所は、鄴の街の一角にある、商店がずらりと並ぶ区域。その中のとある店にて、ほくほく顔で大きな荷物を抱えている、姜維の姿があった。
「え~っと。ほな、頼んどいた品はこれで全部やな。相変わらずええ仕事してるでおっちゃん♪ほい、これ代金な」
「はい、まいど。今後ともごひいきに」
銭の入った袋を店の親父に渡し、フンフ~ンと、鼻歌交じりで外へと出る。街の大通りには、大勢の人々が行き交い、荷車はひっきりなしに、大路を走っていく。
「昔に比べたら、ほんま、賑やかになったもんやな~。これも、カズのおかげやで。うん。さ~て、買いもんも済んだし、怠業がばれんうちに、とっとと城に戻らんと……ん?」
ふと、彼女の視界に見知った顔が二つ、飛び込んできた。
「なんや、カズに輝里やん。珍しいな、二人揃って街を歩いとるやなんて。……しかも随分楽しそうやな(チクリ)。……あれ?何や、今の?なんかこの辺が、痛んだような……?」
と、自身のその(あるかどうか分かりにくい)胸に手を当てる。
「……ちっと、跡、つけてみよかな」
気配を消し、こっそりと二人の尾行を開始する。そんなこととは露知らず、一刀と徐庶の二人は、朗らかに談笑しつつ、ある一軒の店へと入っていく。
(ん~?あの店て、確か女もんしか扱っとらん、小物屋の筈やけど……)
ひょい、と。二人に気取られないよう、店内をのぞく。すると、
「……これなんてどうかな?よく似合うと思うんだけど」
「そうですね。決して派手じゃあないですけど、いい感じのものだと思いますよ」
「そか。じゃ、これにしようかな?すいませ~ん。これ下さいな~」
(……なんやろ?よう見えへんかったけど、何を買うたんやろ?……あ、やば。出てくる)
ささ、と。思わず物陰に隠れる。……なんとなく、顔を会わせづらかったから。
姜維が跡をつけていることには一切気づかず、一刀と徐庶は再び通りを歩き出す。……傍目から見れば、仲睦まじい、恋人同士のように。
そして、今度は衣装屋へと入っていく。
(今度は服かいな。……なんや、二人で逢引の最中かい。って、ちょお待ちぃ。あの二人、一体いつから……)
めらめら。
何かが彼女の中で、燻り始める。だが、当人はそれが何なのか、この時はまだ気づいていなかった。
店内では、徐庶が何着かの服をその手に持ち、これでもない、こっちでもない、と。ほとんど店中の服をとっかえ引返していた。
「な~、輝里。一体いつまでかかるわけ?このままじゃ日が暮れちゃうぞ?」
「そう簡単にはいきませんよ。男性からの贈り物なんて、生まれて初めての”はず”なんですから」
そんな二人の会話も、店の外にいる姜維の耳には、半分ほどしか入っていっていなかった。
(……そっか。二人とも、幸せなんやな……。ぐすっ。あれ?ウチ、なんで泣いてなんか)
知らぬ間に出ていた涙をぬぐいつつ、 彼女はその店から離れた。そして、まるで逃げ出すかのように、足早にその場から離れる。
(……なんで逃げとんのやろ、ウチ。……あ~、もう!訳わからへん!)
そんなことを考えつつ、彼女はいつの間にか、思い切り駆け出していた。道を行き交うたくさんの通行人の間をすり抜けて。
そして、その日の夜。
姜維は一人、寝台の上で枕を濡らしていた。原因はもちろん、昼間のこと。
昼間見た、仲睦まじそうな、一刀と徐庶の姿を見たときの、あの燃え上がった”それ”が何なのか。今の今になって、ようやく気づいたためだ。
(……嫉妬するほど、ウチはカズが好きやったんや……。けど、それに気付くんが遅すぎるっちゅうねん。……あの二人の様子見たら、入り込める隙なんか、あらへんやんか)
「……ヒクッ。……グス。……カズの、あほ……。……ウチの、おおアホぉ……。ふぇぇぇ……」
それから数日間。
姜維は、昼間の人前ではいつもどおりの姿で、明るく振舞い。夜になると、一人部屋で枕を濡らすという日々を送った。
そんなある日の夜。
泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていた彼女は、真夜中にふと目が覚めた。
「……ひどい顔しとんなあ……。はあ。まさか、ウチがこんなに乙女やったとは……。て、自分で言うてりゃ世話ないか」
ひょい、と。寝台から降り、洗面用具をその手につかんで、風呂場へと向かう。頭でも冷やして、もう一度寝なおそうと、何気なしに思ったから。
……運命とは、いつも突発的で、いたずらなものである(笑)。
「……え」
「……ほへ?」
鄴の政庁内にある風呂場は、基本的に時間交代での、男女兼用である。ただし、
”深夜はその限りではない”。
わざわざ深夜に入りに繰るような物好きは、まず居ないからである。だが、この日は”たまたま”、その物好きが先に入っていた。脱衣所には、その物好きの物であることが一目で分かる”その服”が、しっかりと目に付く場所に置いてもあった。
しかし、半ば夢遊状態にあったそのときの彼女には、”それ”にまったく気付けなかった。
で、こうなったわけである。
「うわわわわわ!?」
「きゃあああああああ!?」
ざっぱーん!
慌てて彼女から背を向ける一刀と、それ以上に慌てて、思わず湯船に飛び込んだ姜維。
不幸中の幸いか。深夜という時間帯と、風呂場という一種の密室状態が重なり、二人の叫びが外に漏れるということはなかった。むろん、誰かに聞こえるということも。
しーーーーーーん。
訪れる、気まずい静寂。
ひとつの湯船に、年頃の男女が真っ裸で二人きり。普通なら、こんな色っぽいシチュエーションは、そうそう無いのであるが、姜維にとってもはもちろんのこと、一刀にとっても、あまりにも突然すぎ、それどころでは無いのであった。
互いに、何を話していいのか分からない。そんな状態が暫く続き、そして、意を決して先に行動に出たのは、姜維の方であった。
「……ウチ、カズが好きや」
「……!!」
一刀に背後から抱きつき、やっとのことで搾り出したその一言を、すべての想いを込めて、好いた男に告白した。
「……輝里と、”そーゆー関係”なんは知ってる。けど、ウチかてカズが、一刀が好きや。せやから」
キュ、と。その唇をかみ締め、一刀の”正面”へと回る。
「由……」
「……こんな、子供みたいな女ですけど、それでもよければ、一刀さんの”モノ”に、して欲しいです。……だめ、ですか?」
緊張が極度に達したのか、完全に、標準語での話し方になって、上目使いになって一刀の瞳を見つめる。
―――これでオチなきゃ、男じゃない。
そんな事を、後々一刀が誰かに語ったとかどうとか。
それから、そこで何があったかについては、あえて書かなくともご理解いただけると思う。
その翌日。
朝議に参加すべく、姜維は玉座の間へと向かった。朝、目が覚めてみれば、ともに眠りについたはずの、一刀の姿はすでに無く、『よく寝てるから、起こさずにおいておくよ』という、書付だけが、枕元においてあった。
「……はー。幸せ……。ま、正妻の座は輝里に譲ったとしても、第二夫人として、いつかはカズの子を授かりたいなあ……///」
なんてことを考えながら、玉座の間にたどり着く。その扉が、彼女の前でゆっくりと開かれる。そして――――――。
『お誕生日、おめでとーーー!!』
「ふえっ!?」
いきなり自身に向けられたその歓声に、姜維は思わず、そんな声を上げて驚いた。
「ゆーい!誕生日、おめでとう!」
「おめでとう、由」
「由さん、おめでとうございまーす!お祝いに一曲、私たちからの”ぷれぜんと”でーっす!」
徐庶と徐晃の祝福の声に続き、天和たち数え役満☆姉妹が、祝いの歌を歌いだす。
「こ、これって、一体……」
「今日って、君の誕生日、なんだろ?だからさ、ちょっとしたサプライズをと思ってさ。……みんなで驚かそうと思って、待ち構えていたってわけ。……はい、ハッピーバースデイ、由」
と、いまだ呆然としている姜維に、ひとつの包みを手渡す一刀。
「これ、は?」
「誕生日のプレゼント。……贈り物、だよ。一応、輝里に選ぶのを手伝ってもらったから、喜んでもらえるものは、チョイス出来たと思うけどね」
(……もしかして、あの時の……?じゃ、あれは、ウチの、早とち、り……)
ボッ!!
事実を知り、一瞬にして顔を真っ赤にする。早とちりが原因で、昨夜”してしまった事”を、思い出して。
そして、その日の夕刻。
改めて開かれた姜維の誕生会の席にて、
「七番、姜伯約!ぶっちゃけます!昨夜、一刀さんと!”しちゃい”ましたあー!!」
『ぶーーーーーっっっ!!』
と、見事な泥酔状態で、爆弾発言をぶちかまし、さらに、
「幼児体型のどこが悪い!無いには無いの魅力があると!大きければ良いというものでもないと!一刀さんは言って、くれました!」
「……一刀さん?」「……一刀?」
「いや、あの、輝里さん?蒔、さん?目が、怖いんですけど?」
じりじりと、ものすごい顔でにらみつけながら、一刀に迫る徐庶と徐晃。そこに、酔っ払いの”止め”の一言が。
「だーかーら!輝里やねえさんには、負けないんですぅー!一刀さんの”お嫁さん”は、私なんですぅーーー!!……グゥ」
ぱた、と。そこまで言って、倒れるように眠ってしまった姜維が、すーすーと、安らかな寝息を立て始める。
「……天和さんたち?由チャンの介抱、オネガイシテモイイカシラ?」
『は!はひ!!』
「二人ともちょっと落ち着いて!ね!落ち着いて話し合おう!な?な?!話せばわかっ」
『わっかるかあーーーっ!この節操無しがーーーー!!』
「あっーーーーー!!」
……一刀の末路については、あまりにも残酷な状況のため、割愛させていただきます。……合掌(チーン)www
「……むにゃ。………かずとさん、だーい好きですぅ~……」
~了~
といった感じでお送りしました、拠点イベントその弐でございます。いかがでしたでしょうか?
「おとは~ん!ほい、煙草買ってきたで~。あ、あと酒とおつまみな♪」
あ、ああ、どうも。
「・・・・・・・由。ちょっと、態度変えすぎじゃない?」
「ほーか?あ、ははーん。・・・やきもち?」
「そんなことありません!別に父さんなんて」
「ほ?ウチはべつにおとはんやとは、ひとっことも言うとらんで?」
「///・・・・・・おぼえときなさいよ」
で、次のお話しなんですが。
「ほいほい。こんどは蒔ねえのはなし?」
一応。
「一応、ってどういうこと?」
・・・・・・今回の由みたいに、”ひっつけるか”どうか検討中。
「へ?ねえさんだって、ヒロインの一人でしょ?」
「せやな。それに、カズが手ぇ出さんとも・・・・」
限んないからねぇ。展開しだいでしょ。というわけで、次回は!
「真説・恋姫演義~北朝伝~ 幕間の三」
「を、お送りします」
それではまた次回にて。コメント等、おまちしてまーす。
「それでは皆さん」
『再見~!!』
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あ、さて。
北朝伝、幕間のその弐でございます。
今回は由編です。
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