No.188631

真・恋姫†無双〜虚像の外史☆三国志演義〜(魏編)

アインさん

前回のお話
司馬懿の策によって、曹仁に捕まった北郷。

2010-12-08 19:43:09 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2365   閲覧ユーザー数:2134

―――北郷一刀は夢を見た。

 

一人の男がすべてを敵にまわす夢。

 

辺りは屍と破壊の殺意に満ちた世界で、彼はこう言った。

 

”私はただ、救いたかった”……と。

第三話

 

『染まる闇』

「………う、ん」

 ―――北郷一刀は目を覚ました。

 顔の真下に、赤い布地にくるまれた細い女の腿が張りついている。どうやら膝枕らしい。

「………?」

 寝ぼけた頭で上を見る。

「そ、空!?」

 北郷一刀は飛び起きた。

「おはようございま~す。北郷さん」

「こ、ここはどこだ?」

「馬車の中で――す」

 窓の向こうでは景色が走っている。しかしその景色は見られた場所。

「………蜀領の街道を走っているのか」

 北郷一刀は、あきらめたかのように首を振ると、馬車にもうけられた小さい寝床の上に、腰をかけた。

「なるほどね。俺を人質にして、魏軍は蜀領を抜け、魏領へと戻ろうとしているわけか」

「あいかわらず、勘がいいですね~……お兄さんは」

「俺はどれくらい、眠っていたんだ?」

「明日の朝には蜀領を抜けて、魏領に入りますね」

「そんなに眠っていたのかっ!?」

 司馬懿は、クスッと小さく笑った。

「まぁ……眠れる内に寝ていた方がいいですよ~? 着いたらお兄さんには処刑が待っているんですから~」

「処刑……か」

「あい――」

 司馬懿は笑顔で語ってくるがその声には殺意がある。

 北郷を殺したいという殺意が。

「空も俺を殺したいのか?」

「そうですね~正確に言えば曹仁さんだけかもしれません」

「………ならその殺意はなんだ?」

 司馬懿は、またクスッと小さく笑った。

「嫉妬ですかね~」

「嫉妬?」

「グー……」

「ね、寝るなよ……」

「おおっ!?」

 司馬懿は起きた。

「で、嫉妬って何かな?」

「曹仁さんと違ってどんな方にでも優しく接する魅力とか?」

「それは、ずいぶんと俺のことを買いかぶりすぎだよ」

 北郷一刀は馬車の扉をちらりと見た。

 ここから飛び出せば、外は蜀領地。逃げ出すことができると思ったからだ。

 しかし。

「無駄ですよ――。外には曹仁さんが狼のように見張っていますから」

「………」

 どうやらバレているらしく、先に司馬懿が抵抗は無駄だと言う。

「でも、俺を人質にしたからといって劉備軍がこのまま黙って見てると思う?」

「そうですね――。魏領に着いたらお兄さんは処刑されるのはわかっていますし、何らかの抵抗はしてくると思いますが……」

 司馬懿は微笑んだ。

「一歩間違えば、大切な『天の御遣い』様が殺されてしまうので、何もしないかもしれませんね」

「そうだね。俺一人とこの国の未来。劉備がそんな天秤にかけられるわけがない。彼女ならこう思っているはずさ、『ご主人様ならば、きっと大丈夫』って。『きっと、うまくやっているはずだ』って」

「………」

 北郷一刀は馬車の扉を開けると、そのまま、外に飛び出した。

「だから、ここも俺一人で抜け出してみせるさっ!」

 ――蜀領、劉備軍陣営。

「大丈夫。ご主人様ならきっと……」

 劉備は胸に手を当てて、何度も、そう自分に言い聞かせていた。

「劉備様っ!」

 兵士が固い表情で天幕を開けて、中に入った。

「呉の王、孫権様とそのお供の方がおいでになられております」

「孫権さんが?」

「はっ! どうやら魏軍の追撃をするために蜀領の入国許可を求められているようで……」

「えっ……」

 もしそんな許可を許せば北郷は殺されるかもしれない。

 劉備は口びるを噛み締めた。

「そんなことさせない……」

「はっ?」

「う、ううん。何でもないです。すぐに私も行きます」

「はっ!」

 兵士が天幕を出て行くと、今度は関羽が中に入ってきた。

「桃香様。偵察に行った鈴々の話では、魏軍はご主人様を連れて、蜀領を抜けるべく北西へと進軍。明朝には魏領に入るそうです」

 劉備は、くっと指を噛んだ。

「……かなり心配なようですね、桃香さま。私も同じ気持ちです」

 関羽は、そんな劉備の肩をそっと抱いた。

「ですがもっと嫌な話があります。先ほど朱里からの報告で、孫権殿がこちらの許可もなくすでに腕の良い暗殺者を数名魏軍に放っていたそうです」

「……っ!」

「此度の戦いで孫権殿は、黄蓋殿と周瑜殿を亡くされております。おそらくその影響で……」

 ここで曹仁を討てなければ今度は倒せるのかわからないということ。

「………させない」

「………」

「もし、曹仁さんも孫権さんも、ご主人様を殺したら私……私……」

 劉備の目に殺意が宿る。それは彼女にあってはならない瞳。

「私は魏も呉も滅ぼすもん」

 その言葉に嘘はなかった。

北郷一刀は、馬車の扉を開けて、外に飛び出した。

「――トオッ!」

 空中で、両手を広げ、まるで戦隊ヒーローのジャンプのように、馬車のの外で走る地面へと飛び込んでいく…………はずだった。

 「がっ!?」という棒のような物で彼の頬は殴られた。

「………曹仁」

「………」

 そこに居たのは曹操亡き後、跡を継いだ魏王曹仁だった。

「………」 

 彼は殺意の目を北郷に向けつつ、北郷を馬車の中へ押しこむ。

「言ったはずですよ~~外には曹仁さんがいるって」

「………」

 北郷は殴られた頬の部分をさすりながら司馬懿に尋ねた。

「なぁ、曹操……華琳はどんな最後だったんだ?」

「………ん~~」

 司馬懿は目を細め難しそうな顔する。

「まぁ……暇つぶしにはなりますかね~~」

 そして、司馬懿の口から曹操の最後が語られた。


 
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