀自身はそれがイヤだった。
だが「普通に接してくれ。」と言っても、人々は『彼は天の御使い』という先入観に近いものを取り払うことができず、それが一刀の『不満』につながっていった。
一人でも多くの人達に、『御使い』ではなく自分の『名前』で呼んでもらいたい。これは一刀の『お願い』でもあった。
「で、では・・・・『一刀様』。こちらこそよろしくお願いします。」
『様付き』だったが、それでも一刀は満足だった。
「おう。」
笑顔で差し出した一刀の手を、周泰は笑顔で握った。
二人が打ち解けた所で、蓮華は周泰に今回の任務を伝える。
「先日の諜報任務の疲れがまだ残っているだろうが、思春は千人を超える新兵の訓練指揮で手一杯なの。明命、頼めるかしら?」
「はい!もちろんですっ!!」
笑顔で返事をする周泰を見て、蓮華も自然に笑みがこぼれる。
「よし、んじゃ行こうぜ。周泰。」
「はいっ!!」
「さて、ここが目的地か。」
「さっそく行動開始ですっ!」
翌日、目的の街に到着した一刀と周泰。
二人は探索も兼ねて街中を歩きまわる。
「けっこうデケェ街だな。」
「そうですね。それにこの街は交通路としても機能しているので、人もかなり多いですよ。」
「こりゃ骨が折れそうだな・・・・。」
髪をガシガシ。とかきむしる一刀。
「街の全体を把握したら宿でも探すか。一日二日で何とかなりそうにもねぇし。」
「そうですね。」
その後も、『どこに何があるのか、どの道を進めばどこに行き着くのか。』を確認しつつ、探索を続ける。
と、その時である。
「ああっ!!あれは!!」
「ん?ちょ・・・・おい、どうした!」
周泰が突然走り出したので、一刀も慌てて彼女を追う。
なんとか周泰に追いつくと、彼女は『何か』を抱え込み、頬擦りをしていた。
「あぅあぅ~♪」
「・・・・なんだそりゃ。」
「お猫様ですっ♪」
周泰が抱え込んでいたのは首に黄色い布を巻いた『猫』だった。
「それ、どっかの『飼い猫』みてぇだな。」
「確かに・・・こんなにモフモフさせて頂いてるのに、全く嫌がりません。」
「モフモフってなんだよ。」
猫への頬擦りを止めない周泰を見て、一刀は呆れ顔になる。
「とりあえず――「お~い、そこのお二人さん。」―――・・・ん?」
突然、背後から声をかけられ、一刀は反射的に振り返った。
一刀の後ろにいたのは、黒い短髪で、黄色のハチマキを締めた青年。
だが一刀は、何よりも彼の背負う『大きな剣』に注目した。
見る限りだが、鞘は鉄製で、所々錆びているようだった。
青年は、苦笑いを浮かべながら話しかける。
「その猫、僕のなんだけど返してくれない??」
「・・・・・そうかい。おい、飼い主のご登場だ。放してやれ。」
「え!?も、もう少しだけ・・・・・」
「ダメだ。放してやれ。」
半泣き状態で懇願する周泰を見て、青年はハァ。とため息をつく。
「仕方ない。もう少しくらいならいいよ。」
「ホントですかっ!?」
「・・・・ワリぃな。」
「ううん。『ランラン』も彼女と遊んで楽しいみたいだし。」
「そうか。」
周泰は、幸せそうに猫のランランと戯れる。
飼い主の青年も、微笑ましくその様子を眺める。
だが、一刀はその間もずっと『剣』を見ていた。
やがて、一刀の視線が気になった青年は、笑顔で一刀に問いかける。
「どうかした?」
「いや・・・・デケェ剣だな、って。」
「ああ、これか。いや、最近は物騒な世の中だからさぁ。自衛用に、ね?」
「・・・・・なるほど。ってことはアンタ行商人かなんかか?」
街に住んでいて、かつ街中で『自衛』のために武器を背負う。というのは考えにくい。
『自衛用』ということは、治安の悪い荒野や山などを通る必要がある人間なのだろう。
「まぁ、そんな感じ。ホントに最近は物騒でさぁ・・・・・。」
「行商人にとっちゃ、ツライ世の中だろうな。」
「そうなんだよ。まったく、国は何をしてるんだろうね。」
「この国は民を救わねぇからな。」
一刀の『この一言』が、彼の雰囲気を一変させた。
「よくわかってるね・・・・・。この国は、民を救わない。ヒドイ国だ。」
「ああ。」
「だから――――」
「――――トッテモヒドイコノクニヲ、コワサナイトイケナイ。」
この瞬間、一刀は『硬直』した。
直感的に感じたのだ。この青年の『危険な何か』を。
一刀は会話を続ける。
「・・・・そんなこと、できるのかねぇ??」
「できるさ。」
青年はニッコリと微笑む。
「蒼天を埋め尽くすほどの『壊し手』がいれば、そんなの簡単だよ。」
一刀も、ニヤリと笑みを浮かべる。
「でも、蒼天が埋まっちまえば、お天道様も隠れちまう。毎日が真っ暗だぜ??」
「アハハ。大丈夫だよ。―――『黄色い空』なら、いつだって明るいから。」
と、その時。
「晋!!探したぞ!!」
今度は二振りの剣を腰に差した、銀髪の少女が一刀達に向かって叫ぶ。
「・・・と、いけない。お迎えが来た。すっかり話し込んじゃったね。」
「いや、おもしれぇ話だったぜ。機会があれば、また話そう。」
「うん、いいよ。僕は『漢忠』。またどこかで会おうね。」
「俺は『北郷』。また―――どこかでな。」
「ランランと遊んでくれてありがとうね、お嬢さん。」
「私も楽しかったですっ!!ランラン様っ、また遊びましょうねっ!!」
一刀達と別れた漢忠とランランは、銀髪の少女と合流する。
「晋よ、お前ずいぶん楽しそうだな。あの男と何かあったのか?」
「うん。『北郷』って人と話してた。面白いよ?会話の最中もずっと僕の『剣』を見てたんだ。」
「お前、もしかして・・・・・」
「アハハ♪『そのまま』だよ。バレちゃったのかな?」
その頃、周泰と一刀は『宿』を求めて歩いていた。
「・・・・なぁ、周泰。」
「はい、なんでしょう?」
「アイツ、『任務対象者』かもしれねぇ。」
「えぇっ!?」
一刀はニヤリ。と笑みを浮かべる。
「会話の内容は宿で話すが・・・・アイツ、臭わなかったか?」
「え・・・・鉄の匂いならしましたが、それはたぶん飼い主様の剣の鞘が『鉄』だったからでは??」
「かもな・・・・。だが、俺は別の臭いだと思った。」
「では、何の臭いだと思われたのですか??」
「まだ新しい――――」
「――――『血』の臭いだ。」
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スランプを感じつつも新章突入です。
今回は序章的な感じです。
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