No.190031

真恋姫無双 遙かなる幻想の先に 第四話 前編

larryさん

五作目の投稿となります。
前編と後編に分けようと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。

2010-12-16 23:56:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:943   閲覧ユーザー数:828

                      注意

 

 

 

この作品は北郷 一刀が主人公ではなくまた登場する予定もありません。 オリキャラが主人公で、原作キャラが崩壊するかもしれません。 それを踏まえた上で楽しんでいただければと思います。

 

 

 

 

 

Interlude in

 

「押せ! 押せい! 押し切ぇい!!」

 

 春蘭の号令に、兵たちは応えて敵を圧倒しようと前線を押し上げる。

 それが効いたのか敵軍が踵を返して撤退していく。

 

「春蘭様! 敵、撤退していきます!!」

 

「なに、もうか!?」

 

「……はぁ。見ての通りです」

 

「ちっ。益体もない」

 

 春蘭は物足りなさそうにそう呟く。

 季衣も同様なのか、気落ちした表情を浮かべていた。

 

「追撃はどうしましょう?」

 

「そうだな、必要とも思えんが……まぁいい。隊列を整えた後、一応出しておけ。ゆっくりでいいぞ」

 

「はいっ!」

 

「相手はただの町人。殺さず、追い払うだけにせよ。分かっているな?」

 

 普段の春蘭と打って変わって、的確な指示を出す。

 やはり戦に出るとそれなりの事は出来るようだ。

 

「はい……今日だけで、三度聞きましたから」

 

 決して何回も云っているからではない、決して。

 

「そうか。もう三度目か」

 

 春蘭はうんざりしたかのようにそう云うと、大きなため息を吐く。

 

「やれやれ……我々は蜘蛛の子を散らす為に訓練しているのではないのだぞ」

 

「姉者、こちらも片付いたぞ」

 

 そんな風に愚痴を零していると秋蘭がやってきた。

 どうやら、秋蘭も別なところで似たような案件の対処していたようだ。

 

「おお、秋蘭。どうだった?」

 

「桂花の云う通りだ。これを……」

 

 秋蘭の手に握られていたのは黄色い布だった。

 

「やはり黄色い布か。こちらもだ」

 

 そう。

 この黄色い布は今まであった三度の事でも町人が共通してつけていたものだった。

 

「何なんですかね、これ?」

 

「ふむ……」

 

「む~」

 

 必死に考えを巡らす春蘭と季衣。

 

「うーん……」

 

「ううー」

 

 だんだん二人の顔が険しくなっていく。

 

「むむむ……」

 

「二人とも」

 

 それを見かねた秋蘭が、二人に声を掛け助け船を出した。

 

「ん、何だ?」

 

「分からないなら、分からないで構わんぞ」

 

「……そ、そうか。まぁ、それを考えるのは我々の仕事ではないからな。華琳様や桂花に任せるとしよう」

 

「はーい!」

 

 慣れないことをしなくていいと分かったからなのか、季衣は元気な声で返事をする。

 

「追撃部隊が戻ったら撤収するぞ! 帰ったら直ぐに華琳様に報告だ!」

 

「判った。ならこちらの隊も撤収を始めておこう」

 

「あ、ボクもお手伝いします~」

 

 話が一段落ついたところで三人は撤収の支度を調えていく。

 そして、事のあらましを華琳に伝えるべく、陳留に戻っていくのだった。

 

Interlude out

 

 

 

 

「というわけです」

 

「そう……やはり、黄色い布が」

 

 その日の朝議は、暴徒たちの鎮圧から帰ってきた春蘭様の報告で始まった。

 

「こちらの暴徒も同じ布を持っていました」

 

 ここ最近増えてきた、謎の暴徒たち。

 各々黄色い布を身につけた彼らは、何の予兆もなく現れては暴れ、春蘭様たちにあっさり鎮圧されていく。

 

「桂花、そちらはどうだった?」

 

「は。面識のある諸侯に連絡を取ってみましたが……どこも陳留と同じく、黄色い布を身に付けた暴徒の対応に手を焼いているようです」

 

「具体的には?」

 

「ここと……ここ、それからこちらも」

 

 桂花様はそう呟きつつ、広げた地図の上に磨かれた石を置いていく。

 

「それと、一団の首魁の名前は張角と云うらしいです。が……正体は全く不明だそうです」

 

「正体不明?」

 

 華琳様は桂花様の報告に疑問の声を投げかける。

 まぁ、名前まで分かっているのだから他にも情報があってもおかしくないような――

 

「捕らえた賊を尋問しても、誰一人として話さなかったとか」

 

「……ふむ。剣を振り上げれば逃げ回るクセに、そこだけは口を割らぬのか。なにやら気味が悪いな」

 

 どんどん進んでいく朝議。

 さて、そろそろ……

 

「で、あの華琳様? どうして私はここにいるのでしょうか?」

 

 なんで一兵士であるはずの私がここにいるのかをはっきりさせましょうか。

 

「あら、私は使える者は使う主義よ。貴女の知謀は先日、証明されているしね」

 

「いや、先日も云いましたけれどあれは桂花様が考えたものに上乗せしただけで――」

 

「その桂花が認めているのだから、あきらめなさい」

 

「か、華琳様!?」

 

 はい?

 華琳様、今なんて?

 

 視線を声を上げていた桂花様に向ければ、そっぽをむかれた。

 

「ま、まぁ。なかなかの案だったんじゃない」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 嬉しいけれどなんだか複雑。

 なんだか似たようなことがこの前もあった気がする。

 

「と、いう訳だから貴女も何かあれば、云ってちょうだい」

 

「ぎ、御意」

 

「それで他に、この暴徒たちについて情報はないの?」

 

「はい、これ以上は何も……」

 

「こちらもです」

 

 華琳様の声に春蘭様と秋蘭様がそう応える。

 当然、私にも何もないので無言で肯定する。

 

「ならばまずは情報収集ね。その張角という輩の正体も確かめないと」

 

 そんな感じで場が落ち着いた時。

 慌てて入ってきたのは、一人の兵士だった。

 

「会議中失礼いたします!」

 

「何事だ!?」

 

「はっ! 南西の村で、新たな暴徒が発生したという報告がありました! また黄色い布です!」

 

 少し緩んでいた空気が一気に引き締まる。

 

「休む暇もないわね。さて、情報源がさっそく来てくれたわけだけれど。今度は誰が行ってくれるのかしら?」

 

「はい! ボクが行きます!」

 

「季衣、ね……」

 

 勢いよく手を上げた季衣ちゃん。

 けれど華琳様はそれ以上言葉を続けない。

 いや、続けられないのだろう。

 

「季衣ちゃん。貴女、最近働き過ぎよ?」

 

「そうだぞ、季衣。ここしばらくろくに休んでおらんだろう」

 

 ここ数日の暴徒の鎮圧戦。

 そのほとんどに季衣ちゃんは出ていた。

 その幼い身体には本人の自覚が無いだけで相当な疲労が溜まっているはず。

 それが分かっているから、華琳様も言葉に詰まったのだろう。

 

「だって、だってせっかくボク、ボクの村みたいに困ってる村を、たくさん守れるようになったんですよ!」

 

「華琳様、この件、わたしが」

 

「私も行きましょう」

 

「どうしてですか春蘭様っ! 姉ちゃん! ボク、全然疲れてなんかいないのに……」

 

「そうね。今回の出撃、季衣は外しましょう」

 

「華琳様っ!」

 

 まぁ、季衣ちゃんのことを、これからのこの軍の事を考えれば当然の答え、ね。

 

「季衣。貴女のその心はとても貴いものだけれど……無茶を頼んで身体を壊しては元も子もないわよ」

 

「無茶なんかじゃ、ないです」

 

季衣ちゃんは泣きそうな声で呟く。

 

「いいえ、無茶よ」

 

 その呟きを華琳様は切って捨てる。

 駄々をこねる子供の我が儘を叱る母のように。

 

「でも、みんな困っているのに……」

 

「そうね。その一つの無茶で、季衣の目の前にいる百の民を救えるかもしれない。けれどそれはその先にある何万という民を見殺しにする事に繋がることもある。……分かるわね?」

 

「だったらその百の命を見殺しにするんですか!?」

 

「するわけないでしょう!!」

 

「っ……!!?」

 

 今まで諭すような慈愛のあった声音は消え去り。

 雷鳴のような、華琳様の強い一声が室内に木霊する。

 

 これが噂に聞く華琳様の覇王としての姿、その片鱗か……

 

「季衣。お前が休んでる時は、私が代わりにその百の民を救ってやる。だから、今は休め」

 

「ううー」

 

「今日の百人も助けるし、明日の万人も助けてみせるわ。その為に必要と判断すれば、無理にでも何でも遠慮なく使ってあげる。けれど今はまだ、その時ではないの」

 

「…………」

 

 春蘭様の言葉にも、華琳様の言葉にも、季衣ちゃんの顔は俯いたまま。

 きっと季衣ちゃんは、云っていることを頭では理解出来ているのだろう。

 でも心では納得出来ていない。

 そんなところかしら。

 

「桂花。編成を決めなさい」

 

「御意。では秋蘭、葵。今回の件、貴女たちが行ってちょうだい」

 

「なにっ!? さっきの流れだとどう考えても秋蘭ではなくて私だろう!!」

 

「今回の出動は、戦闘より情報収集が大切になってくると、華琳様もおっしゃっていたでしょう。出来る? 貴女に」

 

「ぐ……っ」

 

 桂花様の容赦ない言葉に春蘭様の声が詰まる。

 

 付き合いが短い私でも分かる。

 確かに、春蘭様にはちょっと、ねぇ?

 

「決まりね。秋蘭、葵。くれぐれも情報収集は入念になさい」

 

「は。ではすぐに兵を集め、出立いたします」

 

「なんかいつの間にか将のような扱いになっている気がするのですけれど、“一兵士”として全力を尽くして参ります」

 

 念のため、釘を刺しておかないと将にされかねない。

 なんか、華琳様が意味深げに笑みを浮かべているし。

 

「秋蘭様、姉ちゃん!!」

 

「どうした? 何と云われても連れては行かんぞ。私とて気持ちは華琳様や姉者と同じだ」

 

「まぁ、まぁ。秋蘭様。季衣ちゃん、どうしたのかしら?」

 

 秋蘭様を諫めて、季衣ちゃんに続きを促す。

 きっと、季衣ちゃんが言いたいのはそういうことではないと思うから。

 

「えっと、あの……ボクの分まで、よろしくお願いします!」

 

「ふ……うむ。お主の想い、しかと受け取った。任せておけ」

 

「クスッ、ええ。任されました」

 

 

 

 

「…………」

 

 準備が思ったより早く終わって――というより一般兵だからさしてすることが無かったからなのだけれど。

 そんな時に城壁に座っている季衣ちゃんが目に入ったので城壁の上にやってきた。

 

「季衣ちゃん」

 

「あれ、姉ちゃん。出陣は?」

 

「一般兵ですから結構早く準備が終わったので。ねぇ、季衣ちゃん。何を落ち込んでいるのかしら?」

 

 ぼんやりと城壁に腰掛けて、季衣ちゃんは足をぶらぶらさせている。

 どこかやっぱり元気が無くて、頭のお団子もなんだかしおれているようにも見える。

 

「季衣ちゃん。季衣ちゃんの気持ちは良く分かるわ。貴女は本当に民を救いたいっておもっているのね?」

 

「うん」

 

「でもね、季衣ちゃん。華琳様や秋蘭様もみんな貴女の事を心配しているの。もちろん、私も。それはわかる?」

 

「うん、わかる」

 

「なら、季衣ちゃん。今はゆっくり身体を休めてこれからのために力を溜めておくのがいいのではないかしら? 季衣ちゃんが落ち込んだままだと私も気落ちしてしまうわ」

 

「うん。そうだね、そうだよね」

 

 良かった。

 少し元気になったみたいね。

 

「ありがとう、姉ちゃん」

 

 季衣ちゃんはそう云って、ひょいと城壁の上に飛び乗る。

 そしてそこで歌を歌い始めた。

 

 それはお世辞にも上手いと云えるものではなくて、ただ大声を出しているだけだったけれど。

 聞いているひとが元気になれるような、嬉しくなれるようなそんな歌声だった。

 

「いい歌ね。なんていう歌なのかしら?」

 

「さぁ? ちょっと前に、街で歌ってた旅芸人さんの歌なんだけど。確か、名前は張角……」

 

「季衣ちゃん、張角って」

 

「あっ!? 姉ちゃん!!」

 

 季衣ちゃんも気がついたのか驚いたように声を上げる。

 

「華琳様に報告していらっしゃい。私たちも直ぐに片付けて帰るわ」

 

「うん! じゃあ、姉ちゃん。いってらっしゃい!!」

 

 季衣ちゃんが走っていくのを見送ってから、私は城門に赴くのだった。

 

 

 

あとがき

 

戦争まで書こうと思ったんですけど、長くなったので前編と後編に分けようかと思います。

皆様気付いてらっしゃるかとおもいますが黃巾党の凪たちが仲間になる時期です。

 

次こそ主人公の戦闘を書けたらなと思います。

でわ、今回はこの辺で。

 

 

なにか誤字や脱字、意見等があればコメントしていただければ助かります。

読んでくださってありがとうございました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

 

 

 


 
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