「あの、コーヒーぐらいしかなかったので、ごめんなさい」
「良い、良い。外史の世界じゃこういうのも中々飲めんからの。砂糖は多めに頼むぞ」
一刀ちゃんが持ってきたコーヒーを飲みながら、ソファーを上に乗って寛いでいるあのちびっ子が南華老仙だと言ったら、誰が信じてくれるだろうか。
「で、先の話だけど、どういうこと?『現実』に戻るって」
先残ったコーヒーを飲み干して、僕は南華老仙に聞きました。
「言葉通りじゃ。この世界はお主らが居て良い世界ではない。だから二人ともここから出ていってもらうんじゃよ」
「断るとしたら?」
「何故じゃ?」
南華老仙は分からないといいたそうな顔で僕を見ました。
「この世界に閉じ込められて困っているのではなかったかの?」
「勘違いしないで欲しいわ。僕は一刀ちゃんのために行動しているだけよ。一刀ちゃんの過去を一度壊した僕だからこそ、ここで新しく得た一刀ちゃんの日常を守ってあげた
いと思っている」
「……お主も気付いているはずじゃよ。この世界が『ありえない世界』だということを」
「……」
南華老仙の言葉に僕は唇を噛み締めた。
「ありえない世界って、どういうこと?」
一刀ちゃんがキョトンとした顔で言いました。
「世界が作られるには、その世界の元となる世界が必要となる。そして我々はその元となる世界を『正史』と言い、それによって造られた世界を『外史』という。そして、外
史のその無限の可能性から組み立てられたある定められている規則、それを我らはまた『外史』という。『外史』とはつまり世界に置いての『真理』。なのに、『外史』の力
によって存在すら消されたはずの左慈がこの世界におる。それはどういう訳か。簡単に言うと、この世界は『真理』の隙間にできた、『真理』の影響を受けない歪んだ世界だ
ということじゃ。じゃから消えたはずの左慈が存在し続ける。そしてお主も、この世界で新しい人生を送ることができたじゃろ?」
「それを分かっているのなら、僕がこの世界にずっと居続けようと思うことも知っているはずよ?」
「それができないからこうして儂がここにいるんじゃよ」
「どういうこと?」
コーヒーを飲み干した南華老仙が側においてあった杖を掴んだ。
「この世界は、『外史と外史の隙間』にできた『虚空』の世界じゃ。大きくなった外史の中には、こういった『隙間』ができることが多い。その一つにお主らが住み着いたま
では別に宜しいが、残念ながらその隙間は一時的なものじゃ。もうすぐこの世界は他の外史たちに場所を取られてなくなってしまう」
「……そう、外史の『適者生存』ってやつね。下級管理者の時に論文として読んだことがあるわ」
「それを書いたのも、儂のことじゃがの」
「原理こそ興味あったけど誰が書いたかまったく興味なかったw<<コン>>いて!」
その杖本当に痛いんだって!
「…少しは礼儀を払わんか。…と残念ながら『虚空』の存在に気づいている『管理者』はそれほどないんじゃが」
「実在する世界だけでなく、存在しなく『虚空』までも自分たちの管理下に入れるつもり?勘弁してほしいわね」
「お主はいつも我々がする仕事を否定するの」
「……あなたたちとはもうその話はしたくないわ。私は負けた組なんだから」
北郷一刀の後ろにはいつも『管理者』たちがいた。
というと、心強いかもしれないが、結局貂蝉を始めて、管理者たちは御使いを利用して『外史』を自分たちがいいと思うがままにしてきた。
『外史』のためにとか言っても、所詮は高度の政治の裏作業でしかなかった。
だけど、それに一度反して、そして負けた。だからもう、あの辺についてこの爺に言う言葉はない。
「話を続けましょう。あなたが言った通りなら、この世界はもう消えてしまう。『なかったこと』にされるということね?」
「そうじゃ。じゃから、そうなる前にお主らにはこの場から逃げてもらう」
「逃げる?」
この世界から?どうやって?
一刀ちゃんならともかく、この世界から離れて僕は一瞬も存在することが出来ない。
「まあ、お主が心配していることも分からなくはない。じゃが、もうこれしかお主らを助ける方法がないんじゃよ」
「どうして、あなたが僕たちの情けを見てくれる必要があるの?」
「…………左慈、それを分らんで言っておるとは言わさんぞ」
「……」
嫌な爺。
「あの、お姉ちゃん」
そこで、急に一刀ちゃんが声を出した。
「先、ここにいたことが『なかったこと』になるって言ったよね。そしたら、ここでいた記憶も、全部失っちゃうの?僕がさっちゃんのことを忘れていたみたいに?」
「……どうなの?爺」
「基本的にならそうなるはずじゃが、それがどうした?」
「忘れたくない」
一刀ちゃんはそう言った。
この世界で、一刀ちゃんは幸せな記憶を持っていた。
四歳に車事故に会って意識不明になってもない。
五歳に目を覚めたら喋れなくなってもない。
自分のせいで家族がバラバラになってもない
親たちに見捨てられても居ない。
「……まぁ、方法がないわけでもないんじゃが……少し面倒での」
「僕からも御願い、みなみ」
「むぅ?」
久しぶりにこう呼ぶわね。歯痒い。
「いいでしょ?せっかく助けてくれるのだったら太っ腹にしてくれないと」
「…………はぁー、仕方ないじゃの。そこは借りにしておくぞよ」
「ありがとう」
これで、一刀ちゃんお記憶がまた消えることはないはず。
「で、じゃな。二人にはあの曹魏の外史にまた戻ってもらうぞよ」
「一刀ちゃんと僕が居ない間外史が進んだはずよ。どれぐらい経ったの?」
「一年じゃな。曹操は袁紹を打って河北を制圧し、劉備を攻めて徐州も手中に入れた」
「華琳お姉ちゃん、あの高笑いなお姉ちゃんに勝ったんだ」
「あの外史で袁紹は雑魚なの」
「え、そうなの?」
「軍師もいないしね」
「うわぁ……」
そんな正史と外史の比べ話もしながら、大体の状況を爺から聞いた。
・・・
・・
・
「場面は大体分かったわ。だけど、一つだけ分からないところがあるわ。どうやって僕をまたあの外史に送るつもり?」
僕はもう存在しない。
そんな僕を、南華老仙はどうやってそこへ送ろうとしているのか?
「お主が置いてきた身体があるじゃろ?それを利用すれば良い」
「置いてきた身体って……まさか!」
「そう、司馬懿じゃ。お主の術が中途半端だったおかげで、司馬懿の魂がまだ身体に篭っているんじゃよ」
「え?司馬懿……紗江が、生きている?」
いや、この場合蘇ったという表現が正しいのかな?
あの連合軍での戦いの後、一刀ちゃんは皆の前から姿を消してしまいました。
華琳さまは直ぐに一刀ちゃんを任せていた劉備軍の劉玄徳さんに事情を問い詰めましたが、結局行方はわからないまま。
そして、同じく病状から姿を消していた少女が、洛陽の城壁近くで発見され、目が覚めた時には洛陽の再興のための修復作業が進んでいました。
あ、紹介を申し遅れてしまいました。
少女の名は司馬懿、字は仲達、真名は紗江と申します。
……あ、はい、少女について疑問をもつ方々も多くいらっしゃるだろうと思って居りますが、正直少女も未だに何が何だか良くわかりません。
少女はもう死んだ身で、この体は、ただ左慈さんに預かることを許しただけのことだったはずです。
なのに、目を覚めたら、少女はここに居りました。
最初に目を開けた時に曹操さまが目の前にいらっしゃった時は…それはもう嬉しくてしょうがありませんでした。
初めて会った時から好いておりました。
けれど、女である少女が同じ性の方を好きになるのは、おかしいのではないのかって、一人で悩んで居りました。
結局何度も曹操さまの任官の申し出を断って、最後には陳留に行って身体を伏せてまで断って、その後曹操さまが付けてくださった兵士らと共にご両親が待っている故郷へ戻
ろうとしたのですが………
………
とにかく、あの時少女はここに居りました。
目が覚めた時、少女は戦時で将たちに配給される天幕の中にいて、曹操さまの姿が見えました。
「どういうことなの?どうしてあのようなところに居たの?」
「……曹操…さま?」
「紗江?」
「……嘘…どうやって?」
目が覚めた途端、目に見えた曹操さまの姿を見て、少女は泣いてしまいそうになりました。
「どうしたの、紗江?」
「いえ、……なんでも……何でもありませっ」
我慢していた涙が、一気にぐっと流れてきました。
「大丈夫なの?」
「……はい、…大丈夫……です」
「………」
曹操さまは泣いている少女を見て、暫く無言のまま少女を見ていましたが、直ぐに近くに来て私を優しく抱きしめてくれました。
「ごめんなさい」
「……へ?」
「一刀のこと……どんなに探しても、見つけなかったわ」
曹操さまが少女に謝っておりました。
「どういう……」
「どこを……どんなに探しても、あの子がどこにいるか見つからなかったわ。せめてどこかに死んでいたら死体でも探そうと洛陽にあった屍一つ一つまで探してた。それなの
に……一刀の姿は見当たらなかった」
「あ……」
北郷一刀ちゃん。
左慈さんが命を賭けてまで守ろうとしたあの子は……
それに、左慈さんまで居なくなってしまいました。
………
「あの、華琳さま」
少女は、少女を抱きしめていてくれた曹操さまから放れて、寝台の中で姿勢を整ってお辞儀をしました。
「紗江?」
「お久しぶりにお目にかかります。少女、『司馬仲達』です」
「………え?」
曹操さまは、しばらくお話について来られなかったのは固まったまま何の反応もしませんでした。
暫く過ぎたところで、曹操さまは口を開けました。
「……仲達、あなたなの?本当に、本当の司馬懿なの?」
「…はい、曹操さまの無礼にも任官要請何度も断ったために、天の怒りを受けてしまった、司馬懿です」
「そんな風に言わないで!」
曹操さまは、今度は強く、少女のことを抱きしめました。
「ずっと心の一所で苦しんでいたわ。あなたをあんな風に逝かせてしまった私が、あまりにも惨めだったから。愚かで無能な私があまりにも惨めで、醜くて……」
「曹操さまは無能でも愚かでもありません。全ては少女の出過ぎた真似が招いだこと。左慈さんにもそのようにお伝えくださいと言っておいたはずです。曹操さまには、何の
罪もありません」
「だけど……だけど、あなたをそんな誰にも見つからない森の中でそんな悲惨な様で死ぬようにしたのは私よ。肉親や友を失った以上に、あなたをそんな風に逝かせたことが
悔しかった」
「曹操さま………」
ずっと、心に溜めて居られたのです。
曹操さまは、強いお方だとばかり思って居りましたが、実はこんな弱い面もあったのですね。
「曹操さま、少女の真名、紗江。改めて曹操さまにお預けします」
「紗江……」
また目の前に見えた曹操さまの顔は、涙で汚れておりました。きっと、少女も同じような顔をしているだろうと思います。
「一度死んだ筈の少女が、こうして再び曹操さまに会えたのも、きっと天の仕業。ならば前世で出来なかった言葉、今なら言えます。この司馬仲達、身も心もあなた様のもの
です。どうか、少女を華琳さまの覇業のためにお使いください」
「紗江………」
その日、少女は誓いました。
少女がこれからどれだけ曹操さまのお側に居られるかはわかりませんが、
この身がまた屍のように朽ち果てるその時まで、この御方お支えすると。
一刀ちゃんと左慈さんが消えて、一年が経ちました。
色んなことがありました。
身体が弱った少女のために、華琳さまは警備隊の仕事から少女を外して、内側の文官の仕事だけをするようにしてくださいました。
それでも、凪君たちは少女のところに良く来てくれて、生きてあまり年頃の友たちが居なかった少女としては、とても大きな力になりました。
陳留の街は暫くの間はすごく沈んでいる感じでした。
子供一人が居なくなっただけだというのに、街は活気を失い、天が我々を捨てたのかという話まで出ていました。
それは、一刀ちゃんと親しくしていた武将の皆さんも同じで、特に秋蘭さんとかは最初の何日は寝ることもできずに苛立っていて居りました。
いつもは穏やかな性格の秋蘭さんがそうなさることで、桂花さんや姉の春蘭さんまで驚いた顔をしましたが、華琳さまの言葉で何とか丸く収まっていました。
だけど、やっぱり一番苦しんだのは華琳様だと思います。
「紗江、お主はなんともないのか?」
秋蘭さんにそう聞かれたことがあります。
どうなのでしょう。
少女は特に、一刀ちゃんについてどうという感情はお持ちして居りません。
直接一刀ちゃんに接したしたこともありませんし、いつも一緒に居ましたがそれは少女ではなく左慈さんの意思でした。
だから……もしかしたら少女は、あまり一刀ちゃんのことをどうも思っていないのかもしれません。
だけど、それでも会ってみたいとは思っております。
少女が昔知っていた秋蘭さんや春蘭さん、華琳さまはこんな方ではなかったはずでした。
そんな皆様をこんな風にした一刀ちゃんは、一体どんな子なのでしょうか。
一度会ってみたいと思っております。
この目で、この心でそれを確かめたいと思って居ります。
そう考えてるうちに、華琳さまが少女をお呼びになりました。
「孫呉を……打つ、ですか?」
「ええ」
華琳さまの政務室に呼ばれた少女に、華琳さまはふとそうおっしゃいました。
普段は軍事については諮問を求められたことがありませんでしたので、最初は少しキョトンとしました。
「あなたはどう思うかしら」
「…そうですわね……軍師の方々はどのように仰っておりましたか?」
「桂花は少し反対だったけれど…今は既に戦争の準備にとりかかっているわ。稟と風も準備しているし」
「……既に決定事項というわけですね」
あ、稟さんと風さんは連合軍後公孫賛を追い払い河北を制圧した袁紹さんが攻めてきた時、最初の攻撃をたった7百で返したことで評価をされ軍師になった方々です。
お二方とも、桂花さんと一緒に、華琳さまの軍師として働いてくださって居ります。
二方ともすごく独特なお方でして、稟さんは桂花さんみたいにすごく華琳さま思いな方です。良く妄想が走り過ぎて鼻血を出したりなさいますが……ちょっと変な方です。
…あ、もちろん少女も同じではございますが、少女はもっと精神的な触れ合いというもので………あまり肉体的な関係を望むわけでは……
と、そういう話ではなく、ですね。
正直、少女は今孫呉に攻めるというのはあまり宜しいとは思って居りませんが
「その様子ではあなたは反対のようね」
「はい、まだ袁紹さんの領域だった河北を完全に収めて居りません。それに、今袁術を追い払って建ち始めた孫呉は、まだ戦列もちゃんと整っていない新生国家。華琳さまは
孫呉がその力を固める前にそこを叩こうとしているかも知れませんが、今は先ず、西を安全にするべきだと、少女は思っております」
「馬騰も確かに名高き英雄ね。だけど、馬騰から先にこっちに攻めてくることはないはずよ。最近五胡の侵入が活発になって、それをなんとかすることに馬騰は忙しいようだ
し。劉備は今のところはまだ力を貯めて居るところだし、となると、今のところで一番戦いの味がある相手は、孫呉の孫策よ」
「華琳さまが英傑たちと天下をおいて競いたい気持ちは十分承知しております。しかし、戦争をするには先ず内側を堅くして、それから外を見ることが基本です。今の魏が抱
えている内憂を考えると、また外を攻める準備が出来ていないと少女は思います」
「………」
とはいえ、既に孫呉を攻めるというのは決定されている様子。
軍師でもない少女は、これ以上何と言っても、華琳さまの戦おうとする欲求を止めることはできないでしょう。
「口が過ぎてしまいました。申し訳ありません」
「…いいえ、あなたに聞かずにこちらだけで勝手に決定してしまった私が悪かったわ」
「……」
「けれど、このような戦いを、私は待っていたのよ。麗羽や公孫賛のような己の器も知らない連中が消え去り、今この大陸に残っているのは本当の英傑たち。彼女らとの正々
堂々な戦いをして、そして私の覇道を示し天下を手に入れる。それこそが私が望んでいることよ」
「………」
華琳さまの覇道……。
「紗江?」
「華琳さまはいつもそれを仰っておりましたね」
覇道……天下を取る。
己の力と智謀と持って、たくさんの戦いの後その結果物としてこの世界を手に入れる。
それが、華琳さまののぞみ。
でも、何故でしょう。いつの間にか少女はその華琳さまのお望みがどうしても気持ち悪いことに感じてしまうようになって居りました。
心からこの方を愛しているはずなのに……。
「どうしたの?」
「何でもありません。少し、眩暈が…」
「無理をさせてしまったようね。ごめんなさい、呼び出しちゃって」
「主である華琳さまのお呼びに従わない者なんて、この城には居りません。少女の身体が弱いせいで、華琳さまのためになるどころかいつも迷惑をおかけしていて、真に申し
訳ないと思って居ります」
「紗江?」
「本当に……もうしわけ……」
あ…
「紗江……紗江?紗江!しっかりなさい!紗江!?」
「どういうことなの……一体あの子の身体に何が起きているのよ!」
「落ち着いてください、華琳さま」
周りがうるさいです……
「落ち着いていられるわけないでしょ!こんな……うっ!!」
「華琳さま!華琳さま!!」
華琳さまが……。
「華琳さ……っ!」
起きてみると倒れてたあの場所のままでした。
華琳さまはお倒れになり、桂花さんがそれを支えて居りました。
「紗江」
「しゅう、らんさん……」
少女は…一体……あ。
「一体、どうなっているんだ、紗江、お主の身体は……」
「……見てしまわれましたか」
場にいるのは華琳さんと、秋蘭さん、桂花さんだけ。だけど、あまり人に見せて良いものではないでしょうね。
まるで土に埋まれて日が浅くてまだ完全に腐敗していない『死体』のような身体になっている少女の姿は、普通の人間が見て正気を保てるようなものではありませんでした。
まして、その『死体』が歩いて喋っているのですから。
「急に倒れて、部屋に運ぼうと思ったらいきなりお主の手が落ちて……」
あ、そういえば右手が……
「……お見苦しい姿をお見せしてしまいました」
「そういう問題じゃないでしょ!一体どうなってるのよ、あんた!まるで化け物じゃない!」
桂花さんがおっしゃる言葉もご最もですが、正面から言われると流石に傷つきますね。
「桂花」
「っ……」
秋蘭さんに言われ口を閉じた桂花さんですが、秋蘭さんの目も、桂花さんの目も、もう少女をいつものように見てくださらないように思えました。
あれだけ隠そうと頑張っていましたのに……
「いいえ、桂花さんのおっしゃるとおりかもしれません」
「紗江!」
こんな時が、いつかは来るだろうと思っていました。
「あの、お二方によろしければ、この事を華琳さまには見なかったことのようにしてもらえますでしょうか」
「どういうつもり?というより、もう華琳さまももう見てしまったのよ」
「それは承知して居ります。ですが、このような姿華琳さまにお知らせたくないのです」
「……紗江、あなた……」
「……失礼致します。華琳さまのことは、お二方にお任せします」
「ちょっと、待ちなさい!」
「止めるな、桂花」
「けど!」
「……今は華琳さまのことが先だ」
「っ、……分かったわ」
そんな話をする二方を後にして、もはや『動く屍』も同様な身体を持って、少女は自分の部屋へ向かいました。
「術が解け始めてる…」
「そうじゃ。お主がでたらめにかけた術が、でたらめに働いたせいで、あの子はあんな死ぬことも生きることもできない身体になってしまったんじゃ」
「……」
術が失敗しているということは、あの時いきなり手から小指が取れた時から知っていました。
そして、時間が立つの妖力が不足して術が完全に解けてしまうということも、知っていました。
けど、第三者の目で見ると、流石にあれは酷すぎますね。
「まぁ、そのおかげで、お主がこうしてこの『虚』の世界ででも生きていられたのじゃがの」
「どういうことですか?」
一刀ちゃんが聞いた。
「何の因果かはわからん。とにかく、司馬懿の身体に術をかけその術の中に魂を入れておった左慈の身体が、お主が射た『魂を番える弓』と同時に作業してここまで飛ばされ
てしまった、そういう推測ができるの」
「何はともあれ、今はあの子を何とかしてあげるのが問題ですわね」
「ほっとけばまた妖力がなくなって死体になるじゃろうよ」
「それが可哀想だって言っているのです。元から自分の定められた人生をちゃんと生きることもできなかった子です」
「じゃからって二回目の人生を送って良いというわけではない」
「爺……」
あなたという人は……
「まぁ、儂の話は簡単じゃ。先ず左慈、お主はまたあの子の身体に入ってもらうことにするぞよ。今度は儂が直々に術をかけてやろう」
「そしたら、どうなるのです?」
「お主と司馬懿の魂は完全に同化するんじゃ。それからは、お主の『管理者』としての名も、『左慈』ではなく『司馬懿』となる」
「なるほど……」
新しい『管理者』と化することによって、外史の削除から逃げ切れるというわけか。
「そんなことをしたら、元の司馬懿お姉ちゃんはどうなるの?」
「あの娘は既に死んでおる。どんなに情けを見てあげても、一度死んだ人間には二度目はおらん。じゃが、左慈と同化することによって、その志や記憶は、左慈と一緒になる
ことはできるじゃろう」
「…………」
それを聞いた一刀ちゃんは少し凹み気味になりました。
「ま、そう悲しく思うことはない。あの子は最初に左慈に会った時から自分の生きというものは諦めておる。ああしてでも自分の意思で主に仕えることができただけでも、満
足じゃろうよ」
「そう……なのかな」
「……大丈夫よ、一刀ちゃん」
「お姉ちゃん」
「………」
大丈夫よ、一刀ちゃん
一刀ちゃんが悲しむようなことは、僕は絶対しないから。
「……いいわ。南華老仙。あなたが言う通りにする。だけど、二つだけ頼みたいことがある」
「聞いてやろう」
「一つ、一刀ちゃんと僕ののここでの記憶は必ず守ってくれること」
「それはもう約束しておるからの」
「それと、これ、また使えるようにしてくれない?」
「太平要術書のレプリカか」
「ええ、これからも使うところがあるかもしれないわ」
「……それなら、お主にはこれをあげよう」
「え?……こ、これって?」
「それじゃあ、頼みことはそれで終わりじゃな。じゃあ、
さっさといくのじゃ!」
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司馬懿さんのターン